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第四十七話 「分かり合えたあの子と私」

今回はマキ視点となっております。

 週も明けて月曜日。

 今日は、何のアクシデントも無く朝を迎えて、とてもいい天気。

 ボクは昨日の電話の後、ミユキにどんな願い事を聞いてもらおうかと考え続け、今日起きた後も今現在、学園へ行く途中もその事を考え続けている。

 ――どうしようかな……、何をしてもらおうかなー。

 考えが無限に広がっていくので、ボクのテンションも右肩上がりだった。

 勿論、隣にはミユキも美月ちゃんも居て、先ほど千歳とも駅改札を出たところでばったり遭遇。


「――おはよー、ミユキ! 美月ちゃんに水鏡君もっ」


 相変わらずとても元気で、皆に極上のスマイルを向けてくれる。

 いつもなら、こんな状況だと隣のミユキが照れながら挨拶を返すところだけど、今日のミユキは何かがおかしい。


「――お、おはよう、千歳」


 どうも元気がないんだ。

 それどころか、今日一緒に歩き出してから、ボクのほうをチラチラと見てくる。

 そしてボクが目を合わせたら、


「――っ……」


 目をそらして思い悩む。

 ――一体どうしたんだろうか? 

 なんて考えていたら、ミユキのほうから意を決して話しかけてきてくれた。


「――あ、あのさ……昨日のことなんだけど」


 と、そう言うのは今まさにボクが考えていた『なんでもいう事を聞く』発言のことだった。


「――わ、私としては穏便に済ませたいんだよ、マキへの謝罪もあるけどさ……」


 周りに皆がいるために女の子言葉で話しかけてくるミユキは、小声で僕に探りを入れてくる。

 先ほどからの余所余所しい態度は、ボクへの警戒心からだったようだけど、そんなに怖がる程のものなのだろうか。

 昨日の電話の時点で、ミユキに対する負の感情なんてとっくに消えてしまっている。


「――もう、ミユキ。ボクがまだ怒ってると思っているの? 昨日のことなら気にしすぎだよ。ボクはもうなんとも思ってないからさ」

「そ、そうなの……?」

「はいはい、そんな暗い顔しないでよ。……まあ、謝罪の『お願い』は聞いてもらうけど」

「そ、それはどの程度なの?」

「ふふふ……」

「お願いだから続きを言ってよぉ……」


 ボクも本当は早くお願いを言いたい所だけど、決まっていないのだから仕方がない。

 ここは一先ずこうやって先伸ばしにするのが妥当だ。

 ――別に意地悪しているワケじゃないんだよ?

