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【5巻電子書籍&POD化】神様のドS!!~試練だらけのやり直しライフは今日もお嬢様に手厳しい~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売
中等部三年

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105.シンガポール修学旅行 5


 今日は修学旅行三日目である。朝から班別の自由行動で、電車で移動することになっていた。


 駅まで来てハタと気が付く。このグループは七人だ。誰と誰が手をつなぐのだろう。電車の練習をしていた時に綱が言っていたのだ。子供は駅では手をつなぐルールだと。


 足を止めた私を見て、三峯くんが不思議そうな顔をした。


「白山さん、どうしたの?」

「……あの、誰と誰が手をつなぐのかなって?」


 はぁ? という顔でみんなが私を見た。私が失念していただけで、もう決まっていたのだろうか。


「あ、あれ? もう決まっていたかしら? 私、すっかり忘れていて」

「そうそう! 姫奈ちゃんは僕と手をつなぐんだよ! 忘れるなんて酷いよ」


 八坂くんがサッと隣まで来て手を繋いだ。そして、その手をゆすってくる。ちょっとウザい。


「白山さん、なんで急に手を繋ぐなんて話になったの?」


 三峯くんが呆れたように八坂くんを眺めながら尋ねた。


「え? だって、子供は駅では手を繋ぐ決まりなんでしょう?」


 不可解に思って小首をかしげれば、理子さんと芽衣さんが顔を見合わせた。シンガポールでは違うのだろうか。


「その決まりどこで聞いたの?」

「綱と練習した時にちゃんと教えてもらったんだから!」


 三峯くんに問われて、ドヤァと胸を張って答える。

 三峯くんは、こらえきれないというように噴き出した。


「あはははっ。生駒もやるね」

「僕、初めて生駒に感謝した」


 三峯くんと八坂くんが笑う。二人に馬鹿にされていることは良くわかった。


「何が可笑しいの!」


 抗議すれば、芽衣さんが教えてくれた。


「あのね、小さい子は手を繋いだ方がいいと思うんだけど、もう私たちくらいだったら一人でも平気よ」


 それを聞いて顔が真っ赤になる。


「え!? 私、綱に騙されてたの!? 信じられない……」


 綱に騙されるなんて、軽くショックだ。


「騙されてたっていうか……」


 理子さんと芽衣さんがニヨニヨと私を見る。なんだその生暖かい目は!


「思ってた以上に箱入りなんだね」


 三峯くんが笑った。


 とりあえず手はつながないのが普通らしいことはわかった。私は慌てて八坂くんがつないだ手を離そうと振る。けれど、八坂くんは離してくれない。


「八坂くん、もういいです! 手を離してください!」

「ダメダメ! 姫奈ちゃんはお子ちゃまだから、手を繋いでないと危ないよ?」

「子供じゃないもん!」

「そうやって拗ねるところがお子ちゃまですー」


 ムキになって手を引っ張り合っていれば、三峯くんが引率の先生よろしくパンパンと手を叩いた。


「はい、そこの十五歳児たち。注目! 今から切符を購入します。並んでください」


 私と八坂くんは顔を見合わせ苦笑いする。ようやく八坂くんは手を放してくれた。




 改札をぬけ、ホームに向かって驚いた。シンガポールの駅の中は、整然として綺麗だ。その中に、『TO Mine』と書かれた広告がたくさん貼られていたのだ。


「『TO Mine』って何?」


 思わず三峯くんに尋ねる。

 三峯くんは困ったような顔をした。


「んー、日本じゃあまり有名じゃないけど、IT企業だよ」

「すごいわねぇ!! 席巻してるわ!!」


 純粋に驚いて構内を見回す。白山グループでも、駅の広告などせいぜい車内の一部でしかやっていないだろう。ここまで出せるなんて、シンガポールで相当な企業に違いない。


「三峯のうちだよ」


 八坂くんに言われて、三峯くんを見る。三峯くんは、軽く咳払いをした。


「え? そうなの?」

「……、あ、まぁ、そうだね」


 なんだか気まずそうに眼をそらされる。


「すごいじゃない!」

「所詮ベンチャーあがりだけど」

「だったらなおさら、すごいわ! ご両親立派な方なのね!」

「……そうかな……?」

「そうでしょ? え、違うの?」


 思わず聞き返してしまう。違わないよ、と八坂くんが笑う。


「そうよね。良かった。だからシンガポールに詳しかったの?」

「子供の頃から来てるからね」


 三峯くんは照れたように笑った。






 まず向かったのはリトル・インディアだ。シンガポールは多民族国家で、小さな国の中にたくさんの民族が住んでいる。その為、リトルインディアのように民族色豊かな街がそこかしこにある。


 リトルインディアの駅から町の中をブラブラと歩く。カラフルなサリーに目を奪われ、独特の香りにインドを感じる。野菜や果物が、簡単なカゴに無造作に山積みされている。昨日歩いたカトン地区とはまた違った趣だ。


 ガンガンと鳴り響くインド風の音楽とお香の香りに圧倒される。山盛りに盛られた衣料品はどうやって好みのものを探すのだろう。キンキラキンに輝くゴールドのチェーンが鈴なりになった店先。ぶら下がった花の輪は寺院に供えるものらしい。


