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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売
中等部三年

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126.中等部三年 クリスマスパーティー 2


 綱は桝さんと親密そうに食事をとっていた。私はそれを見ないようにして、彰仁と食事を選ぶ。


 ああ何だかムシャクシャする!! イセエビ食べよう!! カニ食べよう!! もう殻をバッキバキに折ってやりたい!!


「オイ、姫奈子。パーティーでそれは……」


 私の皿を見て彰仁が呆れたように注意する。社交の場でのカニは控えるのが暗黙の了解だ。なぜなら、みんな無言になり会話が弾まないからである。

 確かに、他のご令嬢たちならば選ばないとは思うけれど、知ったことではない。どうせ、私は彰仁と食べるのだ。そもそも会話を弾ませる理由などなかった。


「いいんですー。用意されているってことは食べていいってことですー」

「マナーは大丈夫なのかよ」

「大丈夫ですー。ちゃんと勉強してきてますー」


 そう、私は前世でマナーが気になって食べられなかった反省をもとに、今では食事マナーをしっかり勉強していた。後は実戦あるのみで、失敗しても許される子供のうちに経験を積んでおきたい。


「なに不機嫌なんだよ」

「べーつーにー」


 ふくれっ面でカニと格闘する。カニの殻を皿の上に積み上げていけば、八坂晏司のご登場である。


「姫奈ちゃん今日も楽しそうだね」

 

 八坂くんが茶化すように笑う。


「そんなことないもん!」

「ちょ、姫奈子!」


 彰仁が慌てて咎める。いいのだ。別に今更だ。好かれたいわけじゃないし、それに嫌われたとしても、白山家はファッションに手を出していない。白山茶房とて、八坂くんにたい焼き咥えたイメージキャラクターをして欲しいなどと考えたことはないのだ。


「ご機嫌斜めだ」

「すみません。さっきからこうで……」


 彰仁が八坂くんに申し訳なさそうに答えた。

 八坂くんが笑う。


「いいよ。僕と姫奈ちゃんは他人行儀な仲じゃないから」


 他人行儀じゃなかったらなんなんだ?


 そう思って、カニを剥く手を止めた。八坂くんは小首をかしげて私を見る。視線が絡み合う。


「ね?」


 私に同意を促した。意味がわからない。あ、カニが欲しいのか?


「? カニ食べます?」

「うーん。今はいいかな? 話ができないし?」


 もの欲しそうにジットリ見つめてくるくせに、カニが欲しくないとはこれ如何に? 本当は食べたいんじゃないだろうか?


 ニコニコとただ私を見つめるだけの八坂くんの顔を見て、ハタと気が付く。先ほどの件で忘れていたが、ここにはきっと彼女がいるはずなのだ。不本意ながら恒例の白黒バトル。対戦相手の大黒典佳だ。

 いつなんどき、ゴングの鐘が鳴っても可笑しくない。気を付けなければいけなかった。


 恐る恐る周囲を見渡せば、思った彼女の姿がない。どうしたのだろうか。


「あれ? 今日、大黒さんは?」


 思わず八坂くんに尋ねる。八坂くんはあからさまに嫌そうな顔をした。


「なんで僕にそれを聞くわけ?」

「だって、いつもそばにいたから」

「ああ、コバエみたいにね」


 暗黒晏司降臨。ヒュッと背筋が凍る。乾いた笑いが漏れる。


「……和親がリストから外した」

「え?」


 私は血の気が引くのを感じた。カニ食ってる場合ではない。彰仁なんか恐怖のあまり硬直して、声も出ない。


 氷川財閥主催のクリスマスパーティーは、氷川家が重要だと感じている人間を呼び集めている。そもそも呼ばれたことがない家ならいい。しかし、恒例で呼ばれていた家が外されるということは、それなりの意味を周囲は感じ取る。


 カースト落ち、だ。


 ゴクリ、自分の喉が音を立てた。


「なん……で?」


 問えば、八坂くんは不思議そうな顔で私を見た。さも当たり前と言わんばかりだ。


「わからない?」

「ええ」

「本当に?」

「ええ」


 どんな理由があったのだろう。動画の問題なら、早乙女さんと大黒さんの問題で、確かに学院に迷惑をかけたが、氷川財閥からしてみればそんなに大きなダメージではないと思う。

 学院の創立者として氷川家の発言力はいまだ強いが、学院の経営とは切り離されていると淡島先輩が言っていた。


 大黒商事の九月決算の収益は確かに落ちていた。だが、まだ三月決算までわからないじゃないか。


「気になるなら和親から聞いたら?」


 確かにそうだ。しかし……、聞けるだろうか? 聞いていいものなのだろうか?


