「プロローグ」
男性から女性になる主人公と、女性から男性になる相棒を描きたくて書いてみました。
うまく書けるといいのですが、どうなることやら。
あと、今回初めて一人称視点で物語を書いています。変な文章になるかもしれませんが、これが私の限界ですので、どうか温かい目で見てやってください。お願いします。
――何が起こった? どうして? なんで?
まさしく疑問だらけだ。
今の状況は一週間前の俺なら想像も出来なかっただろう。
いつも通りの通学路。いつも通りの景色。そして学生服を着た生徒達。
俺を除く全てはいつも通りの世界だ。
そう、『いつも通り』の世界なのだ。こういう風に言うと『俺は特別だ』とか『フィクション世界の主人公だ』とかそんな風に捉えられるかもしれないが、まさしくその通りの状況だと言わざるを得ない。
俺は通学路の途中にある、洋服屋の大きなガラス扉に薄く写り込む自分の姿を見た。
……相変わらず慣れない。
そう、例えば鏡を見た瞬間に自分とは違う姿が写り込んだところを思い浮かべて貰えばいいだろうか。
とにかく、ガラスに写り込んだ『俺』は『俺』ではなかった。
背中くらいまで伸ばされたサラサラの黒髪。肌は白く、きめ細かさが目立って美しかった。顔は小さく、二重の目を始めとする顔のパーツは非常にバランスのいい配置だ。
簡単に言うとメチャクチャ美人。
少年雑誌のグラビアに載れば、『あの娘は誰だ?』と問い合わせの電話が殺到するかもしれないレベル。
身体も出るところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいるという素晴らしい仕上がり。
好きな女の子が居る俺でも、街で出会えば思わず振り返ってしまうくらいであり、俺の親友なら神速でナンパしているだろう。
そんな『美少女』が今現在の俺こと、小峰 美幸の姿だ。
「――他人としか思えないな……」
一週間前の俺とは似ても似つかないその姿に、思わず呟いてしまう。
勿論その声は綺麗なソプラノボイスであり、その声がより一層、俺自身を他人と認識してしまう。
俺は自画自賛している気になって気恥ずかしくなった。それは洋服屋の女性店員と目が合ってしまった事も手伝う。
「――しまった」
ガラス越しに自分を分析しすぎた。
これではあの女性店員に『ナルシスト』だと思われてしまう。
そんな恥ずかしい思いで顔を赤くしてしまった俺は、顔にぎこちない笑顔を張り付けると、その場から撤退。
小走りで通学路へと戻って行った。
なびく髪の毛。揺れるスカート。
……なんだかスースーして落ち着かない。
毎度思うが、どうもこのスカートは慣れない。腰に布を巻きつけているだけの感覚が否応なしに襲ってくる。
「――ズボンが履きたい……」
その呟きの如く、俺は『男の恰好』をしたかった。勿論、今の身体は女性なので別に女装をしている訳ではないのだが、気持ち的には女装をしていた。
……正直メチャ恥ずかしい。
俺は『この格好は趣味でやっているわけじゃない』と毎回言い聞かせながら外に出て行くのだが、結果的には女性の恰好をしている事には変わりない。
しかし、この容姿で『男装』すると周りから浮きまくるのは自明の理だ。そんな状況は避けたいと思う反面、俺はそれでもズボンが履きたいのだった。
「――ちくしょう……」
肩を落としながら、吐いた溜め息と同時に一迅の風が声と入れ替わるように自身の身体に吹きつけてくる。
「――おわ!?」
小走りしていた時以上に髪の毛が舞い、スカートが捲れ上がりそうになった。
俺は咄嗟にスカートを押さえて、絶対領域を防衛。
こちらをチラチラと見ている男子生徒達を軽く睨み付けて威嚇すると、一つ咳払いをして何事も無かったかのように歩き出す。
……見られたか?
などと、『男時代』ではありえなかった考えが頭を一瞬よぎる。
そんな考えがよぎった事に、俺は一際気分が落ち込んだ。
「――ヨシユキ、無防備……」
落ち込んでいる俺に、頭上から声が聞こえる。
聞き慣れない声に一瞬思考が停止したが、俺の『本名』を知っている以上、その声の主は一人しかいない。
水鏡 真希。今俺と同じ状況に陥っている唯一の人物であり、俺の幼馴染だ。
俺を『男だった』と知っている心強い味方だが、彼の説明はまた今度……。
「――……いいか、マキ。さっきのは不可抗力だ。注意なら俺じゃなく、風にしてくれないか?」
俺は彼を見上げるようにして反論した。
言葉使いも俺が『女になった』事を知っているので、素で答えてやった。慣れない女の子をさせられている俺の身にもなってみろというメッセージを込めた言い方だったのだが、マキはいつものように表情を崩さず、無表情だった。
「――隙が多い……。下着が見えても文句は言えない」
「……見た?」
「大丈夫……。ギリギリ見えなかった。……残念」
「…………」
お前は元男のパンツを見る気だったのか? と、ツッコみたくなるが、そこは堪えた。ここでこんなくだらないやり取りをしていたら遅刻してしまうからだ。
俺は携帯電話で時間を確認すると、マキと一緒に学校へ急いだ。
学校に辿りつき、マキと一緒に自分のクラスに入る。
一応、マキも同じクラスだから安心できる。やはり、自分の状況を理解している人間が傍に居ると非常に心強い。
マキも同じような事を考えていたのであろうか、俺を見るとコクリと頷いて教室を見渡した。
まるで別世界に挑む勇者のような心境だ。
俺はマキに同じように頷くと、彼と別れて自分の席に着いた。
最初は戸惑うばかりでパニックとなっていたが、『この世界』に来て一週間が過ぎると少し慣れてくる。
いつも通りの展開なら、そろそろあの娘がやって来るはずだ……。
「――美幸、おはよう!」
俺の名を呼ぶ声に身体が反応する。本当はヨシユキと呼ばれたいのだが、それでも俺を呼んでくれている事には変わりない。
心臓の鼓動が早くなり、早鐘を鳴らす。
そして身構えながら心を落ち着かせて振り返った。そこにはまごうことなき学園のアイドルであり、現在俺の親友である相沢 千歳が居た。
本来の俺なら口を利くことすら難しい相沢さん。……恥ずかしながら、俺が憧れている女性だ。
近日中に告白したかったのだが、告白する前に女の子になってしまい、尚且つ相沢さんと親友になってしまったこの状況。嬉しいのだが、逆に悲しくもある。
俺は緊張しながらも、いつもの挨拶を交わす。
「――おはよう……。ち、千歳」
下の名前で呼び始めて一週間経つが、やはりダメだ。
憧れている女の子の名前を気軽に呼ぶ事など、俺にはできない。抵抗があるし、何より恥ずかしいし緊張もする。
そんな俺の気持ちも知らないで、相沢さんは元気に笑顔を振りまきながら、親友ならではのスキンシップをしてくる。
『幼い頃からの親友』という事で、やけにベタベタしてくる相沢さん。『この世界』ではこういう関係になっている。
しかしマキを除く、この世界の皆は知らない。
本当は相沢さんとは『ただのクラスメイト』であった事を。俺が一週間と数日前まで『小峰 美幸』という女の子ではなく、『小峰 美幸』という男だったという事を……。




