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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@完全無欠の悪女です2月下旬発売
高等部一年

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160/289

160.高等部一年 遠泳大会が終わる


「姫奈!」


 背中から声がして振り向けば、遊歩道に綱がいた。


「一人で歩きまわらないでください。危ないですよ」


 駆けおりてきて私の前に立つ。息が切れている。どうやら遊歩道の上から私を探していたらしい。


「一人じゃないわよ。三峯くんと一緒よ」


 三峯くんが苦笑いする。

 綱は大きく息を吐いた。


「生駒、このお嬢様、告白されたらしいよ」


 三峯くんがニヤリと笑った。綱が驚いたように目を見開いた。


「ちょっと! 止めて! 綱には秘密にしようと思ったのに、三峯くんのバカー!!」

「なんで私には秘密なんですか」


 綱の声が硬くて怖い。思わず怯む。


「だって、だって、お母様に報告するでしょう?」


 綱は無言で私を睨んだ。これ絶対、報告する。


「だって、そうしたら相手に迷惑かけるわ」

「秘密にしなければ迷惑をかける相手などもってのほかです! 奥様が認めるはずなどありません! もっと相応しい方がいるでしょう? 申し訳ございませんが、報告させていただきます」

「そうじゃないけど! うち過保護だし、……お断りしたのに、これ以上迷惑をかけられないわ」

「断ったんですか?」

「うん」

「あんなに彼氏を欲しがっていたのに?」

「……うん」


 綱はもう一度大きく息を吐いて、砂浜にヘナヘナと体育座りで屈み込んだ。膝に頭をつけたまま問う。


「……何の心境の変化ですか……」

「私もわからないの。欲しかったし、今でも欲しいと思うけど、いざ告白されたらあんまり嬉しくなかったわ」

「家柄が合わないとか?」

「そんなのどうでもいいわ。そもそも、私に良家の采配なんて無理だし」

「そんなことはありません。姫奈はもう花を持っています。どこへ出ても恥ずかしくない。芙蓉の方々と並んでも」

「やーねー、何を言いだすの。まさか、綱までお母様に感化されてるんじゃないでしょうね? 止めてちょうだい。私なんておこぼれの肩書だけだって綱が一番知ってるくせに」


 可笑しくて笑う。肩書だけで生きていけるほど、芙蓉の世界は甘くない。


「……ではなぜ?」

「外部生だから家柄なんて良く知らないけど、人気もあるし、格好もいいし、いい子だとは思ったわ。……すごく、優しいし。多分、お付き合いしても不幸にはならないと思うけど」

「けど?」

「困っちゃったの」

「困る?」

「そう。まず初めにね、嬉しいよりなによりね、困ったなぁって思ったのよ」


 そう思った自分が何より不思議で、上手く説明ができない。


 好きな人はいるけれど、気持ちを知られるわけにはいかない。告白できる日が来たとしても、報われる保証なんてどこにもなくて。

 思い続けても苦しくて、早く忘れて別の誰かを好きになった方がいい。好きになってくれた人と一緒にいれば、いつかその人を好きになるかもしれない。そう思うのに、困ってしまったのだ。


「……そうですか」

「好きな人とじゃなきゃ意味ないって、前に綱が言ってたわね。もしかしたらそういうことなのかしら?」


 だとしたら、私は当分無理そうだなぁ。


 思わず自嘲すれば、綱が顔をあげた。それが安心したかのような、脱力したような顔で、ちょっとビックリする。


「生駒も大変だよね」


 三峯くんが笑えば、綱は三峯くんを軽く睨んだ。


「さーてと、保護者が迎えに来たし、オレは戻るね」


 三峯くんはパンパンと盛大にお尻の砂を払っていってしまった。

 

