3 ◆ ロザリンデ
3 ◆ ロザリンデ
「お兄様! エーリック!」
私は飛び起きた。目の前に大きなすみれ色の目を見開いた妹の顔があった。
「ローザ……!」
「どこに行ってしまったのかしらと思った。ハンスが怒っててもの凄かったんだから!」
「ごめん。どのくらい……」
「お夕食までもう半刻もなくてよ。今日は着替えないといけないって。どうしてかわかる?」
「父上はもう?」
「なぁんだ知ってるの。リンネに会ったのね。お父様はまだいらしてないわ」
「そうなんだ。ローザはリンネに会った?」
「ええ。でも挨拶にちょっと顔をのぞかせただけ。誰かさんと違ってお稽古をサボったりしないもの、お話しする時間なんて無かったわ。もう」
「それって僕のせいじゃないだろ」
「ふんだ。エーリックはリンネとお話したんでしょう」
「まあ……ね」
「ずるいずるい!」
「なんでだよ……もう、着替えなきゃならないんだろう」
「そうよ。ほら立って。あーあ黄緑の胞子がくっついてるわ」
ロザリンデはぱたぱたと私の頭や肩をはたいた。
「落ちた?」
そう言いながら立ち上がった途端に、私はまた羊歯の葉に頭を突っ込んでさらに胞子を被ってしまった。私たちは顔を見合わせて吹き出した。今度は自分で頭や肩をはたく。
「今度はどう?」
「う~ん、くるっと回ってみて」
ロザリンデは一級の何かの鑑定士のような難しい顔を作って見せた。私は右足のかかとを引いて半回転し、もう一度同じようにして向き直った。
「どうかな?」
「軍隊式ね。うん、オトコマエよ」
妹の生意気な台詞に、私はなんでもない顔をして対抗した。
「当然」
途端にロザリンデはふくれて言った。
「今の取り消し! エーリックなんかリンネのくるぶしにも及ばなくてよ」
「ああもうそれで充分だよ。バカローザ」
「ヒドい! 口を縫い針で返し縫いにしちゃうわよ!」
「へえ。ぬいぐるみみたいに?」
ロザリンデは怒り顔から急に顔を輝かせた。
「そうそう、今日アンナの新しいドレスが出来上がったの!」
「ふうん?」
私はいささか気押されて首をかしげた。
「花祭りのときに仕立てていただいたドレスとお揃いなのよ」
にこにこしてそう言ったかと思ったら、今度は急に眉を寄せた。女の子というのはつくづく良くわからない。
「ねえ、それを着てアンナを連れてお夕食に出たら笑われるかしら……子供っぽいって」
「晩餐にぬいぐるみなんかもって行ったらおばあさまが……」
「怒るかしら、やっぱり」
私はロザリンデの思案顔を見つめた。リンネとおばあさまの会話が頭を過った。
「ううん、持って行くと良い」
「そう?」
「うん。せっかくきれいに出来たんだろう?」
「ええ、そうなの! 刺繍なんか先生にも褒められたんだから!」
「そうよ。あ!」
「それじゃやっぱり僕も見たいし、皆に見せようよ。怒られたって構うもんか」
「ほんと?見たい?ふふ、じゃあ着替えなくっちゃ! 早く行きましょ。」