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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
高校2年 姫の苦労と僕の気苦労
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女神を崇拝し姫に仕え

「はーっはっはっは! 勉強会とか言いながらドリンクバーだけで数時間ずっとお喋りして、その後カラオケで洋楽縛りで全員撃沈したわ!」

「へえ、それだけ楽しんだなら、姫宮さんの感じていた溝も埋まったのかな?」


 姫宮さんがクラスの女子達とファミレスで勉強会をすることになった翌日の昼、歌いすぎたのかガラガラ声の姫宮さんから電話がかかってくる。作戦は大成功のようだ。


「うむ、完璧に絆が深まった。優勝間違いなしじゃ」

「じゃあもうトイレにこもる必要もなければ、僕を侍らせる必要もないってことかい?」

「まあ、そうなるな。友人という良き理解者ができて、わしの問題は基本解決されたことになる。寂しいか? 寂しいじゃろ、安心せい、クラスメイトとしてこれからもたまには話しかけてやるからな」

「うざっ。ま、僕やあの女子グループだけじゃなくて、他の人とも今の姫宮さんなら仲良くなれるでしょ。というか僕としてはそうして欲しいよ、姫宮さんカリスマあるからね、クラスの揉め事とかすぱっと解決してくれそうだし」

「そうじゃろうそうじゃろう。まあ見てみい、夏休みが明ける頃にはわしのグループと偽金髪のグループも仲良くさせてみせるからのう。今のわしなら、シーズン無敗の24連勝だって余裕じゃ」


 口調とガラガラ声が合わさってかなり下品な印象の姫宮さんだが、その心は純粋な喜びに溢れていることだろう。


「さて、昨日から一睡もしとらんのと、連絡はしたとはいえ朝帰りで親のお小言が待っているそうなのでそろそろ切るぞ。……お主には感謝しておるよ、それとクラスメイトにもな。わしは幸せ者じゃな、恵まれすぎじゃな」

「うんうん、姫宮さんは恵まれてるよ。その幸せを噛み締めてね、おやすみ」


 電話を切ると、僕もやりきった感を盛大に出して自室の布団にダイブする。たぶん今までで一番楽な相手だったけど、それでも達成感はある。実を言うと、少し寂しい。何せみたきちゃんのいない寂しさを、彼女に仕えることで紛らわせていたのだし。トイレで彼女の愚痴につきあうという陰気な執事生活だったが、今になって思えば楽しかった。僕はマゾなのだろうか。


「……っと、姫宮さんの伝え忘れかな? 知らない番号だ」


 そんなことを考えていると、再び電話が震える。姫宮さんがまたかけてきたのかと思っていたが、全く知らない番号だ。姫宮さん勝手に僕のアドレスとか調べたみたいだし、怪しい団体に僕の個人情報が漏れていたらいやだなあと思いつつも、通話ボタンを押す。


「もしもし、高下中ですが、どなたでしょうか?」

「……中君?」

「……!」


 聞こえてきた、僕を安心させる優しい声。どこか違和感を感じるが、この声を僕が忘れるはずもない。


「みたきちゃん! みたきちゃんなんだね?」

「うん、私、三滝。よかった、覚えててくれた」

「覚えてるに決まってるさ! みたきちゃん、体の具合はどうなの?」


 僕の大切な人。僕が生きるための希望。その慈愛に溢れた声を聞くだけで、栄養ドリンク数本分の効果がある。少し僕の知っているみたきちゃんと違うような気がするけれど、逢えないうちに僕の中のみたきちゃん像がおかしくなってしまったのだろう。


「手術は、成功したみたい。でも、特別な勉強しないと駄目だって。だからまだ、日本には帰れないの」

「みたきちゃんが無事なら、それでいいんだよ」

「ありがとう。あまり連絡できないけど、また電話かけていい?」

「勿論だよ、時差なんて気にせずに電話してよ、授業中だって構うもんか」

「ふふっ」


 どうやらみたきちゃんの脳の手術は成功し、内部的には普通の人と何ら変わりが無くなったらしい。けれどみたきちゃんはまともな教育だって受けていないから、器があるだけ。これから最先端の教育プログラムを受けることで、短期間で年相応の人間にするそうだ。みたきちゃんの声が聞けて年甲斐もなく大はしゃぎする僕と、どこか落ち着いた雰囲気を醸し出すみたきちゃんの声。まるで立場が逆転したみたいだなと笑いながら、しばしの会話を楽しむ。


