表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売
高等部一年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

171/289

171.塾女子デート 2


「楽しかったね」


 大きく深呼吸をすれば、シホちゃんが笑った。


「ほらアネゴ、生駒くんに連絡!」


 急かされるようにして、帰るよのスタンプを押す。


「きゃー! 見せたい! この可愛いアネゴ、早く見せたい!!」

「え、でも、本当に待っているかわからないわよ?」

「待ってるでしょー」

「待ってるって!」

「待ってなかったら、そんな男やめちゃいなよ!」


 ミナちゃんの言葉に思わず返す。


「そんなの、無理だもん!」


 皆がニタァァと笑った。嫌な予感しかしない。


「でもでも、絶対バラしちゃだめよ? バレたら、本当に終わりになっちゃうから!」

「またまた、そんなわけないじゃん!」

「本当に、本当に、綱には言わないで? 本当にお願い!」


 手を合わせて必死でお願いすれば、皆が顔を見合わせた。


「アネゴがそこまで言うなら絶対言わないけど」

「つーか、うちら生駒くんと接点ないし」

「うん。でも、なんでそんなバレたらダメなわけ? 少し匂わせといた方が有利じゃん」

「バレたらバレたでうまくいきそうじゃん?」


 皆は不思議がる。


「……だって、バレたら一緒にいられなくなっちゃうんだもん」

「そんなことないって」

「ううん。本当に本当に。恥ずかしいとか嫌われちゃうとか、そういうのも、もちろんあるけど、そうじゃなくて物理的に会えなくなっちゃうから」

「なにそれ」

「親の仕事関係でね。母は私を別の人と婚約させたいみたいだし」


 小さく笑えば、皆は顔を見合わせた。


「え? 高校生で婚約?」

「ありえなくない?」

「親が決めるわけ? アネゴんちマジでカタギじゃないとか?」

「……へんなの」


 ニコちゃんがポツリという。


「アネゴ、普通っぽくないからなんかあるのかもしれないけどさ。それでも変だよ。子供のレンアイに親が口出しするなんて」


 言われてハッとする。


「……変?」

「そりゃー、相手がチャラ男とかなら親も口出すかも知れないけどさ。生駒くんなら問題なくない? 特進クラスじゃん。うちの親なら泣いて喜びそー」


 うんうんとみんな頷く。


「そっか、普通だったら好きになってもいいんだぁ……」


 気が付いたら少し悲しくなった。

 私が何も持っていなかったら、白山家でなかったら、私は綱を好きだと言えたのだ。

 恵まれていると思う。幸せすぎると思う。でも、もし、と思ってしまった。そう思ったその先で気が付くのだ。私が白山家のお嬢様でなければ、綱は私の側にいない。


「やだ、アネゴ、そんな泣きそうな顔しないでよ!」

「そうだよ! うちら絶対にバラさないしさ!」

「ね! まだ高校生じゃん? 大人になれば変わるかもしんないし!」

「まだあきらめるのは早いって!」


 皆が慰めてくれる。


「……うん。ありがとう。こういう話、誰にもできなかったから話せてよかった」

「話くらい、いくらだって聞くよ」

「ニコの話も聞いて!」


 賑やかな彼女たちの声に慰められる。




 もう、駅が見えてきた。少し肌寒くなってきた秋の入り口の夕暮れ。


 駅の入り口で、綱が本を読んで立っている。本当に待っていた。それだけで走り出したくなるほど嬉しい。足もとがウズウズとして、チラリとみんなを見ればニヤニヤと笑われた。


「ほら! 待ってるじゃん!!」

「早く行ったげな!!」


 ニコちゃんが背中を押す。


「うん!」


 私は、嬉しい気持ちそのままに綱に向かって駆けだした。



「つな!」


 名前を呼べば、綱が面食らったように私をマジマジと見た。そして考えるように口元を押さえ、目をそらしてから小さくため息をついた。

 そして無言で鞄に本をしまい、着ていたスエットのパーカー型ジャンパーを脱ぐ。本当に何も言わない。おかえりすら言わない。


 思っていた反応と随分違ってがっかりする。

 やっぱり、綱の眼中に私はないらしい。

 ションボリとして肩を下げれば、その肩に綱のパーカーがふんわりとかけられた。パーカーを脱いだ綱は半袖になり、少し寒そうだ。


 驚いて顔を上げれば、綱と目が合う。


「肩が寒そうです」

「……そう、他に言うことはないわけね?」


 思わずむっつりと睨みつける。


「他にとは?」

「お世辞でもいいから可愛いとか言えないわけ? 新しい服なのよ?」

「お世辞を私に求めていますか?」

「いいえ! そうね!! そもそも私が間違ってました!!」


 フンとあからさまに顔を背け、私は改札口に歩き出した。


 綱のバーカ! 綱のバーカ! 乙女心を少しくらい考えてよ!!


