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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売
高等部二年

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203/289

203.高等部二年 遠泳大会 2


 夕暮れ過ぎれば花火タイムである。


 今年の私ももれなくフリーである。うん、まぁ、しょうがない。もの欲し気に仲良さげなカップルを見て、小さくため息をついた。そうはいっても羨ましいんである。


 綱はたぶん誰かに呼び出されている模様。それに、なんだか知らないが、一条くんと詩歌ちゃんがなーんかなーんかな感じでなーんかだから、私はすっと気配を消してきたところだ。ふーんだ。


 線香花火を持ちながら所在なげにたたずむ桝さんを見つけた。そっと近寄って肩をたたけば、振り向いた桝さんの頬に指が刺さって、めちゃめちゃいやそうな顔をされた。


「ひっかかったわね?」

「し、白山さん……あ、あなた、いくつになったんですか」


 桝さんを無視してライターを差し出す。


「線香花火するんでしょ?」

「線香花火はライターだとうまくできないんですよ」

「わがままね」

「事実です。花火の火がつく面積と火種の大きさは比例関係にあるんです。だから火をつけるとき火種をできるだけ小さくしたほうが、せ、せ、線香花火は長持ちします」


 相変わらず小難しい。


「ふーん? でどうするの?」

「あ、あ空き缶にロウソクを立てて……」

「ロウソク持ってる?」

「あ、は、はい」

「なんで火をつけないの?」


 聞けば、桝さんはうつむいた。


「ひ、火が……。ライターを使ったことがなくて」

「ああ、火が怖いのね?」

「怖くないです!」

「ロウソクかして」


 桝さんはおずおずとロウソクを差し出した。

 近くにあった空き缶を拾い、少し砂浜に埋める。ロウソクに火をつけて、中に溶けたロウを垂らす。そしてその上にロウソクを立てた。

 桝さんがホウとため息をついた。


「慣れてるんですね」

「小さいころからお仏壇にお供えしていたから。ロウソクの炎はそれほど熱くないのよ。お線香のほうが熱いくらい。で、線香花火はどうすれば長持ちするって言ってたかしら?」

「だ、だから、火をつける場所が小さいほうがいいので、花火の先に少しだけ火をつけます」


 そう言って、桝さんは恐る恐ると言うようにロウソクの火に花火を近づけた。チリと炎が付いて、ビクリと肩を震わすから線香花火が炎に近づいて、火種が大きくなってしまう。


「火、たくさんついたわよ?」

「……り、理屈と行動が一致するとは限らないんです」


 茶化せば、桝さんは不貞腐れたように答える。

 私も桝さんの手から線香花火を引き抜いて、ロウソクに近づける。ロウソクの火の中に、潮風が線香花火を攫う。私の火種も大きくなった。

 思わず舌打ちをすれば、桝さんが笑う。


「し、白山さんだって、たくさんついたわ」

「ほんと、思い通りにならないものね」


 二人でクスクス笑いあう。


「い、い、生駒くんは?」

「イコマくんはね、オモテになりますので、告白タイムよきっと」


 不機嫌に答えれば、桝さんは真面目な顔をして線香花火を見つめた。チリチリと炎が爆ぜて、火花が落ちる。


「……止めないんですか?」

「できるわけないじゃない。彼女でもないのに」


 私の火花も落ちる。

 桝さんが線香花火を差し出した。二人で火をつける。また上手くいかない。


「桝さんこそ行かなくていいの? 違う子に取られちゃうわよ」

「時期尚早です」

「なによ、それ」

「わ、私にはまだ早いってことです。タイミングというものがありますから」

「ふぅん?」

「それにイベントに絡めて告白するなんて軽薄です」


 告白する誰かを咎めるように言う。


「いつだったら、軽薄じゃないのよ」


 意地悪に問い返してやる。桝さんだってわかっている。私たちの言い合いは告白できない負け犬の遠吠えだ。

 桝さんは悔しそうに口を噤んだ。


「……い、い、い生駒くんの誕生日はいつなんですか?」

「おしえませーん!」

「学院でお祝いされているところを見たことなかったので」

「夏休み中だから。皆さん残念でした!」

「し、し、白山さんはサマースクール中に一緒にお祝いするんですか?」

「サマースクール中じゃないもの。別に特別なことはしないわ。彰仁と一緒にみんなでケーキを食べるだけよ。私なんて妹みたいなものだもの」


 答えてハッとする。


「もしかして、今、誕生日を探ってたわね?」

「あと少しでした。思ったより馬鹿じゃなくて残念です」


 桝さんがツンと答える。


「誕生日に告白する気?」


 線香花火が激しく燃えて、スンと静かになって落ちる。光の後にグッと闇が落ちてくる。桝さんの無言が怖い。


「し、白山さんが、ふ、フラれてから、に、します」


 桝さんは一息ついてそう言って、そっぽを向いた。


「は? 私がフラれてから?」

「だから早く告白してください」

「嫌よ!」

「我儘ですね」

「良く言われます!」


 フンとすれば、桝さんは笑った。今なら聞けるかな。


「……桝さんて進学どうするの? 綱と同じ?」

「生駒くんは経済学部ですか?」

「多分」

「私は数理……が希望ですが」

「が?」

「……」


 突っ込んで聞けば、桝さんは嫌そうな顔を私に向けた。


「あまりしつこく聞くのはどうなんですか?」

「だって、気になるもの」

「あんまりズケズケ人の中に入ってくると嫌われますよ」

「今更桝さんに好かれようと思ってないし」


 答えれば、桝さんはハァとため息を吐く。


「……本当は京都に行きたいんです」

「行けばいいのに」

「っ。また、簡単に言って」

「だって、一人娘の我儘なら聞いてくれるんじゃないの?」

「我儘なんて」

「言って損はないでしょ。ダメならその時諦めればいいんだし」

「言っても良いんですか?」

「無理なら親が断るだけだわ」


 桝さんは目を瞬かせて私を見つめた。


「やっぱり、無神経でわがままな人は考え方が違いますね」

「ちょっと、悪口なら隠れて言いなさいよ!」


 窘めたら無視された。


「きょ、京都の大学には数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞を受賞した教授がいるんです。だ、だから、私」

