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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@完全無欠の悪女です2月下旬発売
高等部一年

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157.高等部一年 遠泳大会 水鉄砲合戦二回戦


 水鉄砲合戦の二回目は、綱のクラスと、氷川くんのクラス。三年生は生徒会長のいるクラスと、校友会体育部長の率いるクラスだった。ここで優勝クラスが決まる。優勝クラスには夕張メロン三玉が用意されている。


 今度は自分のクラスが参加していないので、素直に綱を応援できる。詩歌ちゃん達クラスメイトと一緒に観戦だ。


 氷川くんもスタートラインについた。また目が合ったので今度は手を振ってみれば、全開の笑顔で手を振り返してくる。私の周辺にいた女子たちが、レアな笑顔に悩殺されて倒れた。……うん。ピュアが過ぎるのも考え物である。


 綱が白けた顔で私を見たから、綱にも手を振った。こっそり口パクで「がんばれ」と付け足す。綱は驚いたような顔をして、小さく手を振り返してくれた。


 近くには綱のクラスの応援団がいて、鳴り物鳴らして応援している。さっきの黒ビキニ読者モデルが、お胸をバインバインと揺らしている。


「いこまぁくぅぅぅんー!! こっちみてぇぇぇ!! きゃぁぁぁぁぁ!!」


 鼻にかかった甘い声にイラっとして思わず見れば、バチリと目が合う。彼女は私を見てフフンと笑った。

 ムッとして綱に目を向ければ、綱の奥にいた不愉快そうな桝さんと目が合って気まずくなる。多分桝さんも私と同じように彼女にイラついたのだろう。恋心を自覚してみれば、桝さんの気持ちも良くわかる。綱の周りにいる女子は、大体目障りだ。


 うん。イラっとするよね。イラっとするのよ! わかっているけどイラっとするのよ!!


 しかし、悲しいかな、私はそれを主張することすらできない。大黒さんのように、『私が一番のオキニです!』と言えたらどんなにスカッとするだろう。しかし私にはできないし、そもそも一番でもない。

 ああやって、好きだと表現できる人を横目に、ウジウジと死なない恋心を砂に埋めるしかないのだ。


 羨ましいなぁ……。そう思い、綱に目を向ける。スタートラインで前を向く綱は、いつもよりずっと遠い人だ。


 スターターが鳴り響く。一斉にダッシュする。

 氷川くんはすでに砦の一つを占拠した。良く通る声が指示を出し、チームワークが抜群のクラスだ。足の遅い子たちが砦を死守すべく奮闘し、足の速い子たちはメロンを目指す。


 綱もけして負けていない。氷川くんを正面から狙う。それを氷川くんは楽しそうに受け、夏の男子は眩しすぎる。

 綱と氷川くんはお互いに夢中になりすぎて、一騎打ちの様相だ。綱が氷川くんのポイを打ち抜いた瞬間、私を振り向いた。ビックリするほどレアな笑顔に私の方がうち抜かれる。その瞬間、綱のポイまで後ろから生徒会長に撃ち抜かれてリタイアだ。

 綱は一瞬呆然として、困ったように笑った。


 三年美女スナイパーの前には、一年男子はほぼほぼ無力で、膝をつきながらの賢者タイムは笑いを誘う。


 結局、総合力と経験で校友会体育部長のクラスが優勝した。勝鬨をあげながらメロンを掲げる三年生。


 水鉄砲合戦が終了して、氷川くんも綱もクラスメイトに囲まれている。負けはしたが善戦した彼らをみんながたたえているのだ。

 

 綱の腕をとる黒ビキニ読者モデルがチラリと私を見て笑った。さり気なく自慢のお胸を押し付けるから、綱が困ったように彼女の手から離れた。

 

 なにそれ! 意識しちゃってるんじゃないの!? 綱のエッチ!!


 ムカっとして、シュンとする。そろそろとラッシュガードのジッパーをこっそりと下ろして、中の自分の胸を見る。うん、確認するまでもない。レースのフリルで隠しているが、けしてバインバインではない。


 綱といい、八坂くんといい、氷川くんといい、堂々と周りにたむろする女子は皆綺麗でプロポーションが抜群だ。自信があるんだろう。


 それに比べて私って。脚が太いからって、レギンスすらも脱がせてもらえないのだ。


「どうしたの?」


 ラッシュガードの中を覗き込む私に、不思議そうに詩歌ちゃんが尋ねる。


「やっぱり、女の子はプロポーションかしら……?」


 尋ねれば、詩歌ちゃんは少し考えるような顔をして、パッと笑顔を私に向けた。

 そしておもむろに、私のラッシュガードのジッパーを下げる。


「折角の可愛い水着、全然見せないの可哀そうよ」


 黒いラッシュガードの間から、たまご色のレースのタンキニが零れた。少し寂しい胸をカバーするために、胸のあたりに段々のフリルが付いている。


 一瞬、周りがざわついて、注目が集まる。

 予想外の視線に慌てて、ラッシュガードの前を合わせた。


「うーちゃんっ! まだ、日焼け止め、塗ってないから!」

「あら、私持ってるわ!」


 詩歌ちゃんは、自分のラッシュガードのポケットから日焼け止めを出した。


「塗ってあげるね」


 天真爛漫に微笑まれて、アワアワと流される。冷たい日焼け止めが熱くなった鎖骨にピタっと触れて、わひゃぁと変な声が出る。

 

