第四十九話 「来店計画発動中」
今回は前・後編という感じです。
次回はミユキ視点に戻ります。
さて、今日も無事に放課後を迎え、ボクたちはお昼休みの流れのまま隣町へ。
勿論『ボク達』というのは、ボクと美月ちゃんと青山の三人。そしてボクらの目的は、ミユキ達の喫茶店へ行くためだけど、メンバーが一人欠けている。
「――……んー、遅いですね」
「そうだね……」
改札を通り抜ける人々を見つめながら、ボクと美月ちゃんは別行動を取っていた青山を待っている。
待たされているというのには理由があって、
『――今日の俺は一味違う。必ずや小峰さんと相沢さんの素敵写真を撮るのだッ!』
という決意と宣言を聞かされて、今まさに自宅へバズーカみたいなカメラを取りに行っている最中だからという変な理由。
――言えない。撮影禁止って事が言えないよ……。
というか、普通の喫茶店に望遠レンズ片手に来店するお客さんなんていないでしょう。
来店した瞬間『おかしな人』と認識されても文句は言えない。
――どうしようかな。
なんて考えながら、美月ちゃんを見てしまう。
本音を言うと、もう時間もないので、これ以上青山を待っている訳にもいかない。
だからこそ、このへんで喫茶店へ行きたいという気持ちが強いのだ。
「――もう行きませんか?」
「美月ちゃんもそう思う? 行こうか」
やはり彼女も同じことを考えていたようで、二人で頷きあうとそのまま目的地へと向かう事にした。
――さようなら青山。あとは一人で来てね。
改札を一度振り返ってボクはそんな事を考えていた。
駅から移動も終えて目的の喫茶店へと到着したボク達。
だけど、隣の美月ちゃんのその反応は開始五秒で始まってしまっていた。
「――す、素敵すぎです姉さんッ!! わた、私はッ! 今日この瞬間、その麗しい姿を見ることが出来て良かったと、心から断言できますッ!!」
――凄いことになってるね……。あの美月ちゃんがあんな顔を。乙女として『やってはいけない様な表情』だけど、ここはお姉さんとして目をつぶってあげよう。
「――な、なんでこんな事になってんの!? あれ程来るなってッ」
そのままとんでもない形相でボクを睨みつけるミユキ。どうやら瞬時にボクが連れてきたと理解したらしい。
そしてこっちはこっちで、美月ちゃんと同じく乙女としてしてはいけない様な鬼の形相。
さすがは姉妹だけあって、思わぬところで共通するところがあった。
「――あれ、二人とも来てくれたの?」
さて、ボクがミユキからの無言の圧力に耐えかねて言い訳をしようとしていた時に、ミユキの後ろから千歳がひょっこり現れた。
「――千歳さんも素敵ですねっ! いや、ホント私どうしたらいいんでしょうか」
咄嗟に美月ちゃんが両手で口元を覆って、身もだえる。
何というか、目をキラキラさせながら恋する乙女な状態になっていた。
――か、可愛いねこの子。
二人のお姉さんの姿にテンションが右肩上り。
「――なんだか恥ずかしいなぁー、美月ちゃんにまで見られるなんて。ねえ、ミユキ?」
「うぅう~~っ」
互いに頬を染めて美月ちゃんのリアクションに照れているミユキと千歳。
そんな仕草にボクも思わず、
――いや、来てよかった。こんな二人を見られたんだもの。
美月ちゃんと同じ状態になっていた。
何というか。癒されるというか。顔も自然と笑顔になる。
「――と、とにかくッ、お二人様ご案内ですー!」
――おっと恥ずかしいのかな? 無理やりだねミユキ。
美月ちゃんの手を引き、さっさとボクらを席に案内するミユキは、さっさとボクらをテーブル席へと押し込めたいようだった。
そこへ苦笑いの千歳も加わり、ボクらは豪華な美少女二人に席案内されるという構図でその場を離れた。
