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第三十七話 「話し合い」

 さて、驚いたジイさんと対峙してからしばらく。

 俺は今までの経緯を全て説明した。

 ジイさんは俺とマキのした事が信じられないと言った様子で、只々開いた口が塞がらないといった状態だった。

 ジイさんの隣には、遅れて到着した元さんの父親の秋一さんも居て、同じように驚いていた。

 俺の説明を最初は信じていなかった二人だったが、元さんの説明もあり、俺の話は信憑性が増して話を続ける事ができた。

 俺の説明が終わると、ジイさんも秋一さんも言葉を発する事が出来ずに、俺とマキを交互に見る。

 門下生達に確認していたが、皆が皆『ミユキちゃんと水鏡君に負けた』と言うので、道場破りの話は真実だという事を理解してもらえた。

 秋一さんは『そこまでしての抗議かい? はははっ、若いねぇ……』と感心して笑っていたが、ジイさんはそうでも無いようで、『――これから家族会議を始める』と言ってこの場に美月を呼び出した。

 それが数分前。

 そして今現在は美月を交えて、ジイさんとの話し合いが始まっている。


「――姉さんっ! 何てことしたんですか!? 水鏡さんもなんで一緒に道場破りなんかしてるんですか!? 普通止めるでしょう!?」


 話し合いの前に、美月がキレる。

 マキは今回の一件の提案者なので美月から目を逸らしていた。

 俺が『まあまあ』となだめるが、美月は止まらず俺とマキに抗議して来る。

 美月を止める説得に、元さんにも力を貸して貰い、何とか美月は落ち着いた。

 現在この場は道場の端っこであり、メンバーは俺とマキと元さんの当事者達。そしてジイさんと美月と秋一さんという感じだ。

 『家族会議』という体だが、この方が話が進むという事でこうなった。

 門下生たちは俺たちの話を気にしながらも、秋一さんの命令で強制的に練習させられている。


「――少しうるさいが我慢してくれ。奥の和室じゃ六人は入らないからな」


 ジイさんはそう言うと俺たちに向き合って姿勢を正す。

 ――お? 話を聞いてくれるのか?

 そんなジイさんの態度に俺は驚くしかない。


「――さて、ミユキに水鏡君。今回の一件には正直驚いている。ワシはまだ信じられないほどじゃ……」

「師匠、信じられないと言っても息子の元はミユキちゃんに負けたと言っているんです。……そうだな、元?」

「はい。父さん、間違いありません」


 何度も同じような会話をさっきからしているが、まだまだジイさんは混乱しているみたいだ。

 大方、『頭では理解しているが……』と言った感じだろう。


「――水鏡君もミユキに協力したそうだね?」

「はい……。ボクは今回の一件で、ミユキに協力しました。ボクは彼女の幼馴染として、どうしてもミユキの婚約者問題について黙っていられなかったんです」

「だとしても道場破りはやりすぎだとは思わなかったのかね?」

「やりすぎとは思いました。しかしボクもミユキも本気だったんです。ミユキの言葉を聞き、相談を受けて道場破りを決行しました」

「…………」


 マキの言葉にジイさんは黙ってしまう。

 一方で美月はそんなマキの言葉を聞いて驚いていた。何のメリットもないのに姉の我儘に付き合ったマキに対して何か思う所があったようだ。


「――おじいちゃん。私は今回の一件を強行するほど、婚約問題が嫌だった。勿論、美月だってそう。私達姉妹は勝手に決められた相手と結婚する気はないの」


 そうだ。

 ミユキさんも美月もこんな縁談は望んじゃいない。

 一緒に添い遂げるなら好きな相手が良いに決まっている。

 俺はジイさんを説得するように心を込めて話した。


「――それでこんな事を? 馬鹿げた話で呆れた……だが」

「??」

「同時にワシは感心してもいるんじゃ」

「え?」

「ミユキ。お前はいつからそんなに強くなったんじゃ? 元君を負かしたのが事実なら、ワシはお前の話を嫌でも聞かなければならない……そうじゃろう?」


 ジイさんが笑っている。

 どうやら俺が強いという事実を知って嬉しいようで、珍しくテンションが高い。

 自分の認めた元さんに勝った俺に興味が湧いたのか、はたまた只の好奇心か……。とにかくジイさんは機嫌が良かった。


「――俺が負けたのは事実ですよ、師匠。どうして彼女が強いのかは分かりませんが、俺より強いのは明らかです。それは門下生たちも証言してくれるでしょう」


 元さんが俺をフォローしてくれる。

 俺の話をジイさんが聞くことによって自分が婚約者候補から外れるかもしれないのに、元さんは迷いが無く、俺に協力してくれるみたいだ。

 ――そこまで俺を気に入ったのかな?

