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第五十三話 「看板娘たち」

 最近の出来事、その一。


「――こんにちは~、小峰さん」

「今日も来たよ、相沢さん」


 ニコニコ顔で来客する、男たち。


「――いらっしゃいませー……」

「いらっしゃいませ、今日も来てくれたんですか?」


 俺と相沢さんに迎え入れられた客はなんだか癒されたような顔をしながら、案内した席に移動していく。

 着席後、必ずと言っていいほど俺か相沢さんを愛でるような目で見つめてくる。

 ……いわゆる固定ファンという常連さんが出来たことである。

 そして、


「――みません、貴女方お二人と写真をお願いしたいのですが……」


 などと、意味不明なお願いをしてくる輩まで出現しだしたという事。

 当然、断るのが当たり前。


「――申し訳ありません、当店でそのようなサービスは……」


 咄嗟に対応してくれた鳴瀬さんも苦笑しながら断りを入れていたのが記憶に新しい。

 この間までは、片隅のテーブル席で独特の雰囲気を醸し出してこちらを伺っていた『濃い方々』ばかりだったが、最近になってこのように『直接的なアクション』を仕掛けてくる奴も現れたのである……。

 まあ、なんだ。

 俺と相沢さんが客寄せパンダのように機能し、店の売り上げに貢献できているという証拠でもある。

 ……話がそれてしまったが、そんな事よりも注目すべきところは相沢さんの人柄だ。


「――その制服、月御影つきみかげ学園ですよね? いつも隣町からありがとうございます」


 例えばこのようにオーダーを取りに行った時、同年代の学生などには、見た目の情報(制服)を会話のトピックとして、自分から話しかけたりする相沢さん。

 なんというコミュニケーション能力だろうか。隣町の共学校まで知っているとは……。

 そんな彼女の明るいキャラクターと親しみやすさで、この放課後の時間帯は結構ハードに忙しく、相沢さん目的で来店するお客もいるくらいだ。

 反面、俺は人と話すのが苦手なほうで、基本的に相沢さんのように自分からは行かない傾向がある。

 注文を受け取る時や、商品を提供するためにテーブルへ行く時にしか客に話しかけない事が大半だ。

 だからこそ、最近の常連さんは俺目的でなく、やはり素敵な相沢さん目的に来店しているのだと断言できるかもしれない。

 俺は目の前で輝いて見える相沢さんを眺めつつ仕事をこなしていた。


「――こ、小峰さんっ、これを受け取ってくださいッ!」


 そう、さり気なく俺にプレゼントらしき箱を差し出してくるこのお客さんは、何か血迷って渡す相手を間違えているに違いない。

 ――全く、冗談にしても笑えんよ……。ははは……。

 などと現実逃避してもそれは虚しいだけなので、とりあえずのお礼を言いつつ受け取る俺。

 実はこのような光景は俺を含めて、この喫茶店では珍しくない。

 皆がみんな美人さんで、ホールに出ている相沢さんも鳴瀬さんも毎日1~3個くらいの贈り物がある。

 内容物は洋菓子などの甘い食べ物がほとんどで、たまにラブレターも入っている事があり、そのバリエーション(?)は様々だ。


「――うぅ~~っ」


 ついさっき、


『――さすが小峰さん。モテますね~、うふふ……』


 この贈り物を自分のロッカーに入れようと移動していた所を鳴瀬さんに見つかり、からかわれてしまったのを思い出す。

 ……『小峰』と書かれたロッカー前でどうしたものかと思い悩む俺だった。




 そして最近の出来事その二。

 それは固定ファンの中で出来ている『暗黙のルール』である。

 俺と相沢さんを含めて鳴瀬さんまでフロアスタッフとして機能しているこのお店では、各自に固定ファンがいる。

 故に自動的に個人を目当てに来店する客も多くなるという事は、それだけの人数がこの喫茶店に押し寄せてくるという事である。

 ――店がパンクするんじゃないか?

 などとふとした事考えたこともあるが、実際の所そういったアクシデントは起こっていない。

 皆がみんな、いつもの定位置でお茶とケーキを楽しんでいるだけだった。

 そこで、


「――いつもの方々は決まった区画からはみ出さずに収まりますね。7番・8番の大テーブル席が指定席みたいに思えてきました」


 と、斎藤さんに聞いてみたことがある。


「――ああ、それね。どうも一致団結した彼らが貴方たちを『愛でる会』を組織したみたいでね……」

「はい? なんですかそれ?」

「名前までは分からないけど、貴女達と他のお客さんに迷惑をかけない為に、愛でる会の人たちが『来店スケジュール』を組んだみたいなの」

「え、えーっと……?」


 ――……聞きなれない単語がバンバン出てきたが、詳しく聞いてまとめるとこうだ。

 俺たちフロアスタッフと一般客に迷惑をかけない為に、一日の来店人数を愛でる会の人達がローテーションでシフトを組んだそうで、一日10人まで来店できると制限をかけたらしい。