「氷川くんに聞いたら私も出入り禁止にならない?」


 八坂くんは堪えられないというように噴き出した。


「なにそれ! もー! 姫奈ちゃん最高!」

「ちょっと! 冗談じゃないのよ? 本気よ?」

「なるわけないじゃない。あー、おかしい。和親が可哀そう!」

「何で氷川くんが可哀そうなの?」

「僕から教えるわけないじゃない」


 八坂くんは愉快そうに声をあげて笑った。本当に八坂くんは笑い上戸だ。


「いじわるね」

「好きな子はイジメたくなるってよく言うでしょ?」

「ハイハイハイハイ、そんな子供みたいなこと八坂くんがするわけないでしょう?」


 嘘っぱちを軽くあしらえば、八坂くんは困ったように肩をすくめた。


 入り口がザワリと音を立てる。見れば、島津光毅さまと弟の修吾くん、婚約者の美幸さまがいらしていた。お似合いのカップルに眩しくて目を細める。

 八坂くんもそれを見てから、意地悪な顔で私を見た。


「あれ、姫奈ちゃんの王子様じゃない? 綺麗な人は彼女かな。知ってた?」

「ええ。婚約者の美幸さまと仰るの」


 答えれば、八坂くんが表情を失った。


「……なにそれ。あれだけヒーローぶっといて、悪い大人」


 そう言えば、淡島先輩も言っていた。悪い大人に気を付けろって。こういう意味だったのか。

 確かに光毅さまになら騙されてもいい。いっそ騙されたい。いや、すでに騙されてるのか? だったらずっと騙されていたい!


 しかし。 


「ああ、どうしよう! すっかり忘れていたわ。呼ばれていないはずはないのに!! カニ、カニの殻がいっぱい! 光毅さまには見られたくないわ!」

「だから注意しただろ?」


 彰仁が呆れた目で私を睨んだが、それどころではない。

 殻を剥いたカニをもって、あたふたとする。大食いだと、しかも社交の場でカニを食う女だと光毅さまにバレてしまう。

 光毅さまに婚約者ができたところで、憧れの気持ちがなくなるわけではないのだ。いや、動画の一件で頼もしい姿を見てからは、純粋な憧れが募ってもいる。できれば可愛い妹分でありたい。


 八坂くんはうろたえる私の手首をつかんで、むき身になったカニをパクリと食べた。伺うように私を見ながら、カニ酢のついた唇をペロリと舐める。まるでポスターのような妖艶さに、驚いて目を見張る。

 八坂くんは新しいおもちゃでも見つけたみたいに瞳を輝かせ、私の口元を指先で拭い、その指を舐めた。


 カチン、石化の呪いの様に体が固まった。


「姫奈ちゃんも汚れてた」


 余裕の笑顔で微笑まれても、こちらは心肺停止である。反応できない。八坂くんの意地悪は日々進化してきている。怖い。悪魔だ。

 私が固まっているうちに、八坂くんはスタッフを呼んでカニの殻がうずたかく盛られていた皿を下げてもらった。

 丁度、それと同時に光毅さまがやって来て、私の腕を掴んだままの八坂くんのテーブルの前に、トンと音を立てて手をついた。


 驚いて光毅さまを見上げれば、ニッコリと笑う。

 八坂くんは不機嫌そうに私の腕を離すと、社交用の笑顔を張り付けた。それを見た修吾くんが挑むように笑う。

 試合前の緊張感のようだ。


 え、なんか、テニスでも始めるつもり? ゲーム開始の笛、吹いた方がいい?


 私の手元では、先ほど八坂くんが食べたカニの殻がブラリと揺れた。

 

