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大切なものを奪った逆ハーヒロインに復讐する事にした

逆ハー狙いの転生ヒロインに最も大切なものを奪われた白崎凍華とうかちゃん。ヒロインから姉扱いされている彼女はヒロインを赦したわけでなかったのです。そして、協力者と共に復讐に手を染めるのでしたー!……な話。

※登場人物ほぼ全員がゴミクズのような性格です。ラストも誰も救われていません。

 彼女は言う。

 この世界はゲームの中で自分はその主人公であると。

 主人公の役目は数人の異性の誰かと恋仲になれるように頑張る事であると。

 主人公の恋路を邪魔する女キャラがいなければ、ゲームは進行しないのだと。

 そのためにその人物を悪役に仕立て上げなければならないのだと。


「ごめんなさい。私だってあなたが嫌いなわけじゃないし、恋愛なんて興味はないの。でも私は主人公だから頑張ってゲームをクリアしなくちゃいけないのっ」


 彼女にとってはこの世界はゲームの中でも、彼女以外の人間にとっては現実。ゲームのようにリセットもセーブもロードも出来ない。攻略本だってない。一度きりしかない人生を闇雲に歩き続けるしかない。


「こんな事になっちゃって本当に悪いって思ってるもん! だから……ね? 私を恨まないで欲しいなぁーって。ふふっ」


 私は今たくさんの人が生きてたくさんの人が死んでいくこの世界が架空なのか現実なのかなんてどうでもいい。一番重要なのは彼女がゲームだと信じている事。


 ねえ、あなたはゲームだからと言って簡単に人を陥れる事が出来るの?

 狙っている男の子のためにその恋人を悪人にしなければならない必要性はあったの?

 可愛い笑顔と優しい心。色んな人を惹き付けてしまう天使のようなあなたの踏み台になるために私は生まれたサブキャラクターなの?


「このゲームであなたは攻略キャラの一人の元カノですっごく悪い女の子だったの」


 違う。私は私の意思で生きてきた。なのに彼女は私を人間としてではなく、ゲームのキャラクターとしてしか見ていなかった。

 彼女だけじゃない。みんな、友達だけでなく両親ですら私を彼女の言う『悪役』として見るようになった。きっと、彼らはその悪役がここから飛び降りても顔色一つ変える事なく、こういうだろう。自業自得だと。

 そうかもしれない。私は結局彼女に立ち向かう勇気もなく、周囲の人間を説得するのにすら疲れて死を選んだ。生きる事に苦痛を覚えてしまったら、残された道は一つ。


 飛び降り防止用のフェンスには壊れかけた箇所があって、そこを抜ければ簡単に屋上から飛び降りる事が出来た。墜ちていく中で見た校庭では、部活に励む生徒達の姿があった。私の事など気付かない。


 それでいい。私が死ぬのは誰かに悲しんでもらいたいわけではない。純粋に死にたかっただけだった。


 ごめんなさい。ごめんなさい。


 私は最後まで私を愛してくれた『あの人達』に謝りながら意識を飛ばした。










「凍華センパイっ」


 突然、後ろから抱き着いてきた少女に私は体勢を崩しそうになりつつ、何とかバランスを保った。離すように促して見れば、愛らしい笑顔を浮かべる少女が立っていた。それに応えるように私も穏やかな笑みを見せる。


「どうしたの、綾香?」

「えへへ、今日まだ凍華センパイに会ってなかったなかったからっ」

「ちょっと、廊下で何してるの」


 今度は正面から綾香が抱き着く。羨ましそうに男子生徒が数人こちらを見てくる。この少女は今や校内一の美少女と呼ばれている。その誰もが振り向く可憐な容姿と甘え上手な性格。彼女に好かれるために男子も女子も必死になっているのだ。

