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第5話

「もしもし」

「廉・・・」

「どした?」

「舞輝が出て行ったんだ。」

「なんだって?」


達弥はあの日のことを話した。


「お前どこまで人がいいんだよっ。」

「ほっとけないだろ?男に殴られてガタガタ震わせて泣きながら電話してきたんだぞ。」

「わかってるよ!女には達弥しか頼る人がいなかったんだ。でも、舞輝ちゃんのキモチ考えたことあるのか?

達弥に力になってやれって言って、電話が来るたびに我慢して、何事もないように振舞って、会いに行ったまんま帰ってこなかったら、取り残された舞輝ちゃんどうなんだよ?

限界だったんだろ。」

「廉の言うとおりだよ。どうしたらいいかわかんない。」

「達弥。迎えに行ってやれよ。昔の女実家に送り届けたら。」

「そのつもりだよ。でも、戻ってこなかったら。」

「何弱気になってんだよ。何度も乗り越えてきてるだろ?いろんなことに。今度も大丈夫だよ。舞輝ちゃんもわかってくれる。」

「サンキュ、廉。」

「愛海に話して連絡取らせてみるよ。なんかわかったら連絡する。」

「あぁ。」



電話を切ると、達弥はベッドに倒れこんだ。



「愛海。」

「何?」

「舞輝ちゃんに連絡とってくれないか?」

「どうしたの?急に。」

「達弥から電話あって、舞輝ちゃん出て行ったって。」

「えぇ?」


廉は簡単に達弥から聞いた話しを始めから話した。


「達弥さんのばかっ」

「達弥も辛かったと思う。そんなに責めないでやってくれよ。」

「舞輝がもう少し自分の気持ち言ってたらよかったのかもね。」

「そうだな。舞輝ちゃんは言うことより、我慢を選んだんだ。」

「ちょっと連絡とってみる。寝室行ってるね。」

「頼むよ。」


愛海は寝室へ行くとケータイを取った。


 どう切り出そう・・・


すると、偶然にも舞輝から着信が入った。


「も、もしもし??」

「愛海?今平気かな?」

「うん、もう子供も寝たし。どした?」

「うん、なんとなく。」

「そっか。実はあたしも今舞輝に電話かけようかと思ってたとこだったの。」

「そうなの?何?」

「いや、なんとなく・・・」

「嘘だ。達弥さん経由で廉くんからあたしが家出たこと聞いて電話しようと思ってたんでしょ?」

「うん。じゃぁ、ホントなんだね。」

「うん・・・我慢するの疲れたの。達弥さんに大丈夫って顔するの。」

「少し事情も聞いたの。まさか別れたりしないよね??単なる喧嘩だよね?」

「別れるなんて考えてないけど、今、達弥さんの気持ちがわかんないだけ。」

「達弥さんが昔の彼女と舞輝で揺らいでるってこと?」

「少なくとも、昔の彼女は達弥さんに本気だと思う。」

「なんでそんなこと思うの?」

「・・・勘。達弥さん優しいから。」

「いいとこでも、欠点でもあるのよね。」

「達弥さんがマジだった人なんだよ。絶対はないんじゃないかな。」

「また舞輝のネガティブが始まった。」

「今度の作品ね、よくある話しなんだけど、愛してた人が戦争に行っていしまって、生きてるのか死んでるのかわからないまま月日が経ち、姫はある王家と政略結婚をした。

愛してたひとを忘れることはできなかったけど、政略結婚とはいえ、姫を大切にしてくれて幸せだった。

ある夜、城で開かれた晩餐会で、昔愛してた人と再会してしまうの。

もう会えないと思っていた二人の心はまた燃え始めてしまう。」

「その姫って舞輝?」

「そ。皮肉にも陽子さんの立場を演じるの。」

「陽子っていうんだ。」

「うん。」

「でも、陽子さんは達弥さんを振ったのよね?」

「うん。でも、忘れられなかったとしたら?他の男と付き合っても達弥さん以上の人がいなかったんじゃない?達弥さんだってもしかしたら・・・」

「舞輝。」

「ごめん。」

「陽子さん、同棲相手に暴力振るわれてたんだって。実家に戻ることにしたからそれを送り届けたら舞輝のこと迎えに行くって。

関わった以上そこまでやってやんないとね。達弥さんにも責任あるし。それできっぱり連絡は取らないって。」

「達弥さん、きっと自分の口から話したかっただろうね。メール来るけど一切書いてなかった。聞いてもあげなかった。」

「仕方ないよ。不安にさせた達弥さんがいけないんだから。」


愛海は少し話題を変えてみた。


「そんでさ、二人の心が燃え始めてどうなるの?」

「彼にも奥さんがいるの。その人に嫉妬して・・・」

「嫉妬して?」

「ナイフで刺してしまうの。彼が自分を選んでくれなかったから。」


聞くんじゃなかったと、愛海は後悔した。


「半分狂った姫を旦那は、強く抱きしめて姫の背中をナイフで刺した。”私は、お前を心から愛している。決められた結婚などと思ってはいない。

愛おしいと思うから結婚したのだ。”と言って自分の腹をぷすりと刺す。

”お前の罪を一緒に償う。愛してた人と引き離してしまった戦争を起こしたのはこの王家だ。すまない。お前と過ごした月日は幸せだった。”

