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第十二話其の二 「クラスメイト マキside」

 ボクは手を引かれて連れて行かれていた。

 手を引いているのは勿論、青山だ。彼はA組から急にボクを引きつれ早歩き。全く理由が分からない。

 途中、彼に『止まって』と言ったけど、青山はボクを無視した。

 ――ちょっと、青山!

 冷静を装うとしたけど、それは無理だ。

 何故、彼がこんな行動に出るのか。生き返る前には考えられない態度だ。ボクは分からないまま、青山に人気のない場所に連れて行かれた。

 そこは階段。

 屋上へ続くこの階段は、この時間なら誰も通る事は無いと思う。青山はそこでやっとボクを解放した。


「――あ、青山?」

「…………」

「あの……?」

「……ふふ……ふふふふふ……」


 ――どうしたんだろう? 

 彼はボクと向き合っていきなり不気味な笑顔で笑い出した。咄嗟の事にどう声をかけていいか分からない。


「――はぁ……信じらんねぇ……。小峰さんが俺を名前で呼んでくれるなんて……」

「え?」

「ホント、夢心地だぜ………」


 ――………?? それは当たり前じゃないのかな? 君はヨシユキの友達でしょ?

 それなのにこの反応。

 ボクは眉をひそめて考え込んだ。


「――君はヨシ……ミユキと友達じゃないの?」

「えっ!?」

「??」

「俺と小峰さんって友達だったのか!?」

「そのはずだけど?」


 ボクがそう言い放った刹那、


「――ぬぁんだってー!!」


 ――ズガーン!!

 まるで稲妻が走ったように驚く青山。

 心底疑問に思っているようだけど、聞きたいのはむしろボクのほうだ。


「――少なくともミユキは友達だと思ってるハズだけど?」

「…………」

「青山?」

「……にへらぁ~~。……ふ、ふはははは……」


 ――なんだろう、この感じ? すごく気持ちが悪い。

 確かにヨシユキと青山は友達のはず。なのにこの反応……。何かがおかしい。

 それはボクに対しての態度も気になる要素だ。

 彼はボクの事を『マキ』と呼んだ。前は『水鏡さん』だったのに……。

 そこでボクは今自分に起こっている事を再度思い出すことにした。

 病院での一件。

 特に人間関係の変化は無視できない。

 それはつまり、この学校でも適応されているのかもしれない。

 ――これも天使の力なのかな?

 考えながら、ボクと青山の関係が気になった。いや、ヨシユキと千歳が親友になっているんだ、もしかしたら……。


「――…………」


 考えるとテンションが下がって来た。

 ボクは青山の事は嫌いじゃない。むしろ友達としては良い人だと思う。しかし、やっぱりなんだか一線を引きたくなる。そんな存在だ。

 ――ゴメン。

 心の中で謝っても進展は無いが、ボクは彼と一定の付き合い以上はしたくないと思った。そんな事を思っている間にも、青山は不気味に笑うだけ。

 ――どうしたら、この人と会話できるんだろう?


「――うわぁ……」


 変な声が出るが気にせず、ボクは青山を観察する事にした。


「――なんだ、その反応? とにかく、今日は俺にとってかなりの記念日だ! 分かるか!?」

「はあ……」

「くうう……。まあ、難攻不落だった小峰さんを落としたお前には分からんだろうが……」

「え?」

「何を驚いてる? お前、小峰さんの彼氏だろ、学園中の噂になってるぜ?」


 いきなりそんな事を言ってくる青山。

 ボクは顔が赤くなり、目を逸らした。

 ――ボクの願いは、学園の皆にまで反映されているの?

 そうなってくると恥ずかしさで落ち着かなくなる。病院で兄さんや美月ちゃん、千歳に言われていた時に気づくべきだったかもしれない。

 ――親しい人間だけじゃないんだ……。この天使の力が働くのは……。

 まあ、性別が変わっている時点でどうかと思うけど、どうやらそう言う事らしい。という事はボクとヨシユキは、皆から『カップル』と思われているのかもしれない。


「――……ふふっ」


 思うと嬉しくなってきた。

 咄嗟にボクは顔を綻ばせてしまう。


「――……くそぉ、幸せそうな顔して……。俺なんか声かけられただけで喜んでいるんだぜ?」

「そ、そう」

「名前呼ばれてテンションが上がってる俺がバカみたいじゃないか」

「そんな事ないと思うけど……」

「いや、あるね! お前は四六時中小峰さんと仲良く出来てるじゃないか! それに引き替え俺は……」


 青山のテンションがさっきとは比べ物にならないくらいに下がっていく。


「――だ、大丈夫。ああ見えてヨシ……ミユキは君の事を友達だと思っているハズだから、話しかけると普通に会話してくれるよ?」


 段々とテンションが下がっていく青山が可愛そうだったので、ボクはそう言ってぎこちない笑みを浮かべた。


「――ほ、本当か!?」

「……ん」

「ホントの本当?」

「……本当」

「ほんとの」

「ストップ……」


 ボクは目の前の彼を手で制止して声を上げた。


「――こんなオウム返しは時間の無駄だよ? 最初の一言で信じてくれると嬉しいんだけど……」

「だってよ……。あの小峰さんだぜ? A組で相沢さんと双璧をなす人物なんだぞ? まあ確かにお前と友達な俺に対して少し距離感は近いと思うが……」


 ――千歳と双璧? 何の話だろうか?