 愛橋綾香。そんな理想のヒロインである後輩に私は懐かれていた。どうして尋ねてみれば、綾香は恥ずかしそうに体をくねらせて答えた。


「だって、凍華センパイって優しいし頭もいいし……あと私にそっくりだから!」


 彼女の言う通りだ。私と綾香は顔立ちがよく似ている。長い黒髪の綾香とは違って私は眼鏡を掛け、髪も短めなので一見気付かないが、よく見れば似ていると言われていた。

 まるで本当の姉妹のようだと母も父も家に遊びに来ていた綾香に喜んでいた。クラスメイトも教師も皆、皆私と綾香を姉妹扱いしていた。


「私……凍華センパイみたいな人がお姉ちゃんだったらいいのになぁ」


 そして、綾香もそう呼ばれる事を望んでいた。欲しい玩具を強請る幼子のような甘ったるい眼差しに私は俯いた。


「妹……か」

「ご、ごめんなさいセンパイ! そうだよね? センパイには冬乃さんがいたもんね?」


 冬乃。綾香と同級生の物静かな少女、私と血の繋がった実の妹。三ヶ月前に学校の屋上から飛び降り自殺をした妹。


 私の妹。


「いいえ、気にしなくていいわ。あなたが……妹に解放されるにはあれしかなかったから」

「そんな冬乃さんに言い方しちゃだめっ!」


 綾香が私の両手を握り締める。


「確かに冬乃さんは私をすっごく嫌ってたし、私に酷い事をたっくさんしてきたけど、それは凍華センパイや雪川君を盗られたくなくてした事なんだよね? センパイも雪川君も素敵な人だもん……私が二人を盗っちゃうって勘違いした事、私は怒れないよ」

「……優しいのね、綾香は。みんな冬乃は死んで良かったと思っているのにあなたは違う……」


 冬乃が死んだ時、学校中が「自業自得で死んだ」と騒いだ。綾香を恨んで自殺したのだから、綾香を呪うために化けて出るかもしれないと、クラスメイトは笑いながら言った。

 死んだくらいで綾香を苛めた罪を償えると思ったのかと、教師は呆れながら言った。

 あの恥知らずにはさっさと死んでもらって助かったと、父と母は安堵した様子で言った。


 皆、私と『雪川君』を独占したくて転校生である綾香を苛めた冬乃の死を嘲笑った。異常なまでに。


「おーい、綾香! 一緒に昼食いに行こうぜー」

「あ、久也センパイ! みんなも!」


 廊下の端で綾香を呼ぶ容姿端麗の四人の男子。生徒会長、テニス部部長、天才ピアニスト、全国模試上位者と学校で名前を知らない者はいないとされる程の有名人。綾香を溺愛し、綾香からも慕われている『男』達。


 綾香は彼らに向かって手を振った後、ちらりとこちらを見た。その視線に込められた感情に気付いた私は首を横に振る。


「私の事は気にしなくていいわ。あの子達とお昼いってらっしゃい」

「でもでもぉ、せっかくセンパイに会えたのに……」

「何言ってるのよ。みんなあなたを待ってるんだから早く行ってあげて」

「えー? 私そんなつもりじゃないのにー!」


 両手で頬を当ててチラチラと彼らを見る綾香の背中を軽く叩く。すると、あれほど行くのを渋っていたくせにさっさと美少年の群れへ駆けて行った彼女を見送る。姿が見えなくなった後、反対方向に歩き出すとクラスの友人に呼び止められる。「ホント、冬乃ちゃんじゃなくて綾香ちゃんが妹だったら良かったのにね」と言われる。私は笑って流して、階段を昇っていった。


 階段を昇り切った所にあるドアを開けば、生暖かいと共に視界に澄み切った青が広がる。前は昼休みになると素行の悪い生徒が集まっていた屋上も、今は誰も訪れようとしない。冬乃の死に場所になったから。