姫はここでホントの愛を教えられるの。そして旦那と共に死んでゆく。」

「なんか切ないね。」

「血を絶やさぬようにするのが王族の役目。でも、姫の旦那はそんなことちっとも思ってなかったの。

ただ、姫を愛していた。」

「陽子さんも目覚めてくれたらいいんだけどね。」

「愛海、ありがとね。あたし思ったより大丈夫だよ。まだ、心の整理がつかないだけ。」

「達弥さんが迎えに行ったら、ちゃんと帰るんだよ?」

「うん。」



電話を切ると、愛海は廉のとこに戻った。


「全部話したよ。きっと大丈夫って達弥さんに伝えて?達弥さんに大丈夫って顔するの疲れちゃったんだって。

達弥さんの気持ちが揺らいでるんじゃないかって不安とか積もるに積もって飛び出したみたい。まっあたしの解釈だけど。」

「ありがと、達弥に伝えとくよ。」

「もう、ホントに別れるとか言い出したらどうしようかと思ったよ。」


愛海はソファに座り込んだ。


「悪いな、愛海にまで神経使わせて。」

「いいの。舞輝のことは別。」



翌日、廉から連絡が来た。

”大丈夫”って言葉が少しだけキモチを楽にさせた。


達弥は陽子に連絡を取って、帰る日取りを決めた。

ほとんど荷物はないということで、2日後出発することになった。




 愛海に「うん。」と言ったはいいけど。


正直、実家まで送ってあげる必要はあるのか??

駅までだっていじゃないか?

荷物が多いとか?

陽子はきっと達弥を離したりしない。

何かにつけ電話してくる。

そんなことばかり考えていた。


「舞輝。」


翔に呼ばれて我に返った。


「え?」

「眉間にシワよってるぞ。」

「うそ!」

「ホント!朝からズット眉間にしわ寄せて考え事してる。稽古中もおかしかった。」

「息合わないっていうか・・・な?」


スポーツドリンクを一気に飲み干した聡太。


「おう。」

「ごめん・・・」


 みんなに迷惑かけてる???

 

舞輝が肩を落として言うと、聡太が急に立ち上がった。


「ちょっと来い。」


舞輝の手を掴んで、外に出た。


「どこ行くの?」

「いいから。」


聡太はタクシーを捕まえて、「丘の遊園地」と言った。


「遊園地?」

「そっ、気晴らし。」


タクシーは遊園地に向かった。

丘の遊園地は、ホントに丘にある遊園地。

観覧車やちょっとしたジェットコースターがある小さい遊園地。


「よぉし!乗るぞ!!!」


聡太は舞輝の手をぎゅっと握って歩き出した。

舞輝は思わず笑みをこぼしてしまう。

まさか聡太とデートするなんて思いもしなかった。

聡太の心意気に応えて思いっきり楽しむことにした。


たいして怖くないジェットコースターで「ギャー!!!!」

たいして怖くないお化け屋敷で「いやぁぁぁぁぁ!」

あたりが暗くなった頃、観覧車。

丘の上からみる街はこれまた綺麗。


「ロマンチックだねぇ!!」

「たいしたとこじゃねぇけど、いいだろ?」

「うん。」


観覧車から降りて二人は飲み物を買ってベンチに座った。


「聡太、ありがとね。」

「いいよ。なんか吹っ切れたほうがいいときってあるし。今日の舞輝にはそれを感じたから。」

「よく見てるね。聡太も翔も。」

「当たり前だろ。俺達は舞輝のファンだから。」

「あはっ、そうだったね!」


聡太は舞輝の手を握った。


「聡太?」


聡太は黙ったままだった。

舞輝もなんとなく合わせて黙った。

しばらく沈黙すると、


「無理だよ・・・」


聡太が呟いた。


「え?」

「無理だよ、俺・・・」


聡太は舞輝を抱きしめた。


「聡・・・」

「俺んとここいよ。」

「えぇ?」

「舞輝は笑ってないと舞輝じゃないんだよっ。俺は舞輝を泣かせることしない。ずっとバカやって一緒にいよう?」

「聡太、ちょっと待って。」

「好きだ。」

「聡太。」

「俺は、達弥さんのものになっても舞輝を想ってた。俺には舞輝以外考えらんないんだ。」

「それは、友達としてではないってことよね?」

「そう。舞輝を女として好きだ。」


 寄りかかりたいと思った。

 聡太の腕の中でこのまま抱きしめられていたいって・・・

 

「ごめん・・・聡太」


舞輝は聡太から離れた。


「聡太のキモチは嬉しいよ。でもあたしにとって聡太はやっぱ大切な友達だよ。」



「だよな…ごめん」

「ううん、ありがとう聡太。」


ずっと大事な友達だょ。


「帰るか!」

「うん!」




翌日。

聡太は達弥が一人で見てるスタジオへ行った。

達弥は入り口の所にあるプランターの花に水をあげて手入れをしていた。


聡太が近寄ると、達弥が顔をあげた。


「聡太くん。」


達弥はゆっくり立ち上がった。


「珍しいな。どうした?こんなとこまで。」

「昨日、舞輝に好きだって言いました。俺んとこ来いって。」

「え?」


達弥は固まった。

聡太くんも舞輝を好きだったのか。


「翔と舞輝のダンスを見て一目惚れしました。俺は、達弥さんだから舞輝を諦めたんです。でも、今の達弥さんには舞輝を任せられない。

俺が舞輝をもらいます。」


聡太は振り返って歩き出した。

達弥は呆然と立ったまま見送ることしかできなかった。



聡太くんはもう、何年も舞輝を想い続けていたんだな。

俺だから身を引いたか・・・。


スタジオの真ん中で寝転がって考えていた。


翔くんや聡太くんにあるキズナは俺なんかに敵うなんて思ってもいない。

俺が舞輝を想う気持ちも始まったときからなんにも変わっていない。

考えても出てくる答えはひとつだった。


俺は舞輝を愛してる。

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