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第五十二話 「挑戦者たち」

投稿が遅れました。


ここの所、小説書かずにミユキの絵(第46部『キャラクター紹介』にて公開中)ばかり描いていました。


申し訳ないです。

 さて、マキと慎二の関係が新たになった(?)日から数日後。

 本日も頑張ってアルバイトに励む俺は、余りの来客の多さに目を回しかけていた。


「――本日の日替わりケーキと紅茶のセットですっ」

「こちらはフォンダンショコラとミルクティー承りました」


 俺と相沢さんが店内を回り、接客。

 できるだけスマートな対応を心掛けて注文を取る。


「――3番テーブルのお客様お帰りです、小峰さんレジお願いしていいですか?」

「は、はいっ」


 注文だけではいかないのがフロアスタッフ。

 油断していたところに、鳴瀬さんの声が入る。

 ――うおぉ、足がもつれそうだよ。

 何とか会計を行う為にレジへと急行し、何とか作業をこなす。

 ――休日でもないってのに……。

 思わず悪態をつきたくなるが、これも自業自得で理由は分かっているのがムカつく。

 ……現在お店が大盛況な理由は只一つ。

 元さんとマキが何とも男らしい決意をしたあの日の出来事に他ならない。


 ……まあ、要約すると二人が人目のあるこの場所で俺との結婚話を始めた事が切っ掛けだった。

 その時に『小峰ミユキを負かした者が婚約者として認められる』的な会話をしていたのを、来店客(俺のファンの方々)に聞かれてしまい、その噂が拡散してしまったのである。

そこからその話に尾びれと背びれが付いて一人歩き。

 結局『小峰ミユキをモノにしたかったら、ミユキと闘って勝てばいい』という話に纏まり、最近俺に挑戦してくるアホな野郎どもが後を絶たず、群がる結果となった。

 ――来店客の多い理由がこんな不純な理由とは……。

 案の定、今まさに会計をしようとレジを打ち終えた俺に向かって、


「――こ、小峰さん! 俺と勝負してくださいッ!」


 頭を下げて告白スタイル。

 ――なんで喫茶店の従業員一人に、喧嘩または試合を申し込んでんだよ、コイツ……。

 冷静に考えなくても呆れてしまうが、ココの所こんなんばっかりで困り果てている俺だった。

 新藤さんや斎藤さんに現状の説明と、迷惑をかけている事への謝罪もしたのだが、


『――いやいや、ミユキちゃんのおかげでお客さんも増えてこっちとしては嬉しいよ?』

『そうそう、ちゃんと飲食してレジでお金払ってからの「勝負してください」って挑戦だもの』

『さすがミユキちゃんのファンだけあって、一応のマナーはあるんじゃない? 店内で騒いだりしないし、帰るときにみんな行動に出るんだから……』

『まあ、何か問題が起こったら私と新藤さんが考えてあげるよ。だから今は様子見でいいんじゃない?』


 などと、寛大すぎる御言葉を頂いた。

 ――と、いいつつも。

 こんな所で手合せするわけにもいかない(当たり前だが)ので、ココからは『いつも通りの対応』をする事になる。

 レジカウンターの下からプリントを取り出して目の前の男に突きつける。

 目の前の挑戦者は俺の行動に疑問を覚えるも、


「――貴方の用件に関しては、このプリントに詳しく書いてあるので、今日の所はお引き取りを……」


 俺はいつものように慣れた対応をして笑顔を振り撒きつつ、お引き取り願う。


「――えっと、お客様? こちらお釣りの326円です」

「えっ、ああっ!? すみません……」


 俺から渡されたプリントに目を通していたのか、釣銭を渡すタイミングがずれてしまう。

 男性客は俺に頭を下げつつ、何とかお帰り頂いた。

 ――全く、何とも複雑だよなぁ……。

 レジカウンター下のプリントを軽く触りつつ、俺はため息だ。

 …………さて、ここでこのプリントの事を説明しよう。

 あの変な噂で厄介な事になってから、関係者の元さんが事の鎮静化に動き出してくれたのだ。

 プリントの内容は主にこうだ。



 ――小峰ミユキ嬢に好意を持ち、試合を申し込んだ方へ。

 この件に関しては本人ではなく、まずはミユキ嬢の実家が経営する『小峰道場』へ来られたし。

 本件に関しての詳しい話は担当の望月元が伺います――


 と、明記してあるのだ。

 つまり、このプリントを挑戦者に配布し、元さん含むウチの門下生が対応するというシステムなのだ。

 ――こっちはプリント渡すだけだけど……。

 今の流れから分かるように、こんなニセモノ女子(?)に好意を抱いてしまった男が、噂通り俺目当てに来店。

 そこから挑戦するために俺に声をかけるも、元さんの下へ行くように指示するプリントを配布。

 そして小峰道場へ行くように仕向けるという段取りだった。


