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文章練習その1"三人称" タイトル『無力な英雄』

短いのですぐ読めますよー

 夕陽の明かりに照らされる丘。丘の頂点には真紅のロングコートを着こなしている青年が立っていた。

 彼の背後には、幾万の死体と、武具が無造作に置いてあった。

 青年が右手に握っているのは、直剣。その刃は夕陽と対照的な大空を象徴する青色。

 青年は手に入れたのだ。

 勝利を。栄光の勝利。

 たった一人で、国を救った英雄。

 彼は、敵国の益荒男を切り伏せ、その青き剣の力を使うと、一振りで三百もの兵士を消し飛ばす。


 青年は振り返り、死体の山を見つめる。

 本来ならば、国を救ったのだから、その顔には笑みが形作られているはずだ。

 しかし、青年の顔は、悲しみと自分に対する憤怒の表情が現れていた。


「俺は、また救えなかった」


 誰にも向けるでない言葉。その言葉は行き場を無くし、空気を伝い、そして誰にも聞かれることがなかった。

 彼は国を救った。しかし、朋友は救えなかったのだ。この戦で生き残ったのは彼一人。味方も敵も、誰一人とて生還することが叶わなかった。味方の中には、青年の隣人が、友が、肉親がいた。

 その者達の、声や笑顔を見ることはもう叶わない。青年にとってこれからの人生は、灰色一色。救国の英雄と呼ばれようが、昔の友と語り合った、至福の時は、もうやってくることはないのだ。


「何で、何で……ッ!俺は、こんなにも、無力なんだ……」


 何が救国の英雄だ。仲間の一人さえ、救えなかったのに。

 先ほど、青年は「また救えなかった」と言った。またというのは、青年がまだ少年だった頃、目の前で大切な人が殺されたのだ。

 少年の色恋沙汰など、所詮(しょせん)、泡のようなものだと、大人は言うだろう。

 しかし、青年にとっては、本当に大切な人だったのだ。


 青年は、この戦で全てを失い、全ての(ほま)れを手に入れた。

 その名誉は、おそらく今後、数千年の歴史に残るだろう。教科書で青年は英雄として奉られ、彼のような強い人になれと、未来の子供達に教えるはずだ。


 だが、彼は思った。

 俺は英雄として扱われるのに、なぜ他の仲間は、英雄として扱われない。ただの雑兵として扱われるのだと。

 おかしいではないか、この国を救う戦争に出た戦士、皆が英雄として扱われるべきではないのか。なぜ、俺だけが。


 青年の思考は狂ってゆく。


 国のために皆戦った、それなのに生きて帰る。それだけの違いで、こうも変わるのか。


 俺はきっと、これから英雄という道具としてこき使われるのか。

 そんなのはごめんだ。


 青年は祖国へ向かわず、深い森の中へと、剣を引きずりながら、歩いてゆく。その足取りは、青年の心を表すかのように、重く、しっかりしたものだった。


「俺は……英雄なんか、じゃない。ただの無力な雑兵だ……」

タグのエクスカリバーネタっていうのはエクスカリバーは一薙ぎで300人を殺せたというのを聞いたからです^_^

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