表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

第7話

「お疲れ!」

「お疲れぇ〜」

「今日のリフトうまくいったな!」

「ねぇ!」


翔と舞輝は満足気にスタジオを後にした。


「舞輝、翔!」


聡太が合流した。


「おつ!」

「今日帰るのか?」

「うん・・・そのつもり。」

「そっか。それがいいよ。」

「そだね。」


3人は外にでて寮のに向かった。

隣にある寮の門に入ると、エントランスのところで達弥が立っていた。


「達弥さん。」


舞輝の声に達弥が気づいた。

長いこと会っていなかったかのように久しぶりだった。


「俺たちは行こう。」


翔が聡太を促して寮に入っていった。


「久しぶり。」

「うん。」


なんと言っていいかわからなかった。


「元気だった?」

「うん。」


お互い黙ってしまった。



ここが・・・奥さんがいるっていうところ?


しらみつぶしに探した達弥の妻の居所。

名前検索、劇団、養成所、そして寮の存在。

それだけでここまでやってきた。

門から中を覗くと、ちょうど舞輝と達弥が見つめあったまま立っていた。



「舞輝・・・」

「ん?」

「帰ろう?」

「そだね。帰ろう。」


達弥の顔が晴やかになった。

陽子は一気に嫉妬の炎が吹き出た。


許さない・・・


陽子の足は前に進んでいた。

持ってきたナイフを掴んで・・・


達弥の目にナイフを持って突き進んでくる陽子が写ったときにはもう遅かった。


「舞輝っ危ない!」

「え?」


舞輝の体に激痛が走った。

力が抜ける中ゆっくり振り返ると陽子が目を充血させて舞輝を睨みつけていた。


「よう・・こさん」


舞輝は倒れこんだ。


「舞輝っ!」


達弥は舞輝に駆け寄って抱き起こした。

翔と聡太や他の団員たちが達弥の声でただ事じゃないと外に出てきた。


「舞輝!」


翔が声をあげて笑っている陽子を取り押さえに行ったのに対して、聡太は血まみれの舞輝を見て動けなくなっていた。


舞輝が・・・


「聡太、救急車!」


聡太の耳には入ってなかった。



「舞輝、しっかり!」


達弥は舞輝のわき腹を持っていたハンカチで押さえた。


「達弥さん・・・」

「ん?」

「迎えに来てくれたんだよね?」


わかりきっていることをあえて聞いた。


「あぁ。迎えにきた。仲直りしたくて。」


舞輝は微笑んでゆっくり手を出した。


「・・・なかなおり。」


達弥は舞輝の手を強く握った。


「仲直り。だからしっかりしろっ」

「うん・・・」


舞輝はそのまま目を閉じて達弥に寄りかかった。


「舞輝?」


舞輝のほっぺを軽く叩いた。


「目ぇとじるな!・・・舞輝。」



達弥の声に翔も「うそだろ・・・?」と言った。


数分して、救急車とパトカーがやってきて舞輝は搬送され、陽子は警察に連行された。

処置室に運ばれて手当てを受けてる間に、舞輝の家族や愛海・翔、聡太が駆けつけた。


まず舞輝の父親に殴られた。

ただ謝るしかなかった。


「達弥さんのバカっ」


愛海は到着するやいなや泣きながら達弥の胸を叩いた。

廉が静止に入いると、泣き崩れた。



きまずい雰囲気の中、しばらくすると処置室から担当医が出てきた。


「大丈夫です、傷は深いけど命に別状はありません。あとは本人の意識が戻ればもう大丈夫でしょう。」


担当医の言葉に全員がホッとした。

愛海はまた泣き始めた。


「よかったぁぁぁぁぁ。」

「よかったな、愛海。」


廉が優しく愛海の肩を抱いた。



個室に移された舞輝は、3日経っても目を開けることはなかった。

医者は「本人の頑張り次第です。」とだけ言った。

その間、警察の事情聴取もあった。

本当は陽子と関係があったんじゃないか、陽子と二人で企てたんじゃないか、馬鹿げたことばかりあれこれ聞かれて疲れ果てていた。

舞輝の手を握ったまま寝てしまっていた。ノックで目が覚めた。


「どうぞ。」

「こんにちは。」


翔と聡太だった。


「稽古が忙しいのに、すまない。」


達弥は二人に椅子を用意した。


「舞輝はまだ・・・」

「あぁ。医者も本人の頑張り次第だって。」

「そうですか・・・」


