キレ姫スイーツ
「ああ、くだらん。何が見聞を広めろじゃ。束の間の自由を与えておいて、好きでもない男と結婚させて、わしを幽閉するのか。ああ、わしはラプンツェルじゃな、愚かな親のせいで産まれた時に既に囚われの身じゃ。滑稽じゃな、そういえばメルヘンな少年漫画にもそんなキャラがおったな。最後にはかませ犬として殺された彼女であったが、あれくらいわしも自由に生きたかったのう」
「……」
「こんなことなら、ずっとお嬢様学校にでも閉じ込めておけばよかったのじゃ。自由なんて与えなければよかったんじゃ! 恵まれた環境で、世間知らずながら幸せに暮らせたことじゃろうよ!」
「……」
「1つどうでもいい話をしてやろう。わしのこの口調はな、反抗期に形成されたのじゃよ。それまではですわとかますわとか、礼儀正しい口調だったんじゃ。親の思い通りに育っているようで腹が立ってこんな口調にして、気づけば癖になってしもうたんじゃ。じゃが無駄じゃったな、結局わしは親に逆らうことはできそうもない……なあ、何か反応しておくれよ、わしが人形遊びをしておるようではないか」
「……ごめん。とりあえず、状況を整理しようよ」
彼女の状況を考えれば仕方がないのかもしれないけれど、夏休みが明けて学校にやってきた姫宮さんは随分とやさぐれていたようで、男子にあの日なんだろと噂され、女子には怖くない? と噂され、放課後になると僕をいつもの場所に連行してはぶつぶつと不平不満を垂らしていた。
「高校を卒業したらすぐに結婚させられるそうじゃ。あれからわしも散々親と喧嘩したんじゃが、こればかりはわしの力でも、親の力ですらも、どうにもならんようじゃ。しかしわしは親の操り人形になるつもりも、もっと大きな存在に良いように扱われるつもりもない。家出でも駆け落ちでもなんでもいい、なんとしてでもこのファッキンな未来を変えてやるつもりじゃ」
「落ち着いてよ姫宮さん、家出とか駆け落ちだなんて……」
「お主に何がわかるんじゃ!」
宥めようとするが、姫宮さんは怒鳴りながら僕にトイレットペーパーを投げてくる。いくら人が来ない場所とはいえ、大声で叫んでいたらそのうち人が来てしまいそうだ。姫宮さんに対応しながら、人が来た時の対処も考えれなければいけないとは、従者とは酷な仕事だ。
「そりゃ僕は婚約者が出来るなんて事態にはなってないけどね、家出とか駆け落ちとか、ロクなことにならないよ。大体駆け落ちって、相手は誰さ、姫宮さん別に好きな人いないでしょ」
「誰でもいいわ、わしを牢獄から助け出してくれる王子様ならな」
「誰でもいいなら、あの婚約者でもいいじゃないか。逃げ出したいなんて理由で、好きでもない男と一緒になろうとするなんて、男の僕からすれば傲慢に見えるね」
「……黙れ! ふん、もういい、今日はこれから友達とスイパラでたらふく食うんじゃ。わしは本気じゃからな。家出したり駆け落ちしたりしたら、貧窮な生活になるじゃろうってことくらい覚悟しとるんじゃ、じゃからこないだだってジャンクフードに慣れようとしたんじゃ、そのくらいわしは本気なんじゃ! 家出して水商売で生計立ててでも、親に決められた相手と結婚なんぞするものか!」
相当機嫌が悪いようで、便器の中にツバをペッと吐くという女の子らしからぬ行為の後、トイレから出て行く姫宮さん。姫宮さんが投げまくったトイレットペーパーを片づけて、トイレを流しながら、若干姫宮さんにイライラしてしまう。とはいえ、彼女の気持ちもわからないでもない。僕だって、突然誰かと結婚しなさいなんて言われてはいそうですかと納得は出来ない、ましてや僕には心に決めた人がいる。
だからといってみたきちゃんを連れて駆け落ちできるかと言われれば、断言ができない。駆け落ちは自分一人でやるものじゃないし、相手が了承してくれたとして、漫画やアニメのようにうまくいかないだろうってことくらい理解している。
