130.中等部三年 初詣 2
そんなこんなで、華子様の病室へ皆で向かう。振り袖姿が四人もそろえば、それはもうお目出たい。病院の中も一気に華やいで、おじいちゃんには拝まれる始末だ。
病室に入れば、華子様は目を輝かせた。
「思ったとおりね! よく似合っているわ」
満足げに頷く。氷川くんは皆を華子様に紹介した。八坂くんと詩歌ちゃんと私は見知っているので省略だ。
「こちらは葛城明香さん。執行部の副会長をしてもらっている」
「葛城教授の娘さんね。優秀なのだと良くお話を聞いています」
「ありがとうございます。そう言っていただけて光栄です」
明香ちゃんは飛び切りの笑顔で答える。
「こちらは沼田紫さん」
「沼田先生の。小さいころ抱っこしたことがあるのよ。ずいぶん大人になったのね」
紫ちゃんは恥ずかしそうに笑った。
「彼は生駒綱守くんだ。執行部の副会長をしている」
「ええ、よくひーちゃんから自慢話を聞かされてるわ。外部生でありながら初めて執行部に入ったとか。優秀な方なのね。和親を助けてやってちょうだい」
「こちらこそよろしくお願いいたします」
綱は丁寧にお辞儀をした。
「あら、本当に素敵な声ね。ひーちゃんが自慢するのもわかるわ」
華子様が微笑めば、綱は私をちらりと睨んだ。私があからさまにそっぽを向いたら、華子様は愉快そうに笑った。
一通りの挨拶をして、皆で華子様を囲んで写真を撮る。買ってきたお守りを華子様に渡せば、とても喜んでくれた。
暇乞いをして病室を出たところで、綱がこっそり耳打ちをする。
「大奥様に何を話したんですか」
小さい声だが、非難しているのだ。
「別に変なこと言ってないわ。綱が特待生で、芙蓉会で、ベストだって言っただけよ」
「……それだけじゃないでしょう? 声がどうとか」
「ああ! 声がね、すっごく素敵だって話をしたのよ! あと、心配性で口が悪いとか? うーんと、もっと優しければイケメンなんだけどとも言ったわ」
綱は真っ赤な顔を手で覆った。
「あなたって人は!」
「なによ。事実だからいいじゃない」
「そう言うことではなくて……」
八坂くんが間に入る。
「生駒が姫奈ちゃんに殺されるー」
「人聞きの悪いこと言わないでください」
ムッとして言い返せば、八坂くんはニヤニヤ笑う。
「あ、でも、八坂くんのこともイケメンモテ男って伝えてありますよ。安心してください」
「言わなくても知ってるでしょ?」
八坂くんは余裕である。
「でも、意地悪といたずらが大好きで子供っぽいんですよって話をしたら、華子様が意外ねって言ってましたけどね」
「ちょ! ちょ! 姫奈ちゃん? 何話してるの? 大奥様にそれはダメでしょ?」
八坂くんは顔を赤くして慌てる。やっと反撃できた! ザマァだザマァ。
氷川くんは話に加わらないようにしているのか、目をそらされた。
「氷川くんは――」
そう言って口を噤めば、氷川くんが慌てて私を見た。
「言うな」
「はい?」
「知りたくない」
氷川くんは案外ヘタレなのだ。それとも好きな子の前で暴露されたくないのかもしれない。可愛らしくて笑ってしまう。
「わかりました。氷川くんのは華子様との内緒です」
ふふふと笑う。
「ちょっと、和親! 姫奈ちゃんは病室出禁にしてよ!」
「いや、俺もそう思った……失敗だった」
「姫奈がこれほどまで大奥様と懇意だとは……」
男子三人が顔を見合わせ、一斉にため息をつく。それを見て私たち女子は笑い、女子会をすべく病院で別れた。
詩歌ちゃんが予約してくれたお店は素敵なカフェだった。町屋風の細い格子のついた窓から、町行く人が良く見える。シックなこげ茶メインの内装に、あでやかな着物が映えた。椅子でも座りやすいテーブル席だ。
窓際の席に通されて、ドリップされたコーヒーを飲む。私は砂糖とミルクをたっぷり入れた。
コーヒーカップはアンティークで、各々のイメージで別のものを用意してくれる。私のカップはバタフライのハンドルで、着物の柄から選んでくれたのだとわかった。
「それにしても、今日は楽しかったわね」
明香ちゃんが満足げに笑った。
「氷川くんの件はイレギュラーだったけど」
私が笑えば。
「大奥様にお会いできて良かったです」
紫ちゃんが笑う。
「着物で出かけるのも良いでしょう?」
詩歌ちゃんが言う。皆で頷きあう。
「三月のひな祭りも着物にしましょう」
明香ちゃんが提案するから、私は思わず身を引いた。
「姫奈ちゃん?」
いぶかし気に紫ちゃんが私を見る。
「……三月はー、弟が行くから私はいいかなーって」
「なに言ってるの! 四人でそろえるのに意味があるのよ!」
明香ちゃんの鼻息が荒い。
「橘の君……皆待ってるわ」
紫ちゃん、それ止めて。華子様も言ってたわ。
「絶対、一緒よ?」
詩歌ちゃんがお嬢様の恐ろしく美しい笑顔で微笑んだから、私は無言でコクコクと頷いた。