「だったら行くべきよ!」

「でも、女のくせに無駄です」

「そう? 数学なんて一番性別関係ないじゃない? 身長とか体重とかも関係ないし。私料理人になるなら体力づくりが必要かなーって思ってるのよね」

「は? 料理人ですか?」

「ええ。一日立ち仕事でしょ? 洗い物あるし。食事を運ぶの結構重いのよ」

「あ、はい……」


 桝さんがポカンとしている。私は変なこと言っただろうか。


「なによ」


 ムッとして聞き返せば、桝さんが笑った。


「いいえ。父に聞いてみることにします」

「そうよ! そうしたらいいわ! そうしたら桝さんが遠くに行って私も安心よ!」

「それが本音ですね?」

「そうよ、本音よ」

「……早く告白してフラれればいいのに」

「なんでよ、いやよ」


 桝さんが私をにらんで、私も桝さんをにらむ。それでお互い笑ってしまって、もう一度線香花火に火をつけた。


「ねぇ、地味だし、まどろっこしいわ。まとめて火をつけちゃいましょうよ」


 私が言えば、桝さんは顔をしかめた。


「情緒ってものを知っていますか?」

「だって、全然うまくできないじゃない!」

「うまくなるには練習が大切なんですよ」

「えー……でも、これ練習して何になるのよ」

「今、意味がわからなくたっていいんです。いつか役に立つかもしれません」

「そんなの嫌よ」


 ワイワイ言っていれば、綱がやってきた。私たち二人を見て戸惑った顔をする。


「ここにいたんですね」

「綱は終わったの? 告白、なんでしょう? こんなところに来ていたらだめじゃない」


 二人っきりだったら気まずくて聞けない。でも、今は桝さんがいるから、茶化すように聞くことができた。


「断りましたから」


 綱の言葉を聞いて、口角が上がる。桝さんも少しほっとしたような顔をした。


「二人はここで何をしていたんですか?」

「せ、せ、線香花火を……」


 綱から顔をそらし、おずおずと桝さんが答える。さすがにまだわだかまりはあるのだろう。


「でもうまくいかないのよ」


 ブーたれて綱に線香花火を押し付けた。


 綱は私から線香花火を受け取ると、ロウソクの火にそっと線香花火をかざす。炎に触れるか触れないかの距離で、チリリ、線香花火に火が付いた。

 慌てるでもなく、線香花火を平行にしたままそっとロウソクから離れると、風上に背を向けて風から線香花火を守る。

 チリチリとはぜる炎がだんだんと大きくなってゆく。線香花火の先にぶら下がる赤い塊が熱を帯びて膨らんで。小さく跳ねるオレンジの光が綱と桝さんを儚く照らす。


 桝さんは、憧れるような、焦がれるような顔をして綱ばかり見ている。

 綱はそれに気が付いていないのか、真剣に線香花火を見つめていた。


 徐々に小さくなっていく花火、同じように小声になっていくはぜる音。かわりに大きく膨らんでゆく赤い火種が、まるで私の気持ちみたいだ。

 膨らんで膨らんで、膨らみ切って黒くなって。

 ポトリ、砂に落ちた。


「……あ……」


 思わず声をあげれば、綱が顔を上げた。目が合って、綱が微笑む。


「わかりましたか?」


 諭すような声が、線香花火の残り香と共に私の鼻の奥をくすぐった。

 桝さんは素直に頷いた。

 私は素直になれなくて、唇を尖らせる。


「わかったけど、無理よ」

「こんなものは慣れですよ」


 綱がそう言って私に一本線香花火を差し出した。私は黙ってそれを受け取る。そうして、もう一本を桝さんにも差し出した。桝さんは、オズオズと上目使いでそれを受け取ると、小さくありがとうと呟いた。


「……猫かぶり……」


 ボソリと呟けば、桝さんがキッと私を睨み、小さく「無神経」と私にだけに聞こえるようになじる。

 綱が不思議そうな顔で見るから、毒気を抜かれて笑ってしまった。


「どうしたんです?」

「なーんでも?」

「おかしな人ですね」


 つられるように綱が笑って、戸惑いがちに桝さんも笑った。


 綱が線香花火に火をつける。大切そうに線香花火を守るからそれがいけない、花火にだって妬けてしまう。私は自分の線香花火を綱の線香花火に押し当てた。

 二つの火種が合わさって、大きくなる。


「ひな!」

「くっつければ大きくなるじゃない」


 咎めるような綱の声を遮れば、綱が小さくため息をつく。

 大きくなった線香花火は、さっきよりも激しく瞬いたかと思ったら、あっという間にポトリと落ちた。


「こういうのは丁寧に育てないとダメなんですよ」


 綱が呆れたように笑った。


「綱の言うとおりね」


 今度は素直に答えられた。





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