 校舎内の喧騒が嘘のような静かさ。冬乃も飛び降りる直前、この穏やかな空気に触れていたのだろうか。


 冬乃が脱いだ上履きを置いていた場所には最初花束が置かれていたが、それも誰かに捨てられた。だから今は供え物は置かないようにしていた。


 そして、そこには黒髪の少年が膝を抱えて座り込んでいた。


「雪川君……」

「ああ……凍華さんか」


 雪川君は顔を上げると、ふわりと微笑んだ。名前通り雪のように儚いそれに私は軽く笑って、隣に腰を置いた。


「凍華さん、今日はねまたあの女が僕に説教をしてきたよ。『あなたが冬乃さんを想い続ける事を冬乃さんは望んでいないよ。ちゃんと現実を見て立ち直って!』って……」

「そう……」

「それで聞いたんだ。立ち直ったら僕は誰を愛せばいいの?って。そしたら、彼女は顔を真っ赤にして自分で捜してって……」


 雪川君の指先がコンクリートの床を撫でる。冬乃が最期に歩いたであろう場所。それを見下ろす雪川君の眼は憎悪で彩られていた。きっと私も同じ眼をしている。


 私はスカートのポケットから一枚の紙を取り出した。そこに書かれた冬乃の言葉を姉である私と、恋人の雪川君は何度も何度も読んだ。だが、読み足りない。私と雪川君がどんなにこの手紙を読んでも、冬乃の心の痛みを理解する事は叶わない。


 それでも、どうして妹が死を選んだかは分かった気がした。


 突然この学校に転校生としてやって来た綾香は奇妙な少女だった。男女問わず多くの生徒を惹き付け、教師達からも一目置かれる存在になっていった。そうする内に彼女を昼食に誘っていたあの集団にも好かれるようになった。そこまでは良かった。

 だが、その時期から学校で綾香は、冬乃に酷いいじめを受けているという噂が流れるようになった。理由は私と雪川君に接触するようになった綾香が気に入らないから。

 そんな事実はなかった。むしろ、冬乃は様々な所で私を姉と慕ってくる綾香に怯えていたし、雪川君は最初から綾香を毛嫌いしていた。


 周囲は全て綾香の言葉を信じた。綾香を随分と気に入っていた両親までも実の娘より、赤の他人の子供を守ろうとした。家の中でも学校でも冬乃に居場所はなく、陰湿ないじめまで受けた。いじめに耐え切れず学校を休もうとしても、両親がそれを許さなかった。私と雪川君が弁解しようとしても、「目を覚ませ」と取り合ってくれず。


 そして、冬乃は死んだ。私と雪川君に向けた遺書を遺して。そこには綾香のキチガイじみた思考が綴られていた。


 この世界は綾香にとってゲームの世界で、綾香は主人公である事。主人公の役目は数人の異性から好意を向けられる事。綾香のターゲットの中に雪川君が入っていた事。綾香の言う『ゲーム』では冬乃は雪川君と姉である私を偏愛するあまり、主人公を激しい敵対心を向ける悪女であった事。


 綾香が主人公としてゲームをクリアするためには冬乃を悪女に仕立て上げ、雪川君の心を自分に向けさせる必要があった事。私を自分の味方にする必要があった事。


「あの女はそのゲームとやらのために冬乃を死なせたんだ。可哀想な冬乃。僕らは愛する冬乃のために何をしてやれるだろう……」


 がり。がりがり。雪川君の爪が床を引っ掻く。これが綾香の頬だったら、今頃あの醜い顔は血まみれになっている。気分がいい。


「可哀想な冬乃……」


 私は泣き声を上げずに涙を流した。私も雪川君もこの世界に絶望している。たった一つの宝物を守れずに失った私達にとって、復讐だけが生きる理由だった。それが果たせたらいつ死んでもいいと思っている。


 今すぐ綾香をこの場に連れて冬乃と同じ最期を迎えさせる事だって怖くない。やらないのは味気ないからだ。

 男達を手に入れるためだけに冬乃を奪ったゴミクズをすぐに殺すなんて、勿体ない事はしない。あのニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべる顔を涙と鼻水で汚してやりたい。冬乃や私達が味わった以上の絶望を与えてやりたい。


