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第2話

翌日。


いつもどおりにみんなで朝ごはんを食べると、舞輝は大きなスポーツバッグを持って家を出た。


「舞弥のお迎え行ってからスタジオ行く。」

「わかった。こっちの心配はいらないからおもいっきり踊ってこいよ。」

「ありがと。舞弥後でね!」

「ママいってらっしゃーい!」


車を発進させると、舞弥が大きく手を振ってお見送りしてくれた。

都内にあるアカデミー生が日々レッスンに励むスタジオで、舞輝たちも舞台のないときはレッスンに通う。

徒歩1分の寮に行けば、食堂でおいしいご飯にもありつけられる。


レッスン着に着替えてスタジオに行くと、


「舞輝!」


翔が手を振った。


「おはよ!」


舞輝は他の団員に挨拶しながら真っ直ぐ翔と聡太のとこへ行った。


「今日も教えあんのか?」

「うん。夕方から。」

「あっちもこっちも大変だな。」


聡太は腹筋をしている。


「まぁね。楽しいよ、教えるのも。」


荷物を置くと、早速開脚してストレッチを始めた。


「ねぇ、お昼ごはん食堂行く?」

「あたぼう。」

「二人に聞いてもらいたいことあんの。」

「マジ?なんかあった?」

「まぁね。」


二人は顔を見合わせた。

舞輝から相談したいことがあると言ってくるのは珍しい。

なんかあるに違いない。



舞輝はレッスンに入ると、悩みなんてどっかいってしまうくらいの集中力がある。

そして、翔も聡太も惚れ惚れする舞輝の踊り。

かつては二人とも、舞輝に惚れていた。

振られたけど、そのおかげで友達以上のキズナもある。



ガラス張りのスタジオでは、レッスンを終えた研究生が舞輝の踊りを見て惚れ惚れしている。

トゥ・シューズのレッスンを入れて2時間のレッスンをこなした。


「今日はこれまでにします。」

「ありがとうござました!」


「暑い!」


汗だくで聡太が床に倒れこんだ。


「もう、そんなんで寝転がんないでよ。聡太がダスキンかけてよ。」

「マジかよ?勘弁。」

「ダメよ。はい。」


舞輝は聡太にダスキンモップを渡すと、座ってシューズを脱いだ。


「くさぁっ!」

「嗅ぐなよ!」


翔が大笑いしてる。


「おまえら手伝えよ!」

「あはは!嫌だよ。」

「聡太頑張れ!」


聡太のモップがけが終わると、次のレッスン着に着替えて食堂に行った。


「あぁお腹すいた!」


舞輝のお皿はすでにてんこ盛りに盛られている。


「バレエの後は異常に腹減るんだよな!」

「そうそう。」

「やっぱわかんね。」

「いい加減慣れて?」

「何年いても、理解できねぇよ。お前らの食欲には。」


ホントに。

よくそんなんでリフトができたもんだ。


「いただきまーす!!!!!」

「気になって仕方ないんだけど。」

「何が?」

「さっき、聞いて欲しいことがあるって。」

「あぁ!そうなの!教えってやってみない?」

「教え?舞輝のスタジオでか?」

「うん。ワークショップ的な感じで。例えば、翔ならアダジオとか。」

「うん、喜んで引き受けるよ。」

「ほんと?達弥さんも喜ぶ。聡太にも是非。」

「俺はなにもできないよ。二人みたいにうまくない。」

「そんなことないよ。あたしや翔にもってないもん聡太にはあるよ。」

「俺もそう思う。」

「やっぱ聡太はモダンがいい!」

「そうだな!聡太の表現力は劇団1だ。」

「そうか?でも、モダンやコンテンポラリーは教えられる。」

「決まり!予定合わせて、受講者集めてやってみようよ!ホームページで非会員の人もOKにして載せて。」

「インストラクターか・・・一度やってみたかった。」

「よかった話してみて。」


一息つくかのように舞輝は黙った。


「なぁ、舞輝、他にもあんだろ?話しが。」


翔が言った。


「うん・・・・。実はさ・・・達弥さんが前に付き合ってたっていう女の人と昨日再会したらしくて。13年ぶりに会ったのもなんかの縁だから相談のって欲しいって言われたらしいの。」

