10.父兄参観 2
父兄参観は大盛況だった。やはり、圧倒的に母親が多い。その中で、お父様と生駒はとても目立っていた。
でも、積極的に子供に関わろうとする父親の姿が、周りに好意的に受け止められたようだった。
「いいなぁ……姫奈子さん、お父様がいらっしゃったのね」
「私のお父様なんか、お休みできないっていうのよ! 姫奈子さん、愛されてらっしゃるのねぇ」
「そんな……」
無理やり連れて来たとは言えない。
「給食もお父様がかかわってらっしゃるの?」
「ええ、管理栄養士に献立を組み立てていただいているのですけれど、季節のアイデアなどは父も関わっているそうですわ。シェフを引き抜いてくるのはもっぱら父ですし」
「まぁ! 現場主義ですのね。素敵ですわ」
「お仕事もしながら、学校にもかかわって、……理想のお父様ね」
「ありがとうございます。あとでお好きなメニューがあったら教えてください。父に伝えておきますわ」
私たちの会話を聞いて、ムズがっているのだろう。お父様の目が泳いでいる。
「生駒くんもお父様がいらしてるのね」
「すらっとしていて、美しいわ」
ほう、とため息が漏れる。
そうだろう、そうだろう。生駒は白山家の自慢の執事なのだ。仕事はできて当然で、見目麗しいのだ。
私まで鼻が高くなる。
「次回は私もお父様にお願いするわ!」
「そうよ! 皆様でそうしましょう?」
キャイキャイと女の子たちは盛り上がった。
父兄参観を終えて、お父様とカフェに来ていた。新しく出店したばかりのカフェだ。
お父様の登場に、店員たちの顔が引き締まった。
うう、お父様。怖い上司なんじゃないの? 心配……。パワハラとかしてないよね?
「好きなものを頼みなさい」
お父様がメニューを開いて見せてくれる。
軽食から、がっつりスイーツまで様々な種類があった。
「お父様のお薦めは?」
「女子中高生をターゲットにしているのはこのあたりだ」
様々なフレンチトーストの写真がたくさん並んでいる。緑色は抹茶パウダー、茶色は定番のココア、フルーツがたくさん乗ったもの、ソフトクリームが乗っているもの。
どれも美味しそうだ、でも、量が多い。
いや食べられますよ、以前なら余裕で食べてたよ。でも、食べたらまずいって。家の夕飯美味しいんだもん。そっちだって残せないし。
「お父様、これを一緒に食べてくださいません?」
フルーツがたくさん乗ったフレンチトーストを見て、お父様は瞑目した。
やっぱり無理か、だったらこっちのタルトにしようか。
「では……」
「いいだろう。飲み物は?」
意外な返事に思わず顔を上げた。
「いいの?」
「ああ、好きなものを食べなさい」
「ありがとうお父様! では、飲み物はティンブラをアイスで」
お父様は手を上げて給仕を呼び注文した。
暫くしてシェフが直々にフレンチトーストを持ってきてくれた。軽くお父様に頭を下げる。お父様は小さく頷いた。
「娘の姫奈子だ」
シェフに紹介をしてくれる。
私も軽く頭を下げた。
「これを二人用にサーブしてくれるか?」
「承知しました」
シェフはニコニコとフレンチトーストを二つの皿に取り分けた。最後に美しくソースをかけてでき上がりだ。
ただ取り分けるだけではない。美味しそうに盛り付け直されていて、魔法のようだなと感心した。
私もこんなふうにしてみたい。
「私も大きくなったらあんな制服でお仕事したいわ」
ウエイトレスの可愛らしい制服に思わずつぶやけば、お父様はギョッとした顔をした。
「止めなさい。姫奈子には向いていない」
「似合わないでしょうか?」
「……すこし、スカートが短い。ではなくて、飲食店は華やかに見えるが大変な仕事だ。とても忙しいしな」
むっつりとお父様が答える。
いや、忙しくしてるのは、経営者だろ? 言えないけど。
シェフが私たちのやり取りを聞いて笑った。
「今日は父兄参観だったんだ」
お父様がそう言えば、シェフは驚いたように目を見開いた。
「それでですか。参観の後に父とデートしてくれるようなお嬢さんでうらやましいことです。可愛くて仕方がないでしょう」
にっこりとシェフが笑えば、お父様はゴホンと咳払いした。顔が赤い。
「そんなことありませんわ。これくらいの年ならみんなお父様とお出かけしたいはずですもの」
まだ十二、三歳なのだ。気恥ずかしくはあるし、構ってくれるなとは思う。けれど、放置されるのは寂しい。いてもいなくても関係ないというようで、私は寂しかった。
「そうですか? 私は父兄参観にすらいったことはありませんが、文句を言われたこともないです」
情けなさそうに笑う。
「それはいけません! 私みたいな我儘な娘はちゃんと文句も言いますが、聞き分けの良い方は言えないのですわ」
「だそうだ、ちゃんと休んでいってやれ」
お父様がそう言うと、店内スタッフがザワついた。
察し。……お父様、限りなく黒に近いグレーだよ……ちゃんと休ませてあげて……。
「ありがとうございます。次はお休みをいただきますね」
シェフは笑顔でそう言って下がっていった。
「姫奈子」
「はい」
「その、なんだ」
「?」
「お前の我儘を聞いてやるのは、そうだな、案外面白いものだと思う」
そう言ってお父様はコーヒーを飲んだ。
私の言いたいことが伝わったのだろうか。だったら嬉しい。気持ちが晴れてきてニコニコとなる。
「だったら、高等部になったらここでバイトを」
「それは聞けない」
即答された。
「学生は学業が本分だ」
「……ハイ……」
本当は自分で少しでも稼ぎたいけれど、バイト以外の方法を考えなくてはいけない。
「では、卒業したらいいですか?」
「どうしてもウエイトレスをしたいのか?」
「ウエイトレスにこだわっているわけではないんです。お父様のお店で働いてみたいだけです」
どれだけブラックか知っておかなければ対策もうてない。
「……考えておこう」
「はい!」
「そのためにはきちんと勉強するように」
「はい!!」







