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第十八話 「就寝前の電話1」

 あれから俺と美月はマキと別れて帰宅。

 そのまま晩ご飯になり風呂に入って、今は就寝前の遅い時間だ。

 一応、晩ご飯は朝に思いついたように、俺が美月の好物であるオムライスを作ってやった。ジイさんは何でも食べる人なので好き嫌いは無い。

 仲良く食卓を囲んで三人で食べる晩ご飯はいつも通りだった。

 多少、美月のテンションが高く、


『――姉さん、ありがとうございます♪』


 食事中に俺に抱きついてきたのはびっくりした。

 まあその後に、俺と一緒に風呂に入ろうとしたのはびっくりを通り越して凍りついてしまった。

 なんだかんだで精神的に疲れた俺はベッドに横になっていた。

 ――少女趣味全開の俺の部屋……。

 全く慣れないこの部屋は、地味に俺の心を蝕む。

 とりあえず、心から信用できる相手と喋りたくなった俺は携帯を手にして、アイツに電話をした。

 ちなみに、俺の携帯はスマートフォンではなく、ガラ携である。

 どうでもいい事だが……。

 さて俺は、電話帳からマキの番号を検索してボタンを押す。

 ――プルルル……。

 何回かのコールの後、マキは電話に出た。


『――もしもし……?』

「ああ、もしもし? 俺だ」


 電話口で聞くマキの声は、何だか変な感じがした。


「――今、大丈夫か?」

『……ん』

「ならよかった。まだ寝てなかったんだな?」


 時計を見ると、もうすぐ午前十二時になろうとしていた。

 ……こんな時間に電話をする俺は非常識だが、どうしてもマキに行っておきたい事があったんだから仕方ない。


『――電車の中で「電話する」って言ってたから起きてた……』

「遅くなってすまん」

『別にいいよ……。ヨシユキの電話だから』

「そ、そうか……?」


 何とも申し訳ない気持ちがこみ上げるが、これ以上迷惑をかけたくないので雑談は省いて本題に入る事にした。


「――とりあえず……だ」

『……ん』

「ありがとう、マキ」

『??』

「急にお礼を言われても困るだろうが、今日はお前のおかげで助かった……。色々と」


 本当に色々と助かったので素直に言葉を紡ぐ。


『――本当に返事に困るね……』

「ははは……。しかし本当の事だから仕方ない。お前が居てくれたおかげで何とか一日を乗り切る事が出来た」

『……それはボクも同じだよ』

「そうか? お前、意外と順応力高いから、一人でも大丈夫だと思ってた」

『そんな事ないよ……。ボクはボクで色々と考える事があるんだよ?』

「ふーん……」

『ヨシユキだって順応力高いと思う。今日の女の子言葉……可愛かった』

「そ、それに関しては触れないでくれると助かる……」


 本当に触れないでほしい。

 異性を演じるのがこれほど難しいとは思わなかった。今日一日、女の子言葉で過ごせた事が奇跡に思える。


『――なんで? いいじゃない……』

「良くない!」

『……残念』


 ――何が残念なんだよ、マキさん?


「――残念がるな。俺は必死だったんだからよ」

『そうは見えないくらい凄かった。ヨシユキって、意外と演技が得意なのかな?』

「そんな訳ない。演技なんて素人も素人だ」


 そうだ。

 俺は演技など全く出来ん。

 まあ好きなマンガを読んでいる時にセリフを言ってみたりしたことはあるが、あんまり演技とは関係ないだろう。

 ……恥ずかしいエピソードだが。


『――その割には違和感がないんだよね。特に午後からなんかは本当に女の子みたいだった』


 ――ガーン……。

 俺はその場で崩れ落ちた。

 いや、まあ最初から寝転んでいるんだが、それでも気持ちは膝から崩れ落ちる勢いだ。


『――ヨシユキ?』

「…………ああ」

『どうかした?』


 その無邪気な質問が憎い。


「――別に何でもないよ……」

『だったらいいんだけど……』

「はぁ……」

『まあとにかく、ヨシユキはちゃんとミユキを演じれていたよ。本当に可愛かった。……ボク、自分を抑えるのが大変だったんだから……』


 ――自分を抑えるってなんだ?

