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僕とぼっちな彼女達  作者: 中高下零郎
高校2年 姫の苦労と僕の気苦労
90/107

便所飯作戦会議

「昨日デートだったから頑張ってメイクしたんだけどさー、顔見るなり爆笑されちった」

「マジでー、どんな感じだったん?」

「これこれ。結局そのままプリクラ撮ったんよ」

「ピエロみたーい」

「どうせ私は道化ですよ……」

「ウチもいい感じのデザインな服買ったんだけど、実はサイズがきつくてダイエット中なんよ」


 朝の教室、クラスの女の子達がオシャレについて語り合っている中、教室の扉が開いて姫宮さんが入ってくる。


「おはようじゃ」

「あ、姫宮さんおはよう」

「今日も姫は綺麗でうらやましいなあ」


 オシャレの話をしていた女子の元へ行くと、気軽に挨拶をする姫宮さん。

 女子達は迷惑そうな顔をすることなく、姫宮さんに挨拶を返す。

 卑屈になりすぎた赤石さんや、引っ込み思案だった頃の乾さんにはこれすらできなかったけれど、姫宮さんは一般的なコミュニケーション能力はばっちり備えているというのはここ一ヶ月のクラスの雰囲気を見ればわかる。

 ただ、それでも彼女は寂しいと感じているみたいなので、もう少し様子を見てみよう。



「何の話をしておったのじゃ?」

「オシャレの話だよ。姫は悩みが無さそうでいいなあ」

「そんなことはないぞ、今日も寝癖を直すのを忘れてしまってな、この辺りはねとるじゃろ」

「そんなの逆に可愛いじゃん、私みたいなのが寝癖したらダサいって言われるから毎日必死で直してるのに」

「…す、すまぬ」


 話に入るために自分の寝癖を指差す姫宮さんだが、確かに姫宮さんくらい容姿に恵まれていれば、あの程度の寝癖はどうでもいいだろう。そうでなくても男子は女子が思ってる程そういうのは気にしていないと思うけど、女子達は姫宮さんには自分達の悩みはわからないといわんばかりに、化粧とかダイエットの話で盛り上がり始める。


「……」


 化粧もダイエットも必要ない姫宮さんは結局話についていけず、不貞腐れて机に戻って本を読み始める姫宮さん。クラスの女子に悪気はないんだろうけど、確かに姫宮さん少し可哀想な気がしてきた。


「おい高下、テトドラZ開いてくれ。レベルカンストした太陽神持ってただろ?」

「もうすぐ授業だよ煉獄君、それに今日は3BS持って来てないんだ」

「んだよ……お、誰か知らないけど太陽神リーダーにしてる奴とすれ違ってる。ついさっきすれ違ったみたいだし、クラスの奴か?」

「そうじゃないの? 誰だろうね」


 朝から大人気ゲームアプリの携帯ゲーム版に熱中している煉獄君。ひょいと彼のゲーム機を覗くと、確かに人気モンスターの太陽神を連れている人とすれ違っているみたいだ。ユーザー名は……『これとん☆』? 一体誰なんだろうかと疑問に思いながらも、煉獄君のプレイにいちゃもんをつけながら教師が来るのを待つのだった。



 四時間目の授業を終えてお昼休み。友達と一緒に机を囲んでお弁当を食べようとした僕であったが、ブレザーのポケットで震える携帯電話に気づいて確認すると、知らないアドレスからメールが届いていた。


『作戦会議じゃ、例の場所へ来い』


 どうやら姫宮さんからのようだ。まだメールアドレスの交換をしていなかったはずだけれど、彼女は僕の過去について調べ上げるくらいだし、僕の個人情報なんて筒抜けなのだろう。


「ごめん、ちょっと僕用事があるから」

「何だ高下。彼女が留学中だって聞いたけど、妾でも作ったのか」

「人聞きの悪い事言わないでよ……」


『妾』なんて日本語、喋り方の古臭い姫宮さんくらいしか使わないと思っていたのに、まさか僕が使われるとは思いもしなかった。クラス内での僕の立ち位置を危ぶみつつ、姫宮さんがいるであろう障害者用トイレへ向かい、コンコンコンとノックを3回。


「もしもーし、入ってますか?」

「……その声は高下か。正当な理由で来た人にわしがここにいると知られたらどうしようと思って内心ビクっとしたぞ」

「僕も別の人が入っていたらどうしようと思って不安だったよ。ここに陣取るのやめたほうがいいんじゃ?」

「人間に撤去されるかもしれないけれど、外敵から身を守るために人間の住家に巣を作るツバメのような心理じゃな」

「意味がわからない」


 扉が開き、中から姫宮さんがお出迎え。女の子と一緒にトイレに入るという経験は大昔にみたきちゃんでやっているけれど、慣れないものだ。姫宮さんはトイレを正当な理由で使ってはいないけど。

