第三十四話 「小峰道場、望月元」
今回のお話もマキ視点です。
ここ最近は、戦闘シーンばかりになってきました。
もう少しお付き合いください。
それと、毎回お話の終わり方がこんな感じですみません。どうも区切りのいいところで終わらせるとこういった切り方になってしまうようです。
これも全て、私の文章作成能力の無さが原因ですが、あと数話戦闘シーンが続きます。
戦闘シーンが続いて、次話の戦闘シーンと戦闘シーンを繋げると、お話の終わり方が今回と同じような感じになるかもしれません。
申し訳ありません。
2014/8/19
ミユキと元の会話を一部分変更しました。
ヨシユキの言葉を無視して、自分の持てる最大の速度の突きで元さんに攻撃する。
見事な速度、そして重さもあるだろう。
しかもこの突きは先ほど繰り出した、『間合いの伸びる突き』だ。
慣れないままだと、この技は百発百中の精度を誇る。
案の定、ボクの突きは元さんの喉元に吸い込まれるように伸びて行って、直撃……するはずだった。
「――はあっ!!」
元さんが咆哮する。
ボクは何が起こったか分からない。
ただ言える事は、ボクの手から木刀が無くなっていた事だった。
――なんで!? どうなってるの!?
そんな考えで思考が定まらないまま、
――ドゴォッ……!!
ボクは元さんの後ろ廻し蹴りを側頭部に食らっていた。
世界がスローモーションになって動く。
痛みはあり、耳鳴りもする。
だけど、驚いた感情がそれらの感覚を凌駕し、意外なほど冷静になれた。
――ボクはカウンターを食らったのかな……?
そんな事をふと思った。
記憶を辿ると、その光景が一瞬で再生される。
ボクが突きを放った瞬間、元さんはボクの攻撃に合わせて上段蹴り上げで木刀を蹴り上げたように見えた。
案の定、片手で突き攻撃を放とうそしていたボクは、木刀を手放してしまい、そこへ蹴りを食らわされたのだろう。
痛みが残る頭で次に考えたのは受け身の事だけど、身体に力が入らない。
「――マキ!!」
ヨシユキがボクの名を叫んでいる。
――ズドンッ!!
必死にボクを呼ぶ声を聞きながら、この身体は地面に崩れ落ちた。
ゴロンと身体が大の字に仰向けになる。
目の前には、追い打ちをかけようと手刀を繰り出す元さんが見えた。
だけど、
――ダダダッ!!
地面を踏みしめて駆けてくる音も聞こえる。
ボクは虚ろな目で動けないでいたら、追い打ちをしようと攻撃動作をしていた元さんに竹刀が飛んで来ていた。
――バシッィイイ!!
その激しい打撃音でボクは気が付く。
――ヨシユキ……。
そう、ヨシユキだ。
彼はボクを守る為に走りながら元さんに竹刀を投げつけたのだ。
竹刀を投げつけられた元さんは飛んで来た得物を瞬時に叩き落として、ボクの傍から離れた。
「――マキ! マキ! 大丈夫か!?」
駆け寄って来てくれたヨシユキはボクを抱き寄せてその身を起こしてくれる。
「――だ、大丈夫……。ちょっと油断しただけだよ……」
「バカ! だから止めとけって言ったんだ! あの人はその辺の雑魚とは違うんだ!」
「みたいだね……。強い……」
ボクはヨシユキに抱えられて何とか起き上がる。
「「――…………」」
肩を貸されて立つボクは、ヨシユキと一緒に元さんを見た。
「――水鏡君、まだやるかい?」
正直、まだ闘いたかった。
だけど、今はダメだ。
認めたくないけど、明らかにボクの負けだった。
「――ふふっ、その様子じゃ無理そうだね。どうする? 次はミユキちゃんかな? だけど俺は君とは闘いたくない」
ボクと言う存在を排除して余裕を見せる元さん。
当初の思惑は外れ、彼はヨシユキとは闘ってくれそうも無くなっていた。もし闘ってくれたとしても、この様子じゃ、本気でと言うのは無理そうに思う。
「――そっちがそうでも私は貴方を倒したいです」
だけどヨシユキは元さんに食いついた。
彼を睨み付けてボクを支える手に力を込めてくる。
――ヨシユキ?