「――ミユキ、もしかしてさっきのお客さん……?」

「うん、私に『勝負してください』だって……」

「あはは、なんでこんな可愛い子と試合なんて挑むんだろう?」

「……何でだろうね?」


 レジからフロアへ復帰した時に相沢さんに声をかけられた。

 先ほどの会計の時の一幕を見られていたようだ。

 ――相沢さんは知らないんだよな……。

 勿論の事だが、相沢さんは俺が『強い』という事を知らない。

 昔からの親友、『小峰美幸』さんだと思っているのである。

 だからこそ、俺への『挑戦』という男たちの行動は理解できないと思う。

 俺が逆の立場だったとしても同じように理解できなかっただろう。

 しかし、俺は強いのだ。

 小峰の跡取りなので、一応はそこそこ出来るのである。

 ……さて、話は長くなったが、この後の段取りと構図を説明しておこう。

 先ほどの男性客は、指示通りに動いたとして、まず小峰道場に行くだろう。

 そこでは元さんは勿論、門下生の方々が日々練習と鍛錬に打ち込んでいるはずだ。

 ここで挑戦者がウチの門下生、または元さんから説明を受けるのだが、内容は単純だ。

 ――『小峰ミユキに挑むならそれなりの腕が最低限必要である』。

 という事で、道場の皆さんによる試験的な手合せが行われる。

 挑戦者が小峰道場の門下生の誰かと手合せして、勝つことが出来たら、改めて俺と手合せできるという流れになるのだ。

 簡単に言えば、元さんたちが俺の代わりに闘ってくれるので、俺自体の負担は今のところ何もない。

 報告を聞くと、訪れた挑戦者の方々は門下生に秒殺。

 骨のある奴は今の所ゼロと言うことだった。

 ――これなら早くこの騒動も鎮火するかな……。


「――……ふぅ」


 空いたテーブル席を片付けつつ、そんな事を考えているが、話はまだある。

 負けた挑戦者の方々の中で、未だに俺を諦めきれていない人達が存在しているらしい。

 そんな彼らは、わざわざウチの道場に入門し、己を鍛えるという道を選んで日々修行中だそうだ。

 ――い、一体何をそこまでさせる?

 ジイさんから『最近入門者が増えた』と知らされるたんびに俺はそう思うのだった。

 結局の所、面倒な事になってはいるが、喫茶店での集客率は上がり、道場では門下生が若干増えるという珍事が発生している。

 周りの人に迷惑をかけているのかどうなのか。

 最近の俺の心の中は何とも微妙な感情が渦巻くのだった。




 さて、片付けた食器をトレイに乗せてキッチンへ。

 斎藤さんがいつものようにすごい速さで厨房を廻し、サポートで一緒にいる鳴瀬さんと共に業務を処理している姿を眺めつつ、返却棚へそれらを返す。

 そのままフロアに戻ると相沢さんが待機していたので、俺も彼女の下へと移動した。


「――いらっしゃいませっ!」


 少し落ち着いたと思えばまた来店客だ。

 すぐさま反応した相沢さんが明るく笑顔で対応している。

 少しばかり慣れてきたつもりだったが、やはり俺は笑顔が微妙である。

 ――基本的に笑うのが苦手なんだろうか?

 そんな事を考えつつも、


「――お客様、ご案内いたします。2名様ですね? こちらへどうぞ」


 やらなければいけないと自分に言い聞かせ、微笑みながら頑張って業務をこなす。

 相沢さんのように見とれるくらい素敵なウエイトレスみなれるように(?)これも日々修行なのだ。

 ――なんか最近、身体を鍛えるとか、技を極めるとかの鍛錬してないよな?

 今、元さんや木刀持ちのマキに挑まれたら負けるかもしれないと一瞬不安になるも、頭を切り替え接客業務に頭を切り替える。


「――お客様、本日の日替わりケーキセットはこちらになります。よろしければいかかでしょうか?」

「あ、はい……どうしようかな」

「…………っ」


 懇切丁寧を心掛けて、スマイルを意識。

 その甲斐あってか、案内したカップル客の彼氏が俺からメニューを受け取ながら見つめてきた。

 ――うぉい、彼氏、相方の彼女さんが不機嫌になってるぞっ!

 いても立っても居られなくなり、俺は足早に下がることに。

 ――そんな無駄に色気を振り撒こうとか思っている訳じゃないのにな。

 目標としている理想のウエイトレスの道はまだまだ険しそうだった。


「――…………??」


 ――じゃないッ!

 何を自然と『理想のウエイトレス』になろうとしてるんだよ俺は。

 ――そうじゃなくて、今後の挑戦してくる奴らの事だ。

 適度に鍛えるか訓練しないと、今後の事に関わる。

 ――暇を作って鍛錬するか……。


「「――ありがとうございましたー!」」


 帰宅客に相沢さんと二人で頭を下げながら、俺は内心そんな事を考えていた……。

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