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第五十一話 「怪しい二人のイケナイ関係(笑)」

 マキと元さんの固い握手を目撃してから十五時間弱。

 簡単に言うと翌日を迎え、現在は普段通り学園へ向かっている途中だった。

 だがしかし、今日はマキが居なかった。

 どうも遅刻しているのだろうか、いつも合流する駅改札で会うことが出来なかったのである。


「――水鏡君どうしたんだろうね?」

「気にする必要ないですよ、千歳さん。というか、あんなにあからさまに『結婚』したいなんて姉さんに言ったんですよ? もう、私は激オコですよ」

「あはは……、美月ちゃんは相変わらずだね」


 何というか、美月はあの時突然の展開に頭が回っていなかったようで、のちに冷静になり『いつもの病気』が噴出していた。

 ――敵意というか、まあ、負の感情がモクモクと込み上げておりますね。

 マキと良い感じに仲良く出来ていたように見えたのに、どうしたのだろうか。

 マキと元さんの二人に対する認識が変わってしまい、美月にとってあの二人は『最重要警戒人物』に指定されてしまったらしい。


『――姉さんを私から奪おうなんて……万死に値します……。ふ、ふふふ……ふ・ふ・ふ』


 暗がりで体育座りして微笑んでいる妹を見ると、全力でマキと元さんを逃がさなければと考えてしまった。

 ――怖すぎるんだよ、この人。

 そう思いながら戦慄したのは記憶に新しいが、とりあえずこれは置いておこう。


「――ねえ美月、そんなに不機嫌にならないでよ。私は誰とも結婚しないからさぁ……」


 妹をなだめるためにそんな事を言い聞かせる。

 何というか、コイツのシスコンぶりには頭を抱える勢いだった。


「――じゃあ、ずっと私と一緒に居てください。今までも、そしてこれからもッ」

「卒業式で聞いたようなフレーズ言っても、無理だよ」

「なぜです?」

「聞かずとも分かるでしょ? 貴女は妹、私は姉。住んでる所も同じなんだから、離れようがないじゃない……」

「姉さんが誰かと結婚したら出て行っちゃうかもしれないじゃないですか……」


 ――野郎と結婚なんかするかっ!

 どうしても説明できないこのもどかしさ。

 好きな相手が真隣で微笑んでいるのに、告白もできない。

 ホント、何とかしてもらいたいものだ。


「――本当にミユキってモテるよね? 最近貴女目当てに男性客ばっかりだもん」


 美月の相手をして困り果てている所に、ふと相沢さんが楽しそうにそんなことを言ってきた。


「――やっぱり可愛い子は愛でたくなるのかな? 私も愛でるの大好きだし~……えいっ」


 ぎゅっと左腕に柔らかな感触が俺を包み込む。

 ――うわぁぁッ!?

 あろう事か、相沢さんがふざけて俺に急接近。

 何のためらいもなく、魅惑的なソレを押し付けてくれてはります。←(パニックによるエセ関西弁または京都弁)。


「――ミユキは可愛いね。それにココも大きいしっ♪」

「うひゃっ」


 密着しつつ俺の胸にソフトタッチ。まるで流れるような作業に反応できなかった。


「――ち、千歳さん!? なんて大胆な……ッ。うらやま……じゃなかった! ずるいですよっ!」


 そして我が妹様はワケの分からない事を叫びつつ、相沢さんとは逆方向の俺の空いている左腕へと突撃。

 瞬時に完成した『両手に華』状態に、不本意ながらテンションが上がって……ではなく、戸惑うしかなかった。


「――あはは……、ごめんね、ミユキ。だけど、水鏡君と仲良くしてるとき、こういう事するんでしょ?」


 ――なんですと?


「――ほ、本当なんですか、姉さん!?」


 ――んなわけあるか! 何が楽しくて男のマキに抱き付かなきゃならんのだ!?


