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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
高校2年 姫の苦労と僕の気苦労
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鳥の色も見ずに青い鳥を探す

「3kgも太ってしまった。なんでかのう」

「姫宮さんが毎日クラスメイトと遊び歩いては暴飲暴食しているからでは」

「ぶくぶく太って醜くなったり、顔に傷でもつければ、婚約も解消できるかのう」

「……冗談でもそんな事は言うもんじゃないよ」


 あれから1ヶ月が経ち、クラスが文化祭の準備で盛り上がる中、相も変わらず僕は姫宮さんに仕えていた。どの辺が太ったのか僕にはよくわからないけれど、華の女子高生が1ヶ月で3kgも太るというのは相当なことなのだろう。今もトイレで堂々とシュークリームを食べているくらいだ、姫宮さんはそのくらい荒れている。姫宮さんが軽々しく顔に傷なんて言うもんだから、赤石さんを思い出して僕も不機嫌になってしまう。


「さて、今日は素直に帰るとするか。……逆ナンでもしてみるかの」

「確かに姫宮さんは可愛いと思うけどね、駆け落ちしたいだなんて重たすぎるよ。世の男は遊びで終えたいと思ってる人が大半だよ、きっと。大体逆ナンで落ちるような人間を姫宮さんはお望みなのかい? その人と一生添い遂げる覚悟があるの? それで姫宮さんは幸せになる自信があるの?」

「説教くさいの」

「姫宮さんが思っているほど、簡単なことじゃないよ、恋愛って」


 みたきちゃんとは色々あった。間女でいいと言う赤石さんだったが、あの時僕がもう少し大人だったならば、あんな悲劇も起こらなかったのかもしれない。体が大人になっていくみたきちゃんに僕は悩んで、白金さんと下品な、くだらない、けれど真剣な言い合いもした。そんな僕だから、姫宮さんに恋愛を語るくらいは許されるべきだろう。


「わかっておるよ。だから婚約から逃げようとしておるんじゃ。駆け落ちするなら、ちゃんと甲斐性のある男を捕まえんとな。……お主みたいな」


 放課後のおやつを食べ終えた姫宮さんは、トイレから立ち上がると僕を真正面からみつめてニヤリと笑う。


「僕?」

「のう、わしに乗り換えんか? あの婚約者よりは、わしはお前を好いておるつもりじゃぞ。頭もいいし、顔もいい方だとクラスの女子も言っていた。何より責任感が強いから、わしを幸せにしてくれるじゃろうて」

「……」

「くくく、冗談、冗談……じゃあの」


 男をナメるな、と姫宮さんに吼えたいところだったけど、多分男の半分くらいは姫宮さんみたいな魅力的な子に口説かれたら、駆け落ちしてくれるかどうかはともかく、乗り換えるか、二股をかけようとするのだろう。だから口では反論せずに、目で訴える。本気で睨み付けたつもりだったが、姫宮さんは怯むことなく、怪しげに笑ってトイレから出て行った。冗談だと彼女は言っていたが、今の姫宮さんの精神状態は色々と危ない。そこらの男を捕まえて既成事実を作ってもおかしくはない。白金さんみたいな人ならばともかく、姫宮さんはきっとそれでは不幸になるだけだ。



「ちょっと、いいかな」


 どうしたもんだかと僕も帰ろうと校門を出たところで、どこかで見たことのある男に呼び止められる。


「ああ、姫宮さんの。姫宮さんならもう帰ったと思いますよ」

「いや、君に用があるんだ。そこの喫茶店で話でもどうかな」

「……わかりました」


 思い出した、姫宮さんの婚約者だ。僕に用というのは、きっと姫宮さんと別れてくれとかそういう話だろう。この間あった時も僕を彼氏だと勘違いしていたくらいだし。誤解を解くついでに姫宮さんとの関係とか、詳しいことを聞いてみようと近くの喫茶店に向かう。



「本当にすまない。今すぐにとはいかない、高校を卒業するまででいい。彼女と別れてくれないか。そしてできることなら、それまでの間、彼女を支えて欲しいんだ」

「いや……」


 思ったとおりの展開だったが、予想外だったのは彼が予想以上に下手に出てきたことだった。失礼な話だが、姫宮さんがあれだけ嫌がっていたのだからロクな人ではないと僕は思っていた。


