167.進学?カンファレンス 1
本日は、桜庭の友達たちと進学カンファレンスである。実は、夏休みに桜庭の子たちに強引に決められた、カンファレンスという名の合コンである。そもそも、芙蓉も桜庭もエスカレーター式なのだ。進学のためのカンファレンスを開く必要はない。
夏休みの女子会は、もっぱら彼氏が欲しい話だった。彼氏とデートに行っただとか、優しい彼氏の自慢話などを聞かされれば、「私も欲しい」となってしまう気持ちはわかる。同級生の中で一人遅れを取るのもなんだか焦るからだ。
それに、女子高の彼女たちにとっては出会いは作らなければないのだと力説された。最近は、有名男子校花桐高校とつてができたから、ぜひ一緒にと誘われたのだ。
私は気が乗らなくて、ウダウダ言っていたら睨まれた。
「そういうこと言って、姫奈ちゃんには彼氏いるんでしょう? 私たちに秘密にしようとか、ずるいのよ!」
百合ちゃんがプリプリ怒る。で、結局お姉さまはどうしたかといえば、それはそれ、なのだそうだ。
「いないけど……。なんていうか、好きな人じゃなきゃダメみたいなんだもん」
そう答えれば、美佐ちゃんがグッと身を乗り出してくる。結局、遠泳会で告白されたけど断ったこと、実らない片思いをしていることを吐かされる羽目になったのだ。もちろん好きな相手の名前は言えない。
もろもろの事情があって諦めるのだと言えば、みんなが大きく溜息をついた。
「……どうしても諦めなきゃならないの? どうしても?」
美佐ちゃんの方が泣き出しそうな顔をして聞く。美佐ちゃんは優しいのだ。
私はあいまいに笑って頷いた。
「……私もわかるわ……」
百合ちゃんが珍しく小さな声で呟いた。
「百合ちゃん、何かあった?」
尋ねれば百合ちゃんは一瞬瞳を潤ませて、唇を噛んでからブンブンと頭を振った。
言わないけれどわかる、きっと百合ちゃんも諦めなきゃいけない恋をしているのだ。
「だったらなおさら!! カンファしましょう!! あきらめるためにもいろんな人を見たほうがいいわ! 新しい出会いで恋が芽生えるかもしれないし!! 過去ばかり見つめたって仕方がないわ!!」
百合ちゃんに力説される。半分は自分に言い聞かせているみたいだった。
「それに、私が花桐を紹介するから、芙蓉の男子を紹介して! 一回でいいの! そこから先は自分で広げるから!!」
うん。そっちが主な目的ね? 私のためだというのは名目ね?
でもそれで百合ちゃんが前を向けるならそれでいいと思う。諦める努力すらできないで、ウダウダ言っている私よりよっぽど建設的で眩しかった。
「今年も学園祭に招待してくれるんでしょう? だったらその前に知っている男の子が欲しいの」
美佐ちゃんにも言われて、しぶしぶ折れる。確かに女子高、しかも桜庭だ。下手な合コンなどできないし、ナンパなんてとても無理だ。自分たちで出会いを作っていかなければ、気が付いたら親の言いなりで二十も年上と結婚なんてことになっていてもおかしくない。
彼女たちにすれば、死活問題である。
「わかったわ。でも、八坂くんは呼べないわよ?」
「もちろん!」
そんな流れで、本日私は百合ちゃんのおすすめレストランで健全なるアフタヌーンティーパーティーだ。名目は進学先についての情報交換をする進学カンファレンス。お相手は、有名男子校花桐高校の一年生。あくまでも合コンとは言わないらしい。
花桐高校は芙蓉と比べれば、いくらか硬派な学校というイメージだ。制服が学ランで登下校には学帽を被るから、押忍なイメージがある。
女の子は私と、百合ちゃんと美佐ちゃんを含めた五人。男の子も同数の五人。女子たちは、キャッキャとかっこいいなんてはしゃいでいるけれど、私の目はスンとしている。
うん。だめだ。私、目が肥えすぎてしまった。
