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ゴブリンノート  作者: アルト
第一章 始まり
8/17

理由と命名と命の危険

 美味しくいただきました。小鬼ゴブリン?です。


 見張りをしていた成体間近、言い方が面倒なんでこれからは若いと表現します。見張りをしていた若い雄2匹と雌1匹に手厚くお出迎えを受けた俺達は、若干命の危険を感じつつも猪3匹と芋を巣に運び込み、大人の雌3匹と一緒に猪の解体を始めました。


 俺は自分の仕留めた突進猪タックルボアを巣の隅に引き摺ると脚を掴んで仰向けにひっくり返し、顎の下に鉤爪ナイフを刺してゆっくりと喉から腹を通して後ろ脚の間にある大きなブツの手前までを切り裂き、中の新鮮な内臓を子供の小鬼ゴブリンに持ってきてもらった大きな葉っぱに取り出して、大人の雌の方に持って行くように言いつけてから毛皮と筋肉の切り分けを開始しました。


突進猪タックルボアの毛皮は分厚く、ただの棍棒で殴っても内側には殆ど衝撃が通らない為、打撃よりも槍等での刺突やナイフや鉤爪付きの棍棒での斬撃等が有効です。


前に解体した事の有る黒色狼ブラックウルフと違い、突進猪タックルボアは筋肉の量が比べ物にならない位に豊かで巣の雌達も満足している様で、火の近くの石の上で焼いた猪肉を小さく切り分けてほぐして赤ん坊達に与えていました。


「ん?……おい、あのおしめの毛皮ってまさか…」


見慣れた毛皮を赤ん坊達の下半身に見つけ、隣で同じように解体していた仲間に否定して欲しくて俺は赤ん坊を指し示しました。


「…黒色狼ブラックウルフの毛皮みたいだな」

「嘘だろ…よりによって赤ん坊のウ〇コ受けの…」

「あれ?他のガキ共も毛皮履いてないか?」


もう1匹の芋も一緒に運んだ奴が周りを見ながら俺達に見たままを伝えてきました。俺はその言葉に嫌な汗が出てくるのを感じ、残りの毛皮を置いておいた場所に目を向けるとペッタンコになっている黒色狼ブラックウルフの頭の部分しか残っていませんでした。


「…その、なんだ…焼くと旨いぞ、食え。まだまだ沢山有るからな」

「ん?何で固まってんだ?お前が一番大きな奴を仕留めたんだからいっぱい食えよ、疲れてんのか?」


二番目の奴は俺の気持ちを察して慰めるように、三番目の芋付きの奴は俺が狩りで疲れていると勘違いしながら、突進猪タックルボアの焼けた肉を俺の前に葉っぱに乗せて押し進めて来ました。


俺は心の中で滂沱の涙を流しながら両手にそれぞれの肉を掴み取りガツガツとやけ食いを始めました。


物凄い勢いで肉を貪る俺に皆がきょとんとしている中、二番目の奴は俺の肩をポンポンと叩くと解体の続きを再開、三番目の奴は俺に負けないように早食いを開始、長老は膝の高さの石に腰掛け短い杖の上でに両手を重ね顎を乗せながら俺と三番目の奴をダメだこいつらみたいな目で眺めながら溜め息をついていました。


しばらくして満腹になり腹をさすりながら隣の2匹をチラッと見ると、二番目の奴は解体の終わった猪皮をくるくると丸めて蔓で縛り腰の後ろにくくりつけています。取られないようにしたみたいです、三番目の方は腹をパンパンに膨らませて仰向けに倒れて呻いてます。


三番目の奴を起こしてから二番目に目配せし、長老に俺達の今の気持ちの変化を打ち明けました。


「ナルホドノウ、メザメタワケカ。ナラバ、オマエタチニハ、ナマエヲ、ツケナケレバ、ナラヌノウ」


名前?俺と二番目は互いの顔を見て首を捻る。名前ってのは小鬼ゴブリンっていう種族名以外に何か有るのか?


「名前とは何だ?長老。俺達は小鬼ゴブリンじゃなくなったのか?」

「ハヤトチリスルナ。オマエタチハ、マダ小鬼ゴブリンジャ。オマエタチ、ヒトリヒトリニ、ヨビナヲ、ツケテ、クベツスルノジャヨ」

「呼び名?何だそれ?」


話だけは聴いていた三番目が首を捻りながら長老に質問しました。あれ?コイツ腹が元に戻ってる?


「簡単に言うとだな、俺達は長老の事を長老と呼ぶよな?俺とコイツとお前にも皆からお前の事を呼びたい時にお前だと判る言葉をお前や俺達にも付けたいって事だよ。ですよね長老」


二番目は三番目に説明して長老に確認しようと振り向いた。


「オマエハ、カシコイノウ。ソノトオリジャヨ。ナンゾキニイッテイル、コトバガアルカ?ナケレバ、ワシガカッテニ、カンガエテツケルゾ?」


そうは言われても俺達は流暢に喋れるようになっても、巣の同族達と話したことも少しだけ、長老やコイツらとちゃんと話したのも今が初めてで、あまりにも言葉を知らない。


「俺は…古い、という意味の名が欲しい」


俺は巣の中で最初に変化したという意味でその名が欲しくなりました。長老は杖に顎を乗せたまま、はて何じゃったかなと呟きながら記憶を掘り返しているみたいです。埋ったまま土に還ってなければ良いんですけど…


「俺は長老に任せる、名は自分で決めるのではなく人から貰うものだと思うからな」

「ならオレも」


二人は長老に考えて名付けてもらうつもりのようです。長老はブツブツと聞き取れない声で呟くと、静かに目を開いて三番目に杖を向けました。


「オヌシハ、〈グラト〉ジャ」

「オレの名前はグラト…何か意味があんのか?」

「ウム、オオグライ、ジャナ」


意味を聞いて俺と二番目はその名の通りだと頷い

て納得しました。三番目―グラトの方を見ると、へーグラトかーなんて呟きながら残っていた肉をパクパクと食べています。まんま名前の通りだと思います。


「ソシテ、オヌシハ〈ワイズ〉ジャ。カシコイ、トイウ、イミノ、ナジャ」

「ありがとうございます。名に恥じぬように心掛けます」


二番目―ワイズは胡座をかいた左右の膝の上に拳をついて長老に頭を下げて礼を口にしました。

こいつ、小鬼ゴブリンぽくないなホントに。


「サイゴニ、オヌシハ、〈オルド〉。フルイ、トイウ、イミジャナ」


オルドか、悪かないな。


「ありがとうございます」


俺もワイズを見習い、長老に頭を下げてお礼を口にします。


「フム、ナハ、タイヲ、アラワス。ナンテ、コトバモ、アルカラナ、ナマエノ、トオリニ、イキヨ」

「はい」

「おうともさ」

「精々、長生きするさ」


ワイズ、グラト、俺の順に返事をして各自の寝床に向かいました。俺とワイズは突進猪タックルボアの毛皮を敷いて、グラトはそのまま地面に寝転がり眠りにつきました。


長老の言葉の〈意味〉を深く考えることもなく。

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