「姫奈! パーカーをちゃんと着て!」

「煩いわね! 寒くないもん!! 綱の方がよっぽど寒そうじゃない!」


 肩に掛けられた綱のパーカーを取り、追いついてきた綱に押し返す。


「駄目です!! ちゃんと着なさいと言っています!!」


 綱にきつくたしなめられて、ムカっとする。


「なによ!! まるで保護者ね!!」


 綱もその言葉にはムッとしたようで、黒蜜のような目を不機嫌に細め、もう一度私にパーカーを着せ付ける。


「袖を通してください」

「せっかく可愛いニットだもん。このまま帰るの!」

「駄目です」

「なによ。可愛くないっていうの!? えーえー! どうせ中身が駄目ですもんね!! 知ってます!!」

「いいえ! そうではなく!!」


 綱はそう言ってから、言いにくそうに一瞬口を噤んだ。そして、そっと目をそらし、顔を赤らめ小さく溜息をつく。

 何かと思えば、耳元に綱の顔が近づいてきた。近い!!


「……ここからだと、見えるんです。……その、すこし、下着が……」


 綱の言葉に、慌ててパーカーの袖に腕を通し胸元を隠す。


「やだ……。嘘、見た? 見えた?」


 綱は何も言わなかったが、絶対あれは見えたのだ。見えたから言っている。

 最悪だ。恥ずかしくて死にそうだ。


「見たでしょっ!」


 半泣きで怒れば、綱は赤い顔をそらした。


「私だって見ようとしたわけじゃありません。見せたのはそちらでしょう?」

「……ひどい……」

「酷くないです。だから、お願いです。きちんと隠して。他の人には見られたくないんです」


 目じりにたまった涙を綱が指先で拭った。


「ほら、泣かないで。気が付いたのが私で良かったじゃないですか」

「……なんで綱ならいいのよ」


 綱だから見られたくなかったのに。


「だって、私はあなたの水着姿だって知ってるんですよ? 今更でしょう?」

「そうだけど……」


 なんだか釈然としない。水着と下着は全然違う。女の子だと思われていないのだ。仕方がない。


 私は無言で胸元までジッパーを上げた。綱のパーカーは思っていたより大きかった。お尻の下まで伸びた綱のパーカーは、生駒の半纏を借りてきていた時のような安心感がある。

 さっきまで着ていた綱の温もりと匂いがして、胸の奥がギュッと締め付けられるようだ。温かくて、まるで綱に抱き締められているみたいだ。満たされて、幸せになる。


「おおきいわね」


 知らないうちにこんなに大きくなってしまった。学院に入る前は同じくらいだったのに。


 指の出ない袖を綱がまくってくれる。


 ふふ、と小さく笑えば、綱が何です、と尋ねる。


「ちょっと憧れてたの。外部生の大きなベスト。なんだかそれみたいで嬉しいわ」


 通称彼ベストと呼ばれるオーバーサイズのベストにひっそりと憧れていたのだ。これはベストではないけれど、サイズ感がよく似ている。


「差し上げましょうか?」

「ええ? でも学院には着ていけないもの。いいわよ」

「部屋で着たらいいじゃないですか」


 綱の言葉に、ピョンと胸が跳ねた。いいんだろうか。部屋で、綱のパーカーを着ていてもいいんだろうか。そうしたらずっと、今みたいな幸せな気持ちでいられるに違いない。ずっとずっと綱と一緒だ。


「いいの?」

「部屋で着るものくらい自由でいいのでは?」

「違うの! 本当にこれ、貰っていいの?」

「いいですよ。そんなにお気に召したのなら。どうぞお使いください」

「でも、お母様に知られたらまた怒られちゃうわね」


 そう思いションボリとする。


「見つかったら、返すのを忘れていたとまた私に返してくれればいいだけです」


 悪戯を共有するような目。


「私も忘れていたことにしますから」

「うん!! できるだけ見つからないようにしなくっちゃね!」


 そう答えれば、綱が柔らかく微笑んで頷いた。私はそれで浮かれ上がって、綱のパーカーごとギュッと自分を抱きしめた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