第四十話 「とある休日の過ごし方」
本当にお久しぶりでございます。
作者の天道寺。です
このたびリニューアルという事で再び舞い戻って参りました。
今回は40話から内容を変更して制作を再開していこうと思います。
前回までの投稿ではメインヒロインこと千歳が目立っていないかったのが自分的に大きく悔やまれ、これではいけないと思い、リニューアルとして制作を再開するという形になりました。
というわけで、この章は千歳とミユキがメインで進んでいく事になりますので、皆様どうかよろしくお願いします。
ちなみに、今回のお話はマキ視点になっております。
――チュンチュン……。
早朝五時四十五分ごろ……。
夜空が太陽で白み、その素晴らしい日光が大空に広がってくる時間帯に、ボクは小鳥のさえずる声を聴きながら目覚めた。
「――…………っ」
目を擦り、気怠い身体に信号を送りながらベッドから身体を起こすボクは毎回こう思ってしまう。
――部屋が可愛くないッ!!
この身体になってもう結構経っている。
男の身体の生活にも慣れてきて、剣道の練習にも身が入り、女時代よりも確実に強くなれている実感もあって、正直嬉しいくらいなんだ……。
「――だけどッ……」
毎回寝起きに自分の部屋を見渡すと、なんと言うか違和感が少し残っている。
――女時代と比べるとやっぱり、部屋がシンプルすぎるんだよね……。
あたり一面シンプルすぎる『白』統一な仕上がり、前にも言ったけどボクのコレクションである『ぬいぐるみ』達が無くなっていた事が本当に辛かった。
過去形で『辛かった』と言うのには理由があって、ボクはこの前から着々とぬいぐるみ達を購入して、コレクションを復活させていたからだ。
「――部屋はシンプルだけど、ベッドは豪華だよね……ふふふ……」
ボクの横で安眠しているパンダの『恵乃介』、そしてクマの『お凛さん』を筆頭に、数々の仲間が寝起きを共にしてくれている。
「――いい天気だよね……、ん? まだ眠たいの? じゃあ、まだ寝ていていいよ、お凛さん。恵くんも起きたくないのかな? 分かった、じゃあ先にボクは起きてるよ……」
大切な友達の頭をナデナデしながらボクは今日も元気に日課の道場へ練習に向かおうとした……んだけど、
「――……ッ!?」
「…………(じー……ッ)」
ボクの部屋のドアが少し開いていて、その隙間から兄さんがこちらを覗いていた。
――うぅ……み、見られてた……のかな……?
さすがに自分の世界に入ってぬいぐるみ達と仲良くしている姿を見られていたのは恥ずかしすぎる。
「――ま、真樹さん……」
兄さんと目があった瞬間、なぜかこちらを伺うような口調で話しかけられてしまう。
言葉を発する事が出来ないボクに、兄さんはさらに突っ込んでくるような感じで話しかけてきた。
「――お、お前、何か悩み事でもあるのか? 俺、マジでお前の事心配なんだけど……」
そしてすごく心配をしている。
――どうしたんだろう? そんなに心配する事があるの? ……というか、そんな事よりもッ!
「――ひ、人の心配より、なんで兄さんがボクの部屋をノゾキ見てるのっ!? 身内だからってマナー違反でしょッ!!」
咄嗟に叫んでいた。
一人の世界を覗き見られた恥ずかしさと同時に、ボクは取り乱していたようだった。
「――い、いや、俺も地雷かと思ったんだがな、お前の部屋の前を通ったら変な話声が聞こえたから何事かと思って……」
そう言う兄さんの視線はお凛さんと恵くんへスライドする。
そのままボクのぬいぐるみ達を一巡した後、泣け無しの小遣いを使って買い直した少女漫画や、少女小説を経て再びボクの顔を見た。
「――…………なるほどなるほど……、何が切っ掛けかは分からないが、俺の弟は雅な趣味に目覚めてしまったと……そういう事か……」
勝手に納得をしている兄さんは一瞬の間の後、
「――まあ、そのなんだ……。お、俺は気にしないからな…………。親父にもお袋にも黙っておいてやるから…………」
ボクに気を使うように静かにドアを閉めて立ち去ってしまった。
――えーっと……?
