第6話
「あたしを・・・選んでくれないのね?アレンはあたしのものよ・・・」
ナイフを取り出すと、セイラはアレンの妻を刺した。
アレンが叫んでいる。妻を抱き起こして何かを叫んでいる。
セイラの耳には入ってなかった。
これであたしのもの・・・
「セイラ!」
夫の声でハッと我に返った。
アレンが泣き叫んでいる。
血まみれで動かなくなった妻を抱きしめていた。
ふと、自分の手にナイフがあることに気づく。
血まみれになったナイフ。
「あ・・・あたしが・・・?」
怖くなってナイフを捨てた。
「なんてことを・・・」
夫のダンはナイフを拾いながら言った。
「あは・・あははははははは」
「セイラ?」
セイラは大声で笑い出した。
「アレンを愛していたの。でも、アレンはあたしを選ばなかった。
ダンも辛かったでしょう。決められた結婚なんて。でも、あなたはあたしを大切にしてくれた。愛してもいない女を・・」
セイラの腹に激痛が走った。
そして、力抜けていく。
「ダ・・ン」
ダンはナイフをセイラの腹に刺した。そして力抜けていくセイラを受け止めて座った。
「私は、セイラを愛しているよ。お前の罪を一緒に償おう。」
セイラの腹からナイフを抜くと、自分の腹にナイフを入れた。
「私は決められた結婚だとは思っていない。セイラを愛しているから結婚したんだ。
辛い思いをさせてしまった。すまない・・・彼とセイラを引き離した戦争を起こしたのはこの王族だ。私にも責任はある。」
「ホント・・・に?あたしを・・・愛してる?」
「あぁ。心から愛してる。」
「あたし、アレンと再会するまで愛されてなくとも、大切にしてくれたあなたを愛してました。あたし・・・なんてことを・・・」
「もういい。何も言うな。」
「いや・・・死にたくない。あなたと一緒にいたい・・・」
「いれるさ、私はお前のそばにいる。」
段々弱くなっていくセイラの声。
ダンは最後の力をふり絞ってセイラを抱きしめた。
「愛しているよ・・・」
セイラを抱きしめる手は、力尽きた。
「OK!」
演出家の声で舞輝と聡太は目を開けた。
周りでは拍手も沸いていた。
「ありがとうございました!」
二人はペコリと頭を下げて顔を見合わせると、ニッと笑ってVサイン。
二人は演出家や脚本家の集まるテーブルに呼ばれ最終確認。
全てが終わると、3人で食堂に向かった。
「お前らいい感じじゃん。」
「でしょぉ!」
「むかつく。」
翔がむくれた。
「ヤキモチ妬くなよ今更。なぁ?舞輝。」
「そうだよ。」
「こないだも急に二人でどっか行っちゃうし。」
「いいだろ?取って食うわけじゃないんだから。」
「そうだよ。」
「なんだよ、舞輝まで。」
舞輝はニハっと笑うと、翔の腕に手を回した。
「今度翔とデートする。」
「マジか?」
「俺も連れてけ。」
「嫌だよ」
笑いながら食堂に入る3人であった。
「これで終わりか?」
達弥は車の中を確認した。
「えぇ。これで全部。」
陽子が玄関から出てきた。
今、達弥は陽子の実家に来ていた。つまりは、達弥にとっても地元に近い。
午前中に陽子の荷物を積んで、高速に乗ってきた。
「そっか。じゃぁ帰るよ。」
「お茶でも飲んでいけば?また長旅よ。」
「いいよ、スタジオも開けなくちゃ。」
「そう、忙しいのにごめんなさい。」
「いいよ、じゃぁ、元気で。」
元気で?
陽子は不安になった。
「達弥、また連絡していい?」
陽子は「うん。」と言ってくれるのを祈った。しかし、達弥は首を横に振った。
「俺のお節介は今日で終わりだ。」
「なんで・・?」
「舞輝が出て行ったんだ。だから迎えに行く。」
「迷惑かけないから・・・お終いなんていわないで。」
「舞輝は今回のことも迷惑だなんて思ってないと思うよ。ほっとけない俺を知ってるから、舞輝は力になってあげたら?って言ってくれたんだ。」
「じゃぁ、なんで?」
「俺を信じてくれてるから応えなくちゃ。」
嘘でしょ・・・?