 俺は女として貞操の危険を感じていた。


「――コホン! まあ、なんだ……」

『??』

「今の所、変なボロは出てないって事か? お前目線から見ると……」

『……ん。問題ないよ。ボクは君の恋人で鼻が高いと思ったくらいだから……』

「こ、恋人ね……」


 なんだかんだ言って、俺とマキの関係は何とも微妙だ。

 天使の力が働いて、周りからそう思われたり、噂になっていたりしているのは、今日の学園で身を持って知った。


『――ボクと君の関係は、親しい人からは「恋人」と認識されていて、そうじゃない人からは「恋人」と噂されてるみたいだね。千歳や青山の反応とその他の人との反応が違った』

「そ、そうだな。お前の言う通りかもしれん」


 この事は大きな収穫と言えるかもしれないが、勿論マキと俺は付き合っている訳ではない。ただの幼馴染である。

 その事をコイツは分かっているのだろうか? なんだか自然に『恋人』と発言するマキが不思議に思えた。

 ――そうだ。

 忘れていた。俺は今日、この恋人マキのおかげで重い告白を回避したのだった。


「――マキ、そういえば……」

『……告白の事?』


 ――エスパーか?


「――そ、そうだけど……」

『答えはどうしたの?』

「も、勿論断ったに決まってるだろう! 男なんて気色の悪い!」

『女の子からも告白されたって話だったけど……』

「う……それは……」


 痛い所を突いてくる。


『――断ったの? 勿体無いね……』

「お前なぁ……」


 ――俺は今女の子なんだぞ?


『――ボクはヨシユキが誰と付き合っても構わないよ? 彼氏としては悲しいけどね……』


 ――彼氏って……。

 その言葉を俺に適用しないでほしい。


「――お前、俺が困ってるのを楽しんでるだろう?」

『そんな事ないって……。幼馴染として心配してるんだよ』

「…………」

『ボクは君が幸せならそれでいいんだ。千歳と好き合うのもいいと思う……』


 その相沢さんが俺の事を親友としか見ていないのが悲しい。

 ――どうやって振り向かせればいいんだよ?

 誰か教えてほしかった。

 しかも俺は今女の子だ。彼女と同性なのだ。これが異性の友達ならまだ可能性があるが、今の状況だと、難易度が高すぎる。


「――…………とにかくだ」

『……ん?』

「俺はお前と『付き合っている』という理由で皆の告白を断った。それだけは伝えておきたかったんだ」

『別に改めてボクに言わなくてもいいと思うけど?』

「そうはいかん。お前を勝手に理由に使ったんだからな……」

『ヨシユキ……』

「ごめんマキ。それとありがとう……」

『またお礼? もういいよ……。それにそう言う事なら、ボクの事をいくらでも使ってくれていいよ。ボクは構わないから……』

「そ、そうか?」

『……ん』


 本当にコイツは良い奴だ。

 俺はマキの為なら何でも力になってやろうと改めて思う。


『――それにしてもヨシユキはモテるね……』

「なんだよ、いきなり」

『……今日、青山から聞いたんだけど……』


 ――慎二? 何の話だ?

 そう言えば、コイツら一時間目の前に連れだって教室から居なくなっていたことを思い出す。

 ――マキと慎二の関係はどうなっているんだ?

 俺はその事が気になったが、マキが話を続けるので聞きそびれた。

 また明日にでも詳しく聞くとしよう。


『――ヨシユキが告白を断ったのは、昨日までの時点で三十六人だって……』

「はあ!?」

『今日、新たに三人断ったから、今日で三十九人だね?』

「…………」


 俺は開いた口が塞がらない。

 ――どういうことだよ?