 決まったら決まったで改めてお願いするつもりなボクだった。

 ――それにしてもボクの言動で困るミユキは可愛いね。

 喫茶店でもそうだけど、やっぱりボクはこの『彼女』が大好きで、この子を困らせるのにハマってしまっているようだった。


「――じー…………」


 一方、何やら背後から不気味な視線を感知。

 何事かなと振り返ると、美月ちゃんがボクにメンチビームを発射していた。

 それもそのはず、普段から『姉さん大好き』な美月ちゃん。

 そんな姉さんが、このボクと肩を寄せ合って内緒話をしていたのだから、内心は穏やかではなかったはずだ。


「――いいなー、二人とも。朝から仲良くて。ねっ、美月ちゃん?」


 そして千歳はテンション高くニコニコしている。

 何とも対照的な二人だった。


「――い、いや、別に仲良くしているワケじゃないんだけどねっ」


 現状を瞬時に理解したミユキは、ボクと急接近している現状に恥ずかしくなったのか、千歳に対して弁解を始めた。

 胸の前で必死に両手を振っている仕草はもう完璧な女の子で、とても可愛かった。

 ――うん、日々可愛くなってボクもうれしいよ……。

 と、こちらでミユキと千歳のやり取りを温かく見守っていたら、


「――水鏡さん?」


 不意に肩を掴まれてしまう。

 そこには異様なオーラを放つ笑顔の美月ちゃんが居た。

 肩を掴む手に力を入れながら、


「――私が見ている前で、あんなにイチャイチャしないでもらえます?」

「えっと、別にボクはイチャイチャしてるつもりはないんだよ?」


 あんなの、ただの雑談に等しい会話だし、彼女の言う『イチャイチャ』とは、もっとこう恋人同士のように甘いやり取りの事を言うはずだ。

 ただ単にさっきは至近距離で内緒話をしていただけなのに、第三者からはそんな風に見られてしまうようだ。

 ――ボクだって本当の意味でイチャイチャしたいよ……。

 何も考えずにデートだってしてみたいし、楽しい会話をしつつ街中で手をつないで歩いてもみたい。

 だからこそ、安易にそんな表現をされても納得いかないボクだった。


「――いいえ、イチャイチャしてましたっ。いいですか? 私の目が愛くるしい内は姉さんに手出しさせません」

「そ、そんなこと言われても……」

「…………只でさえ姉さんは最近、家に居ないんです。水鏡さんばかり相手にされてずるいですよ」


 何とも理不尽な言い分だけど、言いたいことは分かる。

 何せミユキは働きだしてから仕事一筋。

 学校も休み時間はバイトのことを考えて、仕事内容の確認やメニューの暗記などを毎日やっているのが現状だった。

 だからこそ基本的にお昼以外だと、ミユキと会話ができず、ボクとしても寂しい日常を送っていた今日この頃であった。


「――もしかして、ミユキは家でも仕事のことを?」

「え、ええそうなんです。毎日姉さんに話しかけても上の空なんですよ」

「教室でも似たようなものだよ。ボクでさえ最近あまり話してないもん」

「そ、そうだったんですか? じゃあ、今姉さんは誰と仲良くしてるんです?」

「それはもちろん相沢さんだよ。だって、同じバイト先なんだから」


 話しているうちに会話内容が逸れて来たボク達。

 同じ寂しい想いを共有している者同士、会話のキャッチボールが容易になって来ていた。


「――いいなぁ、千歳さん。いつも可愛い制服着てる姉さんと一緒に働けるなんて……」

「そ、それは言えてるね。美月ちゃんはミユキや相沢さんのお店にはもう行ったの?」

「それが聞いてくださいよ水鏡さん。私が行こうとしたら姉さんが全力で拒否するんです」

「休みの日に行けばいいじゃない。ボクは昨日行ってきたんだよ?」

「ほ、本当ですか!?」


 そしてついに『あの』状態の美月ちゃんといつも通りに話すことが出来るようになっていた。

 ミユキのウエイトレス姿に興味深々の美月ちゃんは、ボクに昨日の様子を事細かく聞いてきたので、ボクは全てを包み隠さずに教えてあげた。

 ミユキや千歳、そしてお店にいる従業員さん達との接客営業の様子など。

 働く姿のミユキや千歳は、一言でいうと『可愛い』という表現に集約される。

 だからこそ、そんなお店に興味を持つのは当たり前の美月ちゃんだった。


「――うう、本当に一度行ってみたいですよ……。でも姉さんが嫌がるし……」

「なら、ボクと一緒に行く?」

「え? 水鏡さんと?」

「そう、『ボクに付き合わされて来た』って事にすれば、美月ちゃんも行きやすいでしょ?」


 目の前であまりにも残念そうにしている美月ちゃんに堪らずそう提案してみる。

 ――あの二人を見ないなんて勿体なさすぎる。可憐でお淑やか。営業とはいえ、ボクたちに向けられる素敵な微笑み。何といってもボクらお客に給仕してくれるというシチュエーションが最高で(中略)……やっぱりここは、美月ちゃんも彼女たちを見て癒されるべきだと思うんだ。

 色々と考えがボクの頭をめぐる中、不意に美月ちゃんがボクの両手を取り、


「――その手がありましたか! 水鏡さん、どうやら今まで私は、貴方のことを誤解していたようですね」

「そ、そうなの?」


 ものすごく食いつきの良い美月ちゃんは、高まるテンションのまま言葉を続ける。


「――目的が同じであれば、敵対する道理はありません。ここは一つ休戦といたしましょう」

「えっと、そうしてもらえると嬉しいです?」

「姉さんは渡せませんが、今回の一件、私たちは分かり合えるようですね。姉さんと千歳さんのコスプレ……コホンッ! ウエイトレス姿という架け橋を通じて」

「そうだね。その点に関してはボクも同意見だよ」


 ボク達の右手同士が自然と近づいて、

 ――ガシッ!!

 力強く握手。

 ここに謎の同盟が誕生したのだった。


「――ねえ、二人とも? さっきから何してるの?」

「な、何か嫌な予感がするんだけど……私」


 そして前を雑談しながら仲良く並んで歩いていた千歳とミユキが、たまたまその光景を目撃。

 二人そろって微妙な表情をしつつ、こちらに質問を投げかけてきた。

 そこは勿論、本当のことを言うワケにはいかないので、


「「――何でもないですよっ」」


 ボクと美月ちゃんが完璧なコンビネーションで対応。

 その場を誤魔化し、二人で率先して学園に足を向けるのだった。

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