 そのための手段を私は持っている。


「私はあんなクソガキの姉になるなんてごめんよ。でもね、一つだけメリットがあるの……」


 私は自分の頬を指の腹でなぞりながら、ニヤァと嗤った。









「久也センパーイ! こっちこっちっ」

「わぁーってるよ!」


 二人しかいない生徒会室に綾香の明るい声が響く。二つ並べられた椅子の片方に座り、隣の方に座れと促す少女に久也は苦笑した。

 言う通りにすれば綾香は嬉しそうに抱き着いてきた。彼女の誰にでもすぐに抱き着く癖は嬉しくもあり、厄介なものだった。久也の敵を無駄に増やしてしまう。


「大体どうしたんだよ。今日はあのガリ勉と一緒に帰るんじゃなかったのか?」

「直紀君かぁ……うん……」


 珍しく落ち込んだ様子で溜め息をつく綾香に、久也は眉を潜める。嫌な予感がした。


「あ、あのねっ、私直紀と付き合えって無理矢理キスされそうになったの!」

「は!?」

「私直紀君の事大好きだよ? でも、でも……!」

「落ち着け綾香!」


 その時の恐怖を思い出したのか、ガクガクと体を震わせ始める綾香を久也は抱き締めた。小さくて細くて温かい体。それを他の男に盗られそうになったと考えるだけで、頭に血が昇る。


「ひ、ひさやセンパイ」

「久也でいい」

「え……?」

「直紀なんざにお前を渡すつもりはねぇ。俺にしとけ。俺ならお前を幸せにしてやれる綾香……」

「久也……あっ……」


 久也の指が綾香の唇に触れる。その擽ったい感触にびくりと震えながらも、綾香は久也の肩に手を置いて続きを強請った。


 二人の唇がゆっくり、静かに触れた。書類の山の中に潜むカメラに気付かずに。









 久也とキスを交わし愛の言葉を囁き合った後、「今日の事は秘密だからね」と言って生徒会室を出た。向かう先は誰もいない空き教室。


「ふふっ……あはは……」


 長い黒髪のウィッグを外して私は笑い続けた。ここまで上手く行くと思っていなかったのだ。帰り際に回収した小型カメラをいい子と撫でる。

 すると、携帯が鳴った。雪川君からだった。


『あの女、深澤直紀に絞り込んだみたいだよ。さっき公園ですごい濃いディーブキスかましてた』

「そう。こっちも同じ感じよ。いい画が撮れたと思うわ」

『本当に? 楽しみに待ってるよ凍華さん』


 ぶつ、と電話が切れる。その後でコンタクトレンズから眼鏡に戻して私はまた笑い、その内自分が泣いている事に気付いた。

 学校一の愛されヒロインは所詮顔だけだったというわけだ。こんな簡単な変装でも皆が愛橋綾香だと信じ込む。その程度の小物の贄となって妹は死んでしまった。


「……絶対に赦さない」


 胸の中で蓄積されていたヘドロのような憎悪が押し固められ、あの女を裁くための鋭利な刃に姿を変えた。










 あの冬乃とか言う女が死んじゃってから四ヶ月が経ちました。最初は私の告発(ほんとは嘘だよ)のせいでってなってみんなに責められるかもって心配したけど、やっぱり乙女ゲー主人公の魔力はすごい。みんなに良かったねって言われちゃってます。安心安心。ゲームの世界のキャラが死んでも何も問題ないみたいだし。


 問題あるとしたらそれは雪川君だ。私の計画で行けば雪川君は私を苛める極悪女冬乃に嫌気が差して、私の逆ハーメンバーになるはずだった。なのに、その前に冬乃さんってば死んじゃったから計画がオジャン。仕方ないから『お願い雪川君! 元カノに縛られたまま生きないで!』作戦を開始したのに落ちない。なんか恥ずかしがってる。