「――妹を連れてくるなんて……、覚えてろよマキ……」
案内されたテーブルへ着席する瞬間、ジト目でボクに抗議してくるミユキは、相変わらずの魅力を放ち、ボクは癒されてしまう。
「――また黙り込んじゃって、ごめんね二人とも。ミユキは知り合いが来るといつもこうなの」
――うん、知ってるよ。
羞恥心全開のミユキは、この前の時と変わらないけど、そんな姉の姿を見た事の無い美月ちゃんは鼻息を荒くしている。
「――ね、姉さん。すごく良いです……。ホント、すごく……」
若干、というかかなり怖くなってきた妹さんに耐えられなくなったミユキは、あっという間に厨房へ引っ込んでしまった。
「――あはは……。それじゃあ、注文が決まったら声かけてねー」
そんなミユキを追うように、千歳もメニュー表を手渡ししてくれて厨房へ行ってしまった。
「――水鏡さん」
そんな時、ふと目も前に座っている美月ちゃんがボクを呼んだ。
何だろうと彼女を見たら、
「――今日は連れてきてくれてありがとうがざいます。いい仕事ですッ」
やたら力強くそんなことを言われてしまった。
ボクは『ありがとう?』と返したけど、美月ちゃんはそんなボクの言葉を聞く間もなく、ミユキを目で追っていた。
――あらあら、今度は別の男性客の接客かな?
ボクもつられてミユキを確認すると、どうやら複数人が座っているテーブル席を接客していた。
――あれ?
だけどよく見ると、そのお客さんは見た事のある格好。
というか、ボクと同じ服を着ている綾菱の男子学生の一団+αであった。
――他の学園の生徒も混じってる?
綾菱の学生でだけでなく、他校の生徒まで混じっていた。
「――水鏡さん、何でしょうね? あの方たちは」
「何だろう? ミユキのファンかな」
確か、ミユキがこの店で働く切っ掛けになったのが、そもそも千歳についたファンのせいだったはず。
――……ミユキも劣らずの魅力だからね。
千歳ファン+ミユキファンで勢力拡大も不思議ではないかもしれない。
さて、そんなボクの返答に反応したのは勿論、美月ちゃんだ。
「――私の姉さんにあんな人たちが近づいてくるなんて……ぐぬぬ……ッ」
――し、嫉妬なのかな?
彼女の背後から負のオーラがモクモクと現れだしたので、少し戸惑ってしまう。
一方、接客中のミユキはそんな妹の気持ちを知る由もなく、ファンだと思われる男子学生に愛想を振りまいて一生懸命に追加オーダを聞いていた。
――あの人たち、絶対に紅茶とかコーヒーで居座ってるよね?
ミユキが去った後、癒されたように彼女を眺めるファンの方々はとてもいい笑顔を浮かべていた。
何というか、いい具合に男たちの千歳への関心を分散させて自分へと向(絶対不本意だと思うけど)けられている。
無意識に当初の目的を遂行させていられる事に少し笑ってしまったボクだった。
「――ちょっと、水鏡さん何そんな顔してるんです? 私たちの姉さんがあんな人たちに狙われているんですよ?」
「それはちょっと考えすぎじゃ……? ほ、ほらボクが居るわけだし」
「居るからなんです? 水鏡さんの存在なんて関係ありません。無防備な姉さんにチョッカイかけて、暗がりに連れ込んであんなことやこんなことをされたらどうするんですかッ?」
――それだけは絶対にないよ。
もしそんなことを考えている馬鹿な男が居たら、逆にミユキにお仕置きされてしまう。
――確実に骨折を伴うケガをしてしまうだろうね。
だけど美月ちゃんはお姉ちゃんの事を見た目通りのか弱い乙女だと思っているので、不安で仕方がないのだと思う。
「――今に男と仲良くなって……、その人に迫られて……姉さんが、そんな……そんなぁ……」
目の前で頭を抱えだした美月ちゃんの頭の中で、ミユキは一体どうなっているのかは考えたくはない。
