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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売
中等部一年

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11.教えて! 淡島先輩


 最近、芙蓉館のカフェへお邪魔するときは、給仕係をかってでている。入館資格がないのに、あまりにちょくちょく招待されていて、あまりにちょくちょくカフェを利用しているから、少し心苦しくなってきたのだ。

 前世では氷川くんの婚約者として当然だと思っていた特別待遇も、今回はない。前世だって私が待遇されていたわけではなく氷川くんの威をかるキツネだっただけだ。それをカッコイイと勘違いしていたアホな子でした私。


 本来カフェはセルフサービスなのだが、私がいるときは自主的に給仕をすることにした。将来、家が没落した時のために、バイト慣れする目的もある。

 あまりに給仕をしているものだから、見かねた氷川くんが白いエプロンを買ってきてくれた。フリルが付いた新妻風の可愛いタイプだ。

 誰がどうやって選んだのか、興味があるけれど聞けなかった。

 

 今日もそうやってエプロンをつけて給仕をしていた。おかげで、他の芙蓉会メンバーとも顔見知りになって来た。芙蓉の蕾を胸に刺さない私がいても、気にされなくなってきている。



 今日、一年の芙蓉会メンバーは、林間学校の打ち合わせで芙蓉館の会議室で打ち合わせだ。綱もその中に含まれていて、私は芙蓉館についてきていた。

 会議室に入る一年生メンバーのために、私はラテアートを作って持っていく。最近簡単なフリーポアを練習しているのだ。


「今日も可愛いね」


 八坂くんの定型文に呆れて、適当にありがとうございます、と返す。

 氷川くんの前にラテアートを施したカップを置く。氷川くんが顔を赤らめた。


「ハート……」

「ええ! ハート!?」


 八坂くんがのぞき込んで大袈裟に声を上げる。


「ちょ、姫奈ちゃん? 和親に?」

「八坂くんもどうぞ」


 八坂くんの前にもカップを置く。同じハートのラテだ。


「「……」」


 二人はそれを見て黙った。


 男子にハートは可愛すぎたかもしれない。


 女子には大うけだ。


「きゃー! ハートが浮いてる。かわいい!」

「お店では見ますけど、姫奈子さんが作ったんですか?」

「ええ、最近練習を始めたばかりで、これしかできないんですけど。だからあんまり見ないでくださいね。よく見れば形が崩れちゃってるのがバレちゃいます」


 あまりに褒めてくれるので照れてしまう。嬉しい。他のもいろいろ練習しよう。


 最後に綱へ持っていけば、綱は不機嫌そうな顔をしていた。


「綱?」

「姫奈、こういうのはあまりよくないです」


 エプロン姿にも物申されたのだ。お嬢様が使用人のまねを、と怒られた。だけど、いつまでもお嬢様でいられるわけではないし、私自身は楽しいのだからいいだろう。


「いいじゃない。お店屋さんごっこ楽しいわ」


 そうむくれれば、綱は諦めたように大きくため息をついた。


 スイーツを配り終わってから、私は会議室を出た。さすがに部外者だから会議までは出席しない。

 カフェでぼんやりしていると、淡島先輩がやって来たので、オーダーを聞きに行く。


「淡島先輩」

「やあ、白山さん。今日もエプロン似合っているよ」

「馬鹿にしてますね?」

「してないしてない」


 淡島先輩はのらりくらりと躱す。


「いつものですか?」

「うん。あと君のお薦めスイーツ」

「かしこまりました」


 淡島先輩のエスプレッソを用意する。先輩にもハートのラテアートを施した。ハート形はフリーポアの基本だから、上手くなりたいので何度も作る。

 ガラスケースの中から、先輩の好みだろう、塩味の効いたチーズ菓子にフルーツを添えて持っていく。

 淡島先輩は、それを見て目を細めた。


「いつもきれいに盛り付けてくれるよね」

「ありがとうございます」


 これも練習のうちだ。


 淡島先輩はタブレットを開いて何かを見ていた。


「今日は何をご覧ですか?」

 

