Prologue
葉の緑が濃くなり夏も近づくある日のこと。
3時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った次の瞬間、紅葉橋高校2年1組の生徒が勢いよく飛び出した。
「「「イーヤッハァァァーッ!!!」」」
「全く、あいつらの精神年齢は計りかねるな……」
溜め息をついて担任の西園先生も教室を後にする。このクラスが賑やかなのは日常茶飯事だが、今日はいつにも増してテンションが高かった。
「調理実習であんなに騒げるのは小学生くらいだろ……」
そう陸人の言う通り、4時間目は家庭科。しかも2ヶ月に1度の調理実習をすることになっている。普段は机に向かって教科書をひたすら読むのが中心なだけ、楽しさもひとしおというところだ。
まぁ俺は料理がからっきしダメから足を引っ張らないように必死なんだけどな…………
「何暗い顔してんだよ」
「いてっ」
どうやって調理器具をなるべく触らずに済むか考えていたら、大河が後ろから頭を叩いてきた。
そういえばコイツは見た目によらず器用なところがあって、実は料理が得意だったりする。家で母親の代わりに弟や妹にご飯作ってるって言ってたしな……
「どうすれば実習に参加しなくてもいいか、なんて考えても無駄だぜ」
「なっ……どーいうことだ!?」
「流星の班には梓がいるからね〜」
俺の疑問に理玖がにこやかに答える。
調理実習の班は出席番号順で1班5人になっている。先週の割り当てで俺は梓と同じ班であることは分かっているのだが……なんせ俺にとってはこの学校に来て初めての調理実習。梓の料理の腕については何も知らないのだ。
まさか……まさか、とてつもなく料理下手って言うんじゃないだろうな…………!?
「お前ら、あと5分で授業始まるぜ」
「わぁ〜もうそんな時間〜」
「いやっ、ちょっ……梓がどうしたんだって!」
「そんなの見た方が早ぇよ」
残っていた陸人、理玖 、俺、大河の4人は教室に鍵をかけると小走りになって家庭科室へと向かった。