取り残されたボクは一度冷静に考えてみた。
「――…………」
ボクは今男で、もう子供の部類には入らない歳になってきている。
そしてそんな男の部屋に可愛らしいぬいぐるみや少女漫画・小説があり、ボクはいつも通り一人の世界に入り込んでしまった。
第三者から見たらボクはどのように映ったのだろう。
――健全な男の子として、肌色本よりも少女漫画や少女小説ばかり愛読しているボクはちょっと変なのかな?
ふと、男時代の美幸が今のボクと同じような状況だったらと仮定してみた。
目を一度瞑り、思案にふける事数十秒、導き出された答えは勿論、
「――アリかな…………」
という、至極当然の感想だった。
なんというか、むしろ肌色本よりも健全な気がするんだ。
いや、一瞬『ナシだろッ! 俺は肌色本の方が断然いいぞッ!!』っていうミユキの声が脳裏に突っ込みを入れて響いた気がしたけど、絶対に気のせいなので放置しておく。
さて、そんな事よりも本題だ。
ボクはついさっき、兄さんに『雅な趣味』と言われてしまった。
恐らく、いや確実に良い意味で言ったに違いない。
――気にする必要なんて無いよね。うん、大丈夫。
結構納得のいく思考で決着が付いたので、ボクは日課の朝練に今度こそ出かけた。
道場へ繋がる廊下で、出会い頭に兄さんが曖昧にボクから目を逸らしたような気がしたけど、多分気のせいだと思う。
その後、朝練で兄さんと何度か手合せして剣を交えた時、珍しくボクが完勝してしまうという事件が起きた。
――なんか様子がおかしいな……。
太刀筋に動揺のようなものが見えて、いつもの強い兄さんとは別人のようだった。
何をそんなに動揺するのか思い当たる節がボクには無かったので、本当に不思議だ。
――何度もボクの事を意識して、気を使っているような変な感じが……? まあ、放っておいて今日一日は様子見かな……。
だけどこれだと練習にならないので、明日あたりには普段の強い兄さんと手合せできるように復調していてもらわないと困る。
――何か、相談に乗ってあげようかな……? 本調子じゃない兄さんと闘っても意味がないんだ。
これでもボクは兄さんの事は尊敬しているんだから、悩み事があるなら聞いてあげようと思う。
こうして、本日の朝練稽古は消化不良のまま終えてしまうのでした。
さて、今日も午前十時を回った頃。
さすがに日曜とあってか、隣町のショッピングモールには人が沢山だ。
――うーん、もうちょっとこっちも見てみようかな……。
なんて事を考えながら、ボクはモール内のファンシーショップで買い物を楽しんでいた。
というのも、今日は休日でとても良い天気だったし、せっかくだから遠出して可愛い物でも探そうかなと思い立ったからだ。
一応、ミユキにも声をかけたんだけど、
『――悪い、俺は今日どうしても外せない予定があるんだ。それに、もし暇だったとしても、俺は行かんぞ? 何が悲しくてファンシーショップなんぞに行かなきゃならんのだ?』
なんて酷いことを言うんだ。
酷いよね。
本当に酷いとボクは思うんだ。
『――ミユキに似合いそうなネックレスとかイヤリングとか見繕ってあげるから、一緒に行こうよ?』
と、善意で提案してあげたけど、
『――んなモンいるか。男の俺に可愛らしい物を装備させようとするな。この前、髪飾りを俺にプレゼントしやがったよな? あの恨みは未だに忘れていないぞ』
なんともアングリ―な感じで、恨み言を言われてしまった。
先週、出先でミユキに似合いそうな髪飾りを見つけたから、それをプレゼントした事を言っているのかもしれない。
――絶対に似合いそうなのに……。
桜をモチーフにしたデザインの髪飾りで、とても可愛らしい品だったんだけど、ミユキにはとても不評だった。
周りはともかく、唯一同じ境遇(性別反転現象?)のボクには男として接してほしかったのかな。
一気に機嫌を損ねてしまったミユキは、まだボクの話が終わっていないのにも関わらずに、
『――そんな品物は美月に送っとけ。とにかく俺はいらんからなッ』
一方的に電話を切るという行動にまで出てしまった。
――そんなに怒ることないじゃないか……。
電話の向こうで『プツッ……』っという音と共に、二重の意味でキレられると結構辛いものがある。
オマケにその二十秒後くらいに、
――(怒)!!