「やあ、姫奈子ちゃん」


 光毅さまの溌溂とした声に我に返る。


「光毅さま! 美幸さまも一緒なんですね?」

「ああ、今年からね。よろしく」


 光毅さまが笑えば、隣で美幸さまも微笑んだ。


「こちらこそよろしくお願いします!」


 元気いっぱい頭を下げれば、美幸さまも、お願いねと笑った。ホンワリと胸が温かくなる。


「後で修吾と写真撮ってやってよ」

「修吾くんと?」

「ちょっと!」


 修吾くんが光毅さまを軽く睨む。


「ほら、前から自慢してたから、楽しみにしてたんだよ」

「ええ! もちろん! 私も楽しみにしていました!」


 修吾くんを見れば、照れたように私を見ている。思春期男子にしてみれば、女の先輩と写真なんて気恥ずかしいのだろう。

 二人は挨拶を済ませると、次の知人に向かって歩いて行った。仲睦まじい二人を見送って、修吾くんはここに残った。


「姫奈子先輩、今日も素敵です」


 修吾くんは相変わらずジェントルマンだ。


「ありがとう! 夏に貰ったワンピースが好評だったから、似たような形にしてみたの」

「大人っぽくて似合っています」


 修吾くんの言葉に気分が良くなる。


「カニ持ってるけどな」


 彰仁が突っ込んで、慌ててカニをお皿に置いた。


 カニ持ってるの、光毅さまにも美幸さまにも見られてたー! というか、席すら立ってなかった! 私無礼すぎるでしょう!?


「カニ?」


 不思議そうに修吾くんが私を見つめた。


「僕に剥いてくれたんだよ。ね? 姫奈ちゃん」


 八坂くんがフォローのために嘘をついてくれたようだ。社交の場で、カニ食う女であることを隠してくれるのだろう。初めて八坂くんが神様に見えた。


「そ、そうなの! 八坂くんが食べたいっていうから! 私じゃないのよ? 私じゃ!」


 彰仁と修吾くんはジト目で私を見た。全然信じてなさそうだ。


「……えっと、修吾くんも彰仁もカニ食べる?」

「いい加減懲りろよ! 姫奈子!」


 彰仁に怒られれば、修吾くんも八坂くんも笑った。



 その内、紫ちゃんと詩歌ちゃんが合流し、それを合図に修吾くんと彰仁が席を立つ。氷川くんと明香ちゃんも合流し、話題は仕立てている着物の話になった。

 皆順調に仕立て上がりそうだ。お正月には、誂えた着物を着てみんなで初詣に行く約束をしているのだ。


「お正月はいつ会えそう?」


 明香ちゃんが取り仕切る。


「三が日以降がいいかしら?」

「そうね。何かと家のこともあるし」


 ワイワイと打ち合わせをする。


「初詣のあとはどこで女子会する?」

「え? 綱も連れて行こうと思ってたけど」


 キョトンと私が答えれば、女の子がみんなキョトンと私を見た。


 え? 駄目だった?


「え、だって、私一人だったら行かせてくれないかもしれないし……」

「ほんと、保護者だねぇ」


 八坂くんが意地悪に笑う。氷川くんまで頷いた。


「……保護者じゃないもん……」


 チラリと綱の方を見れば、桝さんとご飯を食べていた。ずっと、ずーっと、二人っきりだ。社交の場なんだから、違う人と話をすべきだって、ちゃんと怒っておかなくちゃ。

 眉の間に盛大な皺が寄った。


 紫ちゃんがチョンチョンと私の手を突く。そして、耳元で小さく囁いた。


「私……桝さん、好きじゃないわ」


 ビックリして紫ちゃんを見れば唇に人差し指を当てた。秘密ということだろう。今まで紫ちゃんや詩歌ちゃんたちが、名前を出して誰かを悪く言うところを聞いたことがなかった。多分、それが良家の処世術というものなのだろう。


 だからこそ、胸が詰まる。敢えて口にしてくれたのだ。私が思っていても、言えなかったこと。そう思ってしまう自分が悪いのだと、性格ブスだからなのだと、そう思っていたから、紫ちゃんの一言に救われた。


「ゆかちゃん、ありがとう」


 小さく言えば、紫ちゃんは笑った。


「私の家で車を用意します。みんなを迎えに行くので心配はいらないと思うけど。姫奈ちゃんどう?」


 紫ちゃんに提案されて、私は顔を輝かせた。


「うん! それなら大丈夫だと思う!」

「じゃあそうしましょう!」

「女子会はどうする?」

「着物にピッタリなところは、うーちゃん詳しいんじゃない?」


 ワイワイと話していれば、取り残された氷川くんと八坂くんは顔を見合わせて笑った。



 パーティーも終盤になり、光毅さまが修吾くんを連れてやってきた。約束通り修吾くんと写真を撮る。ついでに、光毅さまと美幸さまと四人でも写真を撮ってもらった。家族写真みたいだね、なんて光毅さまが言うから照れてしまう。きっといい記念になるに違いなかった。





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