表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/66

第十七話 「一日の終わり、帰宅」

 下級生の教室から昇降口に移動して帰宅準備に入る俺。荷物はもう持って来ていたので、そのまま帰る事が出来た。

 靴箱から靴を履きかえ、そのまま学園を後にする。

 校舎から校門まで歩を進めると、


「――あ」


 校門の前に美月とマキが立っていた。

 向こうも俺に気づいて手を振って(主に美月が)来る。

 俺は軽く手を上げて美月たちに応えると、早足で彼女達の元へと急いだ。


「――姉さん♪」

「うわっ!?」


 するといきなり美月に抱きつかれた。


「――今日もお疲れ様でした、姉さん♪」

「ちょっ、美月、離れて!」

「嫌です! 姉さんを『ギュッ』てしたいんです!」

「ああっ、もう! マキ、助けて……」


 と、マキを見ると彼女は無言で羨ましそうにしていた……。

 ――ブルータス、お前もか!?

 何とも裏切られた気分だが、まあ仕方ない。

 俺も先ほどマキを使って、告白を断ったばかりだ。俺は申し訳ない気持ちでマキに助けを求める事を躊躇った。

 勿論、後で電話でもして謝るつもりでいる。

 とにかく、今は美月にされるがままになっておこう。


「――二人とも、なんでこんな時間まで学園に?」

「何言ってるんですか、姉さん」

「??」

「……ミユキを待ってた」

「そうです!」


 ――なぜ待つ必要があるんだ?

 素朴な疑問が浮かぶ俺は、首を傾げるが、美月は続ける。


「――姉さんと一緒に帰るためです!」

「おれ……コホン! 私と?」

「そうです。まあ、水鏡さんとは偶然ここで会ったんですけどね……」

「……ん」

「私は三人じゃなく、姉さんと二人っきりで帰りたかったんですが……」


 美月はマキをジト目で見つめる。

 マキはそんな美月の視線を受けて、表情を曇らせた。

 ――生き返った後では、マキへの態度が違いすぎるな、お前。

 とにかくこの妹様は俺に執着しているのは間違いない。

 俺に近づく人間。特に異性に対しての態度が冷たい。マキは俺の周りで唯一、一番近い異性である事は間違いないので、こんな態度に出るのかもしれない。

 ――仲良くしてくれると助かるんだが……。

 俺の切実な願いもむなしく、美月は俺とマキの間に割り込むようにして歩き出した。

 戸惑う俺とマキを尻目に、三人で最寄りの駅まで向かい、帰る事になった。



 俺たち三人は改札を抜けて電車に乗る。

 さすがにこの時間は『女性専用車両』などは無く、一般車両だ。

 ちなみにマキと俺の家は結構近い。だから最寄りの駅も同じだ。

 何故、朝に一緒の電車にならなかったのかというと、マキは一般車両に乗って登校したからである。

 まあ、家を出た時間も同じではなく、たまたま重ならなかったのも理由の一つかもしれない。


「――ふう……」


 思わず安堵する。

 やはり女性専用車両より一般車両の方が落ち着く。

 俺は一応『男』なので、女性ばかりに囲まれて電車に乗るのは落ち着かないのだ。


「――姉さん?」

「え?」

「どうかしましたか?」

「いや、別になんでも……」

「そうですか? ならいいですけど……」


 吊革に手をかけて、美月が俺の顔を覗きこむ。

 今の立ち位置は、俺の右側に美月、左側にマキという両手に花? 状態である。車内が混み合っていて座れなかったのだ。

 まさか『一般車両で落ち着いている』などとは言えるはずがない。もし言ってしまえば、また何を言われるか分からない。

 俺は、これ以上この話題に触れられたくなかったので、隣のマキに話しかけた。


「――そういえばマキ、今日の部活はどうしたの?」

「……今日は休んだよ」

「そうなの?」


 隣に美月が居るから、マキと話すときも女の子言葉だ。

 正直、自分が気持ち悪かった。

 まあ、今日一日『小峰ミユキ』を演じていたのだから今更だが……。


「――……ん。病み上がりだから、今日は休みをもらった」

「ナルホド」

「明日から普通に行くよ……」

「そう? がんばってね」

「……ん」


 ――ううっ。マキとは普通に喋りてぇよ……。

 唯一、俺と同じ境遇にいる相棒なのだから、その気持ちはかなり強い。しかし美月にバレると後が怖いので、俺は軽く溜め息を吐いた。


「――姉さん、どうしました?」

「いえ、何でもありません……」


 ――お前さんのせいだよ……。

 とは口が裂けても言えないので、俺はただ黙って『小峰ミユキ』を演じた。


「――それにしても……姉さん?」

「なに?」

「今日は遅かったですね? 校門で結構待ちましたよ?」

「ああ……」


 ――それは告白されていたからです。

 結構恥ずかしい問題だし、相手も知られたくないだろうから、俺は口ごもった。


「――何かあったんですか?」

「えっと……、それは……」

「姉さん?」


 美月が追及を止めてくれない。

 ――どうしたものか……。

 考えて上手く答えを導き出そうとしていると、


「――……告白でしょう?」


 マキが美月にボソリと言いやがった。


「――え!?」

「告白……」

「…………」


 俺は言葉が出なかった。

 チラリと美月を見てみると、俺をジト目で覗き込んでくる。

 ――な、なんだよその目は!?


