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第4話

「もう、出よう。」


達弥の言葉に陽子は黙って頷いた。

24時間営業のファミレスで朝を迎えた。


陽子の顔には殴られた痕が青紫になっていた。


「ホントにいいのか?警察行かなくて。」


黙ったまま首を横に振る。


「送るよ。」

「帰りたくない。」

「じゃぁ、どこに行くんだよ。」

「行くとこない・・・」


付き合っている男が突然帰ってきて口論になり、別れ話を切り出すとおもいきり殴られた。

散々殴る蹴るを繰り返すと男は家を出て行った。


次はきっと殺される・・・


陽子はカバンだけ持って家を出てきた。


「ホテルの部屋取るから、今日はそこで一日体休めたらどうだ?今日の分は俺が払うから、一日考えて、もう一泊するなり、友達頼るなりしたら。」

「うん。ありがと。」


達弥は陽子の住んでる町から少し離れた場所のビジネスホテルに部屋を取ってあげた。


「俺、帰るから。なんかあったら連絡してくれ。」

「ごめんね・・・達弥。」


達弥は舞輝に電話をした。

何度かけてもでない。

家にかけてもでなかった。


不安が過ぎる。

達弥は急いで家に向かった。


「舞輝!」


静まり返った家。

どうやら舞弥も舞輝もいないようだ。


達弥はまたケータイをとると舞輝にかけた。

舞輝はでることなく、むなしく呼び出し音だけが鳴り続けていた。

いつもどおりスタジオを開けなくてはならない。

いくら今日は夕方からと言っても、やることは山のようにある。

達弥はシャワーを浴びて、家をでた。






「おはよっ!」

「おはぁ!ってなんでこっちからきたんだ?」


翔が首をかしげた。


「それは、寮からきたからよ。」

「そっか!だから俺達と一緒・・って、えぇ?」

「舞輝、お前・・・」

「でてきちゃった。」


舞輝は舌をペロッと出していった。


「舞輝は舌をペロッと出していった、じゃねぇよ!!!どういうことだよ?」


聡太が興奮しているのがわかった。


「なんでって・・・。」


舞輝は昨日のことを話した。


「舞弥ちゃんは?」

「実家に預けてきた。しばらくここにいる。」

「スタジオは?」

「今日から稽古入るから、教えほとんどないの。」

「舞輝なんで・・・」

「もう、我慢できなくなっちゃって。平気な顔してるのが・・・辛くなっちゃった。」

「達弥さん、すぐに迎えにくるぜ。」

「もう、取り次がないように事務に言ってある。家族でも。しばらくは、無理。」


舞輝は早足で稽古場に向かった。


「あいつ、大丈夫か?」


翔が心配そうに言った。


「あぁ。」




「こんにちわ」

「あら、舞弥ちゃんのお父さん。どうしました?」

「舞弥は?」

「今日からしばらくお休みしますってお母さんからお電話いただいておりますけど?」


達弥は舞輝の実家に電話を入れると、舞弥は舞輝の母親が見ていた。

スタジオ閉めたら迎えに行くと言うと、


「達弥さんの仕事が忙しくて、自分も稽古があるからってしばらく預かることになってるから大丈夫よ!」


と言われた。


 帰ってこない気か?



「おはようございます。」


生徒さんが続々とやってくる。


「おはようございます!」


いつもどおりに達弥は振舞った。


「舞輝先生の次の舞台どんなお話なんですか?」

「またお姫様だってむくれていました。」

「かわいいのに!お稽古今日からですもんね!早く見たいです。」


 そうだった。

 今日から稽古だ・・・

 何やってんだ・・・俺は。

 