 まあ、私の本命は直紀君なんですが。今更好き!って言われてもー。でも雪川君ってすっごいお金持ちの家の人だから逆ハーメンバーに入れたい。それでたくさん貢がせたい。


 今日こそは雪川君攻略!と意気込んで、教室に入る。ギロリってクラス中のみんなに睨まれちゃった。


 え? 私思った事口に出してないよね。どうしたのかなって一番仲がいい子に話し掛けようとすると、嫌な顔をされた。


「気持ち悪い……近寄らないで」


 私は固まってしまった。どうしたの恵美ちゃん。昨日まであんなに仲が良かったのに。


「な、何かした私……?」

「しただろうが、たくさん」


 教室に入ってきたメイン攻略キャラ久也センパイと、本命の直紀君と他二人のイケメン。全員怒った顔をしてる。

 何。何なの。


「助けて久也センパイっ。みんな私を苛めるの!」

「苛めたって人聞きが悪くないかなぁ、あや。これ自業自得じゃない?」


 そう言って直紀君は私の机の上に大量の写真をばらまいた。そこには私と直紀君のラブシーン。だけでない。他の逆ハーメンバーとのイチャイチャシーンが写っていた。

 ううん、四人だけじゃない。ちょいイケメンの男子や先生と仲良くしている様子を写した写真まである。


「これ、色んな所でばら蒔かれてるんだってねー、お前の本性が分かって助かったよ」

「ち、違う……これ私じゃない……」

「じゃあ誰だよ。直紀に付き合えってキスされかけたって俺を騙した女なんてお前しかいねぇだろ」

「え? 俺は久也先輩にレイプされかけました助けてってあやに言われたなー」


 はい、直紀君に言ったのは本当です。悲劇のヒロインになりたくてつい嘘をついただけ。

 でも、それだけ。私は直紀君としか『まだ』キスしていない。直紀君にしか他の攻略キャラの悪口は『まだ』言っていない。


「えー? 愛橋って何股かけてんだよ。マジビッチだわ……」

「すんごい性格悪いのね。うっわー、無理矢理キスとかレイプとか引くんですけど」

「ねえ、もしかして冬乃さんって……」

「俺も思った。あいつが自殺したのってあのビッチが……」


 冬乃。その名前を聞いた瞬間、私は教室を飛び出した。


 何で何で何で何で何で何で何で何で何で!!


 恐怖で奥歯がカチカチ鳴る。学校中にビッチって思われて、冬乃さんが私のせいで死んだってバレたら私はどうなるの?


 お父さんにもお母さんにも絶対に知られる。知られたら私、私。



「あ……!」


 保健室に入っていく凍華センパイを見付ける。あの人なら信じてくれる。私は可愛い愛されヒロインなんだって。


「凍華センパイ!」

「綾香?」


 保健室に飛び込んで凍華センパイに抱き着いた。保健室の先生がびっくりしてるけど、どうでもいい。やっと私は落ち着く事が出来た。


「センパイ……助けてセンパイ……」

「どうしたの綾香?」


 センパイが抱き締めてくれる。正直センパイなんて攻略キャラとの仲が悪くなった時の相談役としてキープしていただけだったけど、今はいてくれるだけでいい。私はそのままわんわん泣こうとした。


「可哀想な綾香。ゲーム、バッドエンドを迎えちゃったわね」


 耳元で囁かれたその言葉に私の頭は真っ白になった。


「ごめんなさい。私だってあなたが嫌いなわけではないし、人の不幸には興味はないわ。でも私は主人公だから頑張ってゲームをクリアしなければならないの」

「ゲームって、な、何を」

「あなたにとっても私にとってもここはゲームの世界なの。ただし、私が主人公であるゲームっていうのは恋愛なんて一切関係ない……復讐をするゲーム」


 違う。この世界は私の、私が全ての。


「こんな事になっちゃって本当に悪いって思っているわ。だから、私を恨まないで欲しいの」

「い……いやあああああああああああああああっ!!」


 凍華センパイから離れた瞬間、腰から力が抜けて私はその場に座り込んだ。私を凍華センパイと、雪川君が愉しそうに見下ろす。


 その暗い笑顔にこの二人の罠に落ちたと気付いてももう遅くて。


「い、いや、助けて。元の世界に帰して……帰してよぉ……こんな所もういたくない……」

「この女は何を言ってるんだろうね凍華さん。 どこの世界に帰るって言うのかな」

「でも、こんなクズな綾香を誰も知らない場所に行く方法が一つだけあるでしょう?」

「ああ、あるね。それは名案かも」




「「死んでみたら?」」

人間の汚い部分を書くのは楽し。誰も救われない話を書くのは楽し。

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