 探りを入れてみる。


 淡島先輩のタブレットは危険だ。

 我が家の没落を目に見せた代物である。

 だからこそ気になった。

 もうすでに、白山グループは淡島先輩の手中に落ちていないか……ちょっとくらいは知りたい。


「FXだよ。興味ある?」

「FX?」

「外貨を売ったり買ったりする」

「それって、私達でもできるんですか?」

「口座と資本金があればね」


 さすが守銭奴、お金に詳しい。


「もうかります?」


 思わず口にしたら、淡島先輩が驚いた顔で私を見た。ヤバい、地が出た。


 クスリと笑われる。お嬢様らしくなかった。


「興味があるならやってみたら?」

「興味はあるんですけど、全然わからなくて……失敗するのが怖いんです」

「だったら教えてあげようか?」

「いいんですか?」

「いいよ。儲かるかは保証できないけど。損しない程度にね」

「お願いします」

「でも、意外だね。女の子はこういうものを軽蔑しているかと思ってた」


 淡島先輩は計るように私を見た。

 

「軽蔑はしていませんけど、あまり興味はないかもしれません」

「うん、正直だ」


 淡島先輩は笑った。


「でも、私は自分でお金を貯めてみたいんです」

「お小遣いには困ってないでしょ?」

「今は困ってないですけど……早く自立したいんです」


 家が没落しても、生きていける様に。自分はともかく、頭の良い弟には進学を諦めさせたくない。


「ますます意外だね」

「そうでしょうか……」


 淡島先輩は、いつも通り優しく微笑むだけで、本心などつかめそうになかった。


「とりあえず、初めはゲームをしてみようか。実際の相場と同じ値動きのゲームがあるんだ。それで運用の仕方を覚えてから、お小遣いの範囲でやってみたら?」

「これは株とは違うんですよね」

「うん、株はまた別だね。株に興味あるの? 株のゲームもあるよ」

「全然わからないんですけどできますか?」

「じゃあ、一個ずつ勉強してみる?」

「お願いします」


 淡島先輩は、色々な投資をしているらしかった。詳しいことは教えてはくれないが、株もやっているらしい。まだ大きくは動かしてないけどね、なんて笑っていたけれど、それもどうだか信用できない。


 でも、経済新聞の読み方だとか会社四季報の読み方だとかを、次から教えてくれるらしい。

 腹の中はわからないけれど、優しい人なのかもしれなかった。


 たまに意地悪だけどね。


「連絡先、交換する?」


 淡島先輩から声がかかった。


「はい。フリフリします?」


 答えれば、キョトンとしている。


「え?」

「フリフリ」


 先輩が眉をしかめた。


 もしかして。


「もしかして先輩、フリフリわかりません?」


 そう言えば、カッと顔を赤らめた。何でも知っていると思っていたのに、こんな常識を知らないだなんて意外だった。まぁ、私も詩歌ちゃんに教わったので人のことは言えないが。


 私はスマホを振って見せた。


「こうやって連絡先交換できるんです」


 そう言えば、先輩は悔しそうな顔をした。


「やり方、教えて」

「いいですよ」

 

 連絡先を交換すれば、早速スタンプが送られてきた。意外にカワイイスタンプでほっこりとする。


「面白いニュースがあったら連絡するよ」

「私も質問があったら連絡しますね」

「みんなには交換したこと秘密にしておいて」

「どうしてですか?」

「多分、交換したって知ったら、みんな交換したがると思うよ」

「……それは、ちょっと」


 イヤだ、と思って顔をしかめた。八坂くんとかに知られたらめんどくさそうな予感しかしない。ID拡散されてイタズラされたりしたら堪らない。


「ね? ちょっと……でしょ?」


 淡島先輩は笑った。




 そんな話をしていたところで、丁度一年生の会議が終わったようだった。

 ドアが開いて次々にメンバーが顔を出す。




 無言で入ってくる氷川くん。


「はー……終わった……」

 

 怠そうな八坂くん。その後ろに、綱。


 詩歌ちゃんと明香さんは談笑している。

 他のクラスの役員も、各々カフェの席に着く。


 私たちは慌ててスマホをかばんにしまった。


「なになに、二人して何か隠してる?」


 八坂くんが目ざとく尋ねてくる。ごくごく自然に私の隣に座ってくるから、勘弁してほしい。


「そんなことないよ」


 柔らかい笑顔で淡島先輩が答えた。

 綱は無言で私の隣に座った。

 なんとなく気まずい。


 こういう場合は何も言わない方がいい。


「えー……なんか、怪しい……最近二人仲良くない?」


 八坂くんが絡んでくる。本当にこの人は面倒な人だ。


 淡島先輩、ビシッと否定してください!