スタジオを閉めてから舞輝に電話したが、やはり繋がらない。メールの返信もなかった。

家に帰っても、午前中帰ってきたときとなんにも変わらなかった。

舞輝は出て行ったんだ。

稽古に入ってるから、スタジオでも会う機会はほとんどないだろう。

いる場所はわかっていた。

達弥は翌日、カンパニーの受付に行ってみた。

しかし、受付の人から家族でも取り次げないといわれてしまう。


達弥はスタジオに行ってタイムスケジュールを見た。

稽古がない日にこっちにくるはず。

その日を待つことにした。

それまでに舞輝のキモチも落ち着くかもしれない。



数日経ったある日、スタジオを閉めて家に帰ると、外に洗濯物が干してあるのに気づいた。

達弥がスタジオにいる時間に舞輝は家に着替えを取りに帰っていたのだ。

レッスン着もなくなりかけて困っていた。

達弥は舞輝がいないとなんにもできないんだと改めて思い知らされる。

いつも喧嘩しても2日以上家を空けたことなかった。

すぐに達弥が迎えに行って仲直りする。



【帰ってきてるんだな。洗濯ありがとう。ちゃんと謝りたい。帰ってきてくれ。】



外の空気を吸いにエントランスに出ていた舞輝は、達弥からのメールを読んでそっとケータイを閉じた。

どうしたらいい、とか、どうするべきか、とか、考えてもなんにもでてこなかった。

ただボーっと。ビールを飲みながら空を見上げて星を見てる。


「よっ、飲んだくれ。」


舞輝の横に翔が座った。


「一日のご褒美だもん。一本くらい許してよ。」

「食堂に来なかったな。食った?」


舞輝は首を横に振った。


 こりゃ重症だな。


翔はタバコを加えて火をつけた。


「あたしにも一本ちょうだい?」

「舞輝。」

「ダメ?」

「ダメじゃないけど。吸ったことあんのか?」


少なくとも翔は見たことなかった。


「ない。」

「かなり落ち込んでるんだな。」

「・・・・」


もらったタバコに火をつけて思い切り吸ってみた。


「げほっ!ゲホッ。」

「どうだ?ストレス発散できたか?」

「・・・できない。」


翔は煙で涙目になっている舞輝を抱き寄せた。


「無理しないで泣けば?」

「借りていいの?」

「安くしとく。」

「サンキュ・・」



 あたしは、翔の胸でおもいっきり泣いた。

 翔はあたしのことよくわかってる。

 すぐ見抜かれちゃう。

 こうして黙って泣き止むまで胸貸してくれる。

 楽だよ・・・翔や聡太といるほうが。



翌日、舞輝は午前中の稽古を終えて、スタジオに向かった。

散々泣いたら少しすっきりしていた。

スタジオに入ると、達弥のレッスン真っ最中。

舞輝は素早く更衣室に入った。

着替えて、次のレッスンの生徒さんの受付や自分のストレッチ。


「先生やせたぁ?」


なんて声かけられて話していると、達弥のレッスンが終わった。

達弥がこっちに寄ってきたのがわかった。


「お疲れ。」

「お疲れ様。引継ぎしよ?」

「あぁ。」


舞輝と達弥は受付のとこで引継ぎをした。


「了解。お疲れ様!」

「舞輝・・」

「スタジオまかせっきりでごめんね、今日はあたしがやってから帰るから、帰ってゆっくり休んで。」

「いやっ、舞輝っ!」


達弥の言葉は聞かずにレッスンにいってしまった。

達弥はもちろん帰るつもりはなかった。

なんとしても話したかったから。


デスクにあるケータイがブーブーいってるのに気づいた。

陽子からだった。

あの日以来連絡を取っていなかった。


「もしもし?」

「達弥?」

「あぁ、落ち着いたか?」

「おかげさまで。迷惑かけちゃったわね。」

「いいよ。で、今はどうしてる?」

「友達のとこ転々としてる。」

「そっか。」

「それでね、お願いがあるの。実家帰ることにしたの。荷物と一緒に送ってくれなかしら。」

「わかった。俺もそれが一番いいと思うよ。」

「うん。じゃぁ。」

「あぁ。」


 これで、陽子にお節介やくのは最後にしよう。

 それで、舞輝と舞弥を迎えに行こう。


達弥はスタジオに戻った。

楽しそうに教えをやっている舞輝がいた。

ホントは傷ついてるに違いないのに。いつもどおりに振舞っている。


舞輝のJAZZのレッスンは全員女子。

達弥は男子更衣室の掃除をすることにした。

特にシャワー室に重点をおく。

終わって更衣室を出ると、ちょうどレッスンが終わったとこだった。


「お疲れ。」

「お疲れ様。」


舞輝は汗を拭きながら、ストレッチを始めた。


「掃除手伝うよ。」

「明日もスタジオ開けなくちゃいけないんだよ?今日くらいゆっくりしたら・・」

「できないよ。」

「・・・・。」


達弥はモップがけを始めた。

舞輝は鏡やバーの吹き上げ。


舞輝はシャワーと着替えと掃除に更衣室に入った。

きっと待ってる。

どうしたもんか?と舞輝は思った。


更衣室から出ると、達弥が鏡の前で踊っていた。

舞輝に気づいて、動きが止まった。


「帰って・・・こないのか?」


舞輝は黙っていた。


「帰ってこいよ。」


舞輝は首を横に振った。


「舞輝・・」

「ごめん・・・」


舞輝は荷物を持ってスタジオを飛び出した。

達弥は後を追った。


「待てよっ。」


達弥は舞輝の手を掴んだ。


「話し聞いてくれないのか?」

「明日、早いの。帰るね。」

「こっちに帰ってこいよ。」

「今は舞台に集中したいの。ごめん。」


舞輝は手を払いのけて車に乗ると、エンジンをかけて発進させた。


立ち尽くす達弥がどんどん小さくなっていく。


 ごめん・・・達弥さん

 今はまともに顔見て話せないよ。











  




















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