 疑問が残るが、ここは黙っておくことにした。

 ジイさんは元さんの証言を聞いて、驚くばかりだ。

 門下生の証言を聞けば、俺の実力が伝わるのも時間の問題だが。


「――うむ……」


 そこでジイさんが目を瞑る。

 何かを考えて、一息。そして目を開いて俺を見た。


「――ミユキ、そして水鏡君……」

「「??」」

「……ワシはお前たちの話を聞こうと思う」

「おじいちゃん?」

「この道場破りの話を聞いた時から、ミユキの本気な気持ちは理解していた。だからこんなバカげた行動に出たのじゃろう。……そもそもワシが頑固すぎたのもいかんかった。孫の気持ちも考えず、『小峰』の為と思って行動したのが間違いだった」


 ジイさんの独白に耳を傾ける俺たち。


「――嫌がるミユキの事をもう少し考えるべきじゃった。すまん、ミユキ……」

「え? いや……。うん……」


 反省しているジイさんの態度に戸惑う俺は、どう反応していいか分からなかった。


「――道場破りの結果は関係なく、一度この婚約者問題は白紙にしよう。秋一君も元君も異論はないな?」

「はい。こんな抗議をされては、もうその気持ちを汲むしかありません。しかも息子が負けたという事実もあります。小峰の名を継ぐには、元では力不足です」

「俺も同じ気持ちです。ミユキちゃんに歯が立たなかったのはショックですが、事実なので反論の余地もありません。今回は身を引きます」


 話がスムーズに進んでいく。

 ――秋一さんも元さんも、理解してくれてよかった。

 俺は二人に心から感謝した。


「――ところで元君、そんなにミユキは強いのか?」

「え? ええ、それはもう……」

「…………」


 ジイさんは俺を見て思案する。

 ――マズイ、暴れすぎたか? こんな事、説明出来ないぞ……。

 俺は非常に困った。


「――ミユキ」

「な、なに?」

「お前、隠れて鍛錬していたのか?」

「え?」

「話だけ聞いてると、一日や二日で身に着けた強さじゃ無さそうじゃ。もとより、元君に勝つ事自体、奇跡に近い……。不思議じゃ……」


 ――だろうな。俺がアンタの立場なら頭を抱える所だよ。

 俺に対して疑問が浮かびまくるジイさんは首を傾げている。


「――本当に不思議です……。姉さん、本当にどうしたって言うんです? 私の知る限りじゃ、姉さんは武術なんて全くでしたよ?」


 美月も同じような感じで俺に質問してくる。

 ――マジで困った。どうしようか……。

 男時代に鍛錬していた事を言うわけにもいかず、困り果てる。

 思案してもいい案が思い浮かばないので、ますます焦るしかない。

 ――ちくしょう、こうなったらっ!


「――じ、事故以来、身体が勝手に動く事があって……」


 本当に自分で『頭大丈夫か?』とツッコミを入れたくなるような妄言が飛び出す。

 隣のマキは、俺の言葉にフォローを入れる事も出来ずに戸惑うだけだ。


「「「「…………」」」」


 視線を皆に合わせると、微妙な顔で俺を見ていた。

 ――ま、まあ分からなくもない。俺だってびっくりしてるんだ……。

 だが、一度発言した以上、取り消しは出来ないので、俺はこのまま嘘を貫く。


「――た、たまに自分じゃない感じがあったりしたり……。ほ、ほら言葉使いが男っぽくなったりするでしょう? あんな感じかなー……なんて。あはは……」


 もう、乾いた笑いしか出ない。


「――昨日だって、おじいちゃんや皆に、男言葉で啖呵切ったでしょう? あの時みたいに自分では抑えられない感情が込み上がったりする時があったりなかったり……」


 俺は恐る恐る皆を見る。

 呆気に取られている皆の態度を見て、俺はどうしていか分からなかった。


「――っ!!」


 特に美月は俺の言葉にショックを受けているようで、なにやら震えている。


「――美月さん?」

「姉さん……」

「はい……」

「もう一度病院行きましょう! 検査してもらうんです!! いいえ、検査してもらいますっ!! 二重人格なんて認める訳にはいきません!!」

「ちょっ! 美月、待って!! うわああああ!?」


 美月は俺の手を瞬時に掴むと、そのまま強制連行。

 ――な、なんてパワーだっ!? ふ、振りほどけない!?

 と思うほど美月の力は凄まじかった。

 俺と美月はマジでそのまま病院へと向かう羽目になり、その病院では久しぶりに俺の担当医と顔を合わせる事になる。

 ――この先生と顔を合わせるのは退院して以来だな。

 必死に美月が俺の事を説明するのに対して、『……ま、まあ、事故の原因による影響が出ているのかもしれません。現状では何とも言えないので、様子を見ましょう』というお決まりの文句を頂いた後、一応検査をした。

 勿論、入院していた時に徹底的に検査をした俺の身体は正常で、脳波の方も文句が無いほど完璧だった。

 しかし、何としても俺の異常を見つけ出そうと躍起になる美月の顔は、まるで鬼のようで正直怖すぎる。

 ――これからは、コイツの前では変な事を言わないでおこう……。

 そう決意するのに時間はかからなかったし、

 ――これからどうやってミユキさんを演じていこうか……。

 と考えずにはいられなかった。

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