「おう高下。聞いてくれよ、さっき姫宮が廊下走ってきてウチにぶつかってよ、文句言ったら『うるさいパチモン風情が』って言ってきやがった。何かあって機嫌悪いんだろうけど、あんまりじゃね?」
「あれ、白金さんいたんだ。てっきり夏休み明けたら退学になってたパターンかと」
「あんまりじゃね!?」
とりあえず今日は僕も帰ろうと教室に向かう途中、白金さんに絡まれる。姫宮さんクラスメイトに対しては口調は変だけどそれなりにフレンドリーに接していたはずだけど、化けの皮? が剥がれてしまう程にご機嫌斜めらしい。友達とファミレスに行くと言っていたが、友人関係が壊れなければいいのだけど。
「白金さんパチンコで補導されたって聞いたけど、何で平然と学校来てるの?」
「ウチに学校来て欲しくないのかよ? まああれだよ、ウチ警察と寝」
「あ、白金さんに高下君」
「さっき姫宮さんが物凄い勢いで教室に入ってきて、物凄い勢いでカバンを取って教室から出て行ったよ。朝から何だか機嫌悪そうだったけど、何かあったのかな?」
さらりと犯罪自慢をしようとした白金さんだったが、やってきた乾さんと百瀬さんを見て顔を凍らせる。
「警察と? ね? なんだって? うん?」
「け、警察とね、モラルについて真剣に話し合ったんだよ。うん、それでね、ウチ改心したんだ」
「ふぅ~ん……あ、そうだ。彼氏持ちの二人に聞きたいことがあるんだけどさ」
改心どころか後ろ盾を手に入れていそうな白金さんは放っておいて、姫宮さんの名前は出さずに、無理矢理好きでもない男と婚約させられたらどうするか的な事を聞いてみる。
「私は……駆け落ちしちゃうかもなあ。私自身、山ちゃんにお城から連れ出して貰った的な、きゃっ」
「駆け落ちなんかしてもその後の生活の事を考えると、素直に受け入れるのも手だと思いますね。お見合いで結婚したと思って割り切れば。それに、無理矢理婚約させられるってことは、相手はいいとこのお坊ちゃんな可能性が高いじゃないですか、玉の輿狙えますよ」
「えー、乾さんそれはないよー、もっと情熱的に行こうよ」
「男は稼いでなんぼですよ」
百瀬さんの答えは何となく予想できていたが、乾さんがそんな事を言うなんて意外だ。彼氏に影響でもされたのだろうか? そのまま恋愛に対する持論をぶつけ合う二人を退屈そうに見ている白金さんにも、可哀想なので聞いてみよう。
「友達に似たような質問したら、家出して水商売してでも生きるって言ってきたんだけどさ、白金さんはどう思う? み・ず・しょ・う・ば・いって」
「な、何でウチに水商売の事を聞くんだよ、よくないだろ水商売とか! 女の武器は若さだからな、水商売の世界じゃ年をとるほど不利になるんだ。だから、そんな簡単なもんじゃないと思う! 仮にウチが今水商売をしていたとして、大人になったらまともに働くと思うぞ!? いや、ウチは水商売とか全然知らないけどな!?」
「だよねー? 程々にしないとねー? 退学になるよねー?」
「あ、急用思い出しちゃった、じゃあな!」
逃げ出す白金さん。どうして僕の胸に秘めた正義感が、彼女の悪行を暴露して退学に追い込まないのだろうかが不思議で仕方がない。恋愛トークに突入した二人に挨拶をして、僕も家に帰る。
「後半年かあ。早く高下君に会いたいな。……ごめん、最近そればっかりだよね」
「あはは、僕も早くみたきちゃんに会いたいからお互い様だよ。……そうだ」
みたきちゃんにも姫宮さんがどうするべきかについて聞いてみようと思ったが、思いとどまる。相談してしまえば鋭いみたきちゃんのことだ、僕が他の女の子にかまけている事がばれてしまうだろう。ただでさえ寂しがっているみたきちゃんに、余計に嫌な思いをさせてはいけない。
「……?」
「いや、何でもないよ。ごめん、ちょっと今日は忙しいからそろそろ切るね」
「うん、またね」
いつも僕を支えてくれた、力になってくれたみたきちゃんだけど、頼ってばかりではいられない。決して僕がみたきちゃんを必要としなくなったわけではないのだ、と自分に言い聞かせて電話を切るのだった。




