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第二十三話 「就寝前の電話2」

 マキたちと四人で帰ってからその後、本日も就寝前にアイツに電話しようとした。

 アイツというのは勿論、マキだが俺には少し気になっていた事がある。

 俺は『それ』を確かめる為に携帯電話を取った。

 昨日と同じ、深夜の時間帯だが今日も『電話する』と伝えていたので問題ないだろう。

 ――プルルッ……!

 何回かのコールの後、マキは電話に出た。


『――もしもし……』


 いつもの声。いつものトーン。

 相も変わらず、マキはマキだった。

 俺はこんな夜遅くに電話した事を詫びながら、マキと話す。

 内容は今日起こった事だが、俺の方にはこれといって事件が無かったので、マキの話を重点的に話した。


「――マキ、今日は放課後すごかったな」

『そう?』

「ああ、なんだか竹刀を持ってるお前は別人みたいだ」

『それは褒め言葉として取ってもいいのかな?』

「勿論だ。お前はすごいよ」


 俺の言葉に電話越しに照れている事が、雰囲気で分かった。

 マキは昔から俺が剣道の事で褒めると喜ぶ。何度も応援で武道館に出向いたが、毎回マキはとても嬉しそうにしていた。

 応援する必要が無くてもマキは俺に応援に来いと言う。

 ――褒められるのが好きなのか?

 まあ、俺や相沢さんの声援でマキが気持ちよく剣道が出来るのなら、喜んで協力しようと思う。


「――ところでマキ?」

『……ん』

「お前が放課後に先輩と試合していたのは見て分かったけど、何でいきなり試合なんてしてたんだ? 今日はそういう練習日とか……」

『ああ……その話……』


 マキが言いよどむ。

 俺は不思議に思ったので『どうした?』と聞き返した。するとマキは少し間を置いて話してくれる。


『――実は今日の昼休みに、酒井先輩に呼び出されてね……』

「呼び出し?」

『……ん』

「何で呼び出しなんだ。お前なんかしたのか?」

『ボクは何もしてないけど、主にヨシユキが……』

「はあ!?」


 俺は意味が分からなかった。

 なぜ俺の事でマキが剣道勝負をしなければならないのか。というか、なぜ呼び出されたのか。俺はその事が非常に気になる。


『――ヨシユキ……』

「なんだ?」

『君は自分にファンクラブがある事を知っているかな?』

「……は?」

『……ファンクラブ』

「ファンクラブ?」

『……ん』

「…………」


 時が止まる。

 俺はマキの口から出たワードに理解が追い付かなかった。

 ――ファンクラブって……っ!?

 そのワードは俺では無く、相沢さんに該当するものじゃないのか。


『――さすがヨシユキ……。人気があっていいね』

「いやいやいやいやいや!!」

『??』

「おかしいだろ! 何で俺にファンクラブなんだよ!?」

『君は一度自分の顔を鏡で見直した方が良いと思う……。それが答えだよ』

「…………」

『ヨシユキ?』

「…………俺に男のファンが?」

『……ん』

「ファンクラブのせいで野郎から告白されてるのか?」

『……ん』


 俺はがっくりと項垂れて言葉を失う。

 女の子から人気があるなら非常に嬉しいが野郎からの人気なんぞ、即ダストシュート決定だ。相沢さんの言葉で一応、ラブレターの送り主と向き合ったが、出来る事ならもう男からの告白は勘弁願いたい。

