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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
最終章 僕の大切な人
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みたきちゃんは死んだんだ

 感動の再会をした僕達は、近くの公園のベンチに座って状況を整理することにした。


「手術に副作用とか、そういうのは無いの?」

「うん、びっくりするくらいうまくいったみたい。頭も平均レベルになって、それから同年代の子に追いつけるようにみっちり教育して。この通り、ちゃんと喋れるようになったよ。向こうにいたからか、英語もそこそこ喋れるようになったし」

「半年くらいでそんなに喋れるようになるなんて、すごいねみたきちゃんは」

「大変だったよ、中君との電話が心の支えだった」

「あはは」


 二人で笑いあいながら、会話を進めていく。傍から見れば何年もお互いを愛し合ってきた、幸せそうなカップルにしか見えないことだろう。けれど、僕は隣にいる彼女に対して、懐かしいという気持ちを抱くことができなかった。落ち着いた表情でスラスラと言葉を喋る彼女に、あの日の面影はほとんどない。



 多分薄々はこうなることを僕は予想できていて、でも僕とみたきちゃんなら大丈夫だなんて若さゆえの自信過剰でそれを無理矢理封じ込めていたのだろう。そして彼女も、きちんとした意思を持つようになり悟ってしまったのだろう。心の支えという彼女の弁も勿論本当だろうけど、彼女なりにこうならないように精一杯努力していたのだ。そんな彼女の思惑など知らず、僕はただ浮かれていた。



「……ねえ、確認したいことがあるんだけどさ」

「何? わ、わわっ」


 しばらく話をしていた僕達だったが、急にみたきちゃんがすいっと距離を詰めて僕に密着してくる。髪型とか容姿は昔のままだったけど、その体は更に女らしくなっていたし、香水をつけているのだろうか、とてもいい匂いがする。


「私達、恋人……で、いいんだよね?」


 子犬のようなとろんとした目で僕をみつめるみたきちゃん。確かに僕とみたきちゃんは、恋人だった。昔の僕は否定していたけど、それはみたきちゃんが恋愛感情を理解できないからという理由であって、やっていることは立派に恋人だったし、途中からはもう大切な人だと臆すことなく言うようになった。

 ましてや、今の彼女はきちんと恋愛感情を理解できるし、その上で僕にこうして好意を寄せている。

 もうみたきちゃんは、僕達は許されたのだ。純粋無垢な少女を騙しているなんていう罪悪感に僕が苛まれる必要もないのだ。彼女は僕のために、自分を変えた。そしてこうして僕の前に戻ってきた。なのにどうして僕は即答できない?


「中君の気持ちもわかってる。君の目の前にいる私は、君が思い描いている私とは違う。けれど、私の目の前にいる君は、あの日のままの、私の好きな君なの」


 目の前にいる彼女は、みたきちゃんじゃない。

 みたきちゃんは死んだんだ。そして、生まれ変わったんだ。

 この、谷串三滝という少女に。それを望んだのは、あの頃の僕達じゃないか。

 ハッピーエンドを疑いもせずに。


「……んっ」

「んっ……」


 だから僕は、縋るような表情の彼女にキスをする。誰もいない公園で、いや、誰がいようと一年ぶりに出会った恋人が愛を確かめようとしているのだから、それに応えるのが当然だ。


「ふふっ、やっぱり中君は、私の好きな中君のまま」

「……愛してるよ、みたきちゃん」


 彼女と同じ言葉を喋ることがどうしてもできない情けない僕は、その情けなさを誤魔化すためにクサい言葉を吐いて見せる。彼女は、僕の好きなみたきちゃんなのだろうか? それとも……そんなもやもやした気持ちから逃げるように、僕はみたきちゃんを抱きしめた。そうだ、これでいいんだ。



「みたきちゃんはこれからどうするの?」


 公園での情事の後、僕達は何気なしに、去年やっていたようにお喋りしながら二人で家路につく。隣にいる彼女が僕にはとても大きく見えたのは、背が伸びたからだろうか。


「昔と同じように、ワークハウスで働かせてもらえるけど、大学とか行って勉強もしてみたいなあ。でも私、小卒なんだよね……高認ってのがあるみたいだから、それ受けてみようかな。中君は大学行くの?」

「そうだね。特に将来とかまだ考えてないけど、進学校だしね」

「よし、私中君と同じ大学に入れるように頑張るよ」

「前向きだね」


 生まれ変わったみたきちゃんには、無限の可能性がある。綺麗だし、スタイルもいいし、本場を経験しているのだから僕より英語力はあるかもしれない。狭い世界で一生懸命頑張っていたみたきちゃんを広い世界に羽ばたかせるのは、恋人である僕の役目だ。



