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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売
高等部一年

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144.塾へ行こう


 四月になってから、放課後の二日間は有名学習塾に通うことになった。数学と英語だけだ。


 きっかけは綱が特待生待遇でその塾に行くことになったからだ。



 三月のある日、綱と私は出かける前に白山家のダイニングでお茶を飲んでいた。お手伝いさんがお茶菓子を用意してくれる。もうあまり、家で綱と二人きりなるようなことはない。


 高等部に上がるのをきっかけに、綱は有名学習塾に行くことを考えているのだという。力試しで受けた塾の全国模試の成績が良く、塾から特待生としてお声がかかったのだ。

 これ以上勉強してどうするつもりなのだろうと思う。今ですら、芙蓉の特待生なのだ。このままいけば、芙蓉学院の大学部も特待生枠で入学できるはずだ。


「幾らタダだからって、そんなに勉強することなくない? 綱なら大学だって特待生で行けるでしょ? 一緒にいる時間が減っちゃうわ」


 不満ブーブーで唇を尖らせれば、綱は困ったように笑った。


「芙蓉学院の大学部には行けるとは思いますが……」

「じゃあいいじゃない」


 前世の私はお金を積んでも進学どころか進級すらできないと言われたのに!


「ただ、それでは選べません」


 綱のきっぱりとした強い声。私は綱の顔をじっと見つめた。


「選べない?」

「ええ、芙蓉学院の大学部にしか行けない。もう少し勉強すれば他の大学も選べるかもしれません。それに他大学の合格判定を見るには塾のテストも必要かと」

「他の大学に行くの!?」


 驚いて思わず立ち上がった。椅子がガタリと倒れる。


「可能性の話ですよ。お嬢様。知識を身につければそれだけ選択肢が広がります。まだどこへ行きたいか具体的には決まっていませんが、行きたいところが見つかったときに学力が足りないのでは選ぶこともできないでしょう?」


 綱のバカ。お嬢様とかいうし。芙蓉から出ていこうだなんて考えている。もしかしたら、他県の大学に行ってしまうかもしれないのだ。


「私も行くわ!」

「は?」

「私も体験会に行くわ!!」

「何の冗談です?」


 私の咄嗟の思い付きに、綱は戸惑いを隠せない。


「私も勉強するのよ! 私も芙蓉じゃなくても進学できるようになるんだから!!」


 私はグッとこぶしを作った。咄嗟の思い付きだけれど、悪くない……はずだ。


 私は没落するかもしれないのだ。

 できるだけ安い金額で進学できる道を作っておかなければならない。彰仁を進学させるためにも、私は出来るだけ節約したほうがいい。頭さえよければ、奨学金も貰えるかもしれないし、バイトしながら進学できるかもしれない。

 食の勉強ができるところで、安い学費の学校に進めるようになっていなければ。調べたら、管理栄養士になるのはとても難しそうだったのだ。勉強していて損はない。


 それに、塾の行き帰りだったら綱と二人で出かけても、文句は言われまい。綱と二人でいる時間が少しでも増えるではないか!


 頭も良くなって、綱と一緒にいられる。一石二鳥だ! 私、天才じゃない?


「ねぇ! いいじゃない。一緒に連れて行って?」

「仕方がないですね。体験会ですし一緒に行きましょうか。あとのことは旦那様と相談してくださいよ?」

「わかってるわよ!」


 言葉は強く答えたが、心はルンルンだ。久々に綱と一緒にお出かけができる。


「では、電車で行くので許可を得てきてください」

「わかったわ。塾ですもの。怒られたりしないはずよ! 塾も電車で通うの?」

「そのつもりです」

「私も電車で通いたいわ!」

「まずは旦那様にご相談くださいね」

「もっちろん!」




 塾への見学ということで、二人で出かけるのにお咎めはなかった。ご機嫌で綱と一緒に大手学習塾の門をくぐる。どうやら綱は特進クラスで教室が違うらしい。私は一般クラスの見学だ。全く知らない人たちの中に入っていくのはバレエのレッスン以来でドキドキする。


 入り口から入ろうとして、手前で佇む男の子が目に入った。

 長めの黒い髪はもっさりとしていて、黒縁メガネには前髪がかかり目元が隠れている。色白の線が細い男の子だ。ちょっと天文部の男の子たちと空気感が似ていて、勝手に親近感を感じた。正直、八坂晏司のような超絶イケメンよりは話しかけやすい。


 彼は入るのか入らないのか、入り口の手前でオドオドと様子をうかがっている。


「恐れ入ります」


 声をかければ、ぎょっとしたように私を見た。

 男の子はハクハクと息をして、何も答えない。

 私はそんなに恐ろしいだろうか。


「あの体験の方ですか?」


 男の子はブンブンと頭を横に振る。


「中学からの方ですか? 中に入られないの?」


 男の子は慌てたようにドアを開くと、私を先に通してくれた。

 黒板の掲げられたごく普通の教室だ。机の間は等間隔に開いており、道路向きの窓には、合格実績の張り紙がされている。


 教室の後ろの方の席はすでに埋まっていた。もともと中学からクラスが持ち上がった人が多いようで、グループができている。

 前の真ん中あたりはガラガラしていたので、私はそちらへ向かった。


「ラッキーですね! いい席が空いてるわ!」

「……は、はぁ……」


 男の子は何とも言えないような顔をした。

 何か変だっただろうか。

 私が席に着くと、男の子は一つ席を開けて隣に座り、耳にイヤホンをした。

 どうやら私と話す気はないらしい。

 

 私は一人でポツーンである。少し寂しい。


 まぁ、仕方がないわよね。


 芙蓉学院や桜庭の友人たちは、家庭教師なり古くから通っている塾へ行っており、今更新しく塾へ通う子はいないのだ。

 

 勉強が本分だもの! 一人でも平気よ!


 そう自分に言い聞かせ、体験入学を終えた。

 資料を持ち帰りお父様を説得する。家庭教師をつけてくれるという両親に、マーケティングを兼ねて芙蓉以外で流行っているものも知りたいと言えば、お父さまは喜んで賛成してくれた。

 お母さまは電車で通うことに難色を示した。綱の特進クラスは終了時間が遅く、一緒に帰ることができない。夜道を私一人で帰ってくることを心配したのだ。

 しかし、塾の入り口に家の車を横付けするのは憚られた。それに、没落したら一人でバイトに行ったりしなくてはいけなくなるのだ。徐々に慣れていかなくてはならない。

 そもそも高等部からは電車通学なのだ。

 お母様には、暗くなってしまう駅から自宅への帰り道は車を使うと約束し、何とか納得してもらった。





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