「――俺の勝手なわがままでお前を付き合わせた結果がこれだ。お前がこんな目に遭っているのに、黙って帰る訳にはいかない」
ヨシユキが小声でそう言ってくれた。
ボクの為に、彼は怒ってくれている。
その事が不謹慎ながらに嬉しかった。
「――大丈夫…………」
「そうか? なら安心だ……」
ヨシユキはボクが無事な事を確認すると、ボクを壁際までエスコート。『ここで休んでいてくれ』と言うと、そのままボクを解放する。
そして元さんと対峙して彼を睨み付けた。
ヨシユキに黙っていたけど、ボクの身体はもうボロボロだった。足がおぼつかなく、思うように動けなかった。
「――怖いよ、ミユキちゃん」
「まあ、怒っていますから……」
「俺の気持ちが少しでも分かったかな?」
「え?」
「君が昨日した事と、君たちが今日した事がそれだ。俺も仲間を傷つけられて憤りを感じた」
「…………」
「どうだい? ここは互いに謝って、今日の所は手打ちにしないか? 師匠には俺から上手くいっておくから、心配はしなくていい」
「…………」
黙るヨシユキ。
どうやらどう対応していいか分からないようだった。
それだけ元さんの提案に思う所があったのかもしれない。
だけど、
「――嫌です……」
「え?」
「私の目的は貴方を倒す事です。妥協案は聞きません」
ヨシユキは元さんの提案をバッサリ。
「――困った子だね……」
「自分でもそう思いますが、私も譲れない事があるんです。婚約問題は勿論の事、妹を守る為、そして傷つけられたマキの為でもあります。勝手な理由というのは百も承知ですが、やはりここは譲れません」
「さっきも言ったように俺は君とは闘いたくないんだ。それを分かってくれないか?」
「私が女だからですか?」
「そうだ。だからもし俺と闘って君が勝っても、俺は本気じゃないって事だ」
「…………」
「本気じゃない俺に勝っても、君たちの目的は達成できない。俺を本気にさせたかったら、そこの水鏡君が出てくるべきだ」
そして矛先がボクに向く。
――闘いたい。だけどボクは……。
まだダメージが回復していない。
正直、すごく悔しかった。
「――ははっ、その様子じゃ無理そうだね。それにさっき手合せしたけど、水鏡君の腕じゃ俺には勝てないよ? その事は傍から見ていてミユキちゃんがよく分かると思うんだけど?」
確かにそうかもしれない。
ボクは一瞬で返し技を決められた、苦い思い出が映像となって脳裏に浮かぶ。
「――…………」
「ミユキちゃん? どうするのかな?」
ヨシユキを追い詰める元さん。
だけど、
「――ふう……」
なぜかそこで溜め息を吐いて笑うヨシユキ。
その態度に、ボクも元さんもどうリアクションしていいか分からなかった。
「――仕方ないですね……」
「ミユキちゃん??」
「こんな事は言いたくなかったんですが……」
「??」
ヨシユキが何かを言おうとしている。
元さんもボクもその言葉を待った。
「――もし……、私と本気で闘ってくれたら……。私に勝てたら……、私を好きにしていいです」
「え?」
「ヨシ……ユキ??」
驚いた。
ヨシユキが。ボクの大切な幼馴染がそんな事を言ってしまう。
ボクは驚愕のあまり、目を見開いてしまうしかない。
「――本気で闘ってくれたら、もういいです……。私は貴方のものになってもいい。いえ、約束しましょう。私を貴方にあげます……」
「ちょっと、ヨシ……ミユキ!!」
止めるしかない。
ボクの見ている前でこんなバカな約束をしていいはずがない。
だけど、ヨシユキは真剣だった。
「――ミユキちゃん……、どうしてそこまで? さっき、門下生たちを煽った時も同じような事を言ってたけど、あれも冗談じゃなかったのかい?」
「そうです。私は……私達は、それだけの覚悟を持ってこの場に居るんです」