 ――ん? ちょっと待て。

 なんで俺のファンクラブ問題とマキの剣道試合が関係しているんだろうか。ファンクラブ問題は後に俺が決着をつけるとして、今はやはりマキの事が気になる。

 俺はその事をマキに問うと、マキはゆっくりと話しだす。


『――今日ボクが試合した、酒井先輩いるよね?』

「ああ……」

『あの人、君のファンクラブの会長なんだ』

「はい!?」


 ――衝撃だぜ。


『――ボクも驚いたんだ、昼休みにね』

「…………それで?」

『ボクを呼びつけたのは酒井先輩だ。要件は……』

「要件は?」

『君の事だよ』

「お、俺の?」


 マキは俺の問いに、相変わらずの雰囲気で頷いた。

 驚いて説明がすぐにでも欲しい所に、マキが詳しく話してくれる。


『――簡単に説明すると、ボクと君の噂の事で色々と言われた……』

「う、噂?」

『ボクとヨシユキの関係は表上「恋人同士」だよね?』

「あ、ああ……。そう……なのか?」

『そうだよ。……それでファンクラブのみんなは恋人ボクを許せなかったんだ。屋上で話し合いをした』

「お前、そいつらに何かされたのか!?」


 一瞬、不安になる。

 マキは身体は男だが、中身は女だ。それに大切な幼馴染でもある。そんな彼女に危害が加えられたとしたら、俺は今すぐにでもファンクラブの奴らの所に乗り込むだろう。


『――ボクは大丈夫だよ。何もされなかった』

「そ、そうか」

『だけど、厄介な流れになって、そのまま剣道勝負になった』

「……悪い、話を端折りすぎだ」


 全く持って説明が足りない。

 ――なぜ、それで剣道勝負?

 俺の頭は情報が足りずに混乱した。


『――ごめん。要はヨシユキを賭けてボクと先輩が勝負する事になったんだ』

「ん?? んん??」

『君はラブレターで告白された時に、ボクの名前を出して断ったよね?』

「あ、ああ……。それがどうした?」

『その事がファンクラブの中で事件になって、今回の一件に飛び火したんだ。……ファンクラブに恋人ボクという存在が瞬時に知れ渡って、屋上に呼び出された』

「…………つまり?」

『つまり、君と「別れろ」って言う類の話だよ』

「俺、誰とも付き合って無いのに!?」

『ボクたちにとっての真実はそうだけど、天使の力が関係してるんだよ? そんな主張は認められないみたい……』

「…………」

『ボクは先輩に君との関係を色々と言われた。結果的に落ち着いたのは勝負することでボクらの関係を認めて貰う事だった』

「お前、それで勝負を受けたのか!?」

『……ん』

「なんで!?」


 それでマキが酒井先輩に勝っちまったんだから、この『恋人』云々の噂に拍車がかかってしまう。

 マキはそれでいいのだろうか。俺と恋人と周りから認められて迷惑だと思わないのだろうか。

 昨日、俺が告白された内容を、もう今日になってファンクラブが把握している所をみると、俺たちの噂はあっという間に知れ渡る事になるだろう。

 俺は恐る恐るマキを伺った。


『――ヨシユキの為だよ』

「え?」

恋人ボクという存在が居ないと、君は告白ラッシュに遭うんじゃないかと思ったんだ』

「……あ」

『ヨシユキは可愛い。ファンクラブが君の身辺を管理運営していても告白する人は告白すると思う』


 そこでマキの真意に気づいた。

 だがマキは、その真意を丁寧に言葉にしてくれる。


『――恋人ボクが居れば、告白される事は無くなるんじゃないかな? 誰だって相手が居るのに告白する人は居ないと思う』

「……お前」


 本当になんていう奴だろう。

 コイツは俺の事を考えて無茶な勝負をしてくれたのだ。

 ――頭が下がるぜ。

 瞬時にこみ上げる気持ちは表現しにくい。だけど嬉かった。

 同時に俺は、こんな幼馴染を持てた事に心の中で感謝していた。


「――ありがとう、マキ。……世話をかけた」

『気にしないで……。ボクが勝手にした事だから』

「だけど礼は言いたいぜ」

『もう聞いたよ?』

「それでもだ」


 俺はマキに改めて礼を言った。

 マキはマキでいつも通りに、頷いて俺の言葉を聞いてくれた。

 幼馴染という関係だが、このように改めて感謝を述べるのは恥ずかしい。いや、長い付き合いだからこその気持ちなのだろうか。

 ――何というか、照れるな……。

 俺はそんな気持ちを抱きながら、マキとぎこちない会話を続けて、就寝前の会話を楽しむのだった。

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