 なんだか一層周りがざわついて、顔をあげれば綱が血相を変えてやって来た。


「浅間さんっ!」


 綱が詩歌ちゃんに何かもの申すなんて珍しい。


「どうしたの? 生駒くん」


 詩歌ちゃんはいつもののんびりとした調子で答えた。


 それに綱は言葉を失って、一瞬戸惑った。


「……姫奈は肌が弱いから、ラッシュガードを閉めてください」

「姫奈ちゃん、白くてすべすべですものね? 確かに日に焼けたら赤くなっちゃいそうね」


 詩歌ちゃんがサスサスと私の肌を撫でながら答えれば、綱がコクコクと首を縦に振った。


「でも、もうそろそろ日差しも弱くなってきたし、せっかく一緒に可愛い水着を買いに行ったのに、見せないのはもったいないと思うの! ちゃんと日焼け止めを塗れば、ラッシュガードの前を開けるくらい平気でしょう?」


 詩歌ちゃんは、ニコッと笑った。綱は言葉を失う。そして、もう一度逡巡してから、言いにくそうな小さな声で答えた。


「……夕方になると、虫が気になりますし……」

「虫?」


 詩歌ちゃんがキョトンとすれば、赤い顔の氷川くんがやって来た。日に焼けてしまったのだろう。

 それを見て、綱が小さく、ほら、と呟く。


 なにが、ほら?


「あ、浅間さん……」


 氷川くんまで、何か言いにくそうだ。


「氷川くん、姫奈ちゃん可愛いでしょう?」


 屈託のない笑顔で、答えにくいことサラッと尋ねないで詩歌ちゃん!


「あ、ああ、よく……似合っていると……思うが、しかし」

「しかし?」


 コテンと首をかしげる詩歌ちゃん。なにそれ可愛いんですけどー!!


 氷川くんは私をちらりと見て、慌てて目を背け口を噤んだ。


 ガーン。目に堪えないって感じ? そりゃ、あれだけの美女に囲まれていれば、そうでしょうけど、そんなあからさまにしなくても。


「やっぱり、あまり見せない方がいいです」


 ツンと綱が言った。その言い草にちょっぴりムカッとする。


「綱なんか、さっきまで黒ビキニにニヤニヤしてたくせにっ! ちょっと貧相だからってそんな言い方ないじゃない」

「ニヤニヤしてませんし、そんなふうには言っていないでしょう?」


 綱が心外だと言わんばかりに嚙みついてくる。


「してたもん! 腕にあてられて喜んでたもん!」

「っ! 喜ぶわけないでしょう!? 好きでもない人に何されたって嬉しくない!」


 激しく否定する綱の言葉になぜか私が傷つく。


 私のことなんか好きじゃないくせに。私が何したって関係ない癖に。どうしてこういう時ばかり、色々口を出してくるのだろう。


「……綱なんか知らない!」


 フンとそっぽを向けば、詩歌ちゃんが、もう、と綱を睨む。


「生駒くん。姫奈ちゃんて可愛いわよね?」


 突然の言葉に私が慌てる。


「うーちゃんっ! やめて? おねがい!」


 半泣きで縋る。なんて公開処刑だ。

 綱だったらケロリと『かわいい? どこがです?』ぐらい言いそうで、それを公然と言われたらさすがにショックすぎる。


「可愛くない?」

「人前でわざわざ言うまでもないことです。みんな知っている。今更でしょう? 姫奈だって聞き飽きている」


 綱が答える。そう、私は言うまでもなくブスだ。


「みんななんて関係ないでしょ? 生駒くんはどう思うの?」


 詩歌ちゃんがもう一度尋ねれば、綱は顔を赤くして不貞腐れたように呟いた。


「姫奈は……、可愛い、です」

「は?」


 耳を疑う。グンと顔が熱くなる。嬉しくて飛び跳ねてしまいそうだ。


 綱が、可愛いって! 私を可愛いって!! 嘘でも、言わされたんだとしても、それでもうれしい。


「だから!!」


 綱は怒ったようにそう言うと、私のジッパーをおもむろに上げた。


「おい! 生駒!」


 氷川くんが驚いて咎めるように声をあげた。


「……隠しておいて。心配します」


 懇願するような小さな声に、ぐらりと膝の力が抜ける。


「きゃぁ! 姫奈ちゃん!」


 詩歌ちゃんが支えてくれたから、思わず詩歌ちゃんに縋りついた。


「うーちゃん……」


 泣きたくなるくらい胸がいっぱいになって、鼻声で名前を呼べば、詩歌ちゃんが背中を撫でてくれる。


 ちょっとだけ、ちょっとだけだけど、二階堂くんが紫ちゃんに思うように思ってくれたのかもしれない。それだけのことで、嬉しくて仕方がない。



 花火が上がる音がする。遠泳終了の合図だ。一番最後の人が浜についたのだ。


「生駒、行くぞ」


 氷川くんの憮然とした声がした。

 詩歌ちゃんに縋る私の背中を綱の声が撫でる。


「わかりましたか? 良いですね? 私は表彰式でクラスに戻りますが、ちゃんと着ていてくださいね」


 恥ずかしすぎて綱の顔なんか見れなくて、背を向けたまま無言でうなずく。


「……だって。大切にされてるわね、姫奈ちゃん」 

 

 詩歌ちゃんの笑い声に、私は無言で首を縦に振った。



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