16.林間学校 3
午後のオリエンテーリングは、すっかり男子チームに私の五人と、大黒軍団二人で別れてしまう結果になった。
本当は私もバナナの皮を投げたことだし、お相子ということで水に流したいけれど、準備も片付けもせず文句ばかりいう大黒軍団に、男子が愛想をつかしたようだった。あんまりこういう状況は良くないと思いつつ、発言力のない私にはどうすることもできない。
オリエンテーリングでは、体力仕事は男子に任せる。私はクイズ担当だ。
「これって何て読む?」
出されたカードに書かれた文字は実芭蕉。
「バナナ」
サラリと答えて見せるけど、なんてことはない。二回目でたまたま覚えていただけだ。
「白山さん、バナナ好きだよね」
委員長が笑う。
「あはははは」
私は白々しく笑う。
「で、本当はなんて読むの?」
「だから、本当にバナナって読むんです!」
「うそ!?」
他の男子が笑う。すっかりバナナキャラが定着してしまった。おかしい、白山姫奈子は、芙蓉学院のお雛様のはずだったのに(思い込みです)。
「バナナ、バナナって、白山さんのお宅ってバナナ商人だったかしら?」
後ろの方から厭味ったらしい声が響いた。
めんどくさい。っていうか、前の私もこんなメンドクサイ系女子だったのか。たまらん。聞こえないふりをしてそそくさと歩き出せば、委員長が苦笑いした。
「白山さんって思ってたよりおツヨいよね」
「どういう意味ですか?」
ああん? といいたいのをグッと抑える。こんなにか弱い令嬢を前にして何を言う。
「いや、生駒が大事大事にしてるし、桜庭女子出身でしょ? だからどんな深窓のご令嬢かと思ったけど、ただの過保護だったんだなって」
「……大事……? 過保護……?」
キョトンとする。大事とは、過保護とは何ぞや? 私怒られてばっかりなんですけど。
なんならもっと優しくしてほしいんですけど!?
「あれ? 自覚なかった?」
「自覚……私、怒られてばっかりなのよ?」
「うーん、そうかな? そうかもね?」
委員長はニコニコと笑うけど、さっぱり理解できない。思春期の男子難しいわ。
この後は少しの休憩をはさんで、夕食。その後キャンドルサービスだ。
夕食は明香さんのグループに誘ってもらって、いつもよりは馴染めたと思う。バナナの話で盛り上がったから、バナナの神様に大感謝である。
その後のキャンドルサービスは、私は欠席となった。
教務室で反省文を書かされるのだ。
キャンドルサービスの音が漏れて聞こえてくる。
女神役は、詩歌ちゃんが務めるらしい。詩歌ちゃんの女神、見たかったなとぼんやりと思う。
フォークダンスの音楽が流れていた。
はぁぁぁぁ、残念だ。
それにしたって、一体何に反省しろと? ああ、バナナの大量持ち込みだった。
バナナ持ち込んですいませんでした。来年はしません。終了
さすがにこれではまずいだろう。大袈裟に謝っておかなくちゃ。
原稿用紙を前に、私は一人でウンウンと唸る。
みんな好きな子と踊っているのかな。
私はマイムマイムしたかったな。
八坂くんは酷いことになっていそうで、ちょっとそれは見てみたかった。
綱は誰かイイ子はいないんだろうか?
っていうか! 私! 私だって、なんかいい人見つける機会だったんじゃないの!?
林間学校で反省文書かされてる女子ってどうなの?
もうそこらへんで残念系女子確定じゃない?
しかもバナナだし。
うわぁぁぁ……、早くも出遅れてる……。
こういうのきっかけに意識し始めちゃってさ、夏休みに約束したりとかしてさ、クリスマス前にはなんだかんだで付き合っちゃうんでしょ? そうなんでしょ?
ガックリとうなだれる。
大黒さんとバナナバトルしてる場合じゃなかったよ!
性格ブス丸出しで、そんなことしてるから、罰が当たったんだ。
ううう。神様、えぐい。
「白山さん? 反省文は進んでますか?」
学年主任の先生が見回りに来て、私は背筋を伸ばした。
お風呂に入って、就寝時間が近づいた。
女の子たちがソワソワしている。今から眠るだけだって言うのに、入念に肌を整え、色つきリップなんてして、髪をきれいに結いなおしている。
きっと、さっき仲良くなった男子と就寝前に語ろうとか、そういうやつだ。
私はベッドで不貞腐れていた。
大黒さんたちは、ウキウキとした様子で出かけて行ってしまった。
残った女子だけで、ベッドの間に集まって、おやつを広げて女子トークタイムだ。
「姫奈子さんは行かないの?」
「私に出会いがないの知ってるくせに」
フン、と言えば、明香さんは笑った。キャンドルサービスもフォークダンスもオアズケを食らったのだ。
「キャンドルサービス残念だったわね」
「ええ、本当に残念」
「生駒くんも美しかったわよ」
「綱?」
「ええ、女神さまから火を分けていただいていたわ」
「いいなぁ……私も見たかったわ」
「きっと学院でも写真を販売しますから、その時買ったら良いわよ」
「そうね。そうするわ」
「生駒くん、人気があったわよ? 誰かがお声をかけたかもしれませんわね」
「そうなの? 良い子が見つかるといいんだけれど……綱は意地悪だけど根はいい子だから幸せになって欲しいわ」
答えれば、明香さんが驚いた顔で私を見た。
「?」
「いえ、幼馴染、でしたっけ」
「ええ、そうよ」
「幼馴染って、難しいのね」
「そんなことないわよ?」
明香さんはウフフと笑った。
「姫奈子さんは桜庭でしたもんね」
「ええ」
それと今の話がどうつながるのか良くわからない。
「桜庭はどんな感じでしたか? やっぱり林間学校などございます?」
明香さんのご友人に尋ねられる。
「あまり変わりませんよ。ただ、慣れないな、と思ったことが一つ」
「何でしょう?」
「校外などは、絶対に一人での行動をしてはいけないんです。お手洗い一つにしても、どなたかと一緒に手を繋いで行く決まりでしたので。初等部だったからかもしれませんが、そういうことは普通ではないのね。初めは驚きました」
みんな一人で歩いている。そのことがカルチャーショックだった。それに慣れなくて、前は氷川くんと綱に依存したのだ。
「まぁ、想像すると可愛らしいですね」
そう言われて恥ずかしくなる。多分、安全対策のためのルールだったに違いないのだが、すっかりその世界に浸かっていると、世の中との違いがわからなくなってしまうのだ。
「やっぱり、お姉さまとかそういうのはあるんですか?」
「ええ、人気のあるお姉さまはいました」
「うわぁぁぁ……物語の世界みたい」
「私にすれば芙蓉学院の方が物語の世界のようですわ。女子ばかりの世界から来てみれば、王子様がたくさんなんですもの」
そう言えば、みんなが笑いあった。
「確かにそうですわね」
「皆様はどなたかお声をかけたりしませんの?」
キャイキャイと言いながら顔を見合わせ合う。
まだ早いわ、だとか、好きな方はいるのだけれど、だとか、口々に話し合う。どなたとダンスを踊れたとか、踊れなかっただとか、本当に楽しそうで聞いているだけで幸せになる。
やっぱり、キャンドルサービス出たかったな……。