奥さんのほうを選ぶっていうの?
「一人にしないで・・・」
「陽子、舞輝は一人で耐えてるよ、今日も寮の狭い部屋で。」
なんであたしを一人にするの?
何がいけないの?
あたしには達弥しかいないの。
涙になって言葉にならなかった。
「じゃぁな。」
達弥は車に乗り込むと、すぐに発進させた。
これで舞輝を迎えにいける。
舞輝とやり直すんだ。
すぐにでも迎えに行きたいとこだったが、スタジオも開けなくちゃならない。
振り付けの仕事も入っていた。
明日の夕方だな。
舞輝にメールをしておいた。
【明日迎えに行く。一緒に帰ろう。】
舞輝はケータイを閉じて机に置いた。
きっと、達弥さんなりに終わらせてきたんだ。
陽子さん大丈夫かな。
なんであたしが陽子さんの心配してんだ?
舞輝は思った。
舞輝はビール片手に外にでた。
ここで飲むビールは格別♪
明日は・・・どんな一日になるんだろ。
「いたいた。」
翔と聡太だった。
「どしたの?あたし探してた?」
「うん。一緒に飲もうかと思って。」
二人してビールを出した。
「飲もう飲もう♪」
「1本しかないけどな。」
「かんぱぁ〜い!」
舞輝だけ飲みかけのビールで乾杯した。
「そういえば・・・飲めたっけ?二人とも。」
飲んだところを見たことなかった。
「のめませーん!」
「やだぁ!ホントに?無理しないでよ。」
「よく一人で飲んでるのみかけるからさ。だいたいなんかあるときだ。」
「さすが翔。」
「当たり前。」
「今日はなんかあったのか?」
聡太はもう顔が真っ赤だ。
「ううん。達弥さんが明日迎えに来るって。」
「そっか。」
「よかったな。」
「うん・・・」
「すっきりしないのがここにいる理由なんだな?」
「うん。」
すでに真っ赤な聡太に対して、舞輝のビールは空になってしまった。
「俺の飲めよ。」
聡太が3口くらいしか飲んでないビールを舞輝に渡した。
「サンキュ。きっと、彼女にやくお節介をお終いにしたんだと思う。達弥さんなりに終わらせたんだと思うんだ。でも・・・」
「でも?」
「陽子さん、簡単に納得いくかしら?」
「なんでそう思うんだ?」
「セイラだから。」
「あれは話しの中のことじゃないか。」
「でも、セイラの立場って陽子さんに近いと思うの。仮に達弥さんにまた恋愛感情あったとしたらよ?あたしも女だから。」
舞輝も”女”か。
嫉妬もするし、彼女の気持ちもわかるか。
翔は黙ってしまった。
「舞輝って女だったの?」
聡太が言った。
「は?あたし女だけど。」
「男だと思ってた。」
「何それ!むかつく!」
聡太なりにこの空気を変えたのだろう。
翔も乗ってみることにした。
「しまった・・・つい舞輝の言葉鵜呑みにするとこだったよ。お前男だよ!」
「あたしは女ぁ!」
「だって俺らといれんの男くらいだぜ?」
「何?急に。」
「しけた面してる舞輝は嫌なんだよ。」
「聡太。」
「明日こそは話し聞いてやれよ。」
翔が頭をなでた。
「うん。」
お終いなんてさせない・・・
あの時は達弥が悪いのよ。デビュー前であたしのことほったらかしにしたから。
でも、今の達弥は違う。あたしにフラれて後悔したの。だから再会したとき優しくしてくれた。
達弥はきっとあたしのこと今も想ってくれている。
達弥にはあたしがいないとダメなの。
あたしにも達弥がいないとダメなの。
ただ、奥さんと子供の存在で責任を感じてるだけ。
きっとそう・・・・奥さんがいなくなればいいの。
陽子の姿は、帰ったはずの地元ではなく東京にあった。