 お供え用の花を買って、ヒンドゥー教の寺院を見学する。極彩色のレリーフが色鮮やかに寺院を彩る。寺院のてっぺんまでぎっちりと作りこまれたレリーフは荘厳だ。

 

 寺院の見学の後は街歩き。大きなスーパーへ行く。アーユルヴェーダの石鹸や、インド風の布も買う。女の子三人でバングルを買って、重ね付けした。綱にもお土産と考えて、綱も同じ旅行をしているのだと思いなおす。


 お昼はインドカレーである。三峯くんの案内で本格的なインドカレーのお店を紹介してもらう。

 バナナの葉っぱの上にビリャニという炊き込みご飯を取り分けてもらえば、もう気分はインドである。みんなでいろんなものを頼んでシェアして食べる。周りのお客さんは手づかみだったりして、文化の違いを肌で感じた。


 午後はアラブストリートへ向かう。ブギス駅の近くには小さなお店がみっちりと詰まった建物がある。リトルインディアとは違う空気だ。しかし、喧騒と人混みは相変わらずで頭の中がグラグラになる。


 まずはモスクを見学する。大きな丸い黄金の屋根が荘厳だ。先ほどのリトルインディアで見た寺院とは対照的なほど外観の装飾は少ない。しかし、シンプルだからこそ引き立つ清廉さがあった。


「少しお茶でも飲む?」


 三峯くんが悪戯っぽい顔でみんなを誘う。有名なテタリのお店らしい。テタリはコンデンスミルクで作ったミルクティーだそうだ。

 店中ではおじさんが髙く掲げたコップから、テーブル近くのコップへとテタリを注ぎ入れている様子が見えた。職人技だ。


 三峯くんに言われた通りテイクアウトにすれば、金魚すくいのビニール袋みたいなものに飲み物を入れられてあっけにとられる。

 ビニール袋に入った飲み物をストローで飲みながら歩くなんて、日本では絶対にできないから楽しかった。綱が見たら怒るだろうか、そんなことを考える。


 アラブストリートのお目当ては香水店だ。店内には様々な香水瓶があってそれを見ているのも楽しい。

 オリジナルの香水つくりを体験できるらしい。植物性でノンアルコールだから、バスオイルとしても使えるということで、男子も一緒になって香水作りを楽しむ。

 いろいろな匂いを嗅いでいると、なんだかどんな匂いかわからなくなる。

 そもそも自分に似合う香ってなんだろ? 綱が変だというかもしれない。

 そんなことを考えながら、クラクラとする頭でボーっとしていれば、八坂くんが隣に座った。


「決まった?」

「うーん……良くわからなくて。八坂くんは決めた?」

「うん」


 ファッションに自信がある人は香りにもブレがないようだ。


「姫奈ちゃんは何悩んでるの?」

「どれが似合うか良くわからなくて……」


 素直に相談する。昨日の一件で、八坂くんには弱いところを見せられるようになった。フラれ現場を見られているのだ。今さら恥ずかしいことなどない。


「好きな香でいいじゃない」

「例えば、例えばよ? 私が薔薇とか背伸びしている感じがしない? 笑わない?」

「良いと思うよ。姫奈ちゃん、薔薇みたいだもん。絶対薔薇にした方がいい」


 ニッコリと微笑まれて、私は正直引いた。昨日の悪魔の再来である。勘違いなどしてはいけない。


「……八坂くんに相談したのがいけなかったわ……」

「あ、信じてない」

「だって馬鹿にしてるでしょ?」

「本気なんだけど……。自信がないならチョットだけ使ったら? バニラみたいな慣れてる香りをメインにして、前面に出ないように仄かに薔薇が香るならどう? ほら、同じ薔薇でもこっちのティー系の香り試してみた?」


 八坂くんがティー系ローズの瓶を開けてくれた。ダマスクスとは違った、若々しい薔薇の香りだ。


「わあ! いい香りね!」

「使いやすそうでしょ? 僕のにも少し入れる予定。男子が使っても嫌みじゃないし、今の姫奈ちゃんぽいと思うよ」

「そうしてみる!」


 八坂くんの提案に乗っかって、バニラの香りにローズを少しだけ調合することにした。美容やファッションに関することは、やっぱり八坂くんが一番頼りになる。

 みんなで香水作りを楽しむ。ちょっとした実験みたいだった。

 そのあと、作った香水を入れるエジプトの香水瓶を見繕った。シロップを入れて紅茶と一緒に出したら面白いかもしれない、なんて考える。

 八坂くんが、まったく同じ香水瓶を買うというから嫌な顔をすれば、べつに家に置いておくんだから気にしすぎでしょと言われる。確かにそれはそうだ。自意識過剰だったのかもしれない。

 空の香水瓶もたくさん買った。全部箱に入れてくれたので、荷物が多くなってしまった。その一部を八坂くんが持ってくれる。染み付いたレディーファーストでさりげないから、まったく自然で嫌みじゃない。

 絨毯のお店などを覗いて、アラブの空気を満喫する。


 帰りの駅にたどり着けば、そっと八坂くんが手を差し伸べて来た。


「なに?」

「ほら! 駅では手を繋がないと!」

「~~~!! だから子供じゃないんです!」


 朝の無知を蒸し返されて、顔が赤くなる。それを見て、みんながクスクスと笑った。





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