という、素敵なメッセージも頂いてしまったので、今回はミユキを誘うのは諦めて一人で隣町まで来たという流れになっている。
そして案の定、ミユキにキッパリとデートを断られたので、今現在、ボクは一人で買い物を続けているという悲しい状況だった。
――でもまあ、いいか……。
なんにせよ、今は楽しい買い物の際中。
ボク目の前には可愛らしいぬいぐるみが手を招いて『おいで、おいで』しているのだ。
『――これ可愛いな……、どうしよう……買おうかな』
非常に悩むところで、ここは財布と要相談。
――えーっと、この後は……。
財布と相談してこの後の予定を思い出すと、ここでこのぬいぐるみを買うのは躊躇われる。
「――うー……、新刊が出てるんだよね……」
咄嗟に言葉にしてしまったけど、集めている漫画の新刊が出ているので、あまり無駄遣いはできないのだ。
――やっぱり、今までのコレクションを一から買い直したのが痛いよ……。
漫画であれ、ぬいぐるみ関係であれ、とんでもない額のお小遣いが再購入で消えてしまいました。
なので、趣味にお金を使うのが結構辛い。
だからこそ、ボクは泣く泣く買おうと思ったぬいぐるみを諦めるしかなかったのである。
――ま、また来るから……、必ず……、必ず……ッ。
断腸の思いで店を後にしたボクは、そのままショッピングモール内の本屋に移動。
見事、目的の少女漫画を購入した後、早く読みたい気持ちを抑えつつモールを後にする。
「――お金が欲しいなぁ……」
ボクは、アルバイトもしていないフリーダム状態なので、基本的に毎月お小遣いでやり繰りしている。
だからこそ、こういった趣味関係にお金を使うと、ほとんどが消えて行ってしまうし、残るお金も少ない。
――いっその事、アルバイトでもしようかな……。
なんて考えるけど、ボクは基本的に部活があるので、ものすごく忙しい。
だから、放課後に働くのが結構キツイのであまりアルバイトするのに気が向かないのだ。
「――だからお金が無いんだよね……」
当然の結論に、自虐的な笑いを浮かべてしまうボクは只々悲しくなってしまう。
勿論その感情は、一人で日曜日に隣町を歩いているという、寂しさもそこに含まれる。
――実際ミユキにフラれて、心も財布も悲しいけどね……。
これではダメだという事で、本日の予定をもう一度シュミレートする事にした。
こんな状況では、楽しいことを考えないとやっていられないからだ。
――買った漫画でキュンキュンするのも悪くないけども……。
帰宅して恋愛漫画を読みふけるのは悪くない。
むしろ擬似恋愛は楽しいので臨むところである。
――でも、ちょっと待って……。
どうも先ほどから引っかかっている事がある。
そう、『アルバイト』という言葉を思い浮かべた時だ。
何度も何度も思考を巡らせて、ボクはついにフラッシュバックのように思い出したのだった。
『――知ってるか? ここだけの話だがな、あの相沢さんがバイトしてるみたいなんだよ。隣町の喫茶店なんだが……』
という青山の『耳よりの情報』がボクの『アルバイト』という連想から瞬時に思い出された。
単純に『思い出しただけ』だったらそこまでだけど、青山が言っていた『千歳が働いている喫茶店』というのが、この街にあるという偶然がボクの好奇心を膨らませる。
――『千歳が働いている』というのは噂話し程度なんだけど、ここまで来たら……やっぱりね?
知り合いがアルバイトしているなら少し気になるのが人情というもので、ボクの足は自然と件の喫茶店へと向かってしまう。
――ごめんね、千歳……。冷やかしじゃなくて、ちゃんとお客として来店するから、許してね……。
自己完結な思考でボクは歩きつつ、青山の言っていた情報通りに喫茶店を探した。
店の場所を記憶から確認し、街を歩くたんびに、
『――いや、マジで可愛い恰好で給仕してくれるんだとよ……。見てみたいなぁ……あ、勿論写真も撮らなきゃ……』
と、つぶやいてニヤける青山を筆頭に、綾菱の男子学生は勿論、他校の男子生徒も千歳目当てに喫茶店に訪れているという話を聞いていた身としては、さぞ素敵な千歳が見れるのかなという期待で胸が膨らんでいく。
――可愛い恰好してるのかな……。
千歳がどんな格好で仕事しているのか気にしつつ、ボクはついに喫茶店へと辿り着いたのだった。




