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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売
高等部一年

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142.新歓パーティー 1


 授業が終わって放課後。高等部の芙蓉館にて、芙蓉会の新歓パーティーが行われる。

 私は同じクラスになった詩歌ちゃんと一条くん、八坂くんと連れ立って芙蓉館に来ていた。


 高等部の芙蓉館のドアを潜る。ホールの前室で、明香ちゃんと紫ちゃんが待っていた。綱と氷川くんもいる。その他の一年生も全員揃い入場だ。

 氷川くんと八坂くんがまずホールのドアを開けて中に入る。それに続いて、綱と一条くん、その後ろに私と詩歌ちゃん、紫ちゃんと明香ちゃんが入る。桝さんはずっと後ろにいた。


 高等部の芙蓉館は、中等部より規模が大きかった。高い天井にシャンデリア。何もかもが、中等部よりも大きくて豪華だ。

 入り口の両側には、先輩方が立っていて拍手で出迎えてくれる。放課後なので、皆制服だ。しかし、制服の途切れた後にはスーツ姿の大人たちが何人かいてギョッとする。なんだか、中等部の頃の芙蓉館と違って物々しい雰囲気なのだ。


 拍手での入場を終えれば、二年生たちがやって来た。淡島先輩と葵先輩が空の紙コップを渡してくれる。二年生の一人が、中に紫色のグレープジュースを注いでくれた。

 乾杯の準備なのだろう。

 壁際には軽食が用意されている。新歓パーティーは立食形式らしい。


「芙蓉館で紙コップなんて珍しいですね?」


 思わず淡島先輩に尋ねる。


「まぁ、全員が集まるのは新歓パーティーくらいしかないから、グラスが足りないのかもね」

「それはそうですね。使わないグラスは無駄ですもの」

「それに、こういう席では紙コップを使うこともあるし、慣れる必要もあるんじゃないかな」

「そうなんですね」


 納得する。私たちは一歩ずつ大人に向かっているのだ。芙蓉の柔らかい囲いの外には、知らない世界が広がっている。紙コップもその一つだ。


 拍手とともに、マイクの前に現れたのはテレビでも何度か見たことがあるおじいさんだ。

 思わず、ビックリして淡島先輩を見れば、狸顔で微笑まれた。

 祝辞を述べるのは、淡島元副総裁。淡島先輩の祖父である。前世では、淡島先輩の祖父は有名な政治家くらいの認識しかなかったが、今思えば有名どころではない。超有名な政治家だ。


 動揺を隠しつつ、神妙な顔つきで祝辞を賜る。

 続いて乾杯の音頭を取るのは、経団連の会長だ。この人も、中等部に入って淡島先輩から株の教えを受けるうちに偉い人なのだと知った。

 ちなみに、入学式では挨拶しなかった二人である。


 ええええ……。子供相手になんなの……。


 紙コップを掲げて、乾杯をすれば立食パーティーの始まりである。気がつけば綱が隣に来ていたから、最初の乾杯は綱とだ。続いて、皆と紙コップを合わせ合う。


「それにしても、……その、スゴイのね……」


 新歓パーティーの出席者に目を白黒させていれば、淡島先輩が笑った。


「白山さんはアンチ芙蓉会だから知らないのかな?」

「アンチではありません! でも、確かに芙蓉会について不勉強でした。良く知らないので教えてください」


 淡島先輩に教えを乞う。


「うん。素直でいいね。じゃあ、白山グループで使っているビールの銘柄、わかる?」

「特に指定がなければ、フジノビールをお出ししています」

「そうだよね。それで、ボクが推理すると、社用車はヤマト自動車、メインバンクは芙蓉銀行、家電は基本ヒノモト製作所」

「……なんで……知って……、やっぱり淡島先輩、悪いこと」


 戦々恐々として淡島先輩を見る。

 淡島先輩は吹き出した。


「全部、氷川財閥系だからね。氷川グループの会社は同じものを使っているはずだ」

「そうなんですか?」

「同じグループで共助してるんだよ」

「そうなんですね」


 納得する。同じグループの中で利用しあって、お互いにお互いを盛り立てているのだ。


「芙蓉会も同じようなものなんだ。初等部でも中等部でも芙蓉会はあるけれど、大学には学生の運営する芙蓉会や芙蓉館がないのは知ってる?」

「はい」

「かわりに、芙蓉学院大学の卒業生でつくるOB会を『芙蓉会』というんだよ。小中高の芙蓉会は、『大学OB会芙蓉会』の縮小版みたいなものなんだ。『芙蓉会』に入っておくと、卒業後がとても便利なんだよ。法曹界にも芙蓉会の集まりはあるし、もちろん他の企業にもね。芙蓉会同士の交流は盛んだから、例えば、新入社員なら話すことなんてできない大企業の社長でも、同じ芙蓉会なら話すことができる」


 淡島先輩は私の目を見て、意味が分かる? と確認した。


「強力なパイプが保証されている?」

「そう。でもね、大学が別大学になると芙蓉会には入れないんだよ。卒業大学が芙蓉学院であることが条件だから。ただ、高等部芙蓉会のメンバーは、たとえ大学が別大学に進んだとしても、大学OB芙蓉会メンバーとしての資格を保持したままになる。まぁ、高等部芙蓉会というのは小中高の間に選抜された芙蓉会のエリートともいえる。要するにここにいるみんなは大学OB芙蓉会の入会を許されたメンバーってこと。また、大学に芙蓉館がない関係で芙蓉会OBの集まりに高等部の芙蓉館が使われることも多い。そんな関係で、今回のパーティーは大学OBの芙蓉会が主催なんだ。そこで、芙蓉会の会長・副会長が出席したわけ」


 ゴクリ、唾を飲む。政界と経済界の重鎮が、ともに芙蓉会なのだ。芙蓉会はどれほどの影響力を持っているのだろう。


 お父様が芙蓉受験に躍起になっていた理由が分かった。お父様は子供にこれを与えたかったのか。お金持ちの結婚相手ではなく、未来への太いパイプ。

 桜庭女学園がいくら有名私学でも、ここだけは芙蓉学院に勝つことができない。女子だけのパイプより、男女ともにパイプがある方が有利なのは疑いないのだ。


「白山さんも、これで正式な芙蓉会会員資格を得たわけだ」

「それって、進学先が専門学校でもですか?」


 問えば、淡島先輩は一瞬真顔になった。そして破顔する。


「なに? 行きたい専門学校があるの? 商科に行くのかと思ってた」

「いえ、家が没落したら私立大学は無理かもしれないので、公立の専門学校で栄養士の資格とか……働きながら調理師だとか……」

「プランB? 白山さんて手堅いタイプなんだね」


 淡島先輩に笑われる。


「プランB?」


 問い返す。


「プランBっていうのはね、最初の計画が上手くいかなかった時に立てておくもう一つの計画」

「ええ、そうです。プランB!」

「もっと楽観主義に見えるけどね」


 いや、先輩ですからね? 前世で白山うちぶっ潰したの。なんて言えないけど。


「まぁ、プランはいろいろあるだろうけど、そうだよ。専門学校でも、なんなら高卒でも大丈夫。ほら、あの音楽プロデューサーのPは、高卒だけど高等部芙蓉会だったから芙蓉会会員だよ」


 淡島先輩の指さした先には、話題のPがいた。自分のプロデュースするアイドルグループが、芙蓉学院の校歌と応援歌をリミックスした曲を歌い始める。


 恐るべし、芙蓉会。こうやって見渡してみれば、名前は分からなくともニュースなどで見た人がちらほらといる。

 各界の主要カ所には芙蓉会の人間が入り込んでいるのだ。政界しかり、経済界しかり、芸能界ですら例外ではない。ビール会社から車メーカー、大手ゼネコンも芙蓉会グループの中にある。海から空まで、お誕生からお葬式まで芙蓉会グループでまかなえるのだ。


「……権力のゲシュタルト崩壊……」


 思わず呟けば、淡島先輩は狸な顔で笑った。



 高等部芙蓉会の新歓パーティーは、高等部の生徒だけでなく大学OB芙蓉会のメンバーも参加していた。小中高の芙蓉会は、初等部からの持ち上がりが殆どで、顔見知りばかりのようだ。人見知りの桝さんですら、ここではひとりぼっちではない。


 だからこそ、かえって新参者は珍しいのだろう。紫ちゃんや私の周りには人が集まってきた。

 それを手際よく、淡島先輩と葵先輩がさばいてくれた。もう、パパとママと呼びたい。


「まるで珍獣扱いね」


 紫ちゃんにこっそり耳打ちすれば、紫ちゃんも笑った。


「物珍しいんでしょうね」

「わかるけど……」


 思わずため息をつく。

 紫ちゃんは肩をすくめた。


「でも、私、姫奈ちゃんと一緒で良かった。これで一人だったら耐えられないわ」

「ゆかちゃん! 私もよ!!」

「私も沼田さんが姫奈と一緒で安心しました」


 綱が言うから、紫ちゃんがクスリと笑った。

 突然、葵先輩と紫ちゃんが私の両側に立ち、そっと腕を絡める。何かと思っていると、祝辞を述べた淡島元副総裁がやって来た。


「風雅、それに葵と紫も、楽しんでいるかい?」


 淡島先輩のお父様によく似た細面な好々爺である。淡島先輩は微笑んだだけだ。


「ええ、淡島のおじい様」


 葵先輩が答えれば、淡島副総裁は目を細めて頷くと、私に目を止めた。それを合図にしたかのように、沼田姉妹は私の腕から手を放した。


「白山姫奈子さんです。私の親友です」


 紫ちゃんがそう言えば、そうかそうか、と元副総裁は笑う。


「初めまして。白山姫奈子です」


 パフォーミングパートナー仕込みの笑顔で答えれば、元副総裁は鷹揚に頷いた。


「蝶と華のひーちゃんだね?」

「は? はいぃぃぃ?」


 なんだそれ? 動揺で思わず声が裏返る。折角張り付けたよそ行き令嬢顔が一瞬にして剥げ落ちた。


 でも、元副総裁から名前が出るなんて、華子様と蝶子様って、もしかしてすっごくすっごく有名人なんじゃないの?

 氷川くんのおばあ様だから想像はしてたけれど、あまりに気さくだったから実感はなかったのだ。


 淡島先輩がクスクスと笑った。やっぱり、このおじいさんも淡島先輩の血縁者だ。狸だ、狸爺だ! 初対面の女子高校生にいきなり先制パンチとか、大人げなくない?


「いろんなところから話はよく聞いているよ。会えてよかった」


 そう言うと元副総裁は右手を差し出した。私はオズオズとその手を取る。骨ばった手は皺が深い。見た目の線の細さとは対照的な厚い掌がギュッと私の手を握りこんだ。


「これからもよろしく」


 そう言うと、淡島元副総裁はその場を後にした。

 その背中には後光すら見える。なんという迫力だ。オーラが違う。

 見送ってから、急に疲れを感じた。


「ゆかちゃんと元副総裁はどういう関係なの?」

「淡島のおじい様と、沼田の祖父は盟友なんですって。それで、父が立候補する際に淡島のおじい様が応援してくださったの。家族ぐるみのお付き合いで、もう一人のおじい様みたいなものよ」

 

 紫ちゃんは何でもない事のように笑うけど、ものすごく凄いことなのでは? 良家の古くからの人間関係に、成り上がりの白山家は全く想像がつかない。


「ゆかちゃんて、すっごくすっごいお嬢様じゃない!」

「やだ、私なんて全然よ!」


 紫ちゃんが詩歌ちゃんと明香ちゃんを見た。

 詩歌ちゃんは華道界のお家元の令嬢で、伝統文化の中心にいる。明香ちゃんのお父様は芙蓉学院大学の教授で国学に詳しい。二人とも千年近い家系で、世が世ならお姫様だ。

 そして、氷川くんは、芙蓉学院創始者の家系で、氷川財閥の御曹司。いずれ、この芙蓉会グループの頂点に立つ男なんである。


 怖すぎる。


 ……気が付いたら、具合悪くなってきたわ……。


 知ってたよ。知ってたけど、それがどういうことか理解できていなかった。こんな風に、友達が普通に元副総裁から名前で呼ばれるポジションなんだって気が付いていなかった!!


 それにしても、前世の私よ! こんな人たちに喧嘩売ってたの? どうしてそれを誰も指摘してくれなかったの!? 怖いもの知らずって凄いわ。無知って強いわ……。


 前世では、ただ家柄の古い人、そう思っていた。ちょっとだけ、私よりお金持ち。血筋がいいのだと言ったって、どうせ、時代遅れのそろそろ終わるコンテンツ。だから、収入さえ勝てば、高価なものさえ持っていれば、私の方がお嬢様だと思っていた。だから、誰よりも高いバッグをもち、誰よりも高い靴で歩き、誰よりも高い車に乗りたかった。

 今では、そうではないとわかってはいたけれど、その後ろに控える力にまでは想像が及んでいなかった。


 情報、そして想像力、それは自分の身を守る。 


「選挙なにそれ美味しいの、とかテレビ見てた自分が恨めしい……」


 情報収集を怠けていた自分に対する反省を思わずこぼせば、紫ちゃんが笑った。




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