八坂くんのセクシービームにさらされ、氷川くんのカリスマ性に向かい合い、眉目秀麗無表情の綱に見下されつづけた私にすると、だれもかれも同じ顔に見える。花桐の男子に比べれば、一条くんだって三峯くんだって、ついでに二階堂くんだってかっこいい部類なんだな、なんてぼんやりと思った。芙蓉は顔面偏差値が高かったのだ。
しかし、まぁ、顔じゃないのよ、顔じゃ。そう、人は見た目じゃないのよ。中身なのよ。
そう思いなおして、話をしてみる。
一つ質問すれば、一生懸命十くらい答えてくれる。そんな姿は朴訥だと思う。悪い人じゃない、そうなんだろうな、とも思う。だけど、でも、面白くはない。
初めて会って話をするのだ。綱のように、打てば響くような会話ができるわけはない。
八坂くんのように女子力髙い会話を期待するのもどだい無理だ。氷川くんとも違う。氷川くんも口が上手とは言えないが、彼はしっかり自分の意見を言うし、私の意見も聞いてくれる。当たり前だと思っていたが、当たり前のことではなかったのだ。
変に緊張するし、自分のことを話してばかり。私からの質問には答えても、相手から私に何か聞くことはない。私に興味がないのだろう。
興味を持たれる会話ができない私が悪いのだ。仕方がない、そう思うけれど。疲れる。
今の会話は花桐の長距離遠足の話題だ。夜を徹して歩く競歩遠足は有名で、花桐の名物なのだ。その為にどれだけ努力をし、なんて話を延々としていて、まぁ、つまらない。興味ない。得意げにどれだけ大変かを語ってくるが、何しろ彼らは一年で、まだ未経験なのだ。
桜庭の女の子たちは、興味深そうに聞いている。桜庭にはそういう行事がないから目新しいのだろう。芙蓉には地獄の遠泳があるから、へー、なのである。
私はだんだん飽きてきて、話半分になっていれば突然話を振られて驚いた。
「白山さんだけ桜庭じゃないんだね」
「ええ。私は芙蓉なの」
ハッとして答える。
「姫奈ちゃんの学年には氷川様や八坂様もいらっしゃるの」
百合ちゃんが屈託なく笑えば、男の子たちの顔つきが変わった。
ああそうだった、花桐と芙蓉の男子は昔から部活動などでライバル関係なのだった。何かと言えば、桐蓉戦などといって競い合ってきたのだ。
「へぇ? どんな人? やっぱり、普通の人は話せない感じ?」
値踏みするような目が嫌だなと思う。
「いいえ。普通ですよ」
軽く答える。あまり踏み込まれたくないな、そう思った。
「そんなことないでしょう? お取り巻きとか引き連れているイメージだけど」
「どなたとも分け隔てなく接してらっしゃいます」
「にわかには信じられないな」
ちょっと意地悪な感じで鼻を鳴らされた。
「そんなことないわよね? 昨年の学園祭、氷川様と八坂様、姫奈ちゃんのことを名前呼びで、私たちにまで挨拶してくださったもの。気さくよね」
美佐ちゃんがフォローすれば、男の子たちが目を見張った。
「本当?」
「……ええ、まぁ……」
「へぇ……仲いいんだね」
「普通です」
投げやりに答えて、失敗した、と思った。
男の子たちの空気が変わった。
「普通、ね。そんな人たちと仲が良いのに、なんで今日来たの?」
ピリと空気が張り詰めた。
「そうだよ、芙蓉は共学でしょ?」
もう一人の子が口をはさむ。
百合ちゃんが、オロオロと視線を彷徨わせた。
メンドクサイ。
内心小さくため息をつき、パフォーミングパートナー仕込みの笑顔を張り付ける。
「噂に名高き花桐の方がいらっしゃると聞いたので、無理をお願いしてまぜていただきましたの。芙蓉の男性とは違うと、前々からうかがっていましたから」
男の子たちが顔を見合わせて笑った。どうやら花桐のプライドは満たされたようだ。
「まぁ、ね。俺たちは芙蓉みたいに軽くないし、付き合うならもちろん花桐だよ」
男の子が笑う。
「ええ。そうでしょうとも。だから、つまらないことおっしゃらないでね?」
「もちろん! 芙蓉の男みたいにつまらないことは言わないよ」
全然意味が通じてない。がっかりだ。
「ねぇ、白山さん、俺たちも名前で呼んでいい?」
聞かれ、にっこり微笑んで答えた。
「いやよ」







