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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@完全無欠の悪女です2月下旬発売
高等部二年

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208/289

208.サマースクール 5


「姫奈子さん! ここにいるんだな! すぐ鍵が来る! 少し離れろ!」

「はいっ!!」


 綱だと思ったのにその声は氷川くんで、レオは一瞬考えるような顔をした。

 その隙に、全身を使ってレオに体当たりをする。

 レオはよろめいただけだったが、ブンブン頭を振って髪飾りで攻撃する。


「おまっ! じゃじゃ馬か」


 髪を払いのけようと手を離したすきに、慌ててレオとドアから離れる。

 その時、バンとドアが開いて入ってきたのは氷川くんだ。その奥に綱と八坂くんが見える。

 氷川くんがレオに体当たりして壁に両手を押さえつけた、綱はレオからスマホを取り上げ、私に走り寄り抱き締めてくれる。

 カギを持った八坂くんが入ってきて、レオの髪を乱暴につかんだ。

 

「なに、やってたの」


 低い声。薄暗い微笑みの暗黒晏司召喚である。


「ほらね、ヒナコ、効果あったろ」


 レオが笑った。八坂くんが乱暴にレオの髪を引く。美しい金の髪が悲鳴を上げるようにキシリと鳴った。


「目障りなんだよ。だから傷つけてやったんだ」

「なにをした」

「さあね、おしえるか」


 レオが八坂くんに言えば、八坂くんの顔から笑いが消える。八坂くんは持っていた鍵を髪の束に押し当てた。


「八坂くん! 何でもないわ! まだ何もされてないわ! スマホを見ればわかるからっ!」


 そう言えば、綱がレオのスマホの動画を再生する。あのやり取りがワインセラーに響く。

 綱も、氷川くんも、八坂くんもレオを睨んだ。三人も周りだけ温度が違うように感じる。何もなかったことの証明だったはずなのに、一層彼らを怒らせたらしい。


「自慢の髪、切ってやろうか?」


 八坂くんが鍵に力を籠めるのがわかった。


「そんなことしたら晏司はモデル界から追放だ。モデルの商売道具を傷つけるようなモデル誰が使うか」

「できないくせに」


 八坂くんはバカにしたように笑う。


「僕には何もできないから、姫奈ちゃんを狙ったんだ」

「!」

「それに、僕は姫奈ちゃんが守れないならモデルなんか惜しくない」


 ピン、弾けるような音が鳴ってレオの髪が一筋切れた。八坂くんがカギで切ったのだ。


「……モデルなんか?」


 レオの声は海なりのように胸の奥を震わせた。


「ふざけるなよ!?」


 レオの噛みつくような声が響く。


「ああ、アンジ、それは『ふざけるなよ』」


 息切れした声が響いてドアを見れば、そこにはエレナさまがいた。


「君たち、早いよ……」


 息を整えながらエレナさまが笑う。


「……エレナ……」


 レオが呆然としてエレナさまを見た。


「生駒くんに鍵を頼まれて、私が探してあげたんだよ。でも、部屋の鍵が合ってよかった。何の部屋かまでわからないと言っていたから」

「なんでわかったの……」


 レオが縋るような眼でエレナさまを見た。


「直前にレオから着信が入ってた。聞いた場所的にもワインセラーのある位置だったし、ここはレオの好きな場所だ。出られなくてごめん。私と話したいことがあったんでしょ?」

「……好きな場所だって知って……」

「学生時代忍び込んだじゃない」


 フッと思い出し笑いをする様にエレナさまが笑った。

 ああ、こんな顔もエレナさまは美しいんだ。


「晏司、レオの髪を離して」


 エレナさまが言う。


「嫌だ」

「晏司、いい子だから」


 そう言ってエレナさまは八坂くんの髪を撫で、そのままコツリと額にゲンコを落とした。


「晏司、姫奈子ちゃんが大切なのはわかるけど『モデルなんか』は私も怒るよ」

「エレナを、モデルを馬鹿にしたわけじゃない!」


 八坂くんが反論しようと声を上げる。


「わかってる。私は晏司がどれだけ仕事を大切にしてるか知ってる。だからこそ自分が好きなものを『なんか』なんて貶めちゃダメだよ」

「……だけど……」


 八坂くんは俯いた。それでもその手にレオの髪は握られたままだ。


「晏司はそうやってモデルを嫌いになりたいのかもしれない。嫌ってしまえれば諦められるもんね。そうすれば楽になれると思っているかもしれないけど、本当にモデルを諦められると思う?」

「……でも仕方がないから」


 八坂くんが納得いかないように呟く。


「両方諦めない方法だってあるでしょ、晏司。そのために努力しな」


 エレナさまの言葉に光を見たのは私の方だったかもしれない。


 諦めなくていいの?

 綱の未来を考えたら、私の恋は諦めるものだと思っていた。それしかないと思い込んでいた。だけど、諦めなくてもいいの?