「それでね、みたきちゃん……」

「その、お願いがあるんだけどさ」


 突然みたきちゃんが立ち止まって、辛そうな顔になる。すねて今にも暴れ出しそうなその表情は、どこか懐かしさを感じる。


「『みたきちゃん』っての、やめてほしいな。もう私も17歳だし、昔みたいに中君のペットじゃいられないよ」

「ペットだなんて、僕はそんな事思ったこともないよ」

「ふふふ、冗談だよ。でも、できれば『三滝』って呼んで欲しいかなって」


 彼女の提案に、口どもる僕。言いたいことはわかる、彼女からすれば『みたきちゃん』はもう過去の女で、僕がその言葉を口にする度に心を痛めてしまうのだろう。だから、『三滝』と呼ぶことで彼女自身に向き合って欲しいのだろう。後は、僕の覚悟だけ。


「わかった。……『三滝』」

「嬉しい……中君は、この呼び方でいいの?」

「僕は構わないよ」


 実を言えば彼女の凛とした『中君』には慣れていないけれど、『あたるくん』がいいなんて言ったところで何の解決もしないのだから。呼び方なんて、僕にとっては些細な問題でしかない。

 その後も三滝と一緒に帰りながら、僕の家に辿り着く。


「あがっていい?」

「勿論」


 みたきちゃん……いや、三滝を家にあげるのはいつぶりだろうか。昔の彼女は、同意なんて求めずに、当たり前のように僕がドアを開けると中に入ってきた。


「お邪魔します……ご両親は、この時間は仕事だっけ?」

「うん。二人きりだよ、部屋の場所は覚えてる?」

「もう、馬鹿にしないでよ」


 くすくすと笑いながら僕の部屋に向かい、懐かしそうに深呼吸する三滝。そんな彼女を微笑ましく眺めていた僕だったが、彼女は僕のベッドに座ると、


「早速だけど、しよっか」

「!?」


 おもむろに服を脱ごうとする。みたきちゃんの白い肌と、大人な雰囲気のある下着に僕は赤面して慌てだす。


「え、ちょ、三滝? いきなり何やって」

「何って、お医者さんごっこでしょ? いつも部屋に来たらしてたじゃない」

「いや、だけど」


 久々にみた彼女の妖艶な姿に目を背けていると、彼女は脱ぎ掛けの服のまま僕に抱きついてくる。柔らかな感触にくらくらしてしまう。


「私、覚えてるよ。全部ね。中君が私を愛してくれていたこと、当時だってずっと感じてた。中君は、昔の私はただ気持ちいいからしているだけでしかないって思ってたのかもしれないけれど、当時の私ももう少し大人だったんだよ。向こうに行ってからも、毎日中君の事を考えてた」


 そのまま僕を押し倒そうとする彼女をどうにかして引きはがす僕。僕の行動が理解できないと言わんばかりの表情で、あの頃のようなあどけない表情で僕を見てくる彼女から目を逸らしたまま、


「……三滝も、変わったんだし、これを機に清く正しい交際からスタートしようよ」

「うん。中君が、それを望むなら。けれど、私はいつでも中君のモノだからね」


 精一杯真摯な顔でそう言ってみせる。彼女は納得してくれたのか、残念そうな顔をしながら服を着始めた。




「それじゃ、また明日。明日も学校だよね、私もこれまで通り仕事だから、迎えに行くからね」

「うん……」


 その後部屋でお喋りをしたりして過ごし、両親が帰ってくると三滝は両親に挨拶をし、そう言って僕の家から去って行った。丁寧な言葉遣いで挨拶されて驚く両親だったが、彼女が去った後に僕に向かって、『よかったわね』とか『お前には勿体ないくらいの出来た彼女になったな』とか、喜びながら声をかけてくる。そんな両親の言葉を聞き流した後、僕は一人部屋のベッドで物思いに耽っていた。



 どうしてあの時三滝を拒んだのだろう。昔だって、彼女はアグレッシブに僕を求めてきたじゃないか。昔と何も変わってはいないじゃないか。しかも彼女はもう、自分の意思をきちんと持って、それを表現することができている。その上で僕を求めたんじゃないか。誰に卑屈になることもなく、僕は彼女を求めることができるのに。彼女はそれを望んでいたのに。



「僕は彼女を……ああ、今日は疲れた」


 色々な事があったからか、ベッドに入るとすぐに眠気がやってくる。

 夢の中では、僕と『みたきちゃん』が愛し合っていた。

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