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瞬きもせずに ・・  作者: 脱兎のシン
ー1年生飛躍編ー
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第4話 ヒヨッ子1年生

私は硬式テニス部に入部した。動機はともあれテニスをやるからには半端な気持ちではいけない。


幡野家家訓の『迷ってもこうと決まれば只邁進するのみ』だ!


部活の先輩達とネット情報からの知識でテニスのイロハを勉強する。


部活内容としては、放課後部員全体で、ストレッチを行い、軽く校舎の外周を走り、腕立て伏せ、腹筋背筋のトレーニングと基礎運動を終え素振りを行う。これで全体練習は終わる。

そうすると、3年生と2年生、1年生の中でも硬式テニス経験者は一緒にボールの打ち合いを始める、体が暖まるとミニ試合を行う。


しかしテニス初心者の1年生はというと、全体練習が終わっても、ひたすらマラソンとテニスコートの端から端の反復ダッシュだ。ボールには触れずにただそれだけ。入部して1週間、それは続く。


私は中学時代バスケで慣らした体力に自信があったので結構ついては行けた。それでもついていくのがやっと。初心者8名の内、半分は着いてこれていなかった。その中でも特に目に余る程へばっている男子部員がいた。


「小島ー早く走れ!」


私と同じ背丈だが横に大きいポッチャリ目の小島亮君。


「はっはい!」


「ダッシュだ!ダッシュ」


「ったくっ!何で私が1年のっ、しかもヒヨッ子を見なきゃいけないのよ」


言い得て妙ですね!はい!私達は黄色のビブスを着せられ先輩方と一線を外されてますので、まさにひよ子でございます。ピヨピヨ


2年の三枝ミチル先輩が只今鬼教官よろしく!私達新人をいたぶっている・・・基!鍛えてくれていた。

小島君はフェンスにしゃがみ込み、とうとう動かなくなった


「小島ー!お前は今から外周5周してこい!」


容赦ない三枝先輩の怒号が飛ぶ。


それでも小島君はゆっくり体をお越しコートの外に出て行く。


頑張れ小島亮!いつか優しい女神が微笑みますよ!心の中で肉付きの良い背中にエールを送った。そして今日も練習は続く



そして翌日もヒヨッ子達は相変わらず全体練習を終えてひとかたまりになり待機中。

でも私にはただキツイ事だけではなかった。三枝先輩と交互に指導してくれるのは、わたしの桜井王子様っ!イエイエ桜井先輩が受持ってくれているのだ!(可鈴語が移ったかな?)

今日はその日なのだ!


「じゃあ皆!集まって」


いつものようにヒヨッ子1年生が桜井先輩を軸に円を作る。私も尻尾をフリフリしながら集まる。


「昨日までは一週間三枝と同じように練習して来たけど、少し練習の始めに鬼ゴッコをやります」


「鬼ゴッコ?」


みんなが疑問符。


「はい!陸上部には許可をもらったので、僕の時だけ校庭のグラウンドを使って練習します。簡単な話し、鬼の僕から逃げ切れれば皆の勝利。次回から練習方法を変えます。但し、逃げ切れなければ今まで通りの練習をやっていくからね」


桜井先輩は爽やかな笑顔でみんなに説明していく。


「先輩。もし先輩から逃げ勝ったとしても三枝先輩の練習は今のままですか?」


誰かが言う。


「いや、三枝も変えてもらうからよろしく」


周りを見るとみんなホッとした顔をしてる。それもそうだ今までの練習は外周10周にダッシュ100本。

地味にキツイ。更に三枝先輩の機嫌で倍多目に走る時もあるのだ。それがたったの5周(トラック1周200メートル計1㎞)逃げ切れれば解放される

桜井先輩素敵!逃げ足には自信があるのだ!


早速校庭のグラウンドに移動。そして鬼ゴッコが始まる。

ルールを思い出す、『一つ、トラックの4レーン以上は膨らまない事。一つ後退して逃げては行けない。つまり桜井先輩より先に5周してゴールすれば勝利』である。今までの外周に比べれば楽だ。

陸上部の練習を横目にグラウンドを見渡す。半周遅れの位置つまりトラック円上の反対側に桜井先輩がにいる。


「じゃあ行くぞ!ヨーイはじめっ!」


先輩が手を叩き走り出す。そしてみんなも押されるように一斉に走る。

みんな桜井先輩との半周の距離があるのに余裕なのかリラックスしながら走って行く。

しかし2周走った頃から徐々に距離を縮めてきた!誰かが言った!


「おい!ペース上げろ!捕まるぞ」


みんな一斉に後ろを見る!