「――姉さん……?」


 笑顔が怖い。

 ――というか、何でそんなに機嫌が悪いんだよお前?


「――返事はどうしました?」

「え?」

「告白の返事です……」


 ――なぜ、お前にそこまで報告しなければならないんだよ?

 まあ、生き返った俺に対する態度を見ていると、こうなる可能性も無い事も無かったと言えるかもしれないが。


「――じとぉ……」


 視線が言葉に出ていた。

 俺はそんな妹に耐えられなかったので、正直に答えた。

 告白された人数や、その告白の内容まで全て吐いてしまった。


「――女の子にまで告白されたんですか!? ……姉さん、恐ろしい子っ!」


 ――どっかで聞いたようなセリフだな、おい。


「――あのね……美月」

「なんですか?」

「姉の告白話なんていちいち気にしないでよ……」

「そんな訳にはいきません! 水鏡さんもそう思いますよね!?」

「え? ぼ、ボク!?」


 急に矛先が向いて来たのか、マキは戸惑う。


「――そうです。水鏡さんは『一応』姉さんの恋人なんですよね?」

「そ、そう言われてる……ケド?」

「?? まあ、とにかく姉さんがモテて困る人が確実に居るんです! ええ、居ますとも! それは所かしこに居てですね(中略)。とにかく姉さんは告白されちゃダメなんです!」


 力説する美月。右手を握りしめて、演説スタイルだ。このままでは『ジーク』とか言いそうである。


「――そう言われてもね、美月……」

「姉さんは自覚というものが足りないんです。あと水鏡さんも」

「「??」」

「特に水鏡さん? 姉さんに告白を許していると、いつかどこかの誰かに姉さんを取られちゃいますよ?」

「あ……うん……」

「なんですか!? その微妙な反応は!?」


 熱くなる美月はマキに御立腹だ。

 まあ、マキも天使の設定で困っているはずなので、美月に言い寄られてもどうしていいか分からないはずだ。


「――それで姉さんの恋人と言えるんですか!? まあ私は認めていませんけど、仮にも彼氏としてですね……」

「あの、美月?」

「なんですか?」

「こんな公共の場で『彼氏』だの『恋人』だの言わないでくれると助かるんだけど……」


 正直、めっちゃ恥ずかしかった。

 周りは綾菱学園の生徒で溢れているので、どんな噂が立つか分からない。


「――でもっ」

「美月……」

「…………はい」


 やっと美月が落ち着きを取り戻した。


「――マキは何も悪くないんだから、これ以上は言わないであげて」


 そうだ、マキは悪くない。

 むしろ俺はマキに感謝しなければならないほどだ。

 俺はマキのおかげで、上手く告白を回避できたのだから……。


「――うー……」


 不満そうな美月を尻目に、俺はマキの耳元で、


「――帰ったら電話する。話したい事が山ほどあるんだ」


 そう小声で話しかけた。

 マキはいつものように無表情で頷いてくれる。


「――分かった……電話、待ってるよ……」


 マキは無表情を崩して俺に笑顔を向けた。

 ――これが女のマキなら多少はドキッとしたのだろうか?

 彼女の笑顔は正直珍しい。

 いつも無表情なだけあって、その喜怒哀楽はレアなのだ。それ故に笑った時の顔には彼女の魅力と言うもがある。

 ――……まあ、今は男だから全く嬉しくないが。

 そんな事を考えながら、マキの顔を見ていると急に右肩を掴まれた。

 何事かと思って隣を見ると、


「――姉さん……。なにジッと水鏡さんを見てるんですか?」


 美月が何か誤解していた。


「――いや、別に見ていた訳では……」

「言い訳ですか?」

「言い訳ってなんですか?」

「じろぉ……」


 ――その目は止めろ。

 一方でマキは何を誤解したか、自分が見つめられていたと思ったのだろう。見事に照れていた。

 ――止めろ、男が照れた顔しても気持ち悪いだけだ。あーもう! 頬を染めるな! 目を逸らすな!


「――姉さん……。今、私の心が嫉妬の炎に燃えている事に気づいていますか?」

「勘弁してください……」


 美月は美月で俺の肩を掴んだ手に力を込めてくる。

 正直もう怖すぎだ。

 俺は一刻も早く自宅へと帰りたい気持ちでいっぱいで、早く電車が最寄駅へと到着する事を願っていた……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