 トイレの中に入って鍵を閉めると、食事中だったようで便ふたの上にお弁当が置いてある。姫宮さんはお弁当を持つと便ふたを開けて便器に座り、当たり前のように食事をし始める。普段から昼休憩になると姿を消すなあと思っていたけど、便所飯をしていたなんて、彼女のファンが聞いたらどんな反応をすることやら。


「ん、なんじゃ高下、飯は持ってこんかったのか」

「あのね姫宮さん、僕は便所飯なんて嫌だよ。大体姫宮さんは便器に座ってるからまだしも、僕は座る場所がないんだよ? トイレで立ってお弁当を食べるなんて、どんな罰ゲームなのさ」

「気にしすぎじゃと思うぞ、トイレよりもパソコンのキーボードの方が不潔と言われるくらいじゃ。ここのトイレは使う人も全然おらんし清潔そのもの」

「それは菌の多さの問題でトイレの方が汚いに決まってるよ。大体姫宮さんが使ってるじゃないか。いくら姫宮さんが綺麗だからって、姫宮さんが用を足した場所で食事するのは嫌だよ」

「失礼な! ちゃんと換気とか消臭剤とか自前で色々やっとるわ! レディに対してなんつう事を口走っとんじゃ!?」


 そういう問題じゃないと思うのだけど、最近は単純に友達がいないという理由だけではなく、落ち着いて食事がしたいという理由で便所飯をする人も増えてきたらしいし、僕が考えすぎなのかもしれない。


「それにしても、姫宮さんのお弁当って普通だね」

「見る目がないのう、これでも高級食材をたんまり使っておるぞ」

「いや、普通のお弁当箱だなあって。お嬢様のお弁当って重箱ってイメージが」


 トイレに座る場所は二つもない。便器という名の玉座に座る姫の横に立つ従者と化して、作戦会議の前に腹ごしらえをする姫宮さんを眺める。素材は一級品なのかもしれないけど、どこからどう見ても普通のお弁当だ。


「重箱サイズのお弁当を毎日平らげるお嬢様なんぞ嫌じゃろ」

「それもそうだね……」


 アニメとか漫画のお嬢様が主人公にお弁当を作る時は、大抵重箱だったりと豪華絢爛だからそのイメージが先行してしまったけれど、冷静に考えると多すぎる。大食いキャラではない姫宮さんは、小さめのお弁当を食べ終えると、ごちそうさまと言いながらトイレの洗面所で手を洗う。便利だね、ここ。


「さて……朝のわし、どうじゃった?」

「どんまいとしか言いようがないね。美容の話は下手にしても妬まれるだけだし諦めた方がいいと思うな」

「ぐっ……何でわかってくれんのじゃ、わしだって毎日髪のセットとか大変じゃし、訳のわからん稽古事で変なダンス踊ったりと苦労しとるのに」


 便器に座ってため息をつく姫宮さん。悲しいけれど、階級の差とか貧富の差とかは確かに存在するし、それが円滑なコミュニケーションを阻害してしまう。姫宮さんはどうにかしてクラスメイトと対等にコミュニケーションが取りたいのだろうけど、改めて姫宮さんを観察すると諦めるのも一つの手なのかもしれないと思ってしまう。クラスメイトに嫌われているわけではない、大半の女子には羨ましがられてるし男子には好感を持たれていることだろう。けれど彼女はやはり浮いている。


「まあ、まだ高校生活は2年もあるんだし、これからだよ」

「しかし最初の1年でわしのイメージはすっかり定着してしまったぞ……引きこもってたお主にはわからんじゃろうが、高校入学してすぐのわしはそりゃもう浮き過ぎて大変じゃったぞ、これでも自分なりに努力して少しずつ話を合わせとるんじゃ」


 言いながらブレザーのポケットからゲーム機を取り出す姫宮さん。


「今だって流行りのゲームやってすれ違い通信もしておるのに、何で誰もわしに気づいてくれんのじゃ……」

「え、あれ姫宮さんだったの?」

「『これとん☆』いうたらわしのミドルネームのコレットを想像するのが普通じゃろうが」

「いや、正直日本人だし、姫宮さんのミドルネームなんて自己紹介の時以来さっぱり頭から抜け落ちてると思う」

「ぐっ……くっ、勇気を出してゲームやっとる男子の輪に入るか……? いや、それだとなんかオタクだと思われて嫌じゃし……そうでなくても漫画とかのせいでお嬢様はオタク趣味があるみたいな風評被害があるかもしれんのに……ぐぬぬ……」


 頭を抱えてうなり出す、このシチュエーションだと踏ん張っているようにしか見えない姫宮さん。

 姫宮さんをこのトイレという牢獄から救い出すには、まだまだ時間がかかりそうだ。

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