「――してない! そんな事してない! するはずがない!(真実)」


 それはもう、マジなトーンで素直に出た俺の気持ちだった。


「――えー、そうなの? せっかく恋人同士なんだから、もっと甘えればいいのに……、こんな感じで……えい、えいっ!」


 この瞬間、朝っぱらからこの空間は天国になりました。

 あの相沢さんに女性らしい、大変素晴らしい部分が押し付けられ、甘い香りが俺を包み込むのだ。

 ――ああ、いかん……。幸せすぎておかしくなりそう。


「――そ、その『甘える』という件に関しましては、専門家と相談して対処していこうかと思いつつ……」


 一言でいうと、パニックだった。

 言語機能もおかしくなり、自分で何を発言しているのかさえも分からない。

 フワフワ、フラフラしている俺に、左側の美月も負けじと応戦。


「――姉さんは誰にも甘えなくていいですッ、私にだけ甘えてくださ……うぁ……柔らか……うへへへ……」


 俺の身体を弄る変態妹様は、乙女として有るまじき顔と動きでやりたい放題だった。

 ――み、身動きが取れないッ!

 当たり前だが、俺は両サイドから女子二人にくっ付かれているので。自身の両腕はガッチリ固定されてしまっているのだ。


「――えへへー、私何だか楽しくなって来ちゃった。このままくっ付いて学園行こっか?」

「賛成です~ッ!」

「反対ですッ! 離れて二人とも! 恥ずかしいからぁ……」


 普通に最高の環境だと思えるが、周りからの視線が痛すぎた。

 特に男子生徒からの視線が熱い。

 ――変な妄想してるんじゃないだろうな?

 百合ん百合んな雰囲気を出している俺たちが悪いのは分かり切っているが、それでも不純な妄想をされるのだけは遠慮願いたいと思う俺だった。




 さて、変なアクシデントはあったが、本日も学園は通常営業。

 ここに来て生活サイクルが安定してきた俺は、なんとか学校とバイトを両立出来るくらいにはなっていた。

 気持ちも楽になり、自分の席で『今日も頑張るぞ』と心の中で拳を握っていたら、とある事に気づいて首を傾げた。


「――どうしたんだ、アイツ……」


 普段なら流石にもう来ていてもおかしくないマキがまだ登校していないのだ。

 誰も座っていないアイツの席を眺めつつ、そんな事をつぶやいてしまう。

 今日の朝も駅改札で合流出来なかったし、一瞬『遅刻』というワードが俺の頭に浮かんだ。

 ――ん? しかし……。

 どうも違和感を覚えた事に気づくと、その違和感がマキの机に掛けてある学生鞄にあることが分かった。

 どうやら、今日のマキは俺たちよりも早く登校していたようで、俺は『珍しいこともあるんだな』という軽い感想を抱く。

 そのまま視線を流しつつ、俺は一時間目の授業の準備に取り掛かろうとしていた。

 自分の鞄を開け、教科書などを取り出そうとしていたその時、


「――待ってよ!」


 廊下の方から大きな声がして、俺は自分の手を止めた。

 ――な、何だ一体?

