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第三十三話 「道場破り」

今回のお話はマキ視点となっております。

 一斉にかかってくる門下生たち。

 ざっと数えて三十人は居るだろうか。

 ボクとヨシユキは迎え撃つ形になって剣を構える。


「――行くぜ、ミユキちゃん!」

「勝てば結婚! いやっほーい!!」

「遠慮しないぜ!」


 などと叫びながら突進して来た。

 ボクとヨシユキはそんな彼らの踏みこみに合わせて同時に動いた。

 ――バアァン!!

 二人同時に放った一撃は対峙する門下生の頭を狙い打つ。

 確実に急所を攻撃したボクたちは、迫り来る門下生たちを次々とカウンター気味に攻撃して迎撃していった。

 ――さすがヨシユキ。剣を扱わせても上手い。

 小峰の跡継ぎだけあって、剣も扱えるという万能さも見せていた。

 ――っと、よそ見している場合じゃない。ボクはヨシユキの負担を少しでも減らすんだ!

 守るべき相手が華麗な技を見せている事に一瞬気を取られてしまっていたけど、ボクは気を取り直して目の前の敵に集中した。

 ――前と左右に三人!

 一気に三方向から来る門下生たちの位置を確認して、先制攻撃。

 一人目の胸部に突きを放って仕留める。

 次に来た二人目を流れる動作で胴。

 そして最後の三人目は、膝に一撃を加えた後、前蹴りで後方に転ばせた。

 一瞬にして三人を倒したけど、まだまだ門下生は居る。

 ボクたちは得物を持っているから、リーチがあって有利だけど、やはり数が多いと体力も無くなってしまう。

 ――ヨシユキは!?

 背後に意識を向けると、曲芸並の身のこなしで門下生を翻弄していた。

 最小限の動きを意識しているのか、その一撃一撃が全て返し技という流れだったけど、攻撃する箇所は急所ばかり。

 一度攻撃されれば回復に時間がかかるような箇所ばかりをカウンターで決める。

 この時点で十人近くを二人で倒していた。

 だけど安心して観察している場合じゃない。ヨシユキはまだこの門下生たちを倒した後に、ボス戦が残っている。

 ――ボクがこの門下生をほとんど倒す勢いじゃないとダメなんだ。

 そう頭を働かせると、次の行動は早かった。

 ――ドガガッ!!

 ボクは瞬時に目の前の敵を倒すと、ヨシユキのいる場所へ瞬時に移動。

 足捌きを使って構えは崩さず、いつでも迎撃できるように努めた。

 闘っているヨシユキと合流すると、


「――ヨシユキ!」


 名前を叫びながら、彼が闘っていた相手を背後から闇討ちして排除した。


「――マキ!?」

「君はボクの後ろに! 移動するからついて来て!」


 そして彼を庇うように門下生の前に立つと、ヨシユキを誘導するように移動した。

 ――目的地は壁際!

 そう、壁際だ。

 何も無い所での乱闘は、常に前方、後方、そして左右と四方向に気を配らなきゃならない。

 だけど壁を背にする事で後方を気にする必要がなくなる。

 ヨシユキを守る為には、彼を壁に押し込んでその場に居てもらい、ボクが彼を守るように門下生を迎撃すればいいと考えた。

 ヨシユキもボクの考えが伝わったようで、ボクと一緒に壁際に移動してくれた。

 移動するときも、ボクたちは背中を合わせて闘いながら移動する。

 その移動が、まるでシンクロしたフィギュアスケートのように見えなくもない。

 ボクとヨシユキの相性は抜群だと、少し嬉しくなった。


「――ちょ、なんだあの二人!?」

「この人数相手ウソだろ!?」

「お嬢さんには手加減してるけど、あのボウズには本気だよな、俺たち!? なのに一発も入れられないなんて事があるのか!?」

「こうなりゃマジで行くしかない! このまま全滅なんて事になったら俺たちの沽券にかかわる! 囲んで攻撃だ!」


 騒ぐ周りを無視して、ボクたちは目的地へと到着した。


「――ヨシユキ! そこでじっとしていて!」

「しかしマキ!」

「いいからっ!」


 ボクに負担をかけまいと、自ら進んで闘おうとするヨシユキ。

 そんなヨシユキを壁際に押し込んで門下生から彼を守る。

 ヨシユキは不満そうにしていたけど、そんな事は関係ない。

 ――バシッィイッ!!