「仲いいよ、ね? 白山さん」


 淡島先輩にふられて凍り付く。

 やっぱりこの人、意地悪だ! さっきフリフリで笑ったの根に持ってるんだ! イイ人だなんて思って騙された。


 綱が無言で私を見た。目線だけでどういうことだと訴えてくる。


「ちょ、ちょっといろいろと教えていただいてるだけです」

「そう、イロイロ教えてあげてるだけ」


 淡島先輩がニヤニヤ笑っている。確信犯だ。わざとやってる。


「イロイロ?」


 八坂くんが伺うように私を見た。


 綱の無言の圧が酷い。綱の圧が酷い。

 

「勉強か? わからないことがあるなら教えてやるぞ?」


 氷川くんが天真爛漫に首を突っ込む。


「姫奈の勉強は私が見ます」


 綱の冷たい声が響いた。いや、ま、そうなんだけど。


「学校では教えてくれないことをね。特別レッスン」


 淡島先輩がもったいぶって言うから、カフェのみんなの視線が集まった。

 八坂くんがすごい勢いで淡島先輩を睨んでいる。淡島先輩はそれに気が付いて、ニヤニヤと挑発するように笑った。


 勘弁してくれ~!!


「淡島先輩!! 誤解を招く言い方はやめてください!」

「誤解かな?」


 にやにや笑うな! この狸野郎!!


「投資について教わっているだけです!」

「あはははははは。女の子が投資とか、ちょっと恥ずかしいもんね」


 必死に弁明すれば、淡島先輩は声を上げて笑った。


 完全に遊ばれている。


「晏司も、生駒もそんなに怒らないで」


 淡島先輩は笑った。


 そして氷川くんをちらりと見て、和は、と言いかけて小さく笑った。


 なんだろう?

  

「姫奈、帰りましょう」


 綱に腕を引っ張られた。

 急な力に驚く。


「ちょっと、待って」


 慌てて立ち上がってエプロンを取る。綱は私のカバンをすでに持っていた。

 腕を抱えられて、引きずられるように後にする。


「ごきげんよう」


 とりあえず挨拶だけ。


 八坂くんはイライラとした顔で綱を睨み、淡島先輩は楽しそうに笑っていた。


  

 しばらく無言で歩く。荒々しく引っ張られて、怒らせているんだということはわかる。でも、原因が良くわからない。意地悪をしたのは私じゃなくて、淡島先輩で、私はどちらかと言えば揶揄われた被害者だ。


「綱?」


 綱は無言だ。


「ねぇ、綱、どうしたの?」


 綱に無視されるのは堪える。


「綱、怒ってる?」


 綱は急に立ち止まった。私はそれに付いていけずに、よろめいた。綱が支える様に肩を掴む。


「姫奈……」


 黒目がちな目に私が映る。


 綱は何かを言おうとして、頭を振った。


「……いえ、すいません。大丈夫ですか?」

「ええ、私は大丈夫だけれど。綱が何か変よ?」

「変、ですか?」

「うん、なにか少し怖いわ。どうしたの?」


 私の言葉を聞いて、綱は顔をこわばらせた。何がいけなかったんだろう。傷つけてしまった気がする。


「つな?」


 綱はぎくしゃくと笑った。笑って見せている、そんな感じだった。それがなんだかとても切ない。

 何時だって、綱は歯に衣を着せずにズカズカと遠慮なく物申してきた筈なのに。


「本当にどうしたの? 言いたいことがあったら言って。綱らしくないわよ」


 そう言えば、綱は困ったように笑った。


「そんなに私は言いたいこと言ってますか?」

「あれで、言ってないつもりなの!?」


 逆にびっくりだし、さらに言いたいことがあるのかと思うとゾッとした。

 綱は私を見て吹き出した。


「綱!」

「いえいえ、まぁ、そうですね」

「え、やっぱり私怒られる感じなの? ねぇ?」

「どうでしょうねぇ」

「ちょっと待って、あの、ね、言いたいことはいろいろあると思うけどね、できればちょっとオブラートに包んで欲しいかなって……」

「ええ、わかってますよ。お嬢様」


 綱はそう笑った。

 まだ学院の中なのに、綱はお嬢様といった。



 いつもは当たりまえの「お嬢様」。

 なんだかそれが、胸にチクリと刺さった。





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