「保護者じゃない」


 ボソリと綱が呟く。


 だったらいいのに、心の中で思う。保護者じゃなくて心配してくれたらいいのにな。私が白山姫奈子でなくても側にいてくれたらいいのにな。


「ねぇ、みんな、両想いで付き合っているのかしら?」


 幸せいっぱいに線香花火をするカップルを見てため息をつく。


「好きな人と結ばれなかった人はどうするの? 利害の一致でもいいって三峯くんは言ってたけど、私には良くわからないわ」


 綱を見れば、綱は遠くに花火を見ていた。黒い瞳に花火がチラチラ。黒い海に漂う月のように潤んで見えるのは気のせいだろうか。


「私にも……わかりません……」

「綱にもわからないなんて、私にわかるわけないじゃない。私、どうしたらいいの?」


 二人でため息をつき、打ち寄せる闇色の波を見つめる。温い潮風の中に、花火の火薬が香ってくる。流れてくる煙が目に沁みて、胸が痛い。


 そうして二人で途方に暮れた。



・・・



 大部屋へ戻れば、言わずと知れた女子会トークで、私はそこで衝撃を受けることになる。クラスメイトの女の子が九島くんに告白したというのだ。私はしっかり口にチャックで、話だけ聞いた。

 どうやらその告白は成功したようで、晴れてお付き合いすることになったらしい。


 九島くんよ……、おめでたいとは思うけど、悩んだ私の時間を返せ!!

 

 しかし、おかげで気は楽になった。



 翌朝は浜辺の清掃だ。夜の間に拾いきれなかった花火のごみや、まとめておいたペットボトル筏などを分解分別して処分する。それが終われば遠泳大会は終了だ。


 汚れ仕事だと思った私は、機動性を重視してトラックパンツを履いたら、そんな女子は誰一人いなかった。

 なにみんな可愛いスカート履いちゃってるの! あ、詩歌ちゃんのサブリナパンツ、可愛いじゃないか、そっちか、正解はそっちだったか!!


 銀杏拾いで馴染んでしまったトングと軍手でゴミを拾う。詩歌ちゃんも一緒である。


 九島くんが昨日付き合い始めたばかりの彼女と一緒に、キャっキャっウフフしているからチロリと視線を送れば、慌ててこちらにやって来た。


 そして彼女に見えないように片手拝みをした。


「ゴメン、バナナ姫。ほら、好くより好かれたいってよく言うじゃん? 俺、アイツと付き合うことになったから! 昨日の話はなかったことで!」


 そう言って、サッと彼女の元に戻る。


 はぁ? なんで私がふられたみたいになってんの? 昨日はしおらしく白山さんとか呼んでたくせに! 一晩明けたらバナナに降格ですか! そうですか!!


 付き合いたいわけではなかったし、付き合う気もなかったけど、なんなんだ、このモヤモヤした気持ち。九島くんに彼女ができたことで、かえって気が楽にはなった。きっと普通のクラスメイトに戻れる。けれど、モヤモヤする。モヤモヤする。


 なに、自分だけ幸せになってんだ! 


 心の中で悪態をつき、グシャリと空のペットボトルを潰して留飲を下げた。


 仲良さげに並んでゴミを拾う九島くんを見て、小さくため息をつく。これが利害の一致というやつなのだろうか。それにしたら幸せそうじゃないか!! そんなに幸せなら利害の一致上等だ!


 好くより好かれたい。九島くんが言った言葉は良くわかる。私だって好かれたい。大切にされたい。


 だけど私は我儘で、強欲だから、好きな人に好かれたいのだ、きっと。


 

「姫奈ちゃん、九島くんと何かあったの?」


 詩歌ちゃんが尋ねる。


「……ちょっと、相談されてたみたいな?」


 ヘラリと誤魔化す。始まったばかりのカップルに水を差すわけにはいかない。モヤモヤはするけれど、別れてしまっては困るのだ。


「そうなの」

「それで、私、我儘で強欲だなーって」

「ダメ?」


 キョトンと詩歌ちゃんが首を傾げた。


「ダメじゃない?」


 私もつられて首をかしげる。


「うん。姫奈ちゃんは大丈夫よ。もっと欲張ったって良いわ」


 詩歌ちゃんににっこり微笑まれ、そうなのかと思う。詩歌ちゃんに言われると、神様からも許されているのではないかと思えるから不思議だ。


「私、大丈夫?」

「ええ、大丈夫よ」


 詩歌ちゃんは、ヒマワリみたいに微笑んだ。






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