 ボクはヨシユキを背中に置きつつ正面の敵を倒した。

 響く打撃音。

 その音が鳴りやまぬうちに、左右から来ていた敵を打ち倒す。

 ボクの一撃はカウンター気味に入り、敵のアバラと鎖骨にヒットした。

 ドサリと崩れ落ちる門下生二人に、矢継ぎ早に攻撃しようとしてきた彼らの勢いが緩んだ。

 一瞬の間。

 相手側もどうやらボクの強さを見て戸惑っているようだ。

 ボクはその間に木刀を正眼から下段に構え直す。

 隙を見せないようにして相手側の出かたを見た。


「「「「――…………」」」」


 向こうも向こうでボクに隙が無い事を察したのか、動く気配が無い。

 つまりは拮抗状態になった。

 ――ジリ……ジリ……ジリ……。

 しかし徐々に間合いを詰めてくる門下生たちはボクを正面、左右と三方向に分かれて囲もうとする。

 ボクの後ろにはヨシユキが居て、竹刀を構えているけど、どうあっても彼を闘わせる訳にはいかない。

 ボクは彼の盾となり、剣とならなければここに居る意味が無い。

 勿論、ヨシユキはそんな風に思ってないと思うけど、ボクは何としても彼の力になりたかった。


「「「――…………」」」


 ボクを囲もうとする門下生三人がこちらを睨み付けて寄ってくる。


「――…………」


 ボクも同じように彼らを睨み付けて様子を見た。

 そんなボクに彼らは間合いを詰める。

 ボクらが背後の壁を味方にしているので、一斉に囲まれない状況が救いだった。

 人数が多いと弱点もある。

 今がその時で、あまりにも一斉にかかると、攻撃するのに味方同士で邪魔になる事もあり、現状では一気に三人でボクに挑む事しか出来なかった。


「――…………」


 と、言っても囲まれているし、逃げ場が無い事には変わりがないので窮地と言えば窮地だった。

 ボクは目を瞑って神経を集中させる。


「――っ!!」


 そのボクの行動を隙として捉えた正面の門下生がボクに攻撃を仕掛ける。

 一人が動いたので続いて左右の二人もボクに挑んできた。


「――はあッ!!」


 ボクは神経を極限まで集中させると目を見開いて迎撃に移る。

 敵はボクの木刀の間合いを掴んで行動していたのだろうけど、その考えの甘さに付け込む。

 ――ダンッ

 と地面を踏み込み重心移動。

 木刀は利き腕で握り、相手に伸ばすように突き付ける。

 空手の『刻み突き』の要領で、神速の突き攻撃を見舞った。

 剣道ではありえない方法、動作により、ボクの攻撃の間合いが伸びる。


「「「――!??」」」


 一寸単位での攻防の中ではこの効果は絶大だろう。

 相手側からしてみれば、自分が考えていた間合いより遠い間合いから突きが飛んで来るのだから驚かないはずがない。

 ――ドカカカッ!!

 ボクの攻撃は見事に決まり、各門下生の胴体にヒットして決まった。

 鳩尾や胸骨に入れたので、かなり苦しいはずだけど、手加減はしない。

 案の定、ボクを攻撃してきた三人は床に崩れ落ちた。


「――あ、あの間合いで一瞬にして三人を!?」

「一体何をしたんだ、あのボウズ!?」


 驚いている門下生には失礼だけども、この人たちじゃ得物を持っているボクには勝てないと思った。

 『剣道三倍段』とはよく言ったものだけど、そこそこ腕のある程度じゃボクには勝てない。尚且つ、ボクもそれなりに腕があると自負しているから余計にそう思った。

 ――今ので、半分以上は倒したかな? もう少しだ。この分だと、守る戦いじゃなく自分から攻めて一気に決めた方が早いかもしれないね……。

 今までは型に沿った『綺麗』な剣道で決めて来たけど、ここからは守りよりも攻めの体勢で行こうと思うので、そんな闘い方は出来ない。

 幸い、ボクは『強い』と思われ始めたので、がむしゃらに向かって来ようとする門下生はいなくなっていた。

 今がチャンスだと咄嗟に思った。

 ――向こうのやる気は削いだ……。行くよ!


「――っ!!」


 気合を入れると、ボクは驚いている門下生に自分から向かって行く。


「――うわっ、来た!」

「ビビんな! 行くぞ!」

「おう!!」


 気合を入れ直した門下生たちは気力を取り戻し、ボクに迫る。

 そして、

 ――ドゴッ!!

