150.筏作りをはじめよう
綱のアドバイスに従って、教室の中を良く観察してみる。目的をもって見てみれば、見えてくることもある。まずは、ペットボトルを魔改造してペンケースにしていた男子がいたので、その子に声をかけてみた。ペンケースの中にはワサビチューブが見える。
ヒィと悲鳴を上げられたのには気づかなかったふりをする。
「ねぇ……そのワサビのチューブ……」
「は、はい! ふざけていますよね!? 駄目ですよね!? 明日からは持ってきませんから!! お許しくださぃぃ!!」
「……」
ちょっと待て? 私そんなに怖い?
コホン、咳払いをしてニッコリ笑う。必殺、パフォーミングパートナー仕込みの極上笑顔だ。
「違うのよ。素敵だなーっと思って。シャープペンシルなんでしょう?」
男の子は目をぱちくりさせた。
「……あ、う、あ、はい……」
「工作が得意なの?」
「と、得意かはわからないけど、好き、かな」
「とっても素敵な特技だと思うわ! ねぇ、筏作りを手伝ってくださらない?」
優しくお願いしてみる。外部生の男の子は、言葉を詰まらせて目をそらした。無言で拒否の姿勢なのだろうと想像する。
でも、私は諦めない。
もう一度ニッコリ笑う。白山姫奈子の秘儀『強引』発動である。
「ねぇ? お願い。お友達も誘って?」
男の子はカクカクと頷いた。
その後はお菓子の袋で作ったポーチを持っている女の子に声をかけてみた。どうやら手芸部らしい。その子の友達は美術部で一緒に手伝ってくれることになった。
だんだんと外部生の参加者が増えてきて、筏作りもにぎやかになって来た。たまに八坂くんも参加するから、放課後八坂くんと一緒に過ごしたい子たちも手伝ってくれるようになった。
工作の得意な男子に作ってもらったチョコレートチューブのシャーペンを使いながら、筏作りに励む放課後。最初はギクシャクしていた会話も、だんだんと慣れたものになって来た。
「初めてバナナ姫に声をかけられたときはビビったー!」
「どうして?」
「怖そうじゃん?」
「どうしてよ! 怖くないわよ!」
「しょっぱなから八坂くんのファンに喧嘩売ってたし、中学の時は過激派ファンを追い出したって聞いてたからさ」
「違います! そんなことしてません!」
「大人しい子は無視するらしいとか」
「嘘でしょ!? 大人しい子に避けられる傾向はあるけど……」
しょんぼりすれば、外部生の女子が慰めるようにポンポンと肩を叩く。
「そうよね。私たちも白山さんに声かけてもらった時、ビクビクしちゃったけど、こうやって混ぜてくれてるもんね。ちゃんと嘘だってわかってるよ」
「噂って怖いねー」
外部生たちが笑った。外部生界隈でどんな噂が流れているのか、逆にそっちの方が怖い。
「ええー、私どんな噂になってるの?」
「バナナ姫とか?」
「うん、それはもう諦めてるからいい……」
「八坂くんのマネージャーとか?」
「まぁ、それもいいわ。仕方がないわ」
「と見せかけて、実は八坂くんと付き合っているとか?」
「そんなわけありません!」
「本当に付き合っているのは氷川くんの方だとか?」
「それも嘘です。真っ赤な嘘です」
「生駒くんと秘密の同棲してるとか?」
その言葉に、周りの外部生たちが、コーコーセーなのにヤラシ―なんて、いじってくる。悪意は感じられないけれど、恥ずかしい。
「っ! は? やだ! なにそれ?」
「違うわよ」
詩歌ちゃんが柔らかく微笑んだ。ただ、声は毅然としていた。
「生駒くんが姫奈ちゃんのお宅の敷地内に住んでいるだけよ。お家は別だわ」
外部生が詩歌ちゃんを見る。
「私、姫奈ちゃんのお宅へ良くお邪魔するけれど、生駒くんのお家と姫奈ちゃんのお家、マンションのお隣よりも離れているわよ。姫奈ちゃんのお家、大きいから」
「ちょ! ちょ! うーちゃんのお家の方が広いじゃない!!」
思わず反論すれば詩歌ちゃんはニッコリと笑った。その圧に思わず黙る。
「それに、先生だって家庭訪問にきていてご存知のはずよ」
詩歌ちゃんの言葉にみんなは納得したようだった。イジリが瞬時に収まる。
「へー、そうなんだ。生駒くんはどうしてバナナ姫のところへ?」
「もともとは祖父が住んでいた離れが余っていてね、もったいないから貸している感じね。小さい時からずっとよ」
嘘ではない。
「だから仲が良いんだね」
「なっとくー」
「納得していただけて良かったです」
思わず呟けばみんなが笑った。こんなに簡単に納得してもらえるなら、初めから言っておけばよかった。詩歌ちゃんはさすがだ。
まぁ……ちょっと前まではフリーパス式渡り廊下でつながっていたが、それは秘密にしておこう。
「氷川くんや八坂くんと付き合ってるのに、生駒くんと同棲してるとか、どれだけ魔性だよーって思ってた。やっぱり噂は噂だね。結局全部嘘なんだー」
「魔性……」
「でも、話せばわかるよね。全然魔性っぽくない」
ゲラゲラと笑われて、誤解がとけたようだった。それにしても噂とは恐ろしい。
「……え……、ちょっとまって? その噂で男子から距離とられてたの?」
「そりゃそうでしょ? そんな人に関わったら怖いじゃない」
「酷い……、酷すぎる! ちゃんと違うって訂正して! 目下彼氏募集中ですって宣伝して!!」
思いっきり主張すれば、一条くんが笑った。
「まー、いろいろ諦めた方がいいよ。白山さんは」
詩歌ちゃんがそれを聞いて小さく笑った。
「一条くんは他人事だと思って! いいわよ! プロムに誘われなかったら、アンチ・プロムしてやるわ!」
「アンチ・プロム?」
詩歌ちゃんがキョトンとする。
「プロム、出ない子だけ集めてヤケクソパーティーするのよ!! 最後にプロム襲撃して、リア充攻撃してやるわ! ペアの子全部手錠でつないでやるのよ!」
「わぁ! それ楽しそうね? 私も呼んで?」
詩歌ちゃんが嬉しそうに笑って、思わず脱力した。
「うーちゃん……。うーちゃんが誘われないなんてことある? そんなことがあったら、私がプロムに誘います!! そして誘えなかった男どもに見せつけてやるのよっ!」
「どっちみち、姫奈ちゃんと一緒ね? 嬉しい!」
詩歌ちゃんよ……。君、なにもわかってないね? 本当に本当にお嬢様よね?
「浅間さんって少し話しにくいかと思っていたんだけど、そうでもないんだね」
外部生の女の子が言えば、詩歌ちゃんは嬉しそうに笑った。
「うん! もっとお話ししましょう?」
花の綻ぶような詩歌ちゃんの笑顔に、皆が笑った。