既に40メートル程まで縮んでいた。「近い!」桜井先輩は()()()()とした笑顔でこちらを見据えてる。

ヒヨッ子達は速度を早める、私もペースを上げる。

桜井先輩は猛スピードで追いついて来る。


「ヒィ」

「はい!」


小島君の肩に手を叩くと悲鳴共に桜井先輩の声が続く。


「ほら!捕まえるぞ!」

「ふぁっ」

「ほらっ逃げろ!」

「ワァッ」

「ほい」

「くっ」

「はい」

「はい!」


そして次々に先輩に肩を叩かれながら追いつかれる。


私もいつもの間にか叩かれ3周過ぎた辺りでは皆捕まった。


「じぁ今日も元気に外周から走ろうか」


先輩は爽やかに言い放った。


そして鬼ゴッコの練習は続く。桜井先輩の日には校庭のグラウンドから始まる。皆一様に今日こそはと息巻くが、結果は惨敗である。

桜井先輩の加速には驚かせられる。前回は4周目から行きなり追い付き、あれよあれよと言う間に終わる。その前はスタート直後の追い上げで、2周するまでには全員捕まった。


小島君等は足が遅い分距離を離すつもりか初めにダッシュするも徐々にスピードダウンして直ぐに捕まる。

そんなかんなでヒヨ子達は色々と考える。

最近ヒヨ子組をまとめ始めている遠藤君が練習終わりにヒヨッ子達に声をかけた。


「なぁ皆、今度桜井先輩の鬼ゴッコ勝ちたくない?」


「そうだな何だかんだで三枝先輩より結構キツイよな」


「そうだな」


「だけど桜井先輩めちゃ早いぞ」


「だから皆で考えるんだよ」


下校途中にあるコンビニ前で作戦会議はバス三台分の時間を要した。


翌日三枝先輩の怒号とスパルタ指導のもと体力と精神力を消耗した後、桜井先輩の元に遠藤君と私で向かった。(当然私は女子代表であって桜井先輩に近寄りたいとは・・思っていますよ当然!)


あれ?桜井先輩これから自主練?

先輩はラケットにボールケースを持ち部室から出て来た。


「あっ!桜井先輩」


遠藤君が駆け寄る。


「どうした?」


桜井先輩に遠藤君が話し始めた。


「少し時間いいでしょうか」


「手短目にね」


「はい・・実は・・」


遠藤君は私達が話し合った内容をかみ砕きながら上手く伝えてくれた。


「成る程。じぁ1人でも僕から逃げ切れれば皆の勝ちと認めてほしいと言う事で良いのかな?」


そのうなのだ、私達が考えた作戦は、長く伸びた列を作り、後続が先輩を妨害しながら先頭を逃がし走りきる作戦だ。それには、1人勝ちの条件が必要だった。その為の相談なのだ。



先輩は少し考えた後口にした。


「因みにこの提案は誰が決めたのかな?」


「皆で決めました。」


「そうか皆でね」


「いいよ」


「ありがとうございます」


やった!私と遠藤君は一斉にお辞儀をした。


「但し。チャンスは1回だけ!このチャンスを逃せば今年いっぱいはマラソンと素振りだけにするからね」


先輩はあのニンマリ顔をして答える。


「じゃあ明日でいいのかな?」


先輩の逆提案に動揺する

わーマジか!

横の遠藤君を見ると同じく動揺して即答出来ないでいる。

当然だ!このハイリスクなハイリターンは相談しないと返事出来ない。


「・・・」


「ん?どうした?適当に考えちゃった?」


「・・・」


「僕に勝つ気はない提案?」


「・・・」


「ただ今の練習が嫌だから逃げたい気持ちだけで皆で決めたの?」


なんか変な感じ・・モヤモヤする。

いつの間にかシャツを握りしめていた。

先輩の顔を見つめる。


「桜井先輩!明日!お願いします。」


桜井先輩はじっと私を真剣な眼差しで見つめる。私も負けない様に見つめ返す。


「よし!じゃあ明日。頑張ろう。」


すると先輩はいつものニンマリ顔で返してくれた。


先輩と別れヒヨッ子一団が待つ所へ向かう。


「幡野良いのかよ?皆の意見聞かないで決めちゃって!」


遠藤君が歩く私の肩越しから話す。


「多分だけどね、多分・・思ったの私」


「桜井先輩は試して要るんじゃないかって」


「何を?」


「真剣な覚悟を!」


「え?」


「だってそうでしょ。新人の練習内容を2年生が考える?普通顧問の先生か部長さんでしょ?それを勝手に変更出来る分けないじゃん」


「・・それに本当はあの鬼ゴッコだって三枝先輩はやらないのに桜井先輩だけしてるでしょ。本当は先輩も色々と考えてくれていたんじゃないかって思うの・・・」


私は立ち止まり遠藤君を見据えた。


「だから私達も自分達の提案を真剣に見つめて桜井先輩にぶつからないと・・・」


「・・・そうだな」


遠藤君はそう言うと皆が待っている所へ走って行く。


そうしてヒヨッ子一団は明日の決戦に向けてピヨピヨと意見を飛ばすのである。因みに明日は土曜日である。


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