 間合いのリーチの差で、ボクの剣が先に相手を捉えた。

 ボクたちはそのまま乱闘へともつれ込む。

 この頃にはみんなの意識がボクに集中していたようなので、誰もヨシユキを攻撃しようとはしなかった。

 それが救いで、ボクは自分の闘いに集中できた。


「――押すな、押すなって!」

「バカ! 攻撃出来ないだろ!」

「痛てッ! 俺は味方だバカ野郎!!」


 ヨシユキがターゲットから無くなったおかげで、ボクへの密集度が更に上がり、門下生たちが押し寄せてくる。

 十人以上がボク一人に向かって来るので、意外と敵側の方が不自由そうだった。

 ボクが躱した攻撃を味方が食らったりして、なかなか有利な状況だった。

 しかしこれだけ密集していると、ボクも上手く闘えない。


「――くっ!」


 簡単に言うと、木刀が上手く振るえないのだ。


「――はははっ!」


 それに気づかない門下生が居るはずも無く、接近戦に挑もうとする人もいた。

 だけど、

 ――ゴッ!!

 ボクはその門下生に木刀の柄で攻撃。

 そしてショルダータックルで跳ね除けると、そこへ後ろ蹴りを食らわせた。

 ――ヨシユキほど、綺麗な技じゃないけどっ!!

 そう思いながらも、ボクは攻撃を続ける。

 吹っ飛ばされた門下生のおかげでスペースが出来た。そこへ瞬時に滑り込んだボクは、剣を振れるスペースを確保。

 そのまま乱闘戦に有効な下段横薙ぎ攻撃で身近な相手を転ばせる。

 膝を狙った姑息な一撃だけど、卑怯だとは思わない。

 ――道場破りだもんね!

 そう思うと、後ろめたい気持ちは微塵も感じなかった。

 しかし、立ち上がり動作で体勢を立て直したばかりで、今のボクは動けない。

 そこへ、門下生の強烈な蹴りが飛んで来た。

 ――避けれない!?

 その蹴りはボクの胴体を見事に捉えていた。

 ――ガシッィ!!


「――っ!!」


 しかしボクはその蹴りを食らいつつも、相手の足を脇に抱えて動きを封じた。


「――はああっ!!」


 咄嗟に大声で叫んでいたボクは、自分のダメージを我慢して瞬時に反撃。

 ――バキッ!

 相手の側頭部に一撃を加えると、間髪入れずに軸足を払う。

 そして倒れた相手の腹に追撃の一刀を加えた。


「――野郎!」


 頭の上から叫び声が聞こえる。

 恐らく、頭上からボクを殴ろうとしている声だった。ボクが追い打ち攻撃をした隙を狙ったんだろう。

 だけどボクは甘くない。


「――っ!!」


 気配を感じ取って木刀で高速下段払い。

 相手を床に倒して、ボクは立ち上がる。

 そしてその倒した門下生を踏み潰して飛翔した。


「――ああああっ!!」


 そう咆哮しながらボクは門下生を空中で捉えて木刀を振り下ろす。

 ――ドガッ!

 鈍い打撃音が響くと、ボクの一撃を食らった門下生は一瞬で倒れた。


「――このガキ!」


 ボクの着地を狙う門下生の攻撃。

 見事な廻し蹴りがボクを襲う。


「――はっ!」


 だけどボクは木刀でその蹴りを迎撃。

 蹴りを捌くと、上半身に剣を振り下して一撃を加えて倒した。

 気がつけば、もう門下生は数えるほどで、ボクは畳み掛けるように相手を倒していく。

 目の前で次々と倒されていく仲間を見て気力が削がれていたのか、残った門下生たちは弱かった。

 最後の一人を仕留め終えると、元さんが黙ってボクを見ていた。

 ボクは彼の視線を受けてゆっくりと木刀を構える。


「「――…………」」


 二人して睨みあった。


「――……水鏡君とか言ったね……」

「はい……」

「君は強い。共に闘っていたミユキちゃんも大概だったけど、君の剣の腕は本物だ」

「それはどうもです……」


 そんな会話をしつつも、ボクはゆっくりと歩き出し、元さんと一直線上の位置に移動した。


「――おや? 君が俺と闘うのかい?」


 元さんがボクの行動に疑問を投げかける。

 まあ、ボクが木刀を正眼に構えたんだから闘う意思があると思われても仕方がない。

 ――彼を倒せば、ボクが婚約者の位置に……。あ、ダメだ……ボクは何を考えたんだろう……。でも……婚約者……。どうしたらいいのかな?

