155.高等部一年 遠泳大会 ビーチ・フラッグス
午後の最初の競技はビーチ・フラッグスだ。我こそは、という猛者たちがエントリーしている。一応女子と男子は分かれているが、こちらはクラス対抗ではなく自由参加だ。
観戦しようと来てみれば、二階堂くんがエントリーしていた。紫ちゃんが隣で甲斐甲斐しく世話を焼いている。
紫ちゃんは、オフショルダーの菫色フレアワンピースにレギンス姿だった。露出度は低くても、清楚で爽やかだ。
「ゆかちゃんもレギンス仲間ね!」
「ええ、仁くんが絶対脱ぐなっていうから」
紫ちゃんが答えれば、当たり前だろうというように二階堂くんが答える。
「紫の生足を他の男に見せてたまるか!」
「……さようですか……」
もう最近の彼らは甘酸っぱくなんかない。しっかり甘い。ひたすら甘い。この砂浜の砂を全部砂糖に変えそうな勢いで甘い。
ビーチ・フラッグスの集合の合図が鳴る。私は、二階堂くんを応援する紫ちゃんと一緒にビーチ・フラッグスの観戦をすることにした。詩歌ちゃんや明香ちゃんもやってくる。
明香ちゃんはスポーティーなホルターネックの緑のタンキニで、デニムのショートパンツから美しいおみ足が伸びている。軽くはおられたフード付きのラッシュガードがスカイブルーで眩しい。かわいいか!
綱は自分のクラスの子たちと水鉄砲合戦の最終調整だ。クラスのために甲斐甲斐しく働く姿に感心する。近くには、帰国子女で読者モデルをしているという噂の女子が、バイーンと黒ビキニで主張している。
もしかして、綱狙いなのだろうか? 確かに綱は、氷川くんや八坂くんに比べて話しかけやすい。特段有名なお家柄ではないし、公立小学校出身だから外部生にもなじみがあるのだろう。あからさまなアプローチを見かけることもあるのだ。
チリリと胸が焼ける。厄介な人を好きになってしまった。
桝さんはその陰に隠れるようにして、水鉄砲に水を入れていた。
八坂くんは相変わらずハーレムを形成している。しかもただのハーレムではない。極上美女軍団だ。ハートがウフーンと飛んでいる。
ビーチフラッグに氷川くんが登場して、黄色い歓声が砂浜に響き渡った。相変わらずオモテになるようだ。
目が合ったら、氷川くんが笑って手を振った。
周囲の女の子たちが叫ぶ。
私? いや、私じゃない? 私と目が合ったって、と騒ぐ女の子。
そうか、私もすっかり私と目が合ったと思っていたが、勘違いかもしれない。氷川くんも罪つくりなお人です。
「すごいわねぇ」
明香ちゃんが呆れたように呟く。詩歌ちゃんも苦笑いだ。
氷川くんは砂まみれになりながらも、本気で本気だった。純粋に格好いいと思う。砂にまみれた挑む顔は男らしくてキュンとする。初恋を思い出すのだ。
結局、最終戦に残ったのは、氷川くんと二階堂くんで、氷川くんが二階堂くんを制し、優勝した。
氷川くんは最後に取った旗を、初めて旗を貰った子供のように振り回して見せた。ピュアが過ぎて直視できないよ、氷川くん……。
負けた二階堂くんは、紫ちゃんに慰められている。完全に周りの目など気にしない。二人は二人だけの世界に閉じこもった。
優勝した氷川くんより、二階堂くんの方が羨望の目で見られているのはなぜだろう。
……何はともあれ、ごちそうさまです。
そして、みなさまお待ちかねの水鉄砲合戦である。
水鉄砲合戦は男女混合。塩化ビニール製パイプの手作り水鉄砲を使うルールになっている。金魚すくい用のポイをヘアバンドで挟み頭に装着する。それが破れたら退場だ。四クラスずつの混戦で、フィールドの中のスイカを先に取ったチームの勝ちである。単純にポイを破るだけではだめなのだ。頭脳戦でもある。
スイカは勝利クラスで食べることになる。一、三年生で合計十六チームあり、一回戦を勝ち残った四チームが最終戦で夕張メロンを争奪しあうのだ。
綱は自分のクラスをまとめている。もちろん氷川くんも参戦する模様。二階堂くんと八坂くんも出る。
「ひーなーちゃん! 背中に日焼け止め塗り直して」
でた。八坂晏司である。
「なんで私が……沢山連れて歩いている美女軍団に頼めばいいじゃないですか」
「さっき日焼け止め貸してあげたじゃない」
「そうですけど」
「それに、たくさんいる女の子から一人選ぶとさ、いろいろあるじゃない?」
「確かにそうですね」
もう私は八坂くん係として認知されているので、最近ではそれほど嫌味を言われることはない。かえって、手紙やプレゼントを預かるくらいだ。だけど、そうでもない女の子は田んぼに落とされるかもしれない。
八坂くんは砂浜に座り込むと、ラッシュガードを脱いで前の方を自分で塗りだした。私は言われたままに、八坂くんの背中に日焼け止めを塗る。
すべすべの白い肌だ。焼いてしまったら勿体ないかもしれない。チャラチャラしていて優男風に見えるけど、こうやって日焼け止めを塗ってみると背中は案外大きかった。
日焼け止めを塗るとキラキラと光る。何かと思って凝視すれば、薄い色の産毛が太陽の光を反射していた。まるでオーラだ。
なに? 太陽をも味方につけるって、アポロンの化身か何か?
「八坂くんの背中、光り輝いてますよ」
言えば八坂くんがせき込んだ。
「だいじょうぶですか?」
「あ、うん、なに? 突然」
「ほら、背中がキラキラ反射して内側から輝いてるみたいです」
「……ふーん……そうなんだ。知らなかった。姫奈ちゃんは僕の知らない僕も知ってるんだね?」
振り返る笑顔は太陽に溶かされたアイスのように柔らかくてドキリとする。
「……不意打ちのそういうの、止めてください」
思わず俯けば、クツクツと八坂くんの満足げな笑い声が聞こえた。顔を上げれば、八坂くんはすでにラッシュガードをきちんと着込んでいた。
「ねぇ、頭にポイつけてよ」
八坂くんに強請られるまま、頭にポイをつけてやり、位置を調整する。
イケメンなのにポイを付けられた姿は滑稽で、思わず笑ってしまう。学校行事中の生徒間の撮影は許可されているから、この姿がみんなの待ち受けになるかと思うとおかしかった。
「姫奈ちゃん馬鹿にしてる」
「いいえ。さすが八坂くんです。何でもお似合いです」
二人で立ち上がる。
さて、合戦に出かけよう。
きっと賞品のスイカは甘いに違いない。なんてったって、我が白山フードサービスで提供しているのだ。銘柄は私が指定した。