「うんうん、断ったんだろ?」

「それが、OKしたみたいで。」


「んぐっ」翔が食べていたナポリタンを噴き出した。


「マジかよ・・・なんで。」

「ほっとけなかったみたい。」

「ほっとけなかったって?」

「単に優しいからよ。あたしが気になってるのは、相手のほう。」

「元カノ?」

「うん。より戻したいんじゃないかな。」

「なるほどな。」

「達弥さん断れよっ」


聡太が苛立っている。


「ごめん、聡太。へんな話ししちゃって。」

「違うよ。舞輝が悪いんじゃない。達弥さんの優しさにもほどがある。」

「うん・・・多分、達弥さんもわかってるんだと思う。だから話してくれたんじゃないかな。」

「どうすんだよ、達弥さんだって男だからな、良くない方向に行く可能性あんぞ?」

「信じるほかないでしょ。あたしもさ、怒ればよかったのかもしれないけど、力になってあげれば?なんて言っちゃって。」

「舞輝も人がいいにもほどがあんぞ。」

「あたしもそう思った。だから相談してるんじゃない。」


翔と聡太はため息ついた。


「それっきりで終わればいいけど。」


舞輝もため息。


「あまりにも怪しかったら、ケータイチェックとかしたほうがいいかもな。」

「ん〜。そだね。様子見てみる。」

「そうするしかないもんな。いまんとこ。」

「だな。さ、飯の続き。」

「聡太ごめんね。箸止めさせて。」

「気にすんな」

「なんで俺には言わないんだよ?」

「翔のは着実にお皿が綺麗になっていってますけど?」

「俺だって心配してんだぞ!!」

「わかってる、ごめんね。」

「気にすんな。」

「それが言いたかっただけじゃ・・・」

「まぁな。」


翔はおかわりに席を立った。


「ホントに平気か?なんかあったら言えよ。」

「聡太ありがと。」




午後のレッスンを終え、舞輝は翔たちと別れて舞弥の幼稚園に向かった。


「お世話様でした。」

「ママァ〜!!!!」


舞輝をみつけると、舞弥は教室の端からもうダッシュで走ってきて舞輝に飛びついた。


「おもっ・・・」

「今日、お遊戯でダンスやったんですよ。舞弥ちゃんはホントに上手ですね!」

「舞弥上手だったって。よかったねぇ!」

「うん!」

「覚えるのが早いんですよ。その後、自由時間に鏡に向かって一生懸命踊ってました。」

「お遊戯をですか?」

「いいえ、HIP-HOPっていうんですか?かっこいいダンスでした。」


舞輝は目をパチクリさせた。


「・・・そうですか。舞弥、なにやってんの。」

「こないだパパに教えてもらったの練習してたの。」

「練習熱心ですねぇ!しょっちゅうですよ。」


舞輝は苦笑いのまま会釈して教室をでた。


劇団なんとかみたいなとこに入れようか。

舞輝は真剣に考えてみることにした。


幼稚園をでてスタジオに到着すると、


「今レッスン中?」

「ううん、ちょうど終わった頃だよ。」

「わ〜い!」


舞弥は車から飛び出して幼稚園バックを揺らして真っ先にスタジオの中に入っていった。


「パパぁ〜!!ただいま!」

「おかえり!」


舞弥は達弥にも飛びついた。

必ず新しく入った生徒さんにびっくりされる。


「こんなおおきなお子さんいるんですか??」


って。

見た目が若いせいで、よく言われる。

母親が舞輝だと知るともっと驚かれる。


「お疲れ様。」

「おかえり。」

「翔も聡太もワークショップOKもらった!」

「ほんとか?さすが舞輝。」

「パパ、続き教えて!」

「いいよ。ママのレッスンが始まるまでだぞ?」

「うん!ママのレッスンもでるもん。」

「そっか。じゃぁ、ママと支度しておいで。パパはダスキンかけるから。」

「はい!ママいこぉ!」


舞弥を着替えさせると、勢いよく更衣室を出て行った。

ホントに踊るのが好きなのである。

舞輝も着替えて更衣室を出た。


受付をしながらストレッチをながら生徒さんを待ちながら今日何やるか考える。


「おはようございます。」


振り返ると、愛海が立っていた。


「愛海!おはよう!受けにきたの?」

「そうよ。何か?」

「めずらし。」

「初めてだもん。舞輝のレッスン受けるの。」

「子供は?」

「実家。疲れちゃったから実家に預けてきた。たまには一人で好きなこともしたいってとこ。ストレス発散もしないとね。」

「そうだよね。」

「舞弥ちゃん、また大きくなったんじゃない?」

「うん。」

「うまくなったねぇ。」


感心している。


「達弥さんの子だよね。HIP-HOPはずば抜けて飲み込みが早い。」

「うん。でも、踊ってる時の顔は舞輝にそっくり。」


愛海は目を細めた。

続々と集まってくる生徒さんたちは舞弥の踊りに釘付けになっていた。


「よし、今日はここまでな。」

「うん、ありがとう!」

「お疲れ様。舞弥、パパと帰らなくていいの?」

「うん!ママのレッスンもやる。」

