158.高等部一年 遠泳大会 表彰式の帰り道
遠泳終了後は、表彰式だ。
初めは遠泳の上位十位までの発表。そして、筏レースの優勝者と、イカス筏で賞の受賞クラス。筏レースの優勝は生徒会長のクラスで、私たちは三位だった。そもそも制限時間内にゴールしたのは半分の八クラスだったので善戦した方だと思う。イカス筏で賞は三年生の校友会文化部長のクラスだった。
ビーチバレーは三峯くん率いる一年二組。
ビーチ・フラッグスは氷川くんが優勝で、水鉄砲合戦は校友会体育部長のクラスだった。
「あなた、バナナちゃんよね?」
表彰式の帰り道、三年美女軍団に呼び止められた。
「美女軍団先輩……」
名前を知らないので思わず口にしたら、変な顔をされた。でも、私だって別にバナナではない!
多分、八坂くん関連だろう。
私は小さくため息をつく。そんなに美人でバインバインの癖に、何を私に言うことがあるというのだ。
「ちょっと、向こうでお話しできないかしら?」
できないかしらなどと先輩にいわれて、できませんと答えられる人はどれくらいいるのだろう。私は渋々、ハイと答える。
詩歌ちゃんは困ったように私の腕に縋った。しかし、巻き込んでは悪いので、大丈夫だと腕を離した。
美女軍団に囲まれて砂浜を歩く。もう、それだけでも罰ゲームに近い。
すると、地元の人らしい男性たちに声をかけられた。
「もう、行事は終わったの? 帰るまでちょっと話しようよ。そこの海の家でタピらない?」
軽薄な感じだ。美女先輩も困った顔で黙り込む
正直、キモイ。バイーンだろうが、ボイーンだろうが、美女先輩達だってお嬢様なのだ。こういうのに慣れていないのだろう。ただ困惑している、そんな感じだ。
黙って答えない先輩たちを、なぜだか了解だと思ったらしく、美女先輩の腕をおもむろに取った。
「じゃあ、いこ!」
「きゃ」
「きゃ! だって、かーわいいー!」
「ちょっと! 嫌がってます! 止めてください!!」
思わず声を荒げれば、軽薄男たちは私を見てバカにするように笑った。
「あ、君は別に誘ってないから!」
知ってるわ!!
私を怒らせたな。見ておれ!! ただで引いたりしないんだから!!
強引な男たちにムカついて辺りを見渡せば、赤いブーメランパンツが見えた。
「ゴリマッチョせんぱーい!! たーすーけーてー!!」
大声で叫ぶ。
「ゴリマッチョって」
軽薄男たちが笑えば、どうしたどうしたと、ゴリマッチョ先輩とゴリマッチョ先輩以外のマッチョが集まって来た。
軽薄男たちがギョッとする。
「どうしたー、ゴリラ姫!」
ゴリラじゃないけどね!!
「ゴリマッチョ先輩、この人が美女先輩連れて行こうとしてるんです!!」
エーンとわざとらしく嘘泣きをして、軽薄男たちに指をさす。
ゴリマッチョ先輩が、値踏みするように軽薄男たちを見た。
軽薄男たちは、ゴリゴリマッチョな筋肉の集団にたじろいで、美女先輩の手を放す。
ザマァ!
「す、すごい筋肉ですね……?」
軽薄男の一人がヘラリといった。
「おお! ありがとう。どうだ凄いだろう?」
ゴリマッチョ先輩は、褒め言葉だと思ったようで、腕を組んで胸をピクピクさせてくれる。ゴリマッチョ先輩から後光が射してくるようだ。
「わぁ、初めて見ました!」
私も初めて見る生ピクピク筋肉にちょっと感動する。
「そうか! じゃあ、背中も見せてやる」
ゴリマッチョ先輩がポージングすれば、周りのマッチョたちが声を上げる。
「はい! ずどーん!!」
「背筋がたってる!」
「あにきー! 愛してるよっ!」
あまりの勢いに恐れ戦いた。なにこれ。何が起こった? わたし、どこにいるの?