「…………」
「どうですか、元さん。私と闘ってくれませんか?」
言葉も出ないとはこの事だ。
ボクは止めなければならないのに、それが出来ない。
それほどヨシユキが真剣だったからだ。
「――……はっ……ははは……っ」
「元さん?」
「冗談じゃないんだね……。もし君が負けたと考えられる状況を俺が作り出したら、本当に君はどうするんだい?」
「……自分の発言は撤回するつもりはありません。約束通り、貴方にこの身を預けることになります。ただし、元さんが私と本気で闘ってくれた場合によりますが……」
「もし俺が手を抜いた場合、君は分かるのかい?」
「勿論。……私は貴方が思っているほど甘くはないですし、手加減された場合はそれなりの対処をします」
「対処?」
「手加減したことを後悔させてあげます」
「……ははっ。面白いな」
「面白いと思う要素は無いと思うんですが?」
「面白いよ、ミユキちゃん。『私をあげる』なんてバカな提案をしてきたのもそうだけど、この俺に『本気で闘え』と向かって来たのもそうだ」
「……で、どうします? 私と本気で闘ってくれませんか?」
「ここまで君に望まれて、期待を裏切るわけにもいかないな……。いいだろう。君の思うように本気で闘おう。……だけど、君こそ俺を本気にさせた事を後悔しないでくれよ?」
「さすが元さん。私も貴方に負けないくらい、本気で闘います。……私を甘く見ると痛い目を見ますよ?」
「大丈夫。ここまで真剣に俺に挑戦してきたんだ。もう手加減するなんて無礼な考えは無いよ。……それに、君の提案した条件は非常に魅力的だ」
「え?」
「もし、俺が勝ったとして、本当に君をどうこうしようとは思わないけど、やる気が上がった事は事実だ」
「……そうですか。私は約束を守るつもりなんですが」
「君はもう少し自分を大切にしたほうがいいと思うんだけどな。……まあいいや。とにかく、一度手合せしてみるかい?」
「ええ。望むところです」
その会話を聞いてボクは焦った。
――勝手に話が進んでる!? ダメだヨシユキ!
自分が元さんと闘ってみてその強さを知っているから、その焦りはかなりのものだった。
ボクの一撃を意図も簡単に捌いたあの反射神経。身のこなし。全てにおいて完璧な動作だ。認めたくないけど、ボクは彼に勝つという想像が出来ないほど、元さんに恐怖というものを感じ始めてしまっていた。
しかも見る限りボクの時でも本気じゃなさそうだったのが予想できる。
――正直、あれ以上強くなるなんて反則だ。
そんな未知数の強さを誇る元さんに挑もうとしているヨシユキは無謀だと思えた。
――勝てる訳がない……。
その答えを導き出すのは容易かった。
只でさえヨシユキは女の子の身体。身長や体重の差は全てにおいて差が出てくる。リーチ、攻撃力、そして体力など、決定的なものだ。
そんな彼女を黙って闘わせる事は出来なかった。
「――ミユキ! だめだよ! 今日は退散しよう!? ねえ!?」
必死に止めるボク。
だけど、もう二人は戦う準備に入っていた。
――身体が思うように動かない……。止める事も出来ないなんてっ!!
自分のダメージにイライラしてしまう。
「――じゃあ、始めようか? ミユキちゃん?」
「ええ……。そうしましょう」
構える二人。
一定の距離を保ちつつ、ゆっくりとそして完成された構えを取る。
「――どこからでもかかって来ていいよ?」
「いえ、そちらからどうぞ」
「…………」
「どうぞ……。私の事は気にせずに……」
「いやいや、俺はレディーファーストなんだ。気にせず来なさい」
「…………じゃあ、行きますよっ!!」
そうヨシユキが宣言すると、二人は闘い始めてしまう。
元さんに一気に向かって行くヨシユキを、見守ることしか出来なかった。