 ボクはその事を思いきって青山に聞いてみた。


「――お前、何今更な事を言ってるんだ? 小峰さんと相沢さんは『A組の二大美女』と呼ばれてるくらいの人気者だぞ。……知らなかったとか言うなよ?」

「え? えーっと……?」


 ――知っている訳がない。なにせ今知ったんだから……。

 そうか、そう言う事なら態度を決めやすくて助かる。

 確かに今のヨシユキは愛らしい。

 愛らしいどころか……!

 まるでガラス細工のように繊細で可憐ではかなげで……そしてっ!


「――…………」


 ダメだ。論点がずれてきた。

 とにかく、今のヨシユキの立ち位置が少しわかったような気がした。

 ――それでボクと言う恋人ものがありながらもラブレターを貰うのか……。

 改めてヨシユキの人気と容姿の凄さを再認識した。


「――知ってるなら野暮な事は言うな。小峰さんと相沢さん。この二人と会話するのにどれだけの努力と勇気が必要か……。知らないとは言わせない」

「ど、努力と勇気?」

「そうだ! ……というかお前、告白して付き合ったんだろう?」

「え?」

「小峰さんとだよ! お前から告白したんだよな!?」

「えーっと。うーん……」


 その辺りの事はよく分からない。

 なにせ天使の力で、皆にそう思われているだけなのだから、曖昧な回答しかできない。


「――なんだ!? そのリアクション!? ま、まさか……!?」

「??」

「向こうから告白して来たとか言うなよ!?」


 ――それは無い。

 相手はあのヨシユキだ。鈍感なヨシユキなんだから、ボクに告白という前提がまず間違っている。それに彼には千歳しか見えていない。

 だからボクは、苦しい胸の内を吐き出すように、


「――ボクから告白した……」


 と、答えた。


「――だよなー。安心したぜ! あの小峰さんが、何の取り柄も無いお前に告白なんてありえないと思ってた所だったんだ」

「それはちょっと酷いんじゃない?」

「ははは……!」


 青山は笑いながらボクの肩をバシバシ叩く。

 ――痛い……。


「――まあ、少し言いすぎたが、やっぱ幼馴染っていいよなー」

「え?」

「お前と小峰さんだよ」

「??」

「子供の頃のフラグって大事だって話だ……」


 ――確かにボクとヨシユキは幼馴染だけど、フラグって……何? 旗の事だよね?

 ボクは青山の言ってる事が理解できなかった。だから首を傾げて彼を見る。


「――ああっ、もう分からねぇか!?」

「……ん」

「じゃあいいよ! 所詮お前には分からないんだっ!」

「気になる……」

「ギャルゲーでもしとけ! 分からないならオススメのを貸してやる!」


 そこで感情を爆発させられても困るんだけど、とにかく青山は悲しそうに怒っていた。

 何を貸してくれるのかが気になる所だけど、踏み込むと危ない予感がしたのでボクはその話題を頭から消した。


「――ええっと、最近のオススメは……」

「青山……」

「急かすな、今見繕って考えてるっ!」

「いや、別にいいから……」

「お前はどんなん好きだ? 純愛系?」

「……まあ、恋愛は純愛系がいいかなぁ」

「そうか、ならばいいのがあるな……。感動系のほうがいいか?」

「感動できるのがあるの? じゃあ、それで……って! そうじゃなくって……」

「なんだ? 嫌がる相手を好き放題するのがいいのか? それじゃあ大きな声では言えない○○系からいってみるか? 好きな娘をあれやこれやしてみるか?」

「それをオススメする君にドン引きだよ」

「なん……だと!?」

「その『ギャルゲー』とかいうものは今度でいいよ……」

「お前!」

「!?」

「一人身の俺に何たる仕打ち! これは許せん!」

「あの……え?」

「答えろ!」


 ――何を!?

 青山がボクの肩を掴んで迫ってくる。


「小峰さんとどこまで行った!?」

「え?」

「もうキスはしたのか!?」

「はい!?」

「キスはしたのかって聞いてんだっ!」


 いきなりの質問にボクは戸惑う。

 ――何故、そんな質問に?

 本当にいきなりだったので、ボクは顔を背けた。


「――何だ、その反応は!? ……ま、まさか……!?」

「え??」


 ひとり大騒ぎする青山は、何かを想像したようで顔を青ざめた。そして目に涙を溜めてボクにすがりついてきた。


「――キスの先に行ったのか!? そうなのか!? 嘘だと言ってくれ!!」


 もう止まらない。

 青山は、血の涙を流す勢いで叫びまくる。


「――あの……」

「なんだ!? 弁解は聞かんぞ!」

「ボクはミユキと何もしていない……けど」


 思わず声に出した言葉に青山は身を乗り出した。


「――ほ、本当か!?」

「……ん」

「本当なのか!?」

「本当……」

「ホントのほんと……」

「それ、またやるの?」


 また再び、オウム返し合戦が始まりそうだったのでボクは止めた。


「――俺はお前を信じていいんだな!?」

「……ん」

「信じるぞ!?」

「……ん」


 その場でしばし距離を取り睨みあう(?)ボク達。

 傍から見ると喧嘩でもしそうな勢いだけど、大丈夫だろうか?


「――ならば安心だ!」

「え?」

「健全なお付き合いで、助かった」

「はあ……」

「これで俺が小峰さんと付き合えば……。そうだ、略奪があった……っ!」


 ――今何か聞こえたような……?

 あまりにも小声だったので、聞き逃したけど青山は何かを言っていた。

 ボクがその言葉を聞こうと思った時に、

 ――キーンコーンカーンコーン……。

 予鈴が鳴る。


「――あ!」

「!」


 青山とボクはびっくりして顔を見合わせた。

 こんな所で話し込んでいては遅刻してしまう。ボクたちは急いでこの場からA組に走っていったのだった。

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