Many Lives as a Sacrifice
「正気かお前ら!?」
「……当たり前だ。証拠隠滅すれば何の問題もねぇし、今までもそうしてきた」
「それにこの量ならどうってことないしな」
この量……って言っても一応4人分はあるんだぞ?紅葉橋の二大巨頭と呼ばれている梓と大河をもってしても、一口で臨死体験できる料理を完食できる訳がない。つーか命がいくつあっても足りないだろ。
「スープは何ともないみたい〜」
すると理玖が中華スープの毒味をして、大希と陸人にスープの入ったお椀を渡していた。
「だな!それなら一緒に食べちまえば…………ぐはぁっ!」
「「「大希!!」」」
「し、心配するな……大丈夫だ…………」
嘘つけ。汗が滝のように流れてるじゃねぇか。
「また腕を上げたな美優……」
「陸人、それ絶対に褒めてないよな?」
また陸人も言葉とは裏腹に口を押さえていた。
にしてもなんてタフな奴らなんだ……梓と大河に関しては平然と食べ続けているし、理玖、大希、陸人の3人も箸を止めることなく、皿に炒飯や青椒肉絲を着々と減らしている。
一方で俺たちは、勇敢とも言える彼らをただ見ているしかなかった。
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それぞれの鍋に残る料理が半分近くになったあたりで、俺は意を決して自分の班で作った炒飯をかき込んだ。
「今ならいける……!」
「「「流星!?」」」
「お前らが仲間を見捨てるほど薄情な人間だとは知らなかったぜ!」
そして空いた皿に2班の炒飯をよそって試しに一口食べてみ…………ぐっ!?
な、なんだこれ……!本当に美優が作ったのか……!?あの天使の微笑みで俺たちの高校生活に花を添える美優がだぞ!魔界のフルコースのような味を再現するなんて、俺は……信じたくねぇ……!
「この野郎!1人だけカッコつけてんじゃねーよ!!」
おぼつかない意識の中に雅人の声が響く。はっとなって見てみると、奴は俺たちの班で作った青椒肉絲を口いっぱいに詰め込んで、そのまま2班の中華鍋に直接箸を入れていた。この際行儀が悪いとは言ってられない。
「だぁーっ!!俺らも行くぞ!!」
「「「うぉらぁーーーっ!!!」」」
4時間目の終わりを告げるチャイムはデスゲームの開始を告げるゴングとなった。
ルールは簡単。散っていった仲間の思いを胸に、そして紅葉橋の女神を守るために料理を米粒1粒残さず平らげれば勝ちだ。捨てるなんて選択肢は最初から用意されていない。全て胃袋の中に押し込む、それさえ分かれば十分だ。
刹那、カラン……とスプーンが床に落ちる音がした。
「「「大地ー!!」」」
「構うな!奴の分まで食べ続けろ!」
「ちょっと待て大河!大地の奴、水揚げされた魚みたいに飛び上がっ––––––––ぐはっ!?」
「流星……踏み込んだら最期、他人を気にしてる暇があるなら自分の命の心配をしろ!」
言ってることめちゃくちゃだなおい!
「ごめん……僕もうダメ…………」
「「「理玖ー!!」」」
スプーンを片手に握りしめたまま、理玖が静かに息を引き取る。
周りを見渡せば半数以上が地に伏していた。痙攣を起こしている者もいれば、呼吸をしているか怪しい者もいる。死屍累々とはまさに今、この家庭科室で見ている景色のことを指すに違いなかった。
まだこの学校に来て2か月と数日しか経っていないが、みんな良い奴だった。さんざん罵倒を浴びせてくることもあったが、落ち込んでいる俺を元気付けようとしてくれたりもした。だからこそ––––––
「「「俺たちは戦い続けなければならない……!!」」」
さすがにペースは落ちていたが、それでも鍋の底がようやく見えてくるようにはなっていた。