軽薄男たちはそのすきに逃げ出した。さすがのゴリマッチョ先輩、怒鳴り声一つあげずに軽薄男たちを追い払ってくれる。美女先輩たちは、尊敬の目でゴリマッチョ先輩を見た。
気がつけば人が集まりだしている。唐突に始まったボディビル大会に、それを眺める美女軍団。絵面が濃すぎるのだ。
詩歌ちゃんは八坂くんを連れてきたのか、二人で呆然としてこちらを見ていた。
もっと近くに来ていいんだよ?
ゴリマッチョ先輩は、二階堂くんのラグビー部の先輩でもあるので、二階堂くんと紫ちゃんは私のそばまでやって来た。
頬をひくつかせ、二階堂くんを見れば苦笑いしている。綱も慌てた様子で私の隣に来た。
「バナナ姫、何この状況?」
「私もわからないわ。ゴリマッチョ先輩、呼んだらこうなってしまったの」
「ゴリマッチョって先輩に言ったの?」
「私もゴリラ言われたからおあいこよ。でも、怒らなかったわよ?」
二階堂くんは困惑して、ため息をついた。
「あー……、うん。筋肉的にはゴリラ、褒め言葉だから。バナナ姫の、その、あれも、多分先輩は褒めてるつもり」
「ああ、そう。そうなのね? 文化の違いというやつね?」
ならば許そう。ゴリマッチョ先輩。
なぜか突然始まったボディビル大会が盛り上がり始めた。意味の分からない掛け声が響く。冷蔵庫って何? 腹斜筋で大根をすりおろしたい、ってなに? そもそも腹斜筋ってどこ? それでおろした大根おろし、一体に何に使うの!? ねぇ、美味しいの??
見比べるように二階堂くんを見た。二階堂くんは紫ちゃんと同じ薄紫色の海水パンツに、上半身裸である。良い感じに焼けた肌、無理のない胸筋だ。まぁ、良い身体ではある。うん、良い身体である。
「イヤン! バナナ姫! エッチな目でみないでっ!! 俺には紫がいる!」
二階堂くんがふざけて胸を隠す。綱は私を白い目で見る。止めてそんな目で見ないで!
「ちょ! 普通の胸筋はどうだったかなって確認しただけじゃない!」
「姫奈ちゃん……仁くんは、ダメよ?」
「ゆかちゃん! こわい、こわい。ニンジンくんはないわ! ニンジンくんはないわよ!!」
慌てて答えれば、紫ちゃんはニッコリと笑った。
「うん。わかってる。だって、姫奈ちゃんと仁くんが楽しそうだったから混ざりたかったの」
「ゆ、ゆかちゃんにまで、もてあそばれた……」
メソっとすれば、紫ちゃんは大人っぽく笑って、ひなちゃん可愛いなんて言う。
あー、それ、すっごくきれい。二階堂くんには勿体ない。
「ゆかちゃん……、私が言うのもなんだけど……、ニンジンくんで本当に大丈夫?」
「仁くんはそういう鍛え方してないし、でも、仁くんだったらマッチョでもカッコイイわ、きっと!」
紫ちゃんにニッコリ笑われて、私は撃沈した。私が言いたいのは、筋肉の話ではない。性格の問題だ。しかし、愛は盲目。リア充にはかないっこないのだ。
「ゴリラ姫ー!! どうだー!!」
ゴリマッチョ先輩、良い笑顔で大声で叫ぶのやめて。みんながこっち見てるから! またゴリラが定着するから!!
とりあえず、曖昧に笑い返す。ゴリマッチョ先輩、間違いなく私をゴリラの子供かなんかだと勘違いしている。
「バナナ姫って、ゴリラなの?」
側にいたクラスメイトに聞かれた。ほら、見たことか。
「……あのね? ゴリラでもなければバナナでもないのよ? わりとそこそこのお嬢様なのよ?」
にーっこり笑えば、ヒィと後ずさりする。
「姫奈ちゃんはゴリラでも可愛いわ」
「ゆかちゃん、それあんまりフォローになって無いと思う……」
「そう?」
無垢な目で微笑まれて、私は反論できずに黙った。お嬢様最強である。
結局、突如始まったボディビル大会は生徒会からの注意でお開きになった。
帰り際、美女先輩たちに「後夜祭でメロン食べさせてあげる」といわれ、クラスの打ち上げにお邪魔することになった。
話って、メロンだったのだろうか? 食いしん坊キャラって三年生にまで知れ渡ってるの? だったら相当恥ずかしい。