「俺だってコレットの意思を尊重したい。けれど、俺の一存だけじゃどうにもならないんだ。……すまない! 身勝手な事を言っているとはわかっている、けれど、どうか自由な身でいられるコレットを、今だけは君が幸せにして、俺に譲ってくれ!」

「別れるも何も、僕は彼女と付き合っていませんよ。ただの小間使いです。あの日も、姫宮さんがデートが嫌だからと無理矢理付き合わされただけです」

「……へ? そうなのかい? ……そうか、なら安心……いや、全然問題は解決していないか。はぁ……」



 喫茶店の机で土下座する婚約者。少し面白かったのでもう少し続けようかとも考えたが、本題に入るべきだと誤解を解く。ほっとしたような顔を見せる婚約者だったが、すぐに落ち込んでしまった。


「あの、姫宮さんとはどういう関係なんですか?」

「特別な関係じゃないよ。幼馴染なわけでも、幼い頃に将来を誓い合ったわけでもない。彼女と同じくらいの家柄で、彼女と同じくらいの年齢で、パーティーとかで出会った時によく話していたくらいの仲だ。政略結婚については、俺は誰かと結婚させられるんだろうと覚悟はしていたけど、まさか相手がコレットとはね、幸か、いや彼女にとっては不幸か」

「じゃあ、姫宮さんの事はどう思っているんですか?」


 関係を述べてため息をつく彼にそんなことを聞くと、照れくさそうに顔を赤らめながら、顔をポリポリとかきだす。


「すごく魅力的だと思っているよ。可愛いし、強い子だ。俺にはもったいないくらいの。彼女と結婚させられると聞いて、最初は嬉しかったよ。無理矢理結婚させられるのは俺も嫌だったけれど、相手がコレットなら何の文句も無かった。けど、独りよがりだったね。好きでもない男と無理矢理結婚だなんて、そりゃ拒みたくなるだろう。でも、俺はコレットを誰かに譲りたくは無いんだ、わがままだね」

「……姫宮さんの事を、大切に思ってるんですね」


 率直な感想を述べると、彼は自嘲気味に笑う。


「まさか。本当に大切だと思っているなら、彼氏だと思っていた君にコレットを連れて駆け落ちしてくれと頼んでいるよ。さっきだってね、君を結構憎んでいたんだ。汚い男だろう?」

「駆け落ちといえば、姫宮さんは家出や駆け落ちも辞さないつもりだと言っていましたよ。そのうちどこかの男を捕まえて、既成事実でも作るんじゃないかと心配で」

「……は、ははは、そ、そうか、そんなに嫌なのか……」


 今度は落ち込みだす。少し自虐思考があるのかもしれないが、姫宮さんがあれだけ嫌がる程の人間ではないし、むしろ無理矢理結婚させられるにしても、彼くらいの人ならかなりラッキーな方ではないだろうか。姫宮さんに好意も寄せているし、浮気は許さないかもしれないけど、結婚してからも大事にしてくれるだろう。少なくとも、姫宮さんが逆ナンしようと思ってもこの人よりいい人はまず見つからないと思う。


「姫宮さんが随分嫌がっていたからどんな人かと思ったら、いい人で安心しましたよ」

「ありがとう。それでも俺はコレットに拒まれているから、どうしようもないんだけどね……」

「ちゃんと姫宮さんと話をするべきじゃないんですか? 姫宮さんに自分の気持ちを伝えたり」

「今の彼女がまともに俺と取り合ってくれると思うかい? 着信拒否されてるよ、俺」

「ですよねえ……」



 君の言うとおり、なんとか彼女と話をしてみるよと言って婚約者は去っていった。他に好きな人がいないなら、あの人で十分OKだと思うのは、僕が男だからだろうか、それとも好きな人がちゃんといるからだろうか。どちらにせよ、僕には姫宮さんの気持ちを完全には理解できない。




「高下。暇か?」

「……どこ?」

「またこないだの場所じゃ」


 けれど、姫宮さんが婚約者との話し合いから逃げ出してこうなることは、何となく予想はできた。

 悪いけど姫宮さん、僕は君に婚約者ときちんと向き合わせるつもりだよ。答えを出すのはそれからだろう?

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