 そこには俺たちが心地よく、負担にならないように。

 そして一般客も今まで通り来店できるようにという配慮かららしい。


「――だからこの前、小峰さんと相沢さん。そしてナルちゃんの出勤日聞かれちゃって……」

「誰にですか!?」

「その愛でる会の会長さん。名前なんだったかなぁ……?」

「そ、それで教えたんですか?」

「流石に個人情報だから教えなかったけど、会長さんの配慮は助かると思うんだよ、私は」

「そ、そうですね……」


 俺たちの出勤日を聞くことで、ピンポイントで目当ての店員の日に当たることができる。

 会員のシフトも組みやすいという理由から聞いてきたのだろう。

 ――だからといってそこまでするのか!?

 と考えてしまうが、ここまで自発的に組織が立ち上がり、スステムが出来上がるという事は、行き当たりばったりで来店して迷惑をかけるという行為が無くなるという事だ。

 自分で言うのもなんだが、ココのお店のファンはやたらマナーがいい。

 自分たちのためにそこまでしてくれるファンクラブの人たちに少し好感を得た事は驚きだった。

 ちなみに、


『――ねえ、ミユキちゃん。貴方とちーちゃんが来てくれたおかげでほら……』


 この前、久しぶりに支店から来てくれた新藤さんが売り上げの変動表を見せてくれた。

 俺と相沢さんが加入してからその売り上げのグラフが右肩上がりで、枠をブッちぎる勢いだったのだ。


『――給料日は月末だけど、、ちょっと色つけとくからね。期待してて』

『ほ、ホントですか?』

『うん、ミユキちゃんってお給料貰うの初めて?』

『そうです。ここが初めてのアルバイトですから』

『そうなんだ。じゃあ楽しみだね、お給料』


 なんてテンションが上がる事を言ってくれるオーナさん。

 ――ノリは軽いけど、やっぱりいい人だなぁ。

 新人の俺ごときにも、ボーナス的なお金をくれる懐の広さはすごいと素直に感心した。


『――そう、初めてなんだ。…………私が初めての(振込み)相手、か』


 意味ありげな色目を俺に向け、ニヤニヤする新藤さんは、光速で電卓を叩きまくり、俺たちの給料を算出していた……。

 ――最後の一言が無ければッ!!

 これほど素晴らしい女性なのに、なぜ自分からそのイメージを壊しに掛かるのか。

 残念美人とはこういうものなんだと、俺はため息をついたのだった。




 そして最後に、最近の出来事その三。

 それは先日から起こっている、『挑戦者問題』の事だ。

 俺のファンという括りで間違いないが、先ほどの愛でる会とは一線を引く集団である。

 小峰美幸と『結婚』したいと考える男たちであり、直接的な行動が主な点だ。

 しかし、この前報告したように、俺と闘う前に小峰道場にて『適性試験(?)』があり、挑む男たちは元さんを筆頭に、頼れる門下生たちが挑戦者をなぎ倒しているという現状だった。

 一度道場で負けると、諦める人と諦めきれない人の二つに分かれ、諦めきれない人はそのまま道場に入門し、己を鍛える。

 逆にキッパリ諦めた人は、愛でる会に入り、喫茶店にて俺に会いに来るという流れが定着してしまった。

 ちなみに『愛でる会のミユキ派(?)』のリーダーは、俺のよく知る青山慎二さんだ。

 どこからか湧いてきて、知らぬ間に組織の幹部クラスにまで上り詰めていたのだから驚きだ。

 数日前、突如道場に現れたので、特別に相手をしてやったのが記憶に新しいが、この詳細はまた別の機会にしておこう。

 ……まあなんだ、こっちはこっちで一応の落ち着きを見せてくれたという事だ。

 しかし……だ、


「――小峰さんの仕事着……。いいな……」


 ウチの学園、綾菱の生徒も結構常連さんになりつつある。

 だからこそ自然に見知った顔が現れる事も至極当然の事で、綾菱学園の『小峰美幸ファンクラブ』←(ややこしいなこれ)の会長も今では見事に常連さんだった。

 そう、いつぞやの放課後に、剣道場でマキと闘って敗北した酒井先輩の事である。

 正統派ファンクラブ(?)の会長である酒井先輩だが、ココでは愛でる会が絶対だ。

 だからこそ来店スケジュールのシフトにも協力的だし、マナーも守ってくれている。


「――酒井さん、いつもありがとうございますっ」


 売り上げにも貢献してくれている先輩にはお礼の意味も込めて、毎回挨拶はするようにしている俺だった。


「――……っ」


 ――……しかしあの、これ見よがしなガッツポーズは何なんだ?

 結構目立っている先輩に俺は微妙な気持ちになるのだった。

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