翔は肩を落とした。


「別れてください。」


聡太の予想もしない言葉に二人はあっけにとられた。


「聡太、お前・・・」

「何回舞輝を泣かせりゃ気が済むんだよ。しかも・・こんな・・」

「聡太やめろ。」

「聡太くんの言うとおりだな。こんなことになるなんて・・・」

「ふざけんなっ!」


聡太は達弥に掴みかかった。


「聡太やめろっ!」


翔が後ろから止めに入ったが、聡太の背中は本気だった。


「俺たちはな、達弥さんだから身を引けたんだ。舞輝には達弥さんしかいないって思ったから。

なのになんで舞輝だけ見てやんないんだよっ!なんで舞輝を一人ぼっちにするんだよ。」


達弥は黙っていた。


「聡太、落ち着け。」


聡太は翔を振り払うと、病室を出て行った。


「達弥さん、すみません。聡太の気持ちわかってやってください。」

「聡太くんの言うとおりだから。聡太くんは今でも舞輝のこと?」

「みたいですね。俺も最近気づいたんです。達弥さん、俺も聡太と同じ気持ちです。俺たちの大事な舞輝を泣かせないでください。」


翔は頭を下げると、病室をでた。


大事な舞輝か・・・


「舞輝、お前は幸せものだな。いい友達持って、仲間もって。」


達弥は眠ったままの舞輝に話しかけた。

返事が返ってくるわけがなく、達弥は舞輝の手を握って泣いた。


「たつやさん・・・?」


顔を上げると、舞輝がこっちをみつめていた。


「舞輝」

「なんで泣いてるの?」


かすかすの声で舞輝が話しかけてくる。


「なんでもないよ、よかった。先生呼ばなきゃな。」

「ねぇ、ようこさんは?」

「警察に捕まったよ。俺も一緒になって企てたんじゃないかって疑われて大変だった。」

「酷いねぇ。」


舞輝は笑って言った。


「疑わないのか?」

「達弥さんはそんなことしないよ。ようこさんを選んだら、まずあたしのとこに来るって思ってたもん。」

「そんなこと覚悟してたのか?」

「達弥さんが本気で好きだった人だよ?辛いけど、受け入れるつもりだった。」

「舞輝・・・」

「でも、帰ろうってメールくれたから。嬉しかった。」


達弥は舞輝のおでこに自分のおでこを当てた。


「ごめん・・・舞輝。」

「ううん。誰も悪くなんかないよ。ただ、時のいたずらでこうなっただけだよ。早く先生呼んで?」

「そうだった。」


達弥は涙を拭ってナースコールを入れた。


舞輝が目覚めたと連絡入れたら、連日続々とお見舞いにやってきた。

舞台は降板が決まり、代役の子が泣きながら、


「あたしには荷が重いですっっ!」


と訴えてきて舞輝は大笑いしていた。

それを端っこでみているしかできない達弥。

そっと部屋を出て、待合室のソファに座った。


「達弥?」


顔を上げると、廉が立っていた。


「おっ。」


軽く手をあげた。


「部屋にいなくていいのか?」

「劇団の人でいっぱいだよ。」

「そっか。疲れてるな、大丈夫か?」

「あぁ。なぁ廉。」

「ん?」

「廉は愛海ちゃんを幸せにしてるって自信あるか?」

「俺に不満はまったくないってことはないだろうからなぁ。自信なくしたか?」

「舞輝の方がずっとずっと大人で俺じゃ役不足なんじゃないかなって。」

「そんなこと達弥が決めることじゃないよ。」

「そうだけど・・・」

「達弥は幸せか?」

「え?」

「達弥は舞輝ちゃんに幸せにしてもらってるのか?」


当たり前のようで、違和感のある質問だった。


「俺は、幸せだよ。舞輝と舞弥と一緒にいれて。舞輝は笑顔を絶やさない。」

「なら、大丈夫だよ。きっと。」


そうだろうか・・・舞輝は無理してないだろうか?



「達弥さん?」

「え?」


見舞いの客が帰って、静かになった部屋で舞輝はりんごを剥いていた。


「はい。りんご。」

「ありがと。」

「これ食べたら帰って?」

「なんで・・・」

「顔が疲れてる。」


あぁ、心配して言ってるのか。


「大丈夫だよ。」

「でも、ずっと付いててくれてたんでしょ?ゆっくりベッドで寝て。また明日、時間できたら話し相手になってよ。」

「あぁ、必ず来るから。」


うなずいてりんごをほお張る舞輝は笑顔だった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