 咄嗟に考えてはいけない欲が出た。

 チラリとヨシユキを見ると、静かに首を横に振って『俺に任せろ』と言っていた。

 ――うーん……。ヨシユキを裏切りたくないけど、やっぱり婚約者の肩書は魅力的だし……。

 悩むボク。


「――来ないのかい? 今更『やめた』は無しだよ。これだけの事をしておいて、君たちを帰す訳にはいかないんだ」


 そんな悩んでいる所に元さんが空手の構えを取って凄んできた。

 一触即発の拮抗状態。

 ヨシユキはこの展開に驚いて身動きが取れないようだった。

 ――まあいっか……。ボクがヨシユキの婚約者になって彼女ミユキを守ろう。うん、そうしよう。それがいい。というか、それが一番の正義だよ。

 思わずテンションが上がってニヤリと笑ってしまう。


「――嬉しそうだね、水鏡君。うちの門下生をこれだけ倒しておいての余裕かい?」


 一方で元さんはボクの態度が気に入らなかったのか、怒気を含んだ声色でボクに語りかけた。


「――いえ、そんな事はありません。というか、貴方が最後です。ミユキの婚約者候補から外れてください」

「うーん。それは出来ない相談だね」

「なぜですか? ミユキのおじいさんからの頼みだからですか?」

「それもあるけど、それだけが理由じゃない」

「??」

「俺はミユキちゃんが好きなんだ」

「え?」


 元さんの告白に驚くボクは間抜けな声をだす。

 しかしボク以上に驚いているのが、


「――マジっすか!?」


 告白された本人ミユキさんだった。

 ヨシユキはミユキモードを忘れて素で反応していたけど、元さんは気にしていないようで、


「――うん。マジも大マジ。初めて見た時から君に好意を抱いていたよ」


 ガンガンに攻めてくる。

 ヨシユキは思うところがあるようで何とも言えない表情をしていた。

 ――身近な人……しかも同性に告白される恐怖。心中察するよ……ヨシユキ。

 ボクはなんだかヨシユキが可哀そうになって来た。


「――元さん、告白している所悪いんですけど、ミユキの恋人はボクです」

「え?」

「彼女はボクのものです」

「何だって!?」


 この事は自信を持って言える。

 天使に頼んでいるのだから間違いはない。

 ――ヨシユキ、ボクの勇姿を見てて……。

 闘う気満々でボクはヨシユキを見た。


「――…………」


 だけど、彼はボクを微妙な表情で見つめているだけだった……。

 ――なんだか悲しいな……。あの様子じゃボクの気持ちは伝わって無いかな? むしろ、『余計な天使の設定を言う必要は無い』と怒っているのかもしれない……。

 だけど若干ヨシユキの顔が赤いのは脈があると考えてもいいのだろうか。

 なんというか、照れているヨシユキは今の容姿もあって可愛かった。


「――き、君とミユキちゃんが付き合っている!? そんな……。そんな事が……」


 元さんは元さんでショックを受けている。


「――ミユキちゃん、今の話は本当なのかい?」

「えーっと……?」


 戸惑うヨシユキはボクを見る。

 ボクはそんな彼に笑顔で返した。


「――ちゃんと答えてくれ!」

「は、はい。一応、お付き合いしている……のかなぁ??」


 終始疑問形なヨシユキだったけど、なんとかボクの意見を肯定してくれた。

 ――なんだか嬉しい。

 彼が天使の仕業とはいえ、ボクを『恋人』と認めたんだから嬉しくない訳が無かった。それが例え彼にとって仮初の感情だったとしてもだ。


「――ぐ、ぐぬぬぬぬ……」


 さて、そんなテンションの上がったボクとは対照的に、テンションが下がってメラメラと燃えている人が目の前に居た。


「――水鏡君。俺に倒される準備はできたかな?」


 もう、ボクを張り倒さんとする勢いだった。

 ――だけどボクもヨシユキを譲るつもりはないんだ。


「――その言葉は貴方に返しますよ、元さん」

「度胸は良いな、水鏡君。本気でくよ?」

「どうぞ」


 もう些細な切っ掛けでいつでも戦闘が始まりそうな勢いだ。


「――ちょっとマキ、待って! 元さんは俺……コホン、私が倒さないと意味ないって!」


 ヨシユキは声を張り上げているが、ボクは無視した。

 勿論元さんも同じで、ヨシユキの声は誰も聞かない。


「――ちょっと! おーい!!」


 何か叫んでいたヨシユキだけど、ボクと元さんはその声を掛け声に共に動いた。

 ――ダンッ!

 道場の床を踏みしめる音が二人分轟いた。

 身体が加速する。

 目標は目の前の元さんだ。

 ――こっちは得物持ちだ、ボクの方が断然有利!!

 ボクは自分の持てる最大の速度で元さんとの間合いを詰める。


「――マキ! 止めろ! お前じゃ無理だ!!」


 ヨシユキは何か言っていたけど、ボクの耳には届かない。

 ボクは自分が知る、最速の攻撃を繰り出そうと、元さんに向かって行った。

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