「それじゃあ、そろそろ切るね。……ねえ、私は、みたきちゃんだよね?」

「あはは、当たり前じゃないか。そっちは夜かな? おやすみ」

「うん、おやすみ、中君」


 電話を切った後も嬉しくて、ぴょんぴょんと部屋を跳ね回る。そのくらい嬉しかったのだ。けれど、どこかで不安な気持ちもあった。でもそれ以上に嬉しかったから、みたきちゃんの声を聞いた時に感じた違和感がそうさせたのだろう、ブランクのせいに決まってると自分に言い聞かせて、幸せを噛み締める。




「じゃあな高下、俺はこの夏で更に男になるぜ」

「ハメを外しすぎないようにね煉獄君。……いや、この場合はハメないように?」

「……最低」

「冗談だよ郡山さん、白金さんに毒されちゃって」

「ウチのせいにされた!?」


 そうして迎えた夏休み。去年の夏休みは、引きこもりから復帰してすぐの長期休暇だったからむしろ好ましくなかったけれど、やっぱり夏休みはいい。ウキウキする、心が洗われる。夏休みのおかげじゃなくて、みたきちゃんのおかげかもしれないけれど、そんなことはどうだっていい。


「ねーねーこれから打ち上げしない? パーッとやろうよ」

「いいねいいね、どうせ明日から補習だしさ」

「それは赤点取ったアンタだけ。姫宮さんも打ち上げやらない? ファミレスゲーセンカラオケはしご」

「……う、うむ、勿論じゃ。夏休み中も、気兼ねなく遊びに誘って構わんぞ、暇で暇でしょうがないからの」

「えー、いっがいー。てっきり素敵な恋人と毎日アバンチュールでランデブーなのかと」

「意味わかってんの?」

「……」


 ふと姫宮さんが気になって彼女の方を見る。クラスメイトと仲良くなれて早速遊びに誘われた彼女だが、どこか元気が無さそうに見える。けど、きっと夏バテだろう。この水分大事な時期に姫宮さん頻尿だし。ああもう治ったんだっけか。



「高校楽しい?」

「すごく楽しいよ、とは言えないね。みたきちゃんがいないし」

「うふふ」


 夏休みの楽しみといえば、定期的にかかってくるみたきちゃんの電話。電話だけで済ませるなんて、テレクラを利用する人はなんて馬鹿なんだろうと思っていたけれど、実際みたきちゃんの声だけでも三杯はイケる。神に誓ってみたきちゃんと電話している途中にピストン運動はしないけれど、それくらい僕は幸せだ。当初感じていた違和感も、こうして何度か電話をしているうちにすぐに慣れた。


「早く中君に逢いたいよ。でもまだ半年くらいは、スパルタ教育だよ」

「そっか。そうだ、夏休みだし、僕がアメリカに行くっていうのはどうだろう」

「ふふっ、でも大丈夫。昨日知ったんだけど、逢えない時間が愛を育むんだって」

「でも、本音を言うと僕が寂しくて今すぐにでも逢いたいよ」

「ふふっ。ホントに? 中君カッコいいから、新しい彼女作ってない?」

「や、やだなあ」


 みたきちゃんはたまに物凄く鋭いけれど、まさか姫宮さんの事を勘付かれるとは思わなかった。けれどもうそれも終わった話。姫宮さんが寂しくて僕に頼りすぎて依存することもなければ、頼られすぎて僕が姫宮さんに依存することもない。今頃友達と楽しく遊んでいることだろう。


「それじゃあまたね、ばいばい」

「うん、またねみたきちゃん……っと、いつのまにか着信入ってた。姫宮さん?」


 みたきちゃんとの電話を切ると、通話中に着信があったようで通知される。前回は姫宮さんの後にみたきちゃんだったが、今回はみたきちゃんの後に姫宮さんのようだ。一体どうしたのだろうとこちらから電話をかける。


「……もしもし、姫宮さん? ごめん、さっきまで電話してて」

「今暇か?」

「うん、今は大丈夫だけど」

「ゆめシティ1階の障害者用トイレまで迎えに来てくれんか、悪いがもう携帯電話切るぞ」


 唐突にそう言われて切られる電話。一体どうしたのだろうと不思議に思いながらも、言われた通り近くにあるショッピングモールのトイレに向かい、ドアをコンコンとノックする。


「もしもし、僕だけど」

「遅いぞ、待ちくたびれたわ」


 するとドアを開けて出てきたのはスーツ姿の姫宮さん。


「デートに行くぞ。とりあえず腹が減った、ジャンクフードを食べに行かんか」


 さっぱり状況を飲み込めない僕の手を強引に取って、フードコードに連行するのだった。

 どうやらまだ終わってなかったようだ。

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