「――あ、あはは……」
どうしたらいいんだろうかと考えるけど、ここは一つ気を取り直して注文を取ることにした。
――いつまでも座っているだけなんて駄目だもの。
「――あ、すみませーん」
そうして手を挙げると一瞬千歳がボクを見るが、すぐに笑顔になり厨房で気配を消しているミユキに対して『おいでおいで』していた。
どうやらボクらが相手だから、彼女が気を利かせてミユキに接客をさせるつもりなのだろう。
向こうのほうで、軽いやり取り(ミユキが拒否っている?)を経て、千歳に背中を押されたミユキは、そのまま仕方なくボクらのテーブルへやって来た。
「――ちゅ、注文を聞きます……」
テンションが低すぎる。
伏し目がちでこっちを見ない。
「――あ、あの。アイスココア一つ、美月ちゃんは?」
妄想世界でお姉ちゃんを穢してしまっていた美月ちゃんは、ミユキの登場ですぐ元通り。
「――ミルクティーとイチゴショートケーキをお願いします……うぅう」
だけど、注文だけしてまた脱力してしまった。
そんな姿を不思議に思うミユキは、ボクたちのオーダーをメモしながら、
「――どうしたの美月? だ、大丈夫?」
妹にそう尋ねていた。
「――姉さん……」
すごく真剣な顔。その雰囲気に気圧されてミユキも身構えて返事をし、言葉を待つ。
「――どんなに魅力的な男性が現れたとしても、絶対に興味を持たないでください……恋という感情だけは……この感情だけは……抱かないでくださいッ」
――うん、それだけは絶対に無いよ。あのミユキが『同性』に対してそんな感情を抱くわけがないからね。
少し面白くなってミユキを見ると、何とも微妙な顔をしていて物を言いたげだった。
察るに『俺にそんな可能性はないッ』と言った所だろう。
「――何を笑ってんだよッ」
いけない、つい頬が緩んでしまった。
だけど、その時にはもう遅く、珍しく美月ちゃんの前で素の反応を見せるミユキ。
そこへ、
「――姉さん、言葉使いがなっていませんよッ!」
「すみません……」
瞬時に飛んできた美月ちゃんの言葉。
怒られたミユキはまるでご主人様に怒られるペットのようだった。
さて、そんなことをしている間にも時間は過ぎてボクと美月ちゃんはこのお店の紅茶やケーキを楽しんでいた。
『――このお店すごい美味しいですね。私普通に姉さんがバイト辞めてもまた来たいですもの』
ボクもその意見には同感だった。
店内を見渡すとボクらのような学生だけでなく、オジサンや初老の女性、子供連れの母子まで優雅にお茶を楽しんでいる。
千歳もミユキもお客さんに話しかけられると、笑顔で対応し、
「――おや、ボクこんにちは、何歳ですか?」
子供が好きな千歳に至っては、幼い子供にとてもやさしい。
頭を撫でてもらった男の子は照れてしまい、お母さんに引っ付いて顔を伏せてしまうそのやり取りを見ていると、とても微笑ましかった。
来店する人。帰る人。
平日の午後だというのに、この忙しさ。
またまた来店してきたお客さんの対応に追われているミユキを見ていると、『今日来たのはマズかったかな』と思えてしまう。
忙しい時にメンタルを削られるのはとてもつらいものだ。
そう、ボクたちが来たときも、まさしくあんな感じでミユキは困ったに違いない。
――って、あれ?
今まさに来店したお客さんの対応しているミユキが困っているようだった。
ボクはそんなミユキを困らせているお客さんの姿を確認したんだけど、
――ウソ……。これは……。
ボク自身も動揺して言葉が出ない。
「――ああっ、元さんだ!」
今、美月ちゃんが言ったように、ミユキの目の前で爽やかな笑みを浮かべている好青年は、彼女の婚約者(?)だった秋月元さんだったのである。