 俺はそんなに振った覚えは無いし、これからも告白される予定も無い。


『――もう少しで四十の大台を超えるかもしれないよ……?』

「全然嬉しくねぇよ……」

『そう? モテていいじゃない』

「野郎にモテて喜ぶ趣味は無い!」


 俺は偏見は持っていないが、ノーマルなのだ。だから全く嬉しくなかった。


『――でも、女の子にも告白されてたじゃない』

「あ、ああ……」

『この数字は青山曰く、男の子に告白された数らしいよ』

「…………」


 ――男の俺に三十九人……いや、倉田さんを除いて三十八人も告白してるのかよ。

 なんだかテンション下がりまくりだ。


『――実際の所、女の子にも告白されてるから、本当の数は分からない……。もしかしたら、とっくに四十の大台を超えてるかもしれない』

「やめてくれ……。もう告白の話は疲れた……」

『……ん』


 非常に気が重い情報をくれたマキに俺は礼を言う。

 ――おっと、そうだ……。忘れるところだった。


「――ところでマキ」

『どうかした?』

「俺は今日学園に行ってみて、どうも気になっている事があるんだ。聞いてくれるか」

『う、うん。良いけど……』

「まあそう身構えるな。大したことじゃない」

『……ん』

「気になっている事って言うのは、今日の授業中の事だ」

『ラブレター読んでた、数学の授業?』

「話の腰を折るな」

『ごめん……』

「まあいい。……とにかく、その授業中に気になる事が増えた。お前は俺の身の回りの異変に気付かなかったか?」

『えっと、特には……』

「……俺が山田先生に当てられて、数式を解いた時の事だよ」

『……あ』

「変だったよな? 俺ではなく、周りの反応が」

『確かに、みんな驚いてたね』

「原因は俺の学力にあるらしい」

『が、学力って……』

「どうやら今の俺……。つまりは『小峰ミユキ』は勉強が苦手らしい」

『うそ……』

「嘘じゃない。相沢さんに確認も取った」

『それで皆驚いていたの……。なるほど』


 そこで俺は、今日ずっと考えていた事をマキに話す事にした。


「――性別が変わってから、周りの環境が変わりすぎている。今更だが、今日の一件でそう強く思ったぜ」

『モテまくってるもんね。ヨシユキ』

「その話はもういい……。話が進まん」

『ん……』

「ここからはお前も関係してるかもしれない話だから良く聞け」

『し、真剣な話なんだね。……いいよ、話してみて』

 マキも電話の向こうで真剣になったので、俺は続きを話す。

「――まだこれは推測の段階だが……」

『うん……』

「性別が変わって、俺の学力が変化してるように、お前にも何か男になって変化しているものがあるんじゃないか?」

『学力とか?』

「いや、それは分からない。確かめたワケじゃないからな」

『ん……。よく分からないね』


 俺だってまだ分からない事が多い。

 今言ったのは推測で、可能性の域を抜け出していない。

 だけど、性別が変わって何かしろの変化があるのは確信が持てる。説明はできないけど、直感で分かるんだ。


「――これは今思い浮かんだんだが……」

『?』

「性別が変わった状態だと、『得意な事が苦手になっている』んじゃねぇかな……」

『得意な事?』

「そうだ。今日あった一件のように、俺なら学力が当てはまる」

『ヨシユキ、勉強得意だもんね……』

「それがミユキさんだと、あまり思わしくないようだ」

『なるほど……』

「お前も何かあるかもしれないな。男の『水鏡真樹』は、本来お前が得意だったものが苦手なのかもしれない」

『何だろう……? 炊事洗濯かな。裁縫とか……』

「今のお前がそんな事を得意げにしているとすごい違和感があるな……。女子力高い男子ってどんなだよ……」


 俺は炊事洗濯をしている今のマキを思い浮かべて苦笑した。


『――だって、他に思い浮かばないんだから仕方ないじゃない』

「まあ、この一件は追々調べて行くことにしよう。考えても答えが出るわけじゃないからな」

『……ん』

「明日からまた頑張ろうぜ。色々な事が起きすぎて苦労と隣り合わせだろうが……」

『無事に日常を過ごせればいいね』

「そうだな……」


 そこまで話すと、後は適当に雑談して電話を切った。

 言いたい事をマキに相談できて少しホッとしたが、それも束の間。瞬時に明日からの学園生活について考え込んでしまう。

 俺は、溜め息を吐きながら明日からの学園生活に不安を覚えるのだった。

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