「そっ、じゃぁ達弥さんお疲れ様でした。」

「夕飯どぉする?」

「そうだな・・・」


舞輝が考えてると愛海が会話に入ってきた。


「今夜借りちゃダメですか?久しぶりに子供置いてゆっくりできそうなんです!あんまり遅くならないようにするので!」

「愛海ちゃん!ごめん気づかなかった。」

「ひど・・・」

「ホントごめん、じゃぁ舞輝をよろしく。舞弥いていいのか?たまには女二人でいけば?」

「でも、レッスン受けるって言うし。」

「じゃぁ、帰らないでここにいるよ。終わったら舞弥連れて帰る。」

「いいの?」

「いいよ、行っておいで。」


 ホント、優しいんだから。


「ありがと。」

「達弥さん、ありがとうございます!」

「舞弥頑張ってこいよ、見てるからな。」

「うん!」

「では、始めマース!もっと前に出てあげてくださいね!後ろの人バーにぶつかっちゃうから!」


音楽が鳴り出す。


「ストレッチからいきまーす!足開いて頭下げてください。」


舞輝の元気な声がスタジオに響く。

達弥は受付に座って今日のレッスン代の集計を始めた。

すると、ケータイが”ブー ブー ブー”とバイブが鳴ってるのに気づいた。

陽子からのメールだった。


【少し話せないかしら?】


達弥は、外に出ると陽子に電話をかけた。


「もしもし・・・」

「もしもし。どうした?」

「ごめんなさい・・・寂しくて。」

「なんかあったのか?」

「今付き合ってる人が・・・付き合ってるんだかないんだかわからないけど、帰ってこないの。」

「いつから?」

「先週から。どうしたらいいかわかんなくて。」

「そうか・・・ごめんなんにもしてやれないな。」

「いいの。こうして話し相手になってくれれば。ありがと。」

「明日はどうだ?話し聞くよ。」

「うん。大丈夫。」

「じゃぁ、明日。」

「えぇ。」


達弥は電話を切った。

噂には聞いていた。陽子は男ったらしで、かまってもらえないとすぐに別の男を作って捨てる女だと。

寂しくなって他の男と遊ぶ。その男のが新鮮で楽しいから乗り換える。

きっと、自分のときもそうだろうと思っていた。

別の男ができてそっちに行きたかったのだろう。

気づかない振りして陽子との思い出を楽しかったままにしたかった。

でも、自分がほったらかしにしたからそういう女になってしまたのかもしれない。

少なくとも自分にも原因があると思っている。


「達弥さん?」


振り返ると、舞輝が立っていた。

聞かれたか?

少し焦った。


「舞輝、どした?」

「水分休憩と靴。」

「そっか。」

「電話?」

「うん。友達から。」

「そう、いないからどおしちゃったのかと思った。」

「今戻るよ。」

「うん。」


いつもなら気に留めない舞輝が今日は外にまで出てきた。

きっと気にしているのだろう。

舞輝は達弥のプライベートに口を突っ込まない。

電話してても、飲んで帰ると言っても、気にかけない。

ホントは誰とどこで飲んでるのか気になってるに違いないのだけど。

それは舞輝なりに達弥を信じているから。


陽子のことで、舞輝の口から”信じてるから”と出たことはイコール不安。

達弥はため息をついた。



中に戻って、レッスンを見ながら事務作業。

ふと、舞輝を見た。

この姿に惚れた。

舞輝の楽しそうに踊る姿。おいしそうに食べる姿。

もし舞輝が自分のものになったら、こいつだけは絶対離さないと心に誓った。

なのに・・・離すつもりはなくても、陽子の存在は無視できない。


 どうしたらいい・・・


事務作業が済む頃、舞輝のレッスンも終わった。


「お疲れ様。」


生徒さんに声をかけながら、ダスキン片手にフロアーに出た。


「達弥さん、あたしやるから!」

「いいよ、早く着替えてこい。シャワーも浴びないと、これからでかけるんだろ?」

「そうだけど。」

「俺はそんなに疲れてないから。舞弥と片付けしてからご飯食べて帰るからさ。気にしないでゆっくりしてこいよ。」


後ろめたいのか、舞輝に気をかけてしまう。


「じゃぁ、遠慮なく。」

「舞弥、着替えておいで。」

「はーい!」


舞輝は達弥の言葉に甘えてそうすることにした。


「ねぇ、どこ行く?」


愛海は大はしゃぎ。


「ご飯食べてお茶して、ドライブでもする?」

「女同士で?」

「うん。」

「味気ない?」

「とっても。でもいっか♪」


着替えてスタジオに行くと、舞弥と達弥が一緒になって鏡の拭き上げをしていた。


「ありがと、行ってくるね!」

「あぁ、愛海ちゃん、舞輝よろしく!」

「お借りしまーす!舞弥ちゃん、またね。」

「うん、ばいばい!」


二人はスタジオを出て、車に乗り込んだ。



























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