 遠くの方からフェードインしてくる声。

 こちらに近づいてくるようで、その声はますます大きくなってきた。


「――何度も謝ってるじゃないか、青山」

「聞こえねーよ」


 何事かと思いきや、それは後ろの呼びかけを無視して教室へズンズンと入ってくる慎二に、マキが必死に取り繕っている姿だった。

 何やら只ならぬ雰囲気。

 明らかに慎二が不機嫌だった。


「――俺はお前を信じてたんだぞ? それなのに……」

「昨日の事は謝るよ。だけどいくら待っても君が来なかったんじゃないか……」


 慎二が自分の席にドカッとぶっきら棒に腰を下ろした。

 それに続いてマキも奴の横の席へ座る。


「――こっちにはこっちのタイミングや準備ってのがあるんだ、先に行きやがって、取り残された俺がどれだけ寂しかったか分かるか?」

「分かるよ。だから仲直りしようって言ってるんじゃないか。君の言う事聞いてあげるから許してよ……」


 どう言うわけか、昨日マキと慎二の間にトラブルがあったらしい。

 何を思ったか、マキが慎二の手を握り必死に許しを乞うている。

 ――うぁ、気色悪い光景だな、オイ。

 野郎同士の接触。

 マキはあれで中身は『女』だから気づいていないのだろうが、その行動は『男』の俺からすると絶対に無い。

 だが、マキはそのまま続けている。


「――ふんっ、互いにハグして仲直りか? もう遅いんだよ、お前が俺を置いて行ったんだろ? いや、あれはもう捨てて行ったと言ってもいい」

「確かにそうかもしれないけど、別に君を捨てた訳じゃないんだよ? 状況が状況なんだから」


 ――なんだよ、『捨てる』とか……。変なワードが飛び交い過ぎだ。

 俺と同じくクラスメイトも訝し気な表情で二人を見ていた。


「――うるせぇ、お前はいつもそうだよな。良い思いし過ぎなんだよ。いつも上からばっかりだよなッ」

「誤解だよ青山。……じゃあ、今度は君の好きなようにしていいからさ。ボク頑張って君の下に徹するから、一緒にこうよ」 

「おうおう、ありがたい事ですねッ! そいつは楽しみだッ!」


 ――おいおい、ここまで行くともう怪しいの通り越して……。いや、皆まで言うなってやつか?

 案の定、クラスにいる女子たちも若干頬を染めながら鼻息を荒くし始めた。

 一方で、男子たちは顔を背けてゲンナリし始めている


「――お前はお前で、一人良い思いしてろっ! 気持ちいい思いしてればいいさッ! いいか? 俺は…………って……??」


 ここで慎二はやっと気づくことが出来たらしい。

 ――最後の発言は朝からはよろしくないなぁ……。

 しかし意外だった。

 あんだけ女の子が好きだと思っていたのに、まさか慎二がマキとそんな関係だったとは。

 マキもマキで言ってくれれば祝福もしたのに、どうやら祝いの言葉よりも俺が二人の仲を取り持つフォローの方が先になりそうだった。

 だが、今はそんな事よりも、痴話喧嘩をここでカマしたのがマズい。

 ――あーあ、目立ち過ぎだな。

 最早二人は、クラス中の注目の的だった。


「――ちょ、ちょっと待てお前たち……。お前たちは何か誤解をしているぞ……。オイ! コラ! そこの隠れ腐女子! こっちを見て頬を染めるなッ! 違うぞ! 違うんだからなッ!!」


 何やら慎二はパニックになっている。

 マキは目の前であたふたし出した慎二に驚きを隠せない様子で『大丈夫?』と再び手を取った。


「「「「――キャアアアアッ!!」」」」


 一気にボルテージの上がるA組(女子限定)は、黄色い声援に包まれていた。

 ――うぇ……。気色悪ぃー。


「――触んなボケ! お前のおかげでこのザマだッ!」

「痛いじゃないか青山。だから仲直りしようよ……」


 不意に立ち上がり、マキを拒絶する慎二は速足で教室から立ち去ろうと(逃げようと?)していたのだが、マキが同時に慎二を追いかける。

 慎二はマキから離れようと後ずさりし、マキはゆっくりとその差を詰めるような足取りだ。


「――ちくしょう! 誤解だ! 俺はノーマルだ! いや、人を好きになるのは当人同士の勝手だ。愛の形は人それぞれだと思う。しかしそれとこれとは話が違う! いいかマキ!? 全部お前のせいだからなッ!!」


 激オコな慎二はマキを糾弾するが如く言い放っているが、マキは相変わらず状況が呑み込めていないので首をかしげている。


「――頼むからこっちに来るな真樹! 近づいてくるな!! 今日は早退する! 帰ってギャルゲー三昧だあああぁぁッ!!」


 ついに限界を迎えた慎二はあふれる涙を流しながら全速力で駆け抜けていった。

 残る俺たちは何とも言えない雰囲気の教室に取り残される結果となって、一斉にマキを見る。

 注目されたマキは何ともマイペースな感じで俺を見つけ笑顔。


「――おはよう、ミユキ。今日は何だかみんな変だよね?」


 ――それはこちらのセリフですわ、お嬢さん。

 何事もなかったかのように俺と相沢さんに話しかけてくるコイツは、ある意味すごいと思う俺だった。

 …………ちなみに近くでこの騒動を俺と一緒に見ていた相沢さんは、軽く頬を染めてマキと慎二を見つめていました。

 ――お願いだから、貴女は穢れの無い天使でいてくださいね……。

 と考えるのは、至極当たり前な俺だった……。

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