 好きな思いは夢や希望だけを運んでくるわけではない。我慢や忍耐、嫉妬すらごちゃまぜで、好きなのに好きだからこそ、好きなものに苦しめられる。それでも手放せないほど好きなのだ。


「それに好きなもののために、その他を貶める必要はないよ」


 私はハッとして顔を上げた。


「レオはエレナさまが好きだから、ここを選んだのよね。だからエレナさまに電話した。本当は止めて欲しかったんでしょ? 本気じゃなかったんだわ」


 私が言えばレオはものすごい形相で私を睨んだ。


「オマエ、本当にサイアクだ」

「最悪なのはレオだろ!?」


 八坂くんがさらにレオの髪に鍵を引き当てる。プチリ、また髪が切れた。


「そうなの? レオ」


 エレナさまがレオの顔を覗き込む。レオは顔を真っ赤にして静かに俯いた。


「せっかくボランティアで会えるかもなんて言っておいて、君と時間が取れなかった私が悪い。ごめんね」

「違う! エレナは悪くない! シューゴやアンジ、後から来た奴らに追い抜かれるのに焦って。やっと会えたらヒナコが先だし」

「別に晏司は君を追い越してないだろう?」

「……アンジが出てくる前は、エレナの弟役はオレだったのに……」


 ボソリと消え入るような声に、八坂くんは呆気にとられたような顔をした。掴んでいた髪が少し緩む。

 エレナさまはおかしそうに吹き出した。


「レオはさ、いつまで弟役のつもり? もうそんな仕事、ほとんどないよ」

「でも」

「そろそろ隣に並ぶ仕事してもいいんじゃない?」


 エレナさまがそう言って、なぜだか私が胸を打ち抜かれた。エレナさまカッコいい。けっこんしたい。


「さあ、二人とも仲直りしなさい」


 エレナさまにそう言われては、八坂くんもレオも何も言えない。

 黙って八坂くんが一歩下がり、レオの髪を手放した。金色の糸がサラサラと音を立てて散らばる。

 レオも黙って頭を緩く振った。

 二人は何も言わないが、仲直りとは言わないまでも、許しあったのかもしれない。


「レオ、あのね、レオは二人に追い越されたっていうけど、八坂くんはテニスでレオには敵わないし、修吾くんもモデルでレオには敵わないと思うの!」


 そう言えば、レオは「なにを言ってるんだコイツ」みたいな顔をして、エレナさまは笑い出し、氷川くんはきょとんとし、八坂くんは笑いを噛み殺した。綱に至っては、はぁぁぁぁと長い息を吐き出す始末だ。酷い。


「だから?」


 レオが馬鹿にした声で問う。


「だから、レオはレオで凄いわ」

「……ああ、ありがと」


 レオは何でもないように軽く答えた。ちょっとムカツク。


「あと、修吾くんの名誉のために言うけど! 修吾くんは神様の力で勝ってるんじゃないわ。あの子の努力が実を結んだだけよ。当然の結果なんですからね!」


 指で指してビシリと言い切る。もう綱がいるから強気になれてしまうのだ。

 それを聞いて、レオも八坂くんも笑い出した。別に間違ったことを言っていないのに、なんなのだ!!

 一通りレオは笑ってから、笑いすぎて目元を濡らした涙を拭って私を見た。


「うん。わかった。ヒナコ、ごめんね」


 その笑顔は営業用には思えない眩しいものだった。


「許してあげるから、シャトー・ゴウシェリーのワイン輸入の交渉権は優先的に私にちょうだい?」

「意外に商魂たくましいね。オーケー、父には話しておく」


 レオは笑った。


 綱がレオのスマホをレオに投げつける。


「削除しておきました」

「良かった、オレにとっても黒歴史だよ。あんなに女の子に拒絶されたの初めてだからね。結構マジで傷ついた」


 そう茶化すようにレオが笑えば、氷川くんが乱暴にレオを壁に押し付けた。ガンとレオの頭が壁にぶつかる。


「姫奈子さんを馬鹿にするなよ?」


 氷川くんが本気で怒った声は雷鳴のようにワインセラーに響いた。

 レオは顔をサッと青ざめさせる。

 八坂くんも暗黒晏司を召喚し、綱は私を抱きしめたまま、レオをねめつけている。


「本当に悪かったと思ってる。すみませんでした」


 レオは深く頭を下げて、エレナさまはその頭を軽く叩いた。


「反省は態度で示すんだよ。レオ」


 レオは両手をギュッと握りしめて、もう一度深く頭を下げた。



 結局私たちは金の卵は見つけられず、違う学校の生徒が手に入れたらしい。

 私はエレナさまと腕を組んで、その後のお別れイベントを満喫した。個人的な欲望全開ではあるのだが、エレナさま大好きなレオに対する罰ゲームを兼ねているのだ。反省を態度で示す最初の試練なのである。


 どうだ、指をくわえて見ていろ、レオめ!!

 私をイジメるとしっぺ返しをしてやるぞ、そういうことである。レオ、ザマァ!!


 それを見て詩歌ちゃんもやってきて、私の腕を取った。これぞまさしく、両手に花。氷川くんと八坂くん、ついでに綱まで羨ましそうな顔で見る。ふっふっふ、羨ましかろ?



 そうやって私たちのサマースクールは終了した。

 その後、レオから謝罪の特製ジュースが送られてきた。芙蓉館へ持ち込んでみんなで飲めば大好評で、レオに頼んで(脅して?)日本での専売権を白山茶房で手に入れたのはお父様には秘密である。





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