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高等部二年

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199.晏司くんパーティ


 無事教科ごとのクラス分けテストにも合格し、英語は特進Aクラスを選択できた。あとは、サマースクールに向けて勉強するのみだ。昨年経験者の淡島先輩と葵先輩に協力してもらい、芙蓉館で勉強を見てもらっている。

 メンバーは、氷川くんと詩歌ちゃんと綱と私。時々八坂くんである。八坂くんはそもそもサマースクールでお邪魔する学校への入学資格があるということで、テストをする必要はないのだが、アドバイス要員として来てくれているのだ。ありがたい。



 そんな日々を過ごしていた、ある日の放課後。ジャージ姿で枇杷びわを収穫していたら、私はなぜか新三年生の美女軍団に囲まれてしまった。

 ええ、そうです。強火晏司担と言うやつです。美意識の圧の強さに白目をむきたくなる。


「それでね、晏司くんの誕生日会の開催についてバナナちゃんに許可をもらいに来たの」


 晏司君ファン先輩方の中で、私はバナナとして定着したらしい。

 もういいけど。


「私の許可は必要ないと思うんですけど……。昨年はファンの方たちでされてましたよね?」


 去年は美女先輩たちが中心になって、学院のレストランを貸し切り晏司くん誕生日会を開いたらしい。噂には聞いていた。その時は私に声がかかったりはしなかった。そもそも私は晏司くんファンではない。ついでに誕生日も今知った。

 

「ええ。でも引継ぎで今後はバナナちゃんと相談するようにっていわれたのよ」


 困ったように眉を下げる。きっと美女先輩がそう申し送りしたのだろう。そう言われてしまっては、無下には出来ない。


「ええっと、とりあえず八坂くんには聞いておきますね。あと、私、様子が分からないので去年の規模など教えていただけますか?」


 答えれば、強火晏司担の先輩はパァァと笑顔になって、ファイルを取り出した。去年の誕生日会のアルバムらしい。メニューから参加者名簿まで入っている。

 ……これは、結構マジな奴である。どうやらファンのみんなで企画して八坂くんを招待し、誕生日を祝うという企画らしい。ファンのみんなが得意なものを披露して八坂くんをもてなすのだ。

 しみじみと八坂くんはファンから愛されているんだな、なんて母の心で嬉しくなる。私も少しくらいは協力したいと思った。


 とりあえず、大体の希望日と参加者人数を確認し、八坂くんに打診する約束をした。


「バナナちゃんとお話できてよかったわ。葵さんのお気に入りだって聞いていたから、少し緊張したのだけれど」

「私、葵先輩のお気に入りなんですか!?」

「ええ。そうでしょう?」

「本当なら光栄すぎます!! 嬉しいので枇杷をどうぞ!」


 思わず鼻息荒く答えたら、美女先輩はびっくりして私を見た。


「枇杷は遠慮するけれど……。でも、バナナちゃんはお誕生日会に出席できる?」

「申し訳ないのですが私はお断りします」

「あら? なんで?」

「せっかくのファンの集いなのにマネージャーがいるとか無粋でしょう?」


 そう答えれば、先輩は不思議そうな顔をした。



 八坂くんに連絡を取り許可を得て都合の良い日を教えてもらった。確認のためにマネージャーさんにも連絡を取り、禁止事項を教えてもらう。


 六月上旬の放課後に学院のレストランを貸し切って、八坂くんの誕生日パーティーをするように取り計らう。これが結構楽しかった。先輩と一緒に企画に混じり、パーティー開催の勉強になる。サプライズの希望だとか、レストランへのリクエストだとか、注文する側の望むものはあまりわかっていなかった。


 私の場合、自分の家でやっていることだから、交渉することがなかったのだ。希望を言えばそれが通った。しかし今回、学院のレストランと交渉することで、できることとできない事や、客側が望むことなどがわかった。学院のカフェテリアは白山系列だが、レストランは氷川系列なのだ。

 持ち込みができないだとか、当たり前のことすら知らなかった。勉強になる。


 人間関係から席順を決めたり、楽器が上手な子には演奏依頼を、手先が器用な子には会場デコレーションを頼む。その他、できるだけみんなに協力して貰うように段取りをつける。

 出席者の人となりを知らなければ、パーティーもままならないのだということを知った。


 当日は写真部の知り合いにお願いして写真撮影してもらうように手配をした。学校行事外でのスマホ撮影は禁止されているので、今までは幹事がカメラで撮影し、事務所で許可の出たものだけ焼き増ししていたそうだ。それではせっかくの誕生日会なのに幹事が楽しめないと思ったのだ。

 写真部は、プロのモデルを撮れるのならこちらからお願いしたいと快諾してくれた。八坂くん公認で八坂くんを思う存分撮れるのだ、こんな機会滅多にないとヨダレをたらさんばかりで怖かった。


 出席のファンの子たちには、事前にメッセージカードを配って八坂くん宛てのメッセージを書いてもらう。当日入り口で回収して、それが出欠確認にもなる仕様だ。引き換えにバラの花を一本ずつ渡す。誕生日パーティーの最後に一人ずつ八坂くんにプレゼントするそうだ。

 メッセージカードはまとめて冊子にし、最後に八坂くんへ渡すことにした。


 

 そして迎えた晏司くんの誕生日パーティーである。

 私は入り口に座って受付業務だ。受付が終わったら私は撤退だ。片付けはファンの子だけでしてくれるらしい。


 集まってくる女の子たちからカードを預かって出席確認をする。みんな、それぞれ手の込んだカードに仕上げ、思いのたけを綴っている。キラキラしたシールだとか、一目でわかる美文だとか、個性がはっきりしていて面白い。


 最後に八坂くんが現れた。


「姫奈ちゃん、いろいろありがとう!」

「こちらこそ勉強させていただきました。パーティーのサービスでも考えさせられることもありましたし」


 八坂くんにお礼を言われて恐縮する。私自身相当楽しませてもらったのだ。将来はパーティープランナーもいいかな、なんて思うくらいには楽しかった。


「写真部にまで頼んでくれたんだって?」

「ああ! だって、集中して欲しいじゃないですか。八坂くんとスイーツ!」

「ん? スイーツ?」

「レストランのスイーツ、貸し切りの特別メニューらしいですよ!!」


 力説すれば笑われた。 

  

「だったら、来ればいいじゃない」

「嫌ですよ。私なんてお邪魔虫です。晏司くんファンの中にファンじゃないのが混ざるなんて空気悪くなりますよ」


 答えれば八坂くんが小さく笑った。


「いえ、あの、悪口じゃないですよ?」

「わかってる。姫奈ちゃんは『晏司くんのファン』じゃないけど、僕の仲良し、でしょ?」


 言われて小さく驚いた。仲良しか……、仲良しなんだ、私。

 性格ブスが嫌いな八坂くんの仲良しになれたんだ。前世より性格がましになったと思ってもいいのだろうか。


「え? 違う?」

「いいえ。嬉しいです。あの……性格ブスになってたら注意してくださいね?」


 言えば八坂くんは噴き出した。


「なんなのそれ。おっかしー」

「私は結構真剣なんですよ。性格ブスからの没落とか怖いじゃないですか」

「また変なこと言ってるし。でも、没落してもデブスになっても大丈夫。約束しっかり覚えてるから。ちゃーんと幸せにしてあげる」

「いえ、それは遠慮します。さぁ、皆さんお待ちかねですよ。()()()()


 そういって入り口のドアを開けば、八坂くんは晏司くんの顔になる。

 結婚行進曲が鳴り響いた。

 ドアの中からは黄色い歓声だ。それに答えるように笑顔を振りまいて、八坂くんはレストランの中へ入っていく。


 プロだなぁ……と感心しつつ、私はドアをそっと閉じた。





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