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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@完全無欠の悪女です2月下旬発売
中等部三年

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136.中等部三年 バレンタインデー 3


「姫奈!」


 綱が教室の入り口から駆けてくる。両手にはチョコレート。けっこう本気な感じのものだ。去年もいくつか貰っていたけれど、今年は本気度がマシマシな気がする。


 ……桝さんだけじゃなかったのか。そうだよね。特待生で芙蓉会で執行部ベストなんだもん。だんだん皆が本気を出してくるのは当たり前だ。


 でも、綱の良いところはそんなところじゃないのに。そう思ってしまう。肩書なんかなくたって綱が素敵なのは私が一番知っているのだ。


 肩書だけで綱が選ばれているみたいで、少しだけ不愉快な気分になった。でもそれを押し殺す。仕方ないじゃないか。

 だって、私は言えないんだもの。綱の未来を奪ってはいけないと、お母さまにも言われた。


「もう終わったの?」

「面倒事に時間をかけたくありません」


 綱はゲッソリとした顔で吐き出した。これでは私が邪魔しなくても、自分でチャンスを潰しそうな勢いである。

 私はなんだか複雑な気分だ。嬉しいような、嬉しいような……。あれ? 複雑ではない?


「ふーん? 本命はなかったわけ?」


 少しだけ調子にのって、白々しく探ってみる。


「そう言われたら受けとれません」

「そうなの!? って言うか、言われたのね!?」


 思わず問えば、しまったという顔をした。これは隠そうとしていたに違いない。というか、今までも隠していたのでは!? 綱のヤツ、本当にモテているらしい。それにしたって。


「何で受け取らないのよ?」

「お応えできないからです」

「え!? もしかして彼女がいるの!?」


 思わず聞いてしまえば、綱は瞳を大きく見開いてから、肩を窄めた。八坂くんと氷川くんまで小さく笑う。


「え!? なに? 私だけが知らないの? どういうことなの?」

「男同士のひーみーつー」


 八坂くんが笑う。その様子に軽くパニックになる。昔は綱に芙蓉で彼女を作れと言っていたくせに、現実に彼女がいるとは考えたこともなかったからだ。


「え? いるの? いるのね? ぬけがけしてリア充なのね!? 酷い!!」


 おもわずなじる。


「これだけ姫奈にかまけていて、いるわけないじゃないですか」

「かまける? かまけるって使い方、間違ってない?」

「あってます。馬鹿なこと言っていないで帰りますよ」


 綱は呆れたように笑った。

 なんだか悪口みたいに聞こえるんだけど。彼女がいないなら、まぁ、いい。いいことにしよう。


「……彰仁も終わったかしら? あの子もモテるんでしょう? ああいやだ。周りは敵ばかりね!」

「何ですか、敵って」

「『リア充しない同盟』の敵よ!! 校門で待ちましょうか」


 むっつりとして席を立つ。


「あ! 姫奈ちゃん! クッキーの件よろしくね。数が決まったら正式にお願いするから」


 八坂くんが声をあげた。


「ありがとうございます! よろしくお願いします」

「なんですか? クッキーって」


 綱が怪訝な顔をする。


「ホワイトデーのお返しの注文を受けたのよ」

「ああ、そういう……」


 綱は八坂くんを見て笑った。八坂くんは綱を軽く睨み返す。

 喧嘩するほど仲が良いもほどほどにして欲しい。


「ではごきげんよう」


 私たちは教室を後にした。



 家に戻って今日の戦利品を整理する。けっこうたくさん貰えていた。ほぼ、八坂くんのマネージャー業に対するお駄賃のようなものだ。私にしてみれば、どんな理由であれホワイトデーにお返しができるのが嬉しい。公然と白山茶房の宣伝ができる。

 去年のホワイトデーで白山茶房のアラレを配ったら、売り上げが伸びたのだ。さすがに学院で試食品を配るわけにはいかないけれど、ホワイトデーのお返しならば咎められない。


 さすがに芙蓉のお嬢様がくれるチョコレートは、義理でも素敵なものばかりで勉強になる。食べてみたかった海外ブランドや、知らなかったお店のものなど、見ているだけでとても楽しい。

 これぞという品物は写真を撮って保存した。今後の資料になると思ったのだ。


 綱はどんなのもらったのかな?


 本命に見えたチョコレートのバッグ。告白まではされなかったのかもしれないが、義理ではないと見ればわかる。

 考えて頭を振る。氷川くんだって、八坂くんだって、みんな受け取っているのだ。当たり前だ。そもそも彼女でもないのに、受け取らないでなんて言えっこない。


 八坂くんからも注文の打診も受けたし、これから少し忙しくなりそうだ。余計なことは考えないようにしよう。



 今年の白山家バレンタインはティラミスにした。昨晩のうちに冷蔵庫に入れてある。夕飯のデザート用だ。

 こっそり作ったつもりでもバレバレなのだから、もうみんなで一緒に食べようと開き直った。


 美味しいフィンガービスケットにマスカルポーネチーズ。エスプレッソマシンで入れたコーヒーは薫り高い。お酒では痛い目を見たから、ラムは抜いてかわりにコーヒーを多めにした。自分も一緒に食べるのは前提である。


 評判は上々で、お父様も生駒も喜んでくれた。相変わらず彰仁は無愛想だったけれど、文句を言われなかったのだから良しなのだ。


「とても美味しいですよ」


 綱はそれはそれは珍しく裏のない顔で笑った。くちなしの花が綻ぶような、まるで香り立つような微笑。キリと胸がきしむ。


 他の子のチョコを受取ったときも、こんな笑顔を向けたんだろうか。そんなことしたら、女の子たちはもっと好きになってしまうじゃないか。


 綱のバカ。


「あたりまえじゃない。この姫奈子様が作ったんですからね! 味わってお食べなさい!」


 そんな考えを打ち消すように、私は憎まれ口をたたいた。


「そういうところだぞ! 姫奈子!」


 スプーンを咥えたまま彰仁が突っ込む。生駒が笑って、お父さまが笑って、綱も笑った。お母様も。いつもどおりの夕食だ。


 私も綱だけにあげたかったな。


 残念に思いながら、私はティラミスを口に運んだ。いつもよりコーヒーの香りが苦く感じられる。


 コーヒーシロップ入れすぎたかな。

 

